仮面ライダーSAGA
#.12 王者
【8/4 09:22 商店街】
その日、祐一は夏休みということもあり、美汐と一緒に買い物に出かけていた。無論、それは翔矢や、衛次が彼を気遣って休みを作ろうとした結果であり、それだけ彼らが信頼し合っているということでもある。
だが、この安らぎは一瞬で崩れることとなる。
人込みの中で、出来れば二度と見たくないと思っていた人物を見ることになった。
「久しいな。相沢、祐一」
「リオ、か」
ビーストの頂点に君臨する女王、リオ。
「遂に時が満ちた。貴様が私に挑むその日を心から待っているぞ」
それだけ告げると、リオは祐一とすれ違うようにして去っていった。
「時が…満ちた?」
「…残っているのは、彼女だけということです。彼女を倒せれば、ビースト事件に関しては終わります。そうすれば、後は反信徒にのみ対処していくことが出来ます」
祐一の言葉に美汐が返す。
それは、祐一の求めていた回答であったが、同時に、不安でもあった。
ビーストは何故、存在していたのか。何故作り出されたのか。それを知らないままに相手を滅ぼそうとしている。
「祐一さん。彼女と戦う前に、話をしてみては如何ですか?結果は変わらなくても、由一さんの知りたいことを知ることが出来るかもしれません」
「俺の…」
知りたいこと。そう続けようとして、祐一は言葉に詰まった。
何を知りたいのだろうか。そこが問題だった。
ビーストの存在理由なのだろうか?
それなら美汐が調べているだろうし、独自にビーストや反信徒から情報を引き出している翔矢などはそれぐらいのことは知っているだろう。
「そう、か」
そこまで考えて理解した。
どうして、戦い続けることでしか自分を証明できないのか。それを、訊きたい。
【8/5 11:09 産業廃棄物集積場】
衛次は市民からの通報を受け、産廃の集積場に向かっていた。そこに、槍を持った怪人がいるらしいという内容だった。
そして、これに関しては祐一にも翔矢にも伝えていない。
相手がウェアであれば、衛次は自分で決着をつけるつもりでいた。
そして、その相手は確かにウェアだった。
「人間。俺が最後の門番だ」
そう言って、トライナルのフェイスガードを装着した衛次に対してウェアは槍を構えた。
〈王への挑戦権とかはどうでもいい。僕は、貴様を倒す。そして、先輩の仇を討つ。貴様を野放しにしておくことがどれだけ危険かを理解したから。
絶対に逃さない〉
静かに決意を述べ、槍に対抗するようにアークロッドを構えた。
「ふっ…!」
先に動いたのはウェアだった。槍をまっすぐに突き出す。
それをアークロッドで弾き、同時に懐に入り込むトライナル。
同時に空いている左腕を突き出す。
掴もうとしていると判断したのか、ウェアはそれを肘で払おうとしたが、それは間違いだった。
〈アームピック、展開〉
突き出された腕、その手首から太い針が飛び出した。
それがウェアの腕に突き刺さり、動きを止めた。
「離せ…!」
針を抜こうとするウェアだったが、その前にトライナルの手がウェアの肘を掴む。
〈オォッ!!〉
声を上げると、同時に掴んだままの状態から放り投げ、地面に叩きつけた。更に起き上がろうとするウェアに向かって突撃、その胸にアークロッドを突き立てた。
「ふざけろっ!!」
だが、それと同時にウェアはアークロッドを槍で弾き飛ばしてしまう。
〈ち…〉
舌打ちをしつつ、完全にウェアの間合いに入り込んでしまったことを悟ると、トライナルは後退を始めた。このままの位置では槍の連撃を受けることになる。
「遅いッ!!」
しかし、間に合わずその一撃をもらうことになった。胸部装甲から火花が散り、僅かに仰け反る。
