☆ Kanonの舞台は北海道ということにしてください☆
☆ 祐一には今現在彼女はおりません。フリーの状態です☆
「あー、明日から春休みだが怪我や事故等ないように気をつけること。
他にも色々とあるがわかってると思うので以上。日直、号令かけてくれ」
お決まりのセリフを言うのは担任の石橋。
本人もそう思ってるらしく気だるげだ。
そういう俺だって小さいころから聞いてるから聞き飽きた。
ま、そんなことはいいとして。
「気をつけー、礼」
「さようならー」
春休みの始まりだ。
旅館ですよ。 第1話〜相部屋ですか?〜
そんな春休みも5日ほどが経過していた。
そして俺はまだ昼だと言うのに部屋でゴロゴロと転がっていた。
昼食を食べてからずっとこうしている。
なぜなら。
「・・・つまらない、こんな暇な長期の休みは必要ないぞ」
そう、俺は暇だった。
理由はいたって簡単であるのだが。
名雪は陸上部があるらしいし、香里は栞の遅れてるぶんの勉強を見るらしい。
真琴はコンビニ、あゆはたい焼き屋でバイト。
どっちも好物目当てでやってるんだろうな。
天野は今現在1人暮らしらしく、春休みに両親の元へ一時帰宅するらしいし。
佐祐理さんと舞はアパート探しとバイトの両立で多忙っぽい。
秋子さんは家事全般があるし、北川も金稼ぎでバイト。
信じられないことに久瀬も『何事も経験だよ』とか言ってバイトだ。
俺の周囲の人間が全員のように忙しいので俺は暇。
「くそ、俺も何かバイトでも探しておくんだった」
まさか、ここまで暇だとは。
というかだな、みんながいないからこうなんだ。
俺にとって、からかう相手がいないというのは苦痛でしかない。
あゆも真琴も帰ってきたら疲れてダウンしてるし。
名雪は当然のように半睡眠状態で毎日を過ごしている。
「ダメだ。このままでは暇すぎて死ぬ」
それもある意味では贅沢なことだけどな。
しかし暇で死ぬのは嫌なので俺は考えることにしよう。
暇つぶし、人を必要としない暇つぶし。
「・・・どっか出かけるしかないか」
そう決めると通帳を取り出し、中身を確認してみる。
あいつらに相当な額を奢ってるが残りは結構ある。
これなら数日くらいは持ちそうだ。
思い立ったら即行動。
必要な物だけ持ち、俺は秋子さんのところまで走った。
「秋子さーん? ちょっといいですか?」
「あら、何でしょう?」
秋子さんはリビングで紅茶を飲んでいた。
用件を言う事にした。
「俺、旅に出ます」
チクタクチクタクチクタク
反応がない。
無言の時間がツライ。
俺は耐えられなくり、秋子さんに声をかけた。
「あのぉ、秋子さん?」
「ゆ、祐一さん、それは家出ですか?
何か嫌なことでもありましたか? 私のこと、嫌いですか?」
紅茶を落としそうになりながらオロオロと聞いてきた。
あぁ、秋子さんが変になってる・・・
なんでそこまで話が飛躍するのだろうか。
説明不足だったか?
「家出じゃないですよ。もし家出なら黙って消えますし」
「そ、そうですよね」
「それに秋子さんのこと嫌いなわけないじゃないですか」
「で、では何で旅に出るのですか?」
「あー、ちょっと暇でして。お金もありますし数日くらい何処か出かけようかと。
さっきは旅なんていいましたけど、ようするに旅行に行くってことです」
場所もあまり決めてないんだよな。
行き当たりばったりな旅行もいいかもしれない。
俺の性格的にも。
「あら、そういうことでしたか。みんないないですから暇ですね」
「えぇ。そんなわけで行ってきます。今から」
「今からですか? はぁ、では気をつけてくださいね。
あ、連絡はくださいよ? 心配ですから、できるだけ毎日くれると嬉しいんですけど」
すごく心配そうな顔してるな。
うーん、秋子さんってこんなに心配性だったっけ?
