仮面ライダーSAGA

#.17 あゆ






















【10/28 14:33 N市商店街】


日曜日で、ここのところ怪物騒ぎも起きていないことから街は安堵の雰囲気に包まれていた。

商店街では久しぶりに賑やかさを取り戻していた。

そこに祐一と美汐はいた。既に祐一たちが戦っているのは周知の事実ではあったが、こうして街に出てこれる部分で翔矢との明暗がくっきりと浮かんでいる。翔矢は未だに堂々と街中を歩くことは出来ないでいるからだ。

「久しぶりって言うか、もう半年ぐらい経つんだっけ?」

「そうですね。あの旅行計画が5月でしたから」

祐一が戦い始めたのが5月の初め。あのときの旅行の約束は未だに果たせないでいた。

「全部終わったら、もう一回旅行の計画を立てようか」

「それもいいですね」

笑いながら話す祐一だったが、逆に美汐は不安を抱いていた。

全てが終わったとき、祐一は排斥されるかもしれない。今は、人々を守る盾になっているものの、人々を襲うものがなくなったとき、どうなるのだろうか。

トライナルシステムは封印すればいい。誰も使えない状態にして、衛次がただの警察官に戻ればいい。だが、祐一と翔矢は違う。彼らはそのままでは人間に戻れない。もう、彼らは後戻りできないのだ。

翔矢はまだ出来たはずだが、それを知った上で退かないことを選んだ。祐一はどうなのだろう?

あの時、失うことが怖くて無理矢理に選択を迫ったがそれは正しかったのだろうか?

今、隣で笑ってくれている祐一を、いつかは失うかもしれない。それが、怖い。

「美汐?」

遅れ始めた美汐を気にして祐一がその顔を覗き込んだ。

「気分でも悪いのか?」

「いえ…少し、考えことを」

「そっか。ま、今は少しくらいは忘れよう。久し振りの休みらしい休みなんだから」

そう言われるも、美汐は何も忘れることも出来そうになかった。今のことも、先のことも考えるのは全て祐一のことばかり。それなのに考えてしまうのは暗い未来ばかり。

叫びだしたい心境にもかられるが、傍にいる祐一は何を考えているのだろうかとも思う。自分の未来について楽観的に捉えてはいないだろうか。

「あいざ…」

言いかけて美汐は言葉を呑み込んだ。

目の前に、いるはずのない人物がいた。

「あなた…月宮さん、ですか?」

目の前にいるダッフルコートに身を包んだ少女――あゆは美汐の問いに対し、ゆっくりと首肯した。

























【15:11 市内】


衛次は通報を受けて市内のとある場所に来ていた。そこで2人の人物が唐突に消えたという。その直後に正体不明の怪物が出現したという。

現場にはまだ怪物が残されている。だが、ビーストでもなく、反信徒でもない。牛の頭をした獣人。その手には巨大な槍を持っている。

衛次は共に来ていた翔矢に訊いてみることにした。

〈あれ、どう思う?〉

「俺達の知る存在ではないでしょうね。でも、敵対の意思はありそうだ」

〈同感、だね〉

それだけ言うと、衛次はトライナルとしての思考を優先させ武器を構える。その横では翔矢が変身を終え、テンペストとなっていた。

「赤…」

獣人が口を開いた。その瞬間、2人の中で祐一の存在が過ぎるが、何か違うとも感じていた。

「シロノコトワリ」

片言の言葉を残した後は咆哮を上げ、2人に襲い掛かった。

(白の理…?まさか)

攻撃をかわしながら、テンペストは自分が正しかったことを確信する。同時にトライナルの腰からファングを抜くとそれをハウリングカノンへと変化させ、フィクサーフォームへと転身を終えた。

「ハウリングカノン、発射」

圧縮空気の弾丸を放ち、獣人をその場に縫い付ける。それは誰のためでもない。トライナルがその最大の力を発揮するためのものだ。

〈ふっ…!〉

短い呼吸で踏み切り、トライナルが跳躍した。

一瞬で踏み切り、両脚部のスラッガーを展開する。一撃必倒のトライナル単体のもてる最大の破壊力を有する攻撃。

〈オービターオーカーッ!〉

キックが決まると同時に両脚部のスラッガーが発射され、巨大な爆発が起きた。後には着地を決め、静かに佇むトライナルと、煙を上げながら倒れ伏す獣人の姿があった。

爆発はしない。だが、獣人は確実に絶命している。

〈どう、思う?〉

「さぁ?でも、これなら解剖できますよ」

〈それは…そうだけど〉

頼める人がいないんだ。そう思いながらも衛次は県警に応援を頼むことにした。こんな巨体、単独で持ち運ぶのはかなり苦しいものがある。何より、目立つ。

「まぁ…見る限りは多分牛の内臓器官と人間の強化版のような筋肉のつき方してるんでしょうね」

〈それは、わかる〉

取り敢えずは、応援が来るまではその場で待機することとした。

「葉塚さん。少し、いいですか?」

既に変身を解いていた翔矢に対し、衛次はフェイスガードだけを外して振り向く。

「これ、まだ相沢には話してないことなんですが。取り敢えず、これで確定だと思うので葉塚さんぐらいには知っておいてほしいんです」

「僕に?」

翔矢は小さく頷くと口を開いた。

「実は…」

























【15:49 郊外『学校』】


あゆは祐一と美汐を連れて郊外の森の中までやってきていた。

美汐はそこが何なのかを知らないが、祐一とあゆにとってはとても大切で、それでいて別れの場所でもあった。

「時間はあんまり残ってないから手短にいくよ」

そう言って、あゆは語り始めた。

「まず、祐一くんが赤の輝石を手に入れたことは本当に偶然だよ。それを狙っていた存在は本当に沢山いて、その中で祐一くんの両親がそれを見つけてしまっただけのこと。

 元々、輝石は2つで1つだったんだ。もっと言えば石ですらなかった。全てを兼ね備えた存在だったそれは何者かの手によって2つへ分けられて青は表舞台に残され、赤は隠されてきたんだ」

そこまで語って、あゆは美汐を見た。

美汐ならば知っているはずだった。表舞台に残され続けてきた青の輝石がどういうものであるかぐらい。

「それは…隠してきた者にとって赤が都合が悪かったということでしょうか?」

「うん。突き詰めれば青は破滅、破壊の象徴で赤は救いの象徴だったから。赤を表に残せば介入者の思い通りになってしまうから」

「介入者?」

祐一が口を挟む。

「うん。この世界はあるべき姿のまま進化したわけじゃない。元々は世界樹の種として産み落とされて、一本の世界樹になるはずだったんだよ。だけど、まだ芽生えたばかりの世界を無理矢理に自らのものにした存在がいた。それが介入者。

 でも、介入者は完全な形でこの世界を自分のものに出来たわけじゃない。種の守人…わかりやすく言えばこの世界の作り主だね。それがこの世界をいつかあるべき形に戻すために。世界が力をつけるその日まで赤を隠し続けることにした。まぁおかげで疫病とかはとんでもない勢いで流行る世界になっちゃったけどね」

苦笑いを浮かべるあゆに祐一は詰め寄った。

「じゃあ、今、この世界は力をつけたのか?」

「その質問に対する答えはイエス。人為的に赤の力を引き出せるようにされた改造人間。世界の理から外れたEマター。科学だけで作り上げられたトライナル、デフィートシステム。これだけのものが、今この瞬間、同時に存在してる。それは、世界が力をつけたことの証明。

 祐一くん。ボクが祐一くんに伝えなくちゃいけないことは1つだけ。絶対、迷わないで。思うが侭に戦い抜いて。最後には、ボクも絶対に間に合うようにするから」

じゃり…と、あゆが後退る。それは、これが別れであるということの証明だった。

「絶対、皆揃うから。それは、祐一くんが手に入れたのが青じゃなくて赤だったことの証明だから」

「わかった。じゃあな。あゆあゆ」

「うぐぅ…最後まで」

きっと、3度目の別離に涙は相応しくない。これは再会の約束なのだから。もう、涙はいらない。約束だけあればいい。

そう信じて、消えていくあゆの姿を祐一は見ようともしなかった。見てしまえば、きっと泣いてしまう。

「また…な」

呟いて、拳を握り締める。敵は大きい。あのリオなど可愛いものなのだろう。

負けてはいられない。まずは、リオを倒すところからだ。

「美汐。俺…」

「いいですよ。言いたいことは想像がつきます。悔いの残らないようにしてきてください。私は、信じて待っていますから」

「すまん」

祐一は美汐に背を向けて走り出した。戦うべきは、今しかない。

























【19:44 警察署内】


獣人の巨体を受け入れらる病院などどこにもなく、警察署内にもそのような設備もなかったが何とか空いているスペースを封鎖して解剖用のスペースを確保していた。

だが、当初獣人の体にメスなどは入らず、仕方がないのでトライナルを用いての解剖となった。

〈どうですか?〉

「臭い」

衛次の言葉にその場に居合わせた医師はたまらずその言葉を漏らしてしまっていた。

〈あの…そういうことではなくてですね〉

衛次だけはトライナルシステムの能力で臭いを完全に遮断されているためその悪臭がどのようなものかを測り知ることが出来ないでいた。防毒マスクを用意するべきだったかもしれないとは思うが後の祭りである。

「意味がないな。いや、ある意味、素晴らしいことではあるんだが。君達が何かこの怪物の特徴というものを知りたいというのには意味がないだろうな。

 君の思うとおり、これの構造は限りなく人間のそれに似通っている。というよりも人間といって差し支えないレベルだろう」

医師はそれだけ言い残して出て行った。よほどこの悪臭に耐えられなかったのだろう。今頃はどこかで嘔吐しているのかもしれない。

既に写真や映像記録に関しては十分なくらい用意されている。

〈…捨てるか〉

溜息を吐きつつ、衛次は獣人の体を抱えて歩き始めた。

少なくとも、近隣住民に対する迷惑だけはかけないようにしなければならない。どうしようかとも思うが、跡形もなく消し去るしかないと判断し、エクステンドチェイサーにマグナカノンの装着を要請した。

火炎放射器などは持ち合わせていない。いつものように、倒したあとに爆散してくれるというのなら話は早いのだが、今回はそうはいかないのだ。まさか跡形もなくなるまで銃弾を打ち込むわけにもいかない。

『あー…衛次。聞こえてるか?』

〈聞こえてますが〉

忙しいんですから後にしてくださいとは言えない。相手は神崎。自分の上司だ。

『大型クレーン車の用意が出来てる。それに吊り下げるからそいつを正確に撃ち抜け』

〈……準備、いいですね〉

『多分、そういう処分方法になると踏んでいてな』

成る程。あの勘のいい上司ならこれぐらい読めるだろう。そう思いながら衛次は普段はバイクで失踪している通路をとぼとぼと歩き始めた。これほど惨めな気分でここを歩くのはこれが初めてで、最後だろうと思いながら。

因みに、その後も捜査を繰り返したものの消えた2人はどこに行ったのかわからず、獣人との接点等に関しても不明のままであった。

























次回予告

祐一は遂にリオとの戦いに臨む。

ぶつかり合う想いと力。

その中で祐一は真琴の願いと出会う。

その願いは、彼らの戦いの根幹に関わるものだった。

祐一はその願いを叶えるために、目の前にそびえる壁を打ち砕くことを決める。

「いくぞ…これが、本当の、全力、全開、フルパワーだ」

交わる心と覚醒する力、戦いは誰の為に?

次回、仮面ライダーSAGA

#.18 限界突破






















後書き

セナ「はい、幻影あゆ退場」

梓 「……」

セナ「そろそろ君にも出番作らないとねー。でも、次に作れるかはわからないけど」

梓 「軽くない?」

セナ「容量?」

梓 「態度」

セナ「……まぁ、開き直りってことで」

梓 「あと、何話くらいかけるつもり?」

セナ「え、次回でビースト編完結で、その次で反信徒編っていうか、キズナ編完結、で、最後に完結編かな。平成ウルトラシリーズじゃないけど最終3部作って感じ。まぁ、あまり連続性はないけど」

梓 「えっと…葉塚さんの決戦はどこに?」

セナ「あぁ、もう終わってるよ。残ってるのはフォローだけ」

梓 「……あれで終りだったんだ」

セナ「うん」

梓 「と、色々と突っ込みどころありそうな展開ですが次回もよろしくお願いします」