警報が鳴っていたのは伍長の部屋だった。
すぐさまロックを解除し、中を点検する。
壁のコンソールが光っていたため調べると、一つの文書が保存されていた。
すぐさま開く。
《コジン ファイル
『グンジ ツウタツ』
サクセンNO XXXXXXXXX
−ガイウチュウデ ハッケンサレタセイメイタイニ カンスル チュウイ
ユソウチュウモ タエズ カンサツヲ ツヅケルコト
モシモ ジンタイニカンスル ナンラカノ エイキョウガ ミラレタ バアイ
クワシク キロク スルコト マタ セイメイタイハ
イカナルシュダンヲ モッテシテモ チキュウヘ ユソウスルコト
サイアクノバアイ
アルテイドノジンメイノ ソンシツモ ヤムヲエナイ モノトスル
イジョウ
サクセンシレイブ 》
Snow・A・Snow 〜SF編C・水瀬名雪〜
「こんな事って………!」
すぐさま二人の居る船長室に走り出す。
「カトゥーさん! その人から離れて!」
「ナユキ…!」
「伍長さんの部屋に届いていた軍事通達………しっかり読ませて貰ったよ……」
「私の部屋に入ったのか!? だからロボットは信用できん!」
プリントアウトしてきた文面を読んでいるカトゥー、顔を上げ伍長をにらむ。
「そうか、そういう事だったのか………! おかしいと思ったんだ! なんでわざわざ民間の船なんか利用するのかって………
あのバケモノのデータが欲しいから………僕らを実験台にしたんだな!」
「落ち着け! それは万が一の事であって………」
「あなたが! あなたが全部やったんだ! 逃げるぞ! ナユキ!!」
カトゥーが名雪の腕をつかんで廊下に走り出る。
「グゥオオオオオオオオオオオ!!」
ベヒーモスが走り込んできて、名雪に体当たりをした。
同時に隔壁が閉まり、名雪とカトゥーは分断された。
目の前にはなぜか閉まっている隔壁、そして、後方にはベヒーモス。
(私には撃てない……! なら隔壁を破るしかない!)
躊躇せず隔壁に走り寄り、『HUMANISM』からサンダーソードを取り出す。
「焼き切れぇ!」
隔壁に当てると同時に火花が散り、隔壁が切り取られてゆく。
「せい!」
斬った部分を蹴り飛ばし、エレベーターまで走る。
エレベーターは勝手に格納庫に着いていた。
誰もいないことを確認し、格納庫を探る。
すると、何かが角を曲がっていった。
「あれは…もしかしてこの事件の犯人…?」
早速後をつける。
(機動部隊の経験がこんなところで生きてくるなんて思ってもいなかったな………)
そして、一つの部屋に入ってゆく。
(この部屋って………!)
部屋の中に入るとそこには、
銃を構えた伍長、
床にうずくまるカトゥー、
そして、姿形が名雪にそっくりな一体のロボット。
その光景に固まっている隙に伍長が銃を突きつける。
「………!これは………どういうことだ! クソッ…!
レイチェルのカプセルを止めたのもこいつに違いない! 面倒だ! まとめてブッ壊してやる!」
「ま………待って…キューブなら、こんな事しません…するはずが…………」
苦しそうなカトゥーの声が聞こえる。
「………ナユキ…本当のナユキなら………君がカークを起こそうとしていた時に言っていた言葉を覚えているはずだ………」
名雪に視線が注がれる。
「あさー、あさだよーー、あさごはんたべて、がっこういくよー」
あの時と寸分違わぬ口調で答える。
「こっちか!」
伍長がとっさに動く。
名雪そっくりのロボットを突き飛ばし、転ばせた後に銃を突きつける。
ム ダ ナ テ イ コ ウ ハ ヤ メ ロ
コ ノ フ ネ ハ ワ タ シ ガ
シ ョ ウ ア ク シ テ イ ル
オ マ エ タ チ ノ イ ノ チ モ
ワ タ シ ノ イ シ シ ダ イ ダ
ロボットから機械音声が流れる。
「誰かが こいつを遠くで操っているんだ! 貴様、一体何者だ!?」
O D - 1 0 / コ ギ ト エ ル ゴ ス ム
「くそっ!」
伍長が持っていた銃でロボットを撃つ。
銃弾を受けたロボットは程なくして動かなくなった。
「カトゥー! OD−10ってなんだ! 知ってるか!」
「こ……………この船…の……メイン………コンピュータです……」
「メイン・コンピュータだと! 誰かがそいつをいじったってことか!?」
「そ それは無理だ! 本社へ戻らないとプログラムは変えられない………」
「だとしたら…我々は………今までコンピュータのいいようにされてきたってことか!」
「考えるのはあとだよ! メイン・コンピュータのところへ行くよ!
伍長はいっしょに来て。私まで操られたらまた面倒な事になるから…」
「あ、ああ………(なんだ、こいつ? 急に目つきが変わった………?)」
(久しぶりだよ………『蒼い執行者』としての私は………ここは絶対、守り抜いてみせる)
エレベーターは封鎖されていたので、メンテナンス用通路を通って行く。
途中のコンソールからは機械音声で、 ムダナテイコウハヤメロ コノフネハワタシガショウアクシテイルと唱え続けていた。
メイン・コンピュータールームに着いたが、ドアにはロックがかかっていた。
「下手にブチ破って中を壊しても………船全体が動かなくなる………か」
二人で同時に考え込む。
「おい、ロボット。カトゥーのところへ行って聞いてこい。こいつにだって弱点はあるはずだ」
「伍長はここにいて。さすがにあいつもベヒーモスをここまで寄せ付け無いでしょう。巻き添えをくいますから」
「ああ、わかった。お前にこれを渡しておく」
そう言った伍長から通信機を手渡される。
「………御武運を」
「ああ、お前もな」
走ってカトゥーの寝ている部屋を目指した。
「OD−10の弱点………? あいつはこの船そのものだからな………あいつを壊せば僕らは地球に帰れなくなる………」
「どんな些細な情報でも良いの、何か無い?」
「そうだ…君はロボットだったな………君なら、奴のプログラムに入り込めるかもしれない………あそこからなら………………」
そう言って、カトゥーは気を失った。
「伍長、今どこにいますか?」
通信機を耳に当て、周波数を合わせる。
「今、お前と同じ区画の端末室だ」
伍長は端末を弄りながら格コンピューターの接続状況を見ていた。
「なるほど、うまく出来てやがる。この船はすべてコイツの都合のいいように成り立ってるってわけだ」
表示されている配線画面はすべてのコンピューターがOD−10を通してつながっている事を示していた。
「カトゥーは『私』ならプログラムに入り込めるかもしれないって言ってました」
「わかった、入り込めそうなところを探してみる。お前も見つけたら連絡しろ」
「了承!」
つい、お母さんの口癖が出てしまった。
とりあえず、リフレッシュルームに着いた。
明かりが灯っておらず、薄暗かった。
備え付けゲームのみ、明るい光を発していた。
思い起こされるのは、祐一のこと。
冬の時期だけのお客さん。
寒いと言ってなかなか出てこなかったあのころ。
そんな彼と話している内に、彼の存在が大きくなっていった。
でも、あの最後の日に………
「だんだん鮮明になってきたみたい………」
時間が経つほど、今までの出来事がよみがえる。
「でも…感傷に浸るのは後回し………」
そのとき、一つのことに気が付いた。
「どうだ わかったか?」
通信機から伍長の声が聞こえる。
「壁にあるインターフェイスは………ヤツの目のようなもんだ。いくらロボットのお前でもガードはかたいんじゃないのか?
