仮面ライダーSAGA

#.11 ホントウ〜刃〜

















【5/29 17:42 中学校】


異様な光景だった。

本来、部活動に勤しむ生徒たちで賑わっている筈の校庭は静まり返っている。

その代わり、そこにはキズナと、青白い肌の男がいた。

「…来るのか?」

「来る」

男の問いにキズナは短く答えると校舎の方を睨みつけた。

間違いなく、そこに生徒たちはいる。だが、そこから出てくることはない。

「主要な箇所は全てゴブリンに抑えさせている。本来、主の民だ。殺すことはないように通達しているが、不測の事態は起きるだろうな」

キズナは言うが、その不測の事態は起きている。

警察に通報しようとした教員が一人、ゴブリンに食われている。

キズナ等の策で、外部との連絡手段を一切断ち切るようにしているのだ。翔矢が気付くその瞬間まで。

「さぁ…来い」

























【18:13 警察署】


この時間になって生徒らの保護者が一斉に警察に連絡を取り始めていた。

子供が学校から帰ってこない。部活をしていない子供までもが帰ってこないというのだ。

一連のビースト事件で市民が神経質になっている部分はあったが、それでもおかしいと判断したのか、警察は学校に連絡。だが、応答はないどころか電話そのものが通じなかった。

既に一般の警察官の手に負える代物ではないと判断したのか、衛次らに出動を要請していた。

だが、トライナルシステムの起動には時間がかかる。アンダースーツの着用、装甲の装着、起動、信号機の操作。それら全てを終えて初めてトライナルシステムは出動できるのだ。

故に、柚月に翔矢に連絡を取らせた。

学校に行っていない翔矢ならばある程度自由に行動できるという利点がある。祐一にそれがないわけではないが、彼には家族がいて、ある程度は束縛されている状態でもある。

だからこそ、彼らはこういった突発的な事態では翔矢に頼ることが多くなっていた。

「…専用ライフルは間に合わん。というか、中学校の校舎があるような場所でそんなものは使えるわけがない」

「はい」

衛次は答えながらトライナルの装甲を装着していく。

最後のフェイスガードだけは神崎が装着する。直後、その双眸が赤く輝き、トライナルの起動を告げる。

〈トライナル、起動〉

「行って来い」

エクスチェイサーに跨り、彼は飛び出した。

「…さて、改造を進めるとしよう」

衛次は知らないのだが、今使っているのは予備だったりする。

今まで使っていたものは、現在改造している最中だったりする。トライナルに対応させるために。

























【19:11 中学校】

空には満月が浮かぶ。その月に照らされながら翔矢は中学校に侵入した。

「待ったぞ」

キズナの声が響く。

「回りくどい真似をするからだ。それに、人質のつもりか?随分と質の悪いことをするじゃないか」

「誤解はしないでもらおう。これは人質ではない。貴様を呼ぶために協力してもらっているだけだ」

今度はキズナの声ではない。

「…冗談は大概にしろ。血の臭いがするんだよ」

怒気を孕んだ声と共に、圧縮空気の弾丸が発射される。既に翔矢は変身し、テンペストフィクサーへと転じ、ハウリングカノンを構えていた。

「月夜に狼同士の決戦…因縁めいたものを感じるