仮面ライダーSAGA

#.20 旅立ち























【10/31 21:34 ものみの丘】


テンペストとクロスは互いに間合いを維持しながら対峙していた。

動けないまま膠着状態に陥っている。先に動いた方が負けということもない。互いに、必殺の一撃を受け止めるだけの能力は有している。

「天原…何で、こんなことになったんだ?」

「必要だったからだ」

相手の意思を理解できないクロスの問いに、テンペストは淡々と返した。そして、その答えはクロスの望むものではなかった。

「俺は、お前のこと仲間だって、思ってたけどな」

ポツリと、クロスが漏らす。

それは、今まで決して口には出さなかった、心の底に秘めていた思い。頼れる仲間として、心を、志を共にする仲間、戦友と呼べる、友。

そしてそれは、2人の共通の思いでもあった。

「俺も、仲間だと思ってる。初めて、友と、呼んでもいいと思えたのが…相沢、お前だ」

テンペストもずっと秘めてきた思いを口にする。

それが、クロスには許せなかった。

仲間と言いながら、友と呼びながら、今、本気で戦うために相対している。思いと現実の落差が激しすぎた。

「だったら!!」

クロスが叫びながら駆け出した。渾身の力を込めた拳を構える。

「どうしてこうなってるっ!!」

繰り出した拳をテンペストは造作もなくよけた。そのままがら空きの脇腹に蹴りを叩き込んだ。

「かはっ…!」

そのまま吹っ飛ばされるクロスをテンペストは蹴りを振りぬいた姿勢のままで見ていた。

「くそ…」

立ち上がりながら、クロスは頭を振った。

その行為は、迷いを振り切ろうとしているようにも見えた。戦うことに迷いがある。普通に考えれば、死に直結する。だが、それをわかっているのか、テンペストは彼が覚悟を決めるのを待っているようにも見えた。

「お前…!何で何だよ!!俺達は仲間じゃなかったのかっ!?」

そして、最後のつもりで発した問いがテンペストへと向けられる。

「仲間さ…だから俺はこうして、正面からぶつかることしか出来ないっ…!」

答えを聞いても、クロスにはテンペストの意思を理解することは出来なかった。だが、その声に悲痛さが滲み出ていることだけは感じ取っていた。

彼もまた、覚悟はしていてもこの戦いは本意ではないのだ。

そして、クロスも覚悟が決まった。

「だったら、俺がお前を止めてやる。そんな泣きそうな声で叫ぶお前の戦いを、俺が止めてやる!!」

クロスがテンペストに向かってファイティングポーズをとった。

「そうだ。それでいい。お前の全力で来い。俺も、お前に全てをぶつける。そして、勝つ」

「やってみろっ」

クロスは天に向かって拳を突き上げた。

「真琴っ、あゆっ…俺に、力を貸してくれ」

クロスの装甲が排除され、排除された部分が結晶状に変化する。そして、背中に光の結晶で構成された翼が生じる。

「クロス∞」

「それでいい。いくぞ、ヘブンストライカーッ!」

虚空に向かって手を伸ばしたテンペストの手にヘブンストライカーが握られる。

「テンペスト、オーディンッ」

金色の絶対神、破壊の力の集合体がその姿を現す。

そして、ヘブンストライカーを地面に突き立て、蹴りを主体としていたゲイルフォーム時のファイティングポーズをとった。あくまでも、自分らしさを貫くテンペストオーディン。

「俺に合わせたつもりか?」

「いや。俺らしさを、考えてみた」

互いに、ふ、と小さく笑うと駆け出した。

クロス∞の拳と、テンペストオーディンの蹴りがぶつかり合う。

互いに必殺の威力を持つ一撃が相殺し合う。常識ではありえない、全力の応酬。ぶつかり、弾き、またぶつかる。

クロス∞の拳がテンペストオーディンの右肩を捉えた。だが、テンペストオーディンはそこで止まることをせずに構えていたけりを振り抜くことを選択した。

結果、クロス∞の右脇腹に蹴りが叩き込まれた。

互いに後退り、荒い息を整える。

「相沢ッ!俺達の戦いは、ここで終りじゃない…だから!!」

「だから…何だ!?」

蹴りと、拳がぶつかり合う。

「俺を、次へと行かせてくれ…」

「次って…何なんだよ!」

クロス∞の叫びがテンペストオーディンに向けられるが、それが隙になった。一瞬でも、他の事に気をとられたクロス∞は迂闊にも隙を晒してしまうことになってしまったのだ。

「ぉおおおっ!!」

競り合っていた脚を起点に回転、クロス∞の側頭部に蹴りを叩き込んだ。

「ぐっ…!」

踏鞴を踏んで踏みとどまるクロス∞。だが、既にテンペストオーディンは最後の行動に移っていた。

鋭く伸びる腕がクロス∞の腹部に突き刺さる。

正確には、クロスバックルの中央の赤の輝石へと。

「何を…っ!?」

「悪い。だが、俺にはこれが必要なんだ」

テンペストオーディンは謝罪とともに、赤の輝石を引き抜いた。

一瞬でクロス∞は変身が解け、祐一の姿へと戻る。その腹部は火花を散らしていた。

「それは…俺の命じゃ、なかったのか?」

祐一は倒れそうになるのを必死に堪えながら問いかける。

「仮初の、という文字が頭につく」

「何…?」

「時間がない。簡単に説明する。テンペストは、本来は輝石の依代になるものだ。だが、封印された状態であるが故に青の輝石のみを持っていた。元々は一つのものだった輝石。そのうちの、破壊を司る青の輝石のみを宿し、青き狼の化身としてテンペストとなった。

 青と赤。その二つをそろえたとき、テンペストは真の姿と力を得る。そして、世界の守護と破壊、奪還を使命とするものへと生まれ変わる」

「どういう…意味だ?」

世界の守護、破壊、奪還。その意味がわからなかった。

「この世界は、本来あるべき形に成長していない。そして、奪還するなら、今をおいて他にない。世界そのものが力を得た。テンペストが復活し、擬似的に輝石を扱う改造人間が作られ、それに匹敵する能力を持った装甲服が作られた。今ならば俺達の敵と戦える。寧ろ、今しかない」

「教えてくれ……俺達の敵とは、一体?」

「神だよ。それも、他の世界の管理者だ。この世界は、世界樹の種が芽吹いたそのときに、成長していた世界中の管理者に乗っ取られたんだ。輝石は元々は俺達の世界の神そのものだったのさ。それが、世界が侵略されたとき、いつか、自分の子供達が世界を取り戻すことを願い、自分の力を二つにわけ、封印した。

 リオたちは、本来は、テンペストに与えられる試練だった。その試練を乗り越え、神と戦う力を手に入れていく。その為の存在だった。また、反信徒はもともとのこの世界に生きた存在だったものが神に作り変えられた者たちだ。だから、奴らは何も知らずに生きている人間を憎んでもいた。

 俺達の本当に戦うべき相手は、神だったということだ」

あまりにも途方もない話だった。

懸命に、ただ大切な人を守りたくて始めた戦いが、神を倒すものへと変わりつつある。しかも、そこに祐一は参加できない。

「相沢。いや、祐一」

テンペストが赤の輝石をアルタークに吸収させる。赤と青の混ざり合った一つの石となり、テンペストの姿にも変化がおきた。

オーディンフォームの意匠を残しつつ、更に洗練された、神々しさと雄々しさを併せ持った姿へと変貌していた。

「フェンリル。輝石の真なる継承者として、行使する。我が友に、救いを。赤き、慈悲を」

直後、祐一の体が光に包まれた。

光が収まる頃には、祐一は地面に倒れていた。だが、腹部から火花は散ってはいない。

「これで、お前は人間に戻れた。愛する人との間に子を為し、子孫を残すことの出来る体に戻った」

「あ…いや、翔矢……」

祐一が顔だけを起こし、テンペスト…いや、フェンリルを見上げる。

「でもな…最後の瞬間、俺達の戦いの最後に、俺の隣にいるのはお前だけだ。お前以外は、認めない。だから…何としてでも、力を手に入れてくれ。俺は、奴を引きずり出してくるから」

フェンリルは踵を返すと、丘を登っていく。

天から、光が差し込んでいた。柱のような、白い光。

「あれは…」

祐一は若干重く感じる体を起こし、フェンリルの向かった先を見る。何かが、光の中から降りてきていた。

直後、フェンリルが駆けた。そして、光に向かって飛び込んでいった。

「翔矢っ!!」

呼ぶが、既に声は届いていない。だが、必ず、もう一度彼の隣に立つ。それは決められた。

これが、相沢祐一の新たな戦いの始まりだった。

























【光の中】


フェンリルは光の中で翼を生やした女神と相対していた。

これが、彼らの敵。

だが、フェンリルがその存在に気付いた瞬間、女神は突然逃げるように引き返した。女神は、気付かれる前に世界を破壊しようとしていたのだ。そうすることで、自分を殺しうる存在を抹殺しようとしていたのだ。

「来いっ!スレイプニルッ!!」

フェンリルが叫ぶと、かつてヘイムダルであったバイクが出現した。

「奴を追う…!絶対に逃すものか」

スレイプニルが光の中を失踪する。

そして、女神の姿がある場所で掻き消えた。

「そこか…」

スレイプニルはフェンリルを乗せたまま女神の消えた場所で姿を消した。

























【11/1 AM08:33 警察署】


その日、梓は学校に行かなかった。

警察、衛次の元にいた。

「そうですか…やっぱり、天原君は行ってしまいましたか」

そして、知っていることと、翔矢の行方を、衛次に話した。

「知って、いたんですか?」

「知っていたよ。彼から聞いていたからね。そして、彼の言うとおりの結末になった」

反信徒、ビーストの壊滅。

その時点で衛次らの任も解かれる。元は美汐の護衛から始まった任務がここまで発展したのは予想外ではあったが、これも仕事。

「僕達は今度、本庁に帰ることになってるからね。これからはそう簡単には会えそうじゃないから。だから、こうして君が来てくれて、天原君のこと話してくれて嬉しかったよ。ありがとう」

「いえ…」

梓はその先を言えなかった。

ただ、いなくなってしまった翔矢のことを誰かと共有したかっただけなのだと。

「おはようございます。って、あれ」

祐一が美汐を伴って入ってきた。

「おはようございます。今度、本庁に戻られると聞きましたのでご挨拶にお伺いしました」

祐一が梓に気付き、言葉を切ってしまったためか、代わりに美汐が伝えた。

「そうかい。で、敢えて聞いてみるけど、3人とも…学校は?」

「私達は昼から行きます。そのことは学校には連絡済です。祐一さんがクロスとして戦っていたことは周知の事実ですから」

美汐は迷うことなく答えたが、梓は無言だった。

事実、制服を着ている祐一と美汐に対し、梓だけは私服だった。

「少し…時間が欲しいから。ちゃんと、翔矢を待ってあげられるようになりたいから」

「そう。じゃあ、ゆっくり考えるといいよ。後悔しないように、ゆっくり、時間をかけて。色々あったから、街の人たちも彼を見る目を変えてきてたからね」

「…はい」

全員の視線が窓の外へと向けられる。その方向は、ものみの丘の方向だった。そこから、翔矢は旅立った。

それぞれが、それぞれの想いを胸に空を、翔矢が消えていった空を見ていた。

(翔矢。絶対に、負けたりしたら許さないからね。そのときは、もう待っててあげないから…)


























仮面ライダーSAGA

fin



the next stage …

















ようこそ、根の世界…アヴァターへ。

世界は君を、歓迎しないけれど。仮面ライダー。






DUEL RIDER





1.狼と雪

















後書き

セナ「これでこの作品は完結ですが、続編が完全な完結編となります。続編ではデュエルセイヴァー(ジャスティス等を含む)、仮面ライダーディケイドが新たに版権作品として追加され、オリジナルの中からGuardian angelが追加されます」

梓 「ていうか、最初はディケイドはなかったよね?」

セナ「いや、見てるうちに、これほどクロスオーバーのやりやすい作品もないだろうと思ってね」

梓 「うん。わかるけど、どんどんついて来れない作品になるね」

セナ「最初からそんな感じだけどね」

梓 「あはは…」

セナ「と、まぁ。続編もよろしくお願いします」