祐一再生計画 by
美汐
(Kanon) |
外伝『ギャンブラー美汐? パチンコ初体験』
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written by シルビア
2003.9-10 (Edited 2004.2)
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作者注:連載<祐一再生計画 by 美汐>の世界と同じ背景設定です。
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「祐一さん……まさか、こんな所にいたとは思いもしませんでした。
……私に何か言うことありませんか?」(キラッ)
美汐の肩が怒りに震えている。
祐一は背筋が氷る思いをした。
ここはパチンコ屋「ガーデン・かのん」。
祐一は、大学生になってから、悪友に連れられてパチンコを体験した。
それだけならいざ知らず、なぜか祐一はビギナーズ・ラックとでもいおうか、大勝してしまい味をしめてしまった。
それからというもの、祐一は大学の講義が終わる平日の夕方に時々姿をみせていた。
さすがに美汐とつき合っているだけあって、一応美汐をないがしろにはしていない。
彼女がバイトする日とかで会えない時に息抜きがわりにパチンコをしているのである。
美汐や秋子さんもその事を知っていたが、程度をわきまえているならいいかととりあえず様子を見ていた。
「美汐、どうして、この場所が分かった?」
「場所は知ってました。時々、祐一さんが店名を口にしていましたから」
祐一の声に出てしまう独り言は相変わらずだったらしい。
「それに、今日はバイトだろ?」
「あ〜、やっぱり忘れていましたね?
今日は秋子さんにプレゼントの買い物をする約束でしたのに。
だから、私、今日はバイトを替わってもらったんです」
「ああっ!!」
「は〜、仕方ないですね。
もうデパートは閉まってしまいますね。買い物は今度にしましょう」
美汐は時刻を確認してから、そう言った。
「でも……」
美汐は祐一をきっと見据えて口を開いた。
「祐一さん……今度、こんなことをしたら……分かってますね?」
「は……はい〜!!!」
祐一は無表情な時の美汐でも怖いと思わないが、美汐が本当に怒る時には半端でない恐怖心を感じるのだ。鬼神のごとく威圧感を視線にこめるその雰囲気は、小学生なら一瞬で泣いてしまうほどである。
以前、一度怒らせて3日間口を聞いてもらえず、矢のような視線にさらされた時は、毎日が針のむしろに座っているかのごとくだった。
「仕方ありません。今日だけは許してあげます」
祐一はその言葉を聞くとホッと胸をなで下ろした。
「ただし、今日は必ず勝って下さいね♪」
一転して、美汐は微笑みを浮かべる。
(いつもは祐一さんは私につき合ってくれてますからね。
たまには、祐一さんの趣味につき合って上げましょう)
美汐は祐一さんの手元の箱と、席の後に積んである箱にある玉を見て
「ずいぶん、玉がありますね?」
「ああ、そこそこ出したからな。10箱2万発というところだ。でも、この台はそろそろ限界だな、流して他の台に移るとするよ」
ふと、祐一は名案とばかりに、表情をきらめかせて美汐に提案した。
「そうだな、たまにはペア席の台で打ってみるか。いつもは一人だが、今日は美汐も居ることだし」
「ペア席ですか?」
「ああ、カップル向けシートがあるコーナーさ」
駅前にあるこのパーラーはわりと若いカップル向けの仕様の設備が整っている。
10組のペアシートの他に、綺麗な女性用洗面所、アイスも置いてある自動販売機などがもりだくさんで、交換用景品もかなりおしゃれなものを用意している。
交換率は3円50銭であるが、景品交換所には金に換金したら買えそうもないおしゃれでお得な景品が盛りだくさんに並んでる。
フロアを見渡すと女性客も多く、カップルの姿も多い。
ちなみに、祐一が通うようになってから、女性客が一段と増えたそうな。
祐一の調子が悪い時は、玉を出している女性から、
「当たり玉です。縁起担ぎにどうぞ」といって片手分の玉をくれたり、
「お疲れさま、コーヒーでもどうぞ」と差し入れされたりしていた。
無論、そんな事を祐一が美汐に言ったらパニックになることは必死であるが。
今でさえ、ペアシートに移った祐一と美汐の二人の様子を見て、元気をなくした女性が気合いの炎を自分の台にぶつけているかのごとく店が急に騒がしくなった。
