第2話
祐一再生計画 by
美汐
(Kanon) |
第2話『決意』
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written by シルビア
2003.9-10 (Edited 2004.2)
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ここは秋子の部屋、秋子と美汐が二人で話をしている。
リビングの方には二人以外のメンバーが泥酔し熟睡してしまっている。
実は、彼らが泥酔したのは二人の狙いでもあった。
どうしても二人で話したいことがある、美汐は秋子にそうアイコンタクトしたからだ。
無論、秋子がそっと『了承』した結果、今、二人はこうしている。
「秋子さん、ここまでは順調に行きました。相沢さんの受験状況とかを陰で教えて下さってありがとうございました」
「とりあえず同じ学部に入れて良かったわ。二人ともよく頑張ったわね。それはそうと、祐一さんがこの街の大学を選択することは予想通りでしたね」
「それは私も不思議に思ったのですが、何故予想通りだったんですか?」
「祐一さんはね、ほら、転校ばかりしてたじゃないですか。これは祐一さんの両親にも聞いた話ですが、その結果、祐一さんは以前にいた学校ではあまり友達がいなかったそうなんです」
「とても意外です。私がはじめて相沢さんと会った時の印象からすれば、とても想像できません。むしろ、すこし馴れ馴れしく強引な位でしたよ。私の教室にいきなりやってきたことさえありますし」
「そうでしょうね。華音高校の時は、名雪がクラスメートだったこともあって、北川さんや香里さんともすぐ打ち解けてみんなの中にはいり易かったんでしょう。それに加えて一連の奇跡的出来事によって、祐一さんをとりまく人の輪が広がったということです。
結果的に、華音高校は祐一さんにとって一番長く滞在し、友達も多い場所となりました。だから、この街は祐一さんにとっては好きな街だろうと思います。身近にいれば、誰でも分かります」
「納得しました」
(ですけど、私にとっては、一年前、貴方が私に言ったことがよほど驚きですよ)
秋子は回想した。
1年前の冬、3学期もいよいよ終わろうとしていた時期……美汐さんは2年生で、祐一さんと名雪達の受験がほぼ終わった頃でしたか。
「秋子さん、祐一さんは……祐一さんは真琴の事、まだ悩み苦しんで居るんですね?」
突然の相談したいと言ってきた美汐さんは私にそう言いました。
同じ妖狐の転生の子を看取った娘だけのことはありますね。
祐一さんはああ見えて、本心を隠していましたから名雪でさえ気が付かなかったぐらいでした。
私だって、度々枕がぬれていたり、朝に普段より目を腫らしたりといった祐一さんの様子を幾度か目の当たりにするまでは、気が付かなかったぐらいです。
不審に思って、夜中にそっと部屋のドアをこっそりあけて様子をみた時は、思わず8年ほど前の月宮あゆちゃんの事故の時の祐一さんの様子をフラッシュバックしたぐらいでしたから。
「気が付いていたのですか?貴方にはお話しておいた方が良さそうですね。他の子では祐一さんの気持ちはなかなか理解しがたいでしょうけど、貴方なら分かってくれそうです」
「祐一さんの支えになれるとは言えませんが、気持ちは分かります」
「そうですね。同じ経験をしていますから。名雪や私も真琴を失った点は祐一さんと同じですから、家族として祐一さんを支えようとしていました。その事は名雪とも話し合いました」
「秋子さんと名雪さんが……それで祐一さんはまだ元気なふりをする余力が合ったのですね。私の時はあの子(狐)とは友達としての関係でしたし、親に隠していましたから私の他には知る人はいませんでした。その結果、人とつき合うことを恐れて苦手としてしまったぐらいですから」
「祐一さんは、もともと"別れ"には敏感なようです。両親は不在気味で友達も少ない中で、あゆちゃんの出来事もあったりしましたのですから無理もないのですが。純粋すぎる心がマイナス面として人との交わりを忘れにくいものにしてしまうから、尚更ですね」
「その気持ちはよく分かります。私も一人っ子ですから……似てますね」
「普通、祐一さんのように悲しみを背負いその悲しみを乗り越えるには、いろんな人の存在が支えとなったり、過去の経験を乗り越えたことで生まれる強さや勇気というものが必要なのです。しかし、祐一さんは人生の中でそういったものを多く得ていないように思えます」
「私にとっても、相沢さんは救いとなる存在で、私は幾度も相沢さんに支えて頂きました。真琴の時には、ほんの少しですが強く心をもてましたし勇気を振り絞ることもできました。相沢さんや真琴がいてくれたおかげで、今の私があるといってもいいです」
美汐は、はっきりとした口調で話し、でも、瞳をしっかりと据えた表情をしていた。
「そんなあなただからこそ、祐一さんのわずかな変化に気が付くのでしょうね。今こうしているあなたからもとても強く勇気をもった何かを感じます」
秋子は納得したような口ぶりで言った。
そして、
「私と祐一さんのご両親は保護者として、名雪はいとことして祐一さんを支えました。、あなたや香里さん達は今まで友人として祐一さんを支えてくれたんでしょう。今の祐一さんをみていると、あゆちゃんの時に比べ強さや勇気というものを感じますから」
秋子は美汐をしっかり見据えると話を続けた。
「ですが、祐一さんには恋人という存在がいません。そのためでしょうか。家族にも友人にも話せない悩みや苦しみを乗り越えてはいません。名雪から聞いた話や私のみたところだと、祐一さんはすべての女の子に優しく人気もあるようですが、やはり特定のステディの間柄には成れていませんし」
「やはりそう思いますか。でも、みなさん、本当は祐一さんの恋人にはなりたいと思っているのです。……私もです」
美汐は少し黙りこんでから、再び口を開いた。
「私、祐一さんの真の恋人に成りたいんです。そして祐一さんを恋人として支えたいんです。本当の笑顔を取り戻して欲しいんです」
……
「でも、今の私では相沢さんを振り向かせることは出来なかったんです。
どうか、秋子さん、力を貸して下さいませんか」
「ある意味で、辛い選択になるかもしれませんよ?」
「分かっています。でも、その位、相沢さんが好きなんです。どうしようもないんです、私……」
「了承」
(もう、あれから1年ですね。この娘の気持ちも変わらないようです。では……)
「二人ともいよいよこれから大学生ですね。
今までできなかったことも含めて、私も美汐さんにいろいろ教えてあげますね」
「はい。今後もよろしくお願いします」
「場は出来ました。チャンスもたくさんあります。次は恋人同士になれるようにですね。でも、娘がひとり増えたようで、私は楽しいです♪」
この後、秋子は美汐にいろんな教訓やテクニックを伝授した。
一言で言えば、「女として異性に好感度をもたれる技」といえよう。
ただ、美汐は秋子さんの教えを疑うことは今までなかった。
秋子さんは完璧過ぎるほどの女性であったし、かたや、元気のない祐一でさえ秋子さんの前ではとても楽しそうにしている姿を見ているからだ。
(秋子さんを目標にすれば、きっと相沢さんは……元気な姿で私に振り向いてくれますよね!)
けなげなようだが、これが美汐の正直で乙女チックな気持ちであるのは確かである。
さしあたり、美汐は祐一の恋人の存在と成らねばならない。
本当の祐一を取り戻すには、すべてはそこからはじまるのだから。
そして、明日から、美汐の試練は始まる。
(つづく)