「それは大丈夫です。電話はしますよ」
「わかりました。行ってらっしゃい、祐一さん」
「行ってきます、秋子さん」
持ち物は携帯、財布、通帳、その他を少々。
そんな状態で俺の旅が始まった。
とりあえず大きい駅まで来たんだけど。
行き先も決めてないから何県に行くのかくらい決めないと。
えーっと、そうだな青森が限度かな?
あまり遠くまで行くとなると資金的な問題が発生するし。
そんなわけで青森へ向かうことにした。
「すいませーん、青森行きの電車って何番線ですか?」
「6番線ですね。あと10分くらいで出るから気をつけてください」
「ありがとうございます。では」
寄り道しないでホームに向かい、電車に乗る。
あとは自然と青森の何処かには着くだろう。
車内を見渡し適当な席に座り窓の外を眺めた。
しっかし1人になるのも久しぶりだな。
春休みになってからも秋子さんはいるし、3人も夕方には帰ってきてたし。
誰もいない環境は久しくなかった。
俺は妙にワクワクした気持ちで数時間を過ごした。
そして電車は青森へ。
青森と行っても寝ていたためいつの間にか青森の中心部を通りこして、田舎になってた。
ま、俺はこういうところのほうが好きなんだけどな。
「さて、時間も夕方だしな。何処か泊まれる場所を探さなくては」
なんせ周囲には建物自体が少ない。
この中に旅館やらホテルやらがあるといいんだけどな。
「最悪の場合は野宿でもするしかないか」
春ではあるが夜は寒い。
下手すると風邪を引くかもしれないが、そのときはそのときだ。
気合で何とかするしかあるまい。
とりあえず散策も兼ねて歩くことにした。
この辺り、風景が綺麗だと思う。
公園も多いし、果樹園なんかもあるようだし。
たぶんリンゴかな、青森だし。
しかし青森だからリンゴというのは安直かもしれん。
もしかしたら青リンゴかもしれない。
・・・あれ、どっちもリンゴだし。
まぁ、気にしないことにしよう。
そのまま1時間ほど歩いて、そろそろ本気で疲れてきたころ。
「う・・・うぅ、うぇーん、ひっく・・・ひぅ・・・」
子どもの泣き声が聞こえてきた。
声の主を探してキョロキョロしてみると公園のベンチに女の子が座って泣いていた。
年齢は・・・幼稚園かギリで小学生ってとこか?
まだまだ幼い子どもが1人で何をやってるのかはわからない。
でも、ほっとくのも可哀想か。
「どうかしたのか? お母さんとはぐれたか?」
「お、お母・・・ひ、っく、うぁーん」
しまった、お母さんを思い出して泣き出した。
というか最初から泣いてたから泣きレベルが上がったってとこか。
「あー、ほら、お兄ちゃんが探してあげるから。ね、泣かないでくれるかな?」
「うっ、うぅ、探して・・・くれる?」
「うん、探してあげる。何処にいるのかわかるかな?」
「紫天、旅館・・・1人で散歩に出たら、うぅ、迷っちゃったぁ・・・」
紫天旅館、か。
このあたりにあるってことだな。
俺としても好都合・・・満室でないことを祈ろう。
っと、その前にこの子を親に返すのがさきだな。
「よし、行こうか。一緒に探してあげるよ」
「ありが、とう・・・お兄、ちゃん」
とりあえず泣き止んでくれたようだ。
女の子の手をとり、道を歩き出したはいいが肝心の旅館の位置がわからん。
夕方なのに人通りが皆無なのは何でだよ。
しかも家もないし。
あぁ、見渡す限りの田んぼに果樹園やら何やら。
人がいないって寂しい。
「ね、道、全然まったく覚えてないの?」
「えっとね、あっち」
「・・・覚えてるのか。そりゃ、よかった」
その子の教えてくれた方向に10数分進むと旅館は見えた。
この子、もう少し歩けば着いたのに。
体力が限界のトコで公園があったから思わず座り込んじゃったのかもな。
さて、俺的な問題としては満室か空があるか。
なかったら野宿かな、こりゃ。
「あ! ママ!」
女の子が旅館の入り口でオロオロしてる女性を見つけ叫ぶ。
どうやら娘がいないのに気づいて出てきたらしい。
「凛!」
あぁ、名前は聞いてなかったけど凛ちゃんね。
お母さんは走ってきた。
凛ちゃんも走り出した。
ただし、俺の手を握ったままだけど。
「おっと、いきなり走らないでくれ」
「あ、ごめんなさい・・・」
「凛、よかったぁ。大丈夫だった?」
お母さんが凛ちゃんの頭を撫でながら聞く。
この人も若い・・・北国の女性はこれが普通なのか?