二人が座ったペアシートには、「ピンクレディーX」「新海物語M27」の2機種があった。
「ピンクレディーX」とは、名前の通り、かつての人気歌手ピンクレディーの名曲「ペッパー警部・モンスター・ウォンテッド・UFO・サウスポー」の各曲がリーチや大当たり時に流れる、ちょっと懐メロ風の台である。キャラが可愛く、女性に人気のある台である。ちなみに、メーカーの話によると、この台の選曲はピンクレディーの歴代の売り上げの上位4曲が選ばれているのだそうな。
一方の「新海物語M27」はそのシンプルなゲーム性と海キャラの可愛さから、これまた空前のヒットを為した台である。この台をしらないパチンコ・フリークはまず居ないだろうとさえ、言われている。
どちらの台も吹けば嵐のような爆発力を秘め、一日に30回レベルの大当たりを記録することもざらであった。1時間もあれば7箱ぐらいはだせてしまうスピード性もある。
ただ、はまると恐怖の1000回はまりや2000回はまりもあるスカ台になることもある。
どちらの台も今日はそこそこの玉を出していたが、まだ余力は十分にありそうだった。
「とりあえず、俺が教えてやるよ」
そういうと、祐一は軽く実践しながら、美汐にパチンコのやり方を教える。
だいたい教え終わったところで、美汐は「ピンクレディーX」の方を、祐一は「新海物語M27」の方をそれぞれ打ち始めた。
互いに、2000円ほど打ち込んだところでとりあえず単発当たりを引き込む。
「うーん、単発か……やはり確変でないときついな。美汐も単発か……」
とりあえず、祐一は休むことにして、美汐の隣で美汐の様子を見ることにした。
美汐は大当たりの時に流れる曲のメドレーに聞き惚れていた。
ペッパー警部、邪魔をしないでーね〜♪
モンスター、この私の可愛い人〜♪
わたしの胸の鍵を壊して逃げていった〜、あいつはどこにいるのか〜、盗んだ心返せ〜♪
UFO!手を合わせて見つめるだけで〜♪
「曲もいいですけど、曲にあわせて画面の中で踊るキャラが愛嬌ありますね。へのへのもへじが踊るのって最高です♪」
たしかにこの台は、リーチ・アクションの出来の良さはぴかいちなのである。
2002年の最優秀台ともなっただけのこともある、とにかく楽しいのだ。
大当たりを終えて打ち続けること50回転、
「あ、背景が砂漠になりました〜」→ちなみにプレミアで確変確定です。
「それ、プレミアといって当たり確定だぞ!やったな〜♪」
「嬉しいです」
「確率変動の時は入賞しやすくなるから、玉が減らないんだ。しかも次の当たりも5倍の確率になるから、わりかしすぐに当たるぞ」
「なるほど、そうですか」
プレミア当たりというのは、大爆発かワンセット終了でおわるかが常である。
しかし、美汐の当たり方は半端じゃなく、天国モードともいうべきものだった。
「白いおばけがでましたね。それにピンクレディーが4組出ました」→白おばけ+メドレー・リーチは当たらない方がおかしい鉄板です。
「今度は背景がお家になりましたね」→バカボン背景といって確変確定プレミアです。
「ね〜祐一さん、ぴぴぴぴぴぴピンクレディー♪って言ってますよ」→大当たり確定音、しかも確変確定プレミアです。
「あら?チビ・フランケンが走ってます。可愛いですね、これ♪」
「今度は、ウォンテッドの発展でミーちゃんでなくてフランケンが居ますよ?」
「外れたのに絵柄が空を飛んでますね?」→ウォンテッドのならでは当たりです。
巨大UFO予告も出まくりの、まさに大爆発で一撃7連です。
(さすがにもうで終わったかな……リーチもかからないし……)
しかし、美汐の台の勢いは止まらなかったのです。
時短もおわり200回転目、画面上部のPINK LADYの文字の点滅と四角いコーナーに光りがともります。「スクエア・フラッシュ」というプレミアです。
でも、連続予告はおばけだけです。Mのリーチです。
リーチの「ペッパー♪」の声の後に、ランキングボードが出そうになった瞬間、
<大当たり 777>がいきなり出現しました。
ノーマルならではのプレミア当たりです。
とにかく、美汐の台はプレミア続出です。
あまりの光景に、いつの間にか、後には見物客が並んでいました。
「嬉しいです♪」
祐一も唖然の表情で美汐を眺めます。
箱はもう10箱を突破しています。
「あの〜、祐一さんはやらないんですか〜」
「いや、そろそろやろうかなと……」
「じゃ、私の台と替わりませんか?海が綺麗なんで、そっちも見たくなりました」