「おらおらおらぁっ!」
ウェアは畳み掛けるかのように槍を振り回し、トライナルに迫る。その多くをかわしきれず、そのまま受けてしまうが、一瞬の間を衝いて距離をとった。
〈スマッシャー、使用します〉
距離をとったかと思うと、トライナルは背面に手を回し銃身と、引金部を取り出した。それを接続し、更に腰からマガジンを取り出し装填する。
〈弾頭は特殊徹鋼弾、標的、ウェア、照準、固定…〉
ガシャ、と音を立て弾頭を装填する。明らかに、人間には扱いきれない重量、口径だった。
トライナルの為にあるライフルだった。旧ドイツ軍が使用したとされる対戦車ライフルに近い設計構想だったが、これはそれとは扱う者が違う。
対戦車ライフルは地面に固定し、戦車を狙い打つが、その反動を射手の体が吸収しきれず一発打つだけで肩が壊れてしまうというものだった。
トライナルのスマッシャーもそれには近いのだろうが、これは戦車を撃つという名目で作られたわけではない。トライナルが使うという名目で作られたのだ。それでトライナルが壊れることは無い。
調整に調整を繰り返し、乱戦の中でも十分に使用でき、打撃武器としても有効に活用できるようになっているそれは、オービターオーカーに並ぶトライナルの必殺武器だった。
〈スマッシャー、発射!!〉
スマッシャーが火を噴き、弾丸が発射される。
何よりも貫通力に力を入れたこの徹鋼弾は容赦なくウェアの装甲を貫き、大きな風穴を開けた。
「…ぁ?」
自分の胸とスマッシャーを交互に見比べるウェア。
まだ、何が起きたのかわかっていないようだった。
〈オービターオーカー、発動〉
戸惑うウェアに対し、トライナルは一気に駆け出した。
〈パワーアクセラレーター、全開!!〉
そのまま一気に跳躍、落下の速度を利用しつつ左足だけ突き出した。
〈レフト、発射!!〉
左足だけ発砲。そのまま反動で離れるがそこで上に向かって反転した。既に人間業ではないかもしれないが、改良を重ねたトライナル故の技だった。
もう一度脚がウェアに向くと右足を突き出し、同時に背中のブースターが火を噴いた。
ブースターの推進剤が切れるまでウェアを引き摺り、限界に到達した時点で右のスラッガーを発射した。
叩きつけられた壁に放射状に罅が広がると、トライナルは着地し、背を向けた。
「ち…人間に負けるとは」
ウェアが最後の言葉を残し、爆発を起こして倒れた。
〈人間だからといって、侮るな。人は人のままで強くなれるんだ〉
呟き、エクステンドチェイサーに跨るとトライナルはそこから走り去った。
そして、ウェアの爆発したあたりに一人の少年が立っていた。
「…く、やっと逃げ出せたってのに、こっちもこのざまか」
少年はトライナルの後を追うようにして歩き出した。
彼は、逃亡者だった。
「見つけたぞ、タイプ01、適合ランクAAA+」
「大人しく戻って来い。そうすれば総帥も許してくださる」
二人の男が少年の後ろに立っていた。
その表情に感情の色は無い。ただ、機械のようにそこに存在していた。
周囲では、既に警察の鑑識などが動いているというのに、彼らだけは忘れ去られたかのように周囲に認識されていなかった。
「嫌だね。俺は帰るんだ。盟約?知るか。それよりもあいつとの約束のほうが俺には大事でな」
少年はそれだけ言うと走り出した。
そして、男たちもそれを追って走り出す。
「反逆と認定、Eマターのみの奪回を最優先とする」
「承認」
「やっぱりなぁっ!!」
男たちの会話を聞きつつ、少年は走り続けた。
暫く走った先に、彼は立っていた。
(あの男…気付いている!?)
彼――翔矢は迷うことなくテンペストに変身した。そして、後ろから来ていた男たちを抑えた。
「おい、これは何だ?」
テンペストは少年に質問した。
「改造被験体の失敗作の成れの果てさ。お前、俺たちを認識できるのか?」
少年は自分を認識できるのかと訊ねた。それは、自分が周囲に認識されないということを知っているということだった。
「…別系統か。おい、名前を教えろ」
「俺のか?」
「それ以外誰がいる」
テンペストは抑えていた男たちを蹴飛ばすと変身をといた。
「俺は天原翔矢。お前の名は?」
「…折原、浩平だ。記憶する必要は無い。どうせすぐに忘れる。そういう風に作られてるからな」
作られている。
その発言を翔矢は見逃すことは出来なかった。
「仮に俺が忘れたとしても、必ずまた姿を見せろ。俺に接触しろ。お前に関する件、根が深そうだ」
「…ま、あんたは勝手が違いそうだからな。言う通りにするさ」
そう言って、浩平は去っていった。
それから暫く歩き、浩平は足を止めた。
「さぁ…出て来いよ。お前らが望んだ力で忘却させてやる」
周囲を挑発的な視線で見回す。
それと同時に、浩平を囲むようにして黒い、影のような人影が躍り出た。
「Eマター、チャージOK。量子変換実行」
瞬間、浩平の足元から竜巻状の波動が発生し、彼の身を包んだ。それと同時に腹部にベルトと宝玉が出現した。
波動が彼の体に纏わりつき、体を作り変えていく。装甲に身を包んだ真紅の戦士。真っ赤に輝く双眸は怒っているかのようだった。
「ONE、発動完了」
黄金色に輝く2本の角。分厚いブレストアーマー。宝玉入りのアンクレット。両腕に装着された銃口のようなもの。
その戦士に、影が襲い掛かった。
「メモリーインストール…スティルレイン」
右腕の銃口に小さなディスクを挿入し、構えた。
「発射」
その腕を天高く掲げると同時にその銃口部から光の雨が放たれ、上空を貫いた後に地面に降り注いだ。
雨は影をその場に縫いつけ、蒸発させていく。
「俺もお前らも忘れられた存在。俺の行動は周囲に影響を及ぼさない」
動くものがいなくなったところでディスクを抜き取り、腰のケースに収納する。
「俺は、貴様らを破壊し続ける」
【8/5 11:43 N県 御禰(みね)市 里村家】
その日、里村茜は家にいた。
いや、昼食の時間なのだから家にいるのは当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
「…?」
違和感があった。
何か、大切なものがあった気がした。だが、思い出せない。それを忘れてしまってはいけない気がしていたのに、思い出せない。
「司…」
嘗て失ってしまったものを思い出すかのようにして呟いてみた。こちらは思い出せた。では、自分は何を忘れてしまったのだろうか?
「やっほー、茜、いる?」
そんな時、親友の柚木詩子が訊ねてきた。
「あ、茜。折原の件、進展は無いって」
「おり…はら?」
瞬間、茜は理解した。
自分は、もう、失ってしまったのだと。そして、それは2度と戻ってこないのだということを。
次回予告
折原浩平と名乗る男と翔矢が一緒に衛次の元を訪ねた。
だが、衛次は浩平を認識できない。
そこで、翔矢は祐一に引き合わせることを選択する。
全てを失ったと語る浩平だったが、翔矢はそこに異を唱える。
まだ、取り戻せるはずだと。
交わる心と覚醒する力、戦いは誰のために?
次回、仮面ライダーSAGA
#.13 存在しない男
あとがき
セナ「と、言うわけで今回からONEが参戦します」
茜 「私の出番はどうなっているのでしょうか?」
セナ「終わり」
茜 「…え?」
セナ「言ってしまえば、浩平はゼロノスなんです」
茜 「その説明でわかる方が何人いると思っているんですか?」
セナ「詳しいことまでは説明するわけにはいかないので。知りたいという暇な方は仮面ライダー電王を詳しく調べてみてください。きっとどこかに答えがあります」
茜 「そうやって同士を増やそうとして」
セナ「はい。と、次回以降、他のONEキャラが登場していきます。もっとも、基本的には忘れていくばかりですけどね」
茜 「最後まで残れるのはどなたなんでしょう?」
セナ「君じゃないのは確か」
茜 「……」
セナ「ではまた次回」