まぁ、いいけどさ。
「うん、このお兄ちゃんが連れてきてくれたの!」
「まぁ、すみません。迷惑かけまして」
「いえ、俺も旅館を探してたとこでして。こっちも助かりましたよ」
「お兄ちゃん、またねー」
「あ、もう。本当にすみませんでした。それでは」
2人は旅館に入っていってしまった。
母親探しも無事にすんだところで本題に入りますか。
俺も親子にならって旅館に足を踏み入れた。
「すみませーん」
「はい、お待たせしました」
女将さんなのかどうかは知らないけど女性が来た。
旅館らしく和服だ。
とりあえず用件を言わないと始まらない。
「あの、部屋は空いてますでしょうか?」
「今日は満室になっておりますが・・・」
「ふぅ、やっぱそうか。予約しておくべきだった」
よりにもよって今は春休み。
旅館なんかは空室なくて当たり前のシーズンだもんな。
しかし参ったねぇ、初日から野宿かいな。
「ごめんなさいね」
「いえ、気にしないでください。じゃ、俺はこれで―――「相沢さん?」―――は?」
あれ、いつの間にか自己紹介でもしたっけ?
というか何処かで聞いた声だ。
出口に向いていた体を旅館の内部向きに戻す。
そして声の主を見る。
「・・・みっしー?」
「その呼称で呼ばないで下さい」
旅館のものだろう和服に身を包んだ天野がいた。
俺の横にいる女性と同じ格好。
いや、若干は違う。
うーん、身分の差なのかな?
女将さんと従業員の差、みたいな。
「美汐の知り合い? 相沢さん、って言ったわね」
「高校の先輩です。相沢祐一先輩。お母さんにも以前少し話したと思いますよ」
「お、お母さん!? 天野の!?」
「そういえば聞いたことはあったような気がするわ」
俺の横にいる女性を見る。
赤みがかった髪で顔立ちもたしかに似ている。
天野が成長したら、こんな感じになりそうだ。
「しかし何で天野が此処にいるんだ?」
「春休みの間は両親に会いに行きます、と言ったはずです。
まぁ、バイトも兼ねてます。そのバイトも今日までで明日からは自由になるんですよ」
口調からはバイトから逃れられる喜びが感じられる。
どうやら旅館のバイトというのはハードらしい。
うむ、俺は旅館でのバイトはしないことにしよう。
我慢強い天野で嫌になるのに俺に耐えられるわけがない。
まぁ、それはさておき。
「あぁ、ここが天野の家でバイトもしてるわけか。イメージと合うな、天野と旅館」
「・・・それは誉められているのでしょうか?」
「もちろん。大和撫子だからな、天野は」
俺が言うと天野は少し赤くなった。
ちなみに横では天野母が微笑んでいる。
って、俺はこんなとこにいる場合ではない。
無理っぽいけど宿を探さないと。
「じゃな、天野。俺は去る」
「え? 泊まられるのではないのですか?」
「ほら、今は春休みだから空いてないのよ。
旅行客が多いし、美汐の部屋だって用意するの大変だったのよ?」
「そういうことだ。俺は今日の昼に唐突に旅行に出たからな。
持ち物も少ないし、当然予約なんてしてない。ということで次を探す」
「あ・・・」
俺が外に出ると天野が寂しそうな声を出した。
って、なぜにそんな声を出しますか?
恋人でもないっつーに。
まぁそんなことよりも宿探しだな。
「美汐、あなたの部屋に泊めてあげたら?」
「はい!? ななな、何を言ってるのですか!」
「だって祐一さんだっけ? 彼のこと好きなんじゃないの?」
「ちちちち、違います! それに何で相部屋なのですか!」
「だって空いてないから仕方ないでしょ?
それに滅多にないチャンスじゃない。そんなに彼が嫌なの?」
「え、それは嫌ではないですが・・・」
「じゃ、決定ね。祐一さーん?」
50mほど歩いたところで天野母に呼び止められた。
その後ろには赤くなって俯いてる天野。
さっきの自分の声に恥ずかしくでもなったか?
「なんですか? あ、他にも宿のあてがあるとか?」
「それはないですよ。そのかわり、うちで部屋を貸しますから」
「ホントですか!? って、満室なのでは?」
「相部屋になってしまいますが・・・よろしいですか?
あぁ、料金は半分で構いませんよ。もともと美汐は払いませんから。
祐一さんが半分でも払ってくだされば黒字ですので」
そう言ってチラッと天野を見る天野母。
天野母の視線でさらに赤くなる天野。
相部屋。
天野母の視線。
赤くなって俯いている天野。
「・・・もしかして」
「えぇ、美汐と相部屋になりますが。どうでしょう?」
「いや、俺は助かりますけど、その、天野? お前、了承したのか?」
「はい、その、しました、けど、あの・・・相沢さんは嫌ですか?」
「俺は嬉しいけど」
どんどん赤くなり、湯気でもでそうな感じになってしまった。
あまり聞くのも可哀想か。
天野自身も了承してくれてるしな。
それに料金が半分でいいというのもいい。
学生さんには、それほど余裕があるわけじゃない。
安いなら安いほうがいいもんだ。
「お母さんもいいんですか? 自分の娘の部屋に男を泊まらせて」
「全然まったくもって構いません」
にこやかに言い放つ天野母。
そこまで強調しなくてもいい気がしますけど。
ずいぶんと寛大な母だ。
秋子さんに匹敵するかもしれない。
「そ、そうですか。では、お願いできますか?」
「はい。紫天旅館へようこそ、祐一さん」
赤くなった天野と女将モードの天野母に迎えられ。
俺はなんとか寝床を確保することに成功した。
・・・天野と相部屋という特典つきで。
あとがきのようです。
氷:「旅館ですよ。」の連載開始ですよ、夏奈さん。
夏:やっぱり私って此処にも出るんですね。
他のSSでもあとがき担当≠チて言われたからわかってましたけど。
氷:いいじゃないですか、出番が増えるんですから。
夏:暇じゃないんですけど・・・まぁいいです。
初めましての方が多いと思いますので自己紹介をしますね。
えっと、「IM」でメインヒロインしてます朝霧夏奈です。
氷:私は氷翼です。
投稿作家さんやってます・・・新人ではないですね、もう。
夏:新人なんていう言い訳は通用しません。
氷:そんなわけで自己紹介はこれにて。
今作「旅館ですよ。」の話を少しくらいしましょう。
夏:連載系では3作目になりますね。
天野美汐さんと祐ちゃんのラブラブ甘々ストーリー。
長編というよりは中編なので、そんなに長いわけじゃないです。
氷:実際にどのくらいラブ甘に感じるかは人それぞれだとは思いますけど。
私が書いたSSの中では一番甘いかもしれないです。
夏:・・・書いてるSSが少ないですけどね。
氷:むーっ、それは言わないでくれると嬉しいのですが。
夏:ま、それは何処かに置いておきましょう。
今回は祐ちゃんが旅行に出た先で天野さんと会って、相部屋になったとこまですね。
氷:天野母も登場してます。
天野父の登場予定は一切ありません・・・なんとなく。
夏:・・・あとがき長くないですか?
氷:第1話ですからね。
そろそろ終わりにしないと読者様が苦痛に感じるかもです。
夏:とっくに苦痛だと思います。
それでは次回のあとがきで会いましょう。 ではー。