第5話
祐一再生計画 by
美汐
(Kanon) |
第5話『介抱』
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written by シルビア
2003.9-10 (Edited 2004.2)
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PM10:00 水瀬家にむかう路上にて
「美汐も、まったく仕方ないな〜」
なにげに”美汐”と言っている祐一。
一度、女性の名前を口にするとそっちに慣れてしまうあたり、祐一のプレイボーイの性がうかがえる。
「ゆ・う・い・ち〜、ごめん」
酔って敬語もまともに使えないらしい(?)美汐は、ぼそっと返事した。
美汐の声は祐一の耳にはようやく届くぐらいだった。
「本当に、あれから何杯飲んでるんだ?飲み過ぎだぞ」
「だって〜、あの店〜、雰囲気いいんだもん♪」
(まあ、俺も人のこと言えた義理でもないか……)
祐一はみしおをつれて2軒目のバーで再び飲んだ、今の二人はその後の様子である。
祐一は計5杯、美汐は計10杯ほどカクテルやロックをたしなんでいた。
祐一の連れて行った店は、こじんまりとしたほんの10人ほどしか入れない店であったが、店内の片隅に青いライトに照らされた魚の泳ぐ水槽があったりする、まるで海の中にいるような雰囲気の店だった。
丘や丘から眺める街に風景を見ることの多い美汐にしてみれば、海の雰囲気のするこの店はなんとなく別世界にいるようですっかり気に入った様子である。
「夏になったら、こんな雰囲気の海に行きたいですね。
祐一さん、連れて行ってくれますか?」
「そうだな。それに、マリン・スポーツにも挑戦するつもりだから」
「マリン・スポーツ、良いですね。何をしたいのです?」
「ジェットスキーとダイビングかな。大学ではその手のサークルに入ろうと思ってな」
「ダイビング、私もやってみたいですね。こんな雰囲気の海底を潜るのってなんかいいかもしれないです。(そして、祐一さんとペアになってバディを組む……なんか、素敵です!)……ジェットスキーはスピードがありそうで少し怖そうです」
「じゃ、ダイビングは一緒にやらないか?
まあ、それにしても美汐がスピードに弱いというのは分かる気がするな。以前、みんなで出かけた遊園地でも、ジェット・コースターの前で大分苦手そうな顔してたし」
「祐一さんって、相変わらず意地悪なんですね。
私にだって苦手なモノはあります。
それに、祐一さんだって、高所恐怖症だといって乗らなかったじゃないですか」
美汐は少し拗ねた感じで応えた。
「すまん、美汐」
「やけに素直に謝りますね? なるほどわかりました。祐一さんはジェット・コースターに乗せられるのがいやだからですね?」
美汐は笑顔で、でも意地悪な感じで反論した。
「う、それは……」
「心配しなくても大丈夫です。ジェットコースターは私も苦手ですから、好んで祐一さんを乗せようなんて思いません。
その代わり、夜景のきれいな時の、観覧車に乗りたいです」
「美汐らしいな。分かった、今度遊園地に行ったときな」
「約束ですよ?」
「うーん、どうしようか……」
この時、祐一は美汐の家の住所を知らない。
美汐はすっかり酔ってしまって、足取りもおぼつかない様子である。
「とりあえず、介抱しないとな。でも、美汐の門限のこともあるし……、名雪か秋子さんなら知っているかな〜、一度、家に戻るか」
そう考えた祐一は美汐と一緒に水瀬家に向かった。
「お帰りなさい、祐一さん。……あら?美汐さんをまだ送り届けてないんですか?」
秋子さんが出迎えてくれた。
「すいません、少し飲み過ぎました。とりあえず、美汐を休ませてあげてください」
「了承。ですが、二人とも未成年なんですから、今後は程度をわきまえてくださいね」
「はい」
美汐を休ませて彼女の荷物を側に置くと、自分の荷物を抱えて祐一は部屋に戻った。
祐一はすぐにベッドに入り、体を横たえた。
……そういえば、今日の美汐、綺麗だったな。秋子さんの見立てか、さすが秋子さんだな。
……美汐って、服装ひとつであんなに雰囲気が変わるんだな。制服姿しかみたことなかったから、なんか新鮮だったな。
……恋人かと言われた時は少しどきっとしたな。美汐の事、そういう風に見たことなかったし。
……それに、美汐の足ってとてもすらっとして良かったな。あんなにスタイル良かったんだ。
……美汐の腰ってあんなに細かったんだな。
……敬語を使わない美汐って初めて見たかも。
……なんかいいな、美汐って。
(うーん、眠い。今日ははしゃぎすぎたかも)
そういうと、祐一は眠りについた。
それから数十分後。
秋子は祐一の様子を確認してから、部屋に戻り、美汐の体を揺さぶった。
「美汐さん、もう酔ったふりは必要ありませんよ」
「やはり見抜かれてましたか」
美汐はそう言うと目をぱっちりと開いた。
