「……って、事なのよ。マジで信じられない!」

 「は……はぁ……」

 「あ、あの……お姉ちゃん?」

 「何?」

 「どうして、わざわざ私達の家に来るの?」

 「そりゃあ……」


 妹が結婚してて幸せ満喫中なのを妬ましく思って邪魔しに来たとか……

 気になるアイツが立ち直ったのはいいんだけど、鈍感なのは相変わらずなのでやつ当たりに来たとか……

 そのアイツが、お見合いするのがムカついてるとか……

 自分以外の誰かに色目使おうとするのが見ていられないとか……

 そういうのじゃなくて……ホントよっ!


 「朋也の事で身近に愚痴きいてくれそうなのが、あんたたちしかいないからよ」

 「あ、一応、愚痴ってことは自覚してたんだね。義姉さん」

 「まったく……飲まなきゃやってらんないわよ」

 「あ、あはは……お姉ちゃんも大変なんだね」

 「僕はどちらかというと、これから苦労する朋也に同情するよ……」

 「ふーん、ずいぶんと言う様になったじゃない、男女」

 「ひどい……気にしてるのに……」


 妹の夫は今でも『美人』だった。













 汐と愉快なお姉さん達     その4














 「はー……もう、ヤんなっちゃう。私なんであんなの好きになっちゃったんだろう? 涼、おかわりっ!」

 「ちょっと、お姉ちゃん。飲みすぎだよ?」

 「いいからっ!」

 「……男女。……男女。どうせ僕は今でも女性と間違われるさ……」


 ビールを浴びるように飲む私。

 ぱたぱたとお酒やらおつまみやらを運んで忙しそうにしている妹の涼。

 部屋の隅で三角座りでいじけているのが、この家の大黒柱らしい柊勝平。

 それが現在の私達の構図。

 妹の旦那は足を患ってたみたいなんだけど……外国の何とかって言う治療法で数年前に無事完治に成功。

 今はここから少し離れた会社で働いてる。

 妹はこの町の病院で看護婦をしている。

 もともとは勝平のためだったらしいんだけど、そのまま病院で働くことになったらしい。

 私は幼稚園の先生。

 私は世話好きなタイプだから、そういう職が向いてると思ったのだで今も続けている。


 「……で? どうすればいいと思う?」

 「どうすれば……って何のこと?」


 部屋の隅でいじけてるオカマは放っといて、ビールを持ってきた妹に尋ねてみた。


 「だ・か・ら! 朋也のお見合いをどうすれば潰せるか、って事よ!」

 「……お姉ちゃん。やっぱり飲みすぎだよ……後で絶対に自己嫌悪するんだから……」

 「椋、あんたも昔は朋也の事好きだったんだから、何か朋也の習性を利用した妙案とか無いの?」

 「うーん、私もお姉ちゃんには幸せになって欲しいけど……これと言って妙案なんて…………って、あっ!」

 「ん? 何かあるの?」


 あんまり期待して無かったんだけど、涼は何か思いついたみたい。

 どんなのだろう?


