時をこえる思い 〜外伝〜 龍牙作
「天野姉妹の夏祭り」
季節は夏
先の冬に祐一は過去の清算を全て果たした。
10年前に時を遡り、そこから8年たったこれまでの間に、祐一たちは全ての少女たちの未来を変えることができた。
また、時を遡ったのは祐一ばかりではなく、天野美汐もまた時を遡り、彼のためにも力を尽くした。
さて、そんな奇跡と言える体験を経験した美汐も今は平穏に夏を過ごしている。
美汐 「ぽ〜〜〜……」
夕菜 「ぽ〜〜〜……」
そんな彼女だが、祖母の作ってくれた巫女服に身を包み神社の境内で箒を持って掃除をしつつ、現在少し気が抜けている。
美汐の隣で同じくポケポケ顔をして同じ格好で佇んでいる狐色の髪をポニーテールにした少女の名は夕菜。彼女の妹である。
美汐がかつて出会い、失ったものみの丘の狐……
それが彼女の正体であるが、今では祐一のおかげで完全な人間として過ごす事が出来ており、
美汐の妹として仲よく幸せに過ごしている。
美汐 (祐一さんは……お元気でお過ごしなのでしょうか……?)
夕菜 (祐一様……今頃どうなさっておいでなのでしょう……?)
さて、彼女たちが今考えていることは、彼女たちが、尊敬し、且つ慕っている祐一のことであった。
冬が終わり、祐一はこの街からしばらくの間離れている。
そんな遠き地にいる祐一のことを思い、物思いにふけることがこの姉妹には時々あるのだ。
お分かりのことと思うが、いろいろなことがあった末、完全に彼女たちは祐一に惚れている。
そんな彼女たちにとって祐一のいないこの街の時間はこの数年で初めてではないのだが……
やはり時々寂しさは募っている模様……
竜人 「気が抜けておるのう……」
美里 「仕方ないではないですか……あの子たちにとって祐一さんは特別なのですから」
竜人 「そうじゃがの……あんな様子では今度の祭りも楽しさが半減じゃろうなあ……」
美里 「……そうでございますね」
こちらのお二人は美汐の祖父竜人(たつひと)と祖母美里(みさと)である。
お二人ともだいぶお年を召してはいが、恐らく実年齢より若く見られるほうであろう。
だが、ここの神社の神主である竜人は白髪に白いお髭に神職の着物姿と正に風貌はお歳にあっているにもかかわらず、
力強さは失われておらず、そこいらの若者にはまず負けないくらい元気なお爺さんである。
美里は実は美汐の上品さの先生でもあるため、落ち着いた感じをもっている。
いつも着物姿であり、白髪やしわもそれほど気にならない整った顔かたちの方である。
美汐の両親はとある理由で家にはあまりいないため、この二人がほとんど美汐の親代わりであったりする。
彼らも祐一のことは良く知っており、美汐たちが時々物思いにふける理由が分かっているため、苦笑している。
いつもならそれで済むのだが、今回は夏祭りか間近に迫っているため、少し違うようだ。
竜人 「祐一君と夏祭りを過ごしたことは無いわけじゃが……
この前久しぶりに祐一君に会えたわけじゃからなあ……
それだけに今は心にぽっかり穴が開いた感じなんじゃろうな」
美里 「……ええ、祐一さんも罪な殿方でございますね。
夕菜さんが来てから美汐さんも祭りを姉妹で楽しく過ごすようになって……
うれしく思っておりましただけに……せめて祭りのときくらいは心のそこから楽しんでもらいたいでございますね」
竜人 「そうじゃのう……祭りのときはわしらは忙しいから、夕菜が来るまではわしらの仕事を手伝うだけで……
美汐は祭りを楽しむことはしなかったからのう……」
美汐は昔から神社の仕事を手伝っていた。