「そうだな、たまにはピンクレディーもわるくないしな。替わろう」
それから祐一もピンクレディーでそこそこ調子良く当てたが、若干箱が増えた程度である。
(それにしても、美汐はついてるな〜)
そう祐一がおもっていたその瞬間に、
「あ、魚が一杯通りすぎましたよ」
「お、それは熱いぞ!どれどれ?」
4絵柄(鮫)の珊瑚礁リーチとなり、いけー〜のかけ声をかける二人、でも……はずれ……なかった。ピコッと動いて見事に縦に揃った。
「当たりました〜♪ 見てみて!鮫さんが、笑いましたよ」
単発当たりでも、喜ぶ美汐。
美汐にしてみれば、大当たりラウンド消化中の画面をみるのが楽しいらしい。
「カニが挟みを振って笑ってます。目がかわいいです」
「カメが連なって泳いでます、楽しそう!」
「マリンが優雅に泳いでますね。とても綺麗ですね」
確かに綺麗だな、これが単発当たりでなければ……
それから、美汐はほぼ300回転台で3回ほどの単発を当てた。
「玉が増えませんね〜。かえって減りました」
「さすがに確変をひかないと辛いな〜。単発ばっかだし、サムでもでたりしてな」
さてさて、美汐もゲームの説明の紙の絵を見ては、
「サムですか、見たいですね」
ふと、新海の画面を覗きこむ祐一。
(どきん!今のは……)
祐一の胸の中で声ならぬ声が出た。
そうです、
「あ、魚さん達が通りましたね。でもなんか今までと違って真っ赤ですけど」
→それはプレミア魚群の一つで赤魚群と呼ばれてます。確変&サム確定です。
1-9クロス・リーチとなった画面に降り立つのはご存じのポーズを取るサム君です。
「あは♪むきむきサム君が出ましたよ〜」
当然、当たり確定です。一つ一つポーズを取るのを繰り返し、正面を再度向き終えた時、1の絵柄がセンターで止まります。
祐一も今まで一度もみたことのない赤魚群&サムです。
「うわ〜、美汐、凄いな〜♪俺、はじめて見たよ」
「ふふふ。奇跡の力とでもいいましょうか♪」
すっかり上機嫌の美汐です。
3箱出して時短に突入しました。
「もっと出したかったです〜……あ、画面の外側でそろっちゃいや〜!」
---(ぶん、ぶおーーーーーん)と絵柄がびっくりして数字が回転する。
1コマ分、画面がずれて、画面に絵柄が揃う。
プレミア少女の出した、確率変動当たり確定の枠外プレミアです。
けたたましい音が出て、絵柄が揃う瞬間、だれもがどっきりすること間違いなしです。
「うそだろ」(汗汗汗汗汗)
「わ〜、絵柄が飛んできました〜」
「もう、好きにして……(呆呆呆呆呆)」
それからは爆発しまくりの計15連です。
そうこうするうちに、『ホタルの光』が店内に流れました。
いよいよ閉店の22時となりました。
祐一と美汐の後には計35箱(約6万8千発)の玉が所せましと積まれています。
「本日の最優秀台」という札がペアシートの2台に張られました。
金額に換算して約28万円になる。そのほとんどは美汐が出したものである。
「祐一さん、たくさん出ましたね」
「……俺は今日、奇跡というものを初めてみたよ」
「何をいってるんですか、私たちは、ものみの丘の狐たちに会えたぐらいですよ。
これぐらいなんてことありません」
「今度、試しに宝くじでも買ってみるか?」
「それもいいですね〜♪」
ご機嫌な美汐は、景品交換所でペア・ウォッチ1組とお菓子10箱、それに残りを換金の景品と取り替えた。
美汐にとって何よりなのは、この大金である。
「ゆ・う・い・ち・さ・ん♪ さっそく、二人で旅行にいきましょうね♪」
「それでも十二分に余るが……」
「それは二人の将来のために、貯金です♪
ギャンブルの勝ちはあぶく銭といいますから、有効に使ってあげるのが大事です」
「二人の将来……って」
「もう、わかってるくせに意地悪ですよ……そんな酷な事言う人は嫌いです♪」
今度からは一人でパチンコに行ってはいけませんからね、そう美汐は言おうとしたが、さすがにそれも可愛そうかなと、その言葉は飲み込んだ。
「今日は楽しかったです。なによりも祐一さんの側にずっといられましたから。
でも、祐一さん?」
「何だ?」
『一緒にペアシートに座る相手は私だけですからね!』
その日以来、祐一はなぜかそれからは一人では行かなかった。
今日の祐一には、美汐の新海物語に出たマリンちゃんが、一瞬真琴のような女の子に見えた気がしたからだ。
ああ、それにしても恐ろしきかな、狐に愛された少女のツキというものは。
Fin.