 「えーっと……噂なんだけど、岡崎君のお見合い相手って、昔、私達の高校にいた生徒会長さんの坂上智代って人なんだけど……憶えてる?」

 「ああ、いたわね。何かイベントがあった時には、結構いたはずよ。卒業式の時も結婚式のときにも……お葬式の時にも……」

 「でね? 坂上さんって、多分岡崎君のこと……」

 「好き……だったんでしょう? いつも岡崎のまわりにいた様な気するし」

 「うん。……でも、結局は坂上さんは岡崎君と恋人同士になれなかった。古河さんと同じくらい一緒にいた筈なのに……」

 「言われてみれば……そうね」


 確かに。

 私もそうだけど、坂上って娘も古河さんと同じ位の時間を共にしていたはず。

 他にも色々と狙っていた娘も知っている。

 だけど、朋也を勝ち取ったのは、古河さんだった。

 何故、私達じゃなくて古河さんだったのか……

 そこには何か理由があるはず……


 「でね? 私の予想なんだけど、その理由って春原君がいたせいだと思うの」

 「春原の?」

 「うん。岡崎君と春原君ってコンビになると、すごくおかしな事ばっかりするでしょ? 坂上さんはその雰囲気の中の岡崎君に魅かれたんだと思うの」


 さすがは元岡崎に恋する乙女。

 その解釈はおおむね正解だと私も思う。

 ただ一つ違うところは、春原は単品でもおかしな事しかしないことだろうか。


 「でも、春原君がいるから二人っきりになり難かったんじゃないかな? だから岡崎君に気持ちを伝えれなかったんだと思う」

 「ふんふん、で? それでお見合いを潰すにはどうすればいいのよ?」

 「坂上さんの天敵は春原君。だからどうにかして春原君を呼べばもしかしたら……って」

 「あいつを呼べばいいのね?」

 「え? お姉ちゃん?」


 私はバッグから携帯を取り出して、春原に電話をかける。


 「え? え? どうしてお姉ちゃんの携帯に春原君の番号が?」

 「たまにあのヘタレで遊ぶからね……子供達の世話って結構ストレスたまるのよ?」

 「お…お姉ちゃんってば……」


 椋が何ともいえない微妙な苦笑いをしていると携帯からヘタレた声が聞こえてきた。


 『もしもし?』

 「あ、春原。あんた、明日ヒマ? ヒマよね? ヒマだからちょっとこっちに遊びに来なさい。時間は午前十時に駅前よ!」

 『藤林杏!? くそう! またなのか? 僕が格好良すぎるからって…』

 「うっさいわよ、ヘタレ」

 『……っ、そこに藤林以外の人物にヘタレがいるんだよね?』


 くるっと部屋を見渡すけど、そんなのいるはず……


 「……どうせ女顔さ。でも好きでこんな容姿に生まれたわけじゃないのに、みんな女、女、女って……」


 いた。

 部屋の隅に三角座りしているのが。


 「……一応、ヘタレはいるけど、さっきのはあんたの事よ」

 『……そうですか』


 きっと、今頃電話の向こう側で涙を流してるんだろう。

 春原はそういうキャラだ。


 「いいじゃないの、ヘタレもそこまで極めればゲイのうちよ?」

 『それって全然フォローになってませんよねぇっ!?』

 「フォローじゃないし」

 『しかも、さっきの『ゲイ』って発音が変だったんですけどっ!?』

 「細かい事うっさいわね。別にあんたがゲイでもバイでも宇宙人でも驚かないわよ!」

 『とにかくっ! 僕はヘタレじゃない!』

 「ええっ!? あんた、何をだいそれたこと……」

 『今のそんなに大それたところですかねぇっ!? しかも、僕が地球外生命体って言うよりも驚くことなんですかねぇっ!?』

 「当たり前じゃない」

 『……話を戻すけど、明日は無理。妹と用事があるからね』

 「こっちは朋也が一大事なのよ?」

 『ん? 岡崎がどうかしたの?』

 「あのねぇ、詳しくは言えないけど、今、朋也は人生のターニングポイントにいるのよ? それを……あんたそれでも朋也の親友!?」

 『ええっ? でも岡崎からそんなの聞いてないよ?』

 「バカッ! 朋也はねぇ……親友の春原に余計な心配をかけないように……って言って、自分一人でこの難題をのりきろうとしているのよ!」

 『そ……そんな……岡崎が……』

 「あんた、それでも来ないって言うのなら、正真正銘のヘタレに成り下がっちゃうわよっ!」

 『僕は……僕は……岡崎の親友だっ!』

 「んじゃ、明日十時にこっちの駅前ね」

 『ああ、待ってろよ岡崎ぃ!』


 Pi


 「ふぅ……馬鹿は扱いやすくて助かるわ」

 「お、お姉ちゃん。いくらなんでも春原君が可哀相なんじゃ……」

 「いいのよ、どうせ春原だし」

 「でも、全然変わってないね……」

 「まぁ、あいつは馬鹿だけがとりえなんだし……」

 「ううん……春原君もそうだけど……お姉ちゃんも」

 「私も?」


 私も成長してないと言うことかしら?

 それはとても傷つくんだけど……


 「長い間会ってないし、場所も、境遇も変わっていっちゃったけど、お姉ちゃんと春原君の会話、学生の時と変わってないから……何だか嬉しくて」

 「なんで嬉しいのよ?」

 「うーん、何でだろ? でも嬉しいの」

 「わかんない妹ね……でも、私もちょっと解かる気もするな」


 私達はしばらくそのまま無言だったが、椋が思い出したようにポツリと言った。


 「私……岡崎君はお姉ちゃんが射止めて欲しい」

 「椋……」

 「私も協力するから、がんばろっ! お姉ちゃん!」

 「僕も協力するよ。義姉さん」

 「ありがと……オカマくん」

 「良いシーンをぶち壊しにしてまで、女扱いの僕って……」


 不覚にも少し泣いてしまった。

 私は本当にいい妹を持った。

 そのいい妹に応える為にも、私自身の為にも…





 「今度は負けれないんだからっ!」



 隣にはさめざめと泣くヘタレ2号の姿もあったが……まぁ、気にしないでおく。















 役者はほぼそろった。

 あの波乱に満ちた学生生活の騒がしさが再び起きようとしている。

 
 

 【芳野家】


 「風ちゃん。汐ちゃんのお母さんになりたかったら、岡崎さんをお見合いの前に風ちゃんの魅力で落としちゃうのよ♪」

 「わかりました。汐ちゃんの為に、風子のアダルティーな魅力で岡崎さんを虜にします」

 「岡崎……親子とは人生における吊り橋の如き……(以下略)」




 【一ノ瀬邸】


 「明日……楽しみなの」




 【学生寮】


 「明日くらいは、美味しいもの食べてゆっくりするとするかねぇ……」





 【坂上家】


 「姉ちゃん。今どんな気分?」

 「そうだな……岡崎が立ち直ったのは嬉しいが、お見合いで再会と言うのは少し気恥ずかしいな……それに少し怖い」

 「うふふ……大丈夫よ。智代ちゃんみたいな美人なら、誰だってイチコロよ♪ 早く孫の顔が見たいわぁー」




 【柊宅】


 「……ところで椋。春原を呼ぶのはいいけど、どう春原を使う気?」

 「えっと……ごにょごにょ」

 「……春原の蹴り飛ばされる姿が目に浮かぶようだね……それ」




 【春原家】


 「うおぉ! 岡崎ぃ! いまこの僕が助けに行ってやるからなぁ!」

 「ちょっとお兄ちゃん!? 私との約束はどうなるのよっ! って言うか岡崎さんとこに行くの!? ねぇ? 待ってよお兄ちゃん!」




 【古河パン】


 「なぁ、早苗。俺たち話から取り残されてねーか?」

 「うふふ、大丈夫ですよ。きっとすぐに出番が回って来ますよ。そうだ! それまでに新しいパンを開発しましょう♪ 秋生さん」





 【???】


 「あら、懐かしいですね。『とっておきのおまじない百科』こんな所にあったんですね……折角ですし、えーっと……退屈な日常を打破するおまじない……これはおもしろそうです。ちょっとやってみましょう」





 【???】


 「朋也さん……汐ちゃん……私、少し寂しいですけど……二人が幸せになるなら、私、我慢します。だから……どうか幸せに……」





 さまざまな想いが渦巻く中、その中心の人物達は……





 【岡崎宅】


 「ねぇ、おとうさん。明日ママ連れてきてくれるの?」

 「あ、ああ……そうなればいいな……でも、パパは相手に良いイメージが無いから無理だなー」

 「ううん、パパ。かっこいいからだいじょうぶ」

 「でもなぁ……相手はあの智代なんだよなぁ……俺なんか眼中に無いって……」

 「パパ、なんか言った?」

 「ん? 明日は頑張るぞーってな」


 (渚……酷な話かも知れないけど……汐に母が出来るよう見守っていてくれ)


 写真の中の渚はやはり笑ったままだった。













 あとがき


 どうもー。

 作者の秋明です。

 今回は杏の話でしたー

 途中で春原兄妹が出てきましたが、このお話では、陽平は社寮から出て自宅から会社に通っています。

 今回の話で大体の登場キャラは出ました。

 大まかに朋也を狙う(?)勢力は六つ。


 風子チーム(風子、公子、芳野)

 ことみチーム(ことみ、美佐枝)

 智代チーム(智代、鷹文、智代ママ)

 杏チーム(杏、椋、勝平、春原兄妹)

 有紀寧チーム(有紀寧)


 え? 五つじゃないかって?

 まぁ、それはこの先のお楽しみと言うことで……

 勘のいい方ならわかるかも知れませんけど……とにかく解かっていても秘密は秘密ということで(汗

 次の話は、とうとう見合い当日。

 どうなるのかお楽しみにー♪

 それでは、次回のあとがきで会いましょう。