「ふふふ♪私の目はごまかせませんよ。美汐さんはお酒には強いですもの。
ところで、デートはどうでしたか?祐一さんの様子を見ると、うまくいったようですね」
「ええ、秋子さん、いろいろ助言ありがとうございます」
「いえいえ、あなたの努力の賜ですから気になさらないで結構ですよ」
「念のため、恋愛教訓の話のこと、一応振り返っておきますね。今日の出来事を思い出しながら、次回も頑張ってくださいね。応援しますよ♪」
「はい」
「ところで、今日はその……」
「ええ、もう遅いですからうちに泊まってもいいですよ。なんなら明日の朝食も、美汐さんが作りますか?」
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恋愛教訓その1『自分のイメージ年齢を意識したTPOを心がけるべし』
「自分が最も魅力を発揮できるイメージを描き、その年齢にふさわしいTPOを兼ね備えることですよ。デートでの服装等や場所のイメージを明確にすることで、自己アピールをしやすくなりますし、潜在的な自分の魅力に気が付くことになります」(第3話参照)
恋愛教訓その2『恋人との距離を制する者は恋人の心を制圧する』
「二人の物理的距離はコミュニケーションで心理的距離に比例するのです。
見知らぬ人70cm以上→知人→友人50cm→恋人/親友20cm〜40cm→配偶者/親子10cm、というように親密度によって自然に接することのできる(安心できる)距離は異なります。
お互いの了解しながら段階を追ってこの距離を縮めていくことが理想です。
上級テクニックとしては、あえて他の立場の距離を意識的に使うという技があります。
それぞれの距離には、メリット・デメリットがありますが、それを使い分けるのです。
例えば、恋人同士の二人で彼があなたに相談事をしたいとしましょう。
友人の距離を選択すると相手のことを考えた冷静な意見交換になります。
親子の距離であれば、癒しといった慈愛を含めたりあえて行動を正すために叱るということがしやすくなります。
また、注意点もお話しておきます。
人には"慣れ"というものがあって、同じ距離を保ち続けると相手の関心が弱まることから、時々距離を変えて新鮮味を持たせることが重要です。いくら好きな食べ物でも同じものを食べ続けては食傷気味になるというのと同じですね。
自分と相手がどの距離を取りたがっているか、その距離によってどういう関係でいるのが自然なのか、それをしっかり見極めるのが恋愛というコミュニケーションを成立させる上で大切なのです」
恋愛教訓その3『目的達成に役立つなら、使えるものは親でも友人でも使え』
「あなたが口にする言葉と他の人が口にする言葉では、彼にとって受け取り方が異なります。例えば、貴方が"私はあなたの彼女ですよね"というのと、"○×さんは▲■さんの恋人だよね"というのとは、彼は受け止め方が変わるということです。
この差を逆手にとる上級テクニックとして、あなたが言いにくいことを他人の口からえん曲的・間接的に言わせることができます。そしてあなたが言う以上に彼の意識に根付かせることとなります。
注意点は、第三者が関わるため、こういう役割を担ってもらう人とは友人や親といったあなたがよく知る人でその時の状況を察してくれる人を立てるようにしてください。そうでないと意図しない事を話されてしまい、あなたが困惑してしまう可能性があるからです。
恋愛ではとかく二人で物事をすすめがちですが、時には第三者を介在させるとスムーズにいく事もあるのです」
恋愛教訓その4『情景を巧みに利用せよ』
「場を作れとも言えますね。
情景によって得られるメリットは最大限利用し、プラスαとしてあなたの存在をその中で表現するように努めてください。
いくら名優であっても、背景なしで演技することは難しく、反対に背景の表現を生かす演技力がないなら背景に飲み込まれてしまいます。
恋愛課程で二人がいる情景は背景でありあなたは女優であるのですから、あなた自身を情景の中で表現することはとても大切なのです。
上級テクニックとしては、あなた自身だけでなく、相手自身や二人にとってよい情景を選択したり設定したりすることで、二人が互いに自己を表現できるようにし向けられます」
恋愛教訓その5『信頼なきところにコミュニケーションは成立しない』
「自分に自信をなくしたり、相手を信用しなくなったりしてはいけません。
それは、そうなった瞬間から恋人同士でなくなったと言えます。
物事は必ずしも順風満帆ではありません、時には逆風の中を突き抜けることもあります。その時に互いの相手を信頼できずに一緒に生きてはいけないものです。
信じれないということ、それは自分や相手を失ったり、絆をなくしたりする危険を伴います。苦しい状況の時はなおさら、この教訓を思い出して下さい」
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(つづく)