どこか………そうだな、もともとこの船には必要なくてなおかつヤツのところに繋がっているものとか………。」
「それなら、今、私の目の前にあるよ。リフレッシュルーム備え付けのゲーム機が………!」
ゲームはずっとオープニングを流していた。そう、他の物と違ってヤツの言葉を発していない。
「まさかそんな所から……………いや待てよ………そうか! そいつだけは 機械だが
メイン・コンピュータからCPUが独立してる……待ってろ! 今、回線をつないでやる!」
せわしなくキーボードを叩く音が響く。
「なめるなよ………人間はな…人殺しの道具を作っているばかりじゃないんだぞ…………!!」
「よし これでいい!………くっ! こんな所にまで!」
通信機から聞こえるのは巨獣の咆吼。
「うおおおおおおおおおお!!」
雄叫びと銃声。
同時に通信が途絶える。
(あの伍長だって戦っているんだ………!)
「私も、もう逃げない………!」
ゲームからマザーコンピューターに接続する。
そのとたん、天地がひっくり返ったような感覚に見舞われる。
何者かが通信ユニットを通じて
かたりかけてくる………
ホンセンナイニ オイテ スベテノ コウドウハ
チョウワノ トレタモノデ アラネバナラナイ。
ワタシハ センナイノ チョウワヲ イジスルタメ
キノウシテイル。
ヨッテ ワタシノ イシハ ゼッタイデアル。
ダレモ コレヲ ボウガイシテハ ナラナイ。
ボウガイスルモノハ
タダチニ ショウキョスル。
目の前でゲームが始まろうとしているが、それもすぐに止められる。
表示された文字は、Kill You………
そして、仮想空間に名雪のデータが写される。
宇宙空間の様で重力と透明な床がある場所に出た。
目の前には、骸骨のようなマザーCPU。
その横にはそれを護るような球状の物体が八つ。
この船の最終決戦が始まった………
名雪が『HUMANISM』3−マルチハンドガンを抜き、横っ飛びで本体を撃ち抜く。
骸骨に穴を穿つが、
<ジドウシュウフクしすてむサドウ>
開けた部分を球状の物体が修復していく。
(アレはサポートシステムか………なら!)
素早く『HUMANISM』6−インフォリサーチを取り出し、装着。
眼鏡型のそれは相手の情報を分析、即座にデータ化する。
「そこっ!」
ハンドガンで弱点と推測された部分を撃ち抜くと球状物体はすぐに輝きと機能を失った。
同時に骸骨が大きな口を開くと同時にこちらのシステムにハッキングをしかけてくる。
システムが乗っ取られる前に『HUMANISM』2−アップグレードと5−ノイズストリームを同時起動。
雑音嵐で妨害しつつ、自身のシステム性能を上げる。
雑音嵐が切れると同時に『HUMANISM』7−サンダーソードで球状物体を切り裂く。
勢いよく残っているヤツも撃ち落としたりで残るは骸骨のみ。
「これで! どうだぁ!!」
『HUMANISM』8−メーザーカノンを構え、一気に発射。
加粒子波動砲が砲身から吐き出され、骸骨を灼く。
「………まだ、生き残ってる………………」
所々が焦げているが、まだ動いている。
「なら………これで!」
『N−JAM』を取り出す。
どことなく無骨で巨大な砲身を展開、同時に薬室内にエネルギーを充電。
輸送船まるまんま動かせるほどのエネルギーが満ちる。
「いっけぇ!」
砲身から放たれるおびただしいまでの光の線を浴び、骸骨は消えていった。
骸骨を消し飛ばしたと同時に意識が現実に戻る。
備え付けのゲーム機が爆発。負担を掛けすぎたせいだろう。
そして、通信機からの声………
ワタシハ フネノ アンゼンヲ カクホシ
ジョウインヲ マモルトイウ
シメイヲ アタエラレタ
シカシ ワタシニ シメイヲ アタエタ
ニンゲンハ
タガイニ ショウトツシ
カンゼンニ チョウワヲ ナクシ
フネノ ウンコウヲ サマタゲル
ワタシニハ ニンゲンガ リカイデキナイ
ニンゲンハ
シンジラレナイ
「私は、それでも! 人を! 信じてみたい!!! どんな結果になろうとも!!!!!!」
名雪の叫びがこだました。
その数秒後、正常になったコンピューターからの艦内放送が響く。
ようこそコギトエルゴスム号へ。
この映像は船体の管理状況の
変更にともない、自動的に
放映されています。
この宇宙輸送船は
思考型コンピュータを使用した
管理システム………
「OD−10」によって
運航しておりましたが………
トラブル発生のため
思考回路を切りはなして
運行しております。
船内におけるみなさんの活動には
問題ありませんが
もし、不明な点が
ありましたら………
まわりの乗員に 遠慮なく
お聞きください。
伍長がリフレッシュルームに入ってくる。
体中が痛々しくぼろぼろだったので名雪が駆け寄ろうとしたのを手で制した。
「大丈夫だ………これ位で死にはせん…。もっとも、この体じゃ帰ったら 地上勤務だな………」
伍長が椅子に座り、名雪も隣に座らされる。
「これは俺の昔話だ…でかい戦争があってな、あのころは私もまだ若かった………
今でもはっきりと思いだす。あの恐怖は忘れられない………
戦闘ロボットさ。ロボットというより………そいつの頭、つまりコンピュータだ………」
伍長が席を立つ。
「血の通った人間でない物の手で仲間がたくさん死んだよ………
人間が作った物に人間が殺される…バカな生き物だよ人間ってやつは………
この船のメイン・コンピュータは………そんな人間に愛想がつきたんだろうな…………」
じっと、名雪の目を見る。
「だが、幸いお前はこの輸送船で生まれた…いや、復活か。軍艦の中じゃなくてな………
復活したのがお前のようなヤツで良かった………俺から伝えられるのはただ一つ、
前を見て、ただひたすら進め。これからのお前がすべき事だ。その力で誰かを傷つけるようなマネはしちゃいけない………
それが、ロボットとして復活したお前の仕事だ………」
伍長が隣に座り直す。
「お前の淹れた…コーヒーが飲みたい………すまないが持ってきてくれないか?」
「わかった………」
名雪が席を立ち、コーヒーメーカーを操作する。
コーヒーをカップに注ぎ、伍長に手渡す。
「確かに…苦いな………だが、今はこの苦さがちょうど良い………」
− ホウコクショ −
トウロクセンパク XXXXX
コギトエルゴスム : ミンカンユソウセン
XXXX チキュウニムケテ コウコウチュウニ
ショウソクヲ タツ
XXXX チキュウ フキンヲ
ヒョウリュウチュウニ カイシュウサレル
メインコンピュータノ ボウソウ
トウサイカモツノ イシュセイメイタイ
ソウホウノメンカラ ゲンインヲ チョウサチュウ
カトゥー : コギトエルゴスム メカニック
ゲンザイ チリョウセンター ニテ
リョウヨウチュウ
ダース ゴチョウ : ウチュウグン ショゾク
キカンゴ グンヲ タイエキ
ゲンザイハ イリョウ・フクシヲ
モクテキトシタ
ロボットカイハツメーカーニ キンム
船から下りた後、名雪は東京に来ていた。
目的の場所は、今もあるかどうか解らない孤児院。
もうすでにあの時から50年近くが過ぎている。
「この角を右に曲がれば………」
そこには、昔のままの孤児院があった。
庭には、揺り椅子に座っている老婆。
「………久しぶりだね、名雪お母さん」
「久しぶり…そして、ごめんね………あゆ」
Snow・A・SnowSF編 〜FIN〜
森部「やっと…やっと終わったよ………」
名雪「長かったね………」
森「そりゃもう………文芸部の仕事が重なって………………」
名「積みゲーも多くなってるね………」
森「あはは〜、いろいろ大変だー」
名「次回は原始編だよね?」
森「あ、原始編やめ。書かないから」
名「えぇ〜! どうして書かないの?」
森「悲しいことに書くほどの内容が無い………」
名「ということは………?」
森「次回は中世編だ」
名「そっか、ついに祐一と栞ちゃんなんだね?」
森「さて、彼らの運命にはどんな結果が待っているのか………?」
名&森「次回、『中世編・相沢祐一A』いってみよう!!」
名「次回も必ず読んでね〜」
森「アデュー!!!」