プロローグ
祐一再生計画 by
美汐
(Kanon) |
プロローグ 「別れの後」
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written by シルビア
2003.9-10 (Edited 2004.2)
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(注)このSS連載での世界は「Kanon」ヒロイン真琴編クリア後の状況とします。
ただし、本編(真琴編)と異なり、SS開始時点では、真琴は戻ってません。
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祐一が真琴と別れて2年後の2月……ものみの丘にて
【祐一】
『真琴、結婚しよう』
この丘も景色があまり変わってないな。
今でも、ここにいると真琴にウェールを被せた時のことが目に浮かぶな。
(俺の側に、花嫁が居ないがな……)
正式の結婚式ではないが、真琴はあれで幸せな気持ちになってくれたのかな?
言葉でも表情でも真琴から感じ取れなかったから、よく分からないな。
あれは単に俺のわがままだったんだろうな。
でも、プリクラの写真の真琴は可愛かったし嬉しそうだったな。
いたずらばかりの喧噪の日々も懐かしいが、真琴のことはみんなが大切にしていたからな。水瀬家の一員としてなら、真琴はこの世に生まれて幸せだったんだろう。
人のぬくもりを真琴は求めていたのだから。
だが、真琴は俺とのぬくもりを感じてくれたかな?
(もう、わからないよ。実感できないよ)
【美汐】
(相沢さんはやはりここに居ましたか)
久しぶりにこの街に帰ってきたとおもったら、誰の所にも顔をださないでここに来たんですね。
祐一さんが卒業してから東京に戻ったので、みんな寂しく過ごしていたんですよ。
せっかくこの街に来たなら、せめてみんなに会いにいってあげればいいのに。
(私だって……寂しかったんですから)
でも、そんな気持ちは今の相沢先輩にはとても言えませんね。
相沢先輩が一番会いたかったのは、やはり真琴だったんでしょうね。
でも、それは、叶わないのですよ、相沢先輩。
でも、相沢先輩、やはり背中が寂しそうですね。
では……
「相沢先輩!……相沢先輩!」
祐一は、高校2年の冬の終わりに数々の不思議な出来事に遭遇していた。
沢渡真琴との出来事もその1つである。
沢渡真琴は妖狐の一族で、怪我をしていた時に介護してくれた相沢祐一とのぬくもりを忘れられず、命と記憶を代償に人間に姿を変え、再び相沢祐一と再会し水瀬家で人としての日々を過ごした。
だが、人間に姿を変えられる期間はわずかであって、やがて人としての能力を次第に失い、その後消失した。
結果からすれば、沢渡真琴と相沢祐一との間の出来事は、残された祐一にとって別れの悲しい記憶を残すこととなった。
祐一は真琴が消失してからも、天野美汐との約束の通り、けなげながらもつとめて普通に生活をしていた。けなげというのは、彼が人前にいる間のことである。祐一は1人の時にはやはり途方にくれた自分でしか居られなかった。
そんな祐一は高校3年になってから勉強がなかなか手に付かず、元々成績優秀な方であるにも関わらず、地元の大学の受験に失敗してしまった。
受験の失敗もあいまって、そんな祐一の様子をみかねた両親の命により、祐一は街をはなれ東京の実家にもどり東京の予備校に通うこととなった。両親の決定には祐一さんの様子を見かねた秋子さんの進言もあったのはいうまでもない。秋子さんは祐一の本心をそれとなく感じていたからだ。
しばらく街を離れた方がいい、そう両親も秋子さんも判断したのだ。
この2月の時期に彼が北の街のものみの丘にいるわけは、彼が北の街にある大学をふたたび受験するためにきていたからであった。
前日に試験は終えているが、これがいくつか受けた大学の最後にあたるので、試験後はしばらく水瀬家に居候している。
街を離れ東京の喧噪に揉まれる間は、しばらくは北の街での出来事は頭から離して過ごすことができたため、受験生活にもそこそこ没頭できたようだ。
若干疲れ気味な顔をしているが、1年前に比べれば祐一は少し元気を取り戻していた。
両親達の判断もあながちまちがいではなかったと思われる。
そして、祐一が水瀬家に戻っていることは、名雪・香里・栞・舞といった祐一と関わりの深かった少女達にも知れ渡った。
しかし、居候先の水瀬家のる秋子・名雪の他には、彼とまだ会ったいない。
試験を終えた今、彼は再びものみの丘に姿を見せていた。
祐一はやはり真琴とのことを回想したようだ。
祐一に会いたいと思った美汐は水瀬家を訪れたが、彼が出かけたとのことを聞いて、彼を捜した。そして、ものみの丘で祐一の姿を見かけた。
しかし……
美汐が声をかけようとしたものの、その声は遠く小さく、祐一は気が付かなかった。
祐一はゆっくりと起きあがり、やがて帰路についた。
その祐一のさびしそうな様子を見て、美汐をそれ以上に声をかけられなくなった。
(相沢先輩と話をしたかったのですが、あの様子ではこれ以上は声をかけない方がいいかもしれませんね。相沢先輩、やはり少し無理をしていますね。とりあえず、ここは見て見ぬふりをしておきましょう)
そして、祐一から少し離れるように歩いて、美汐は水瀬家に向かった。
彼女は秋子さんにこれからの事を相談しようと考えたのだった。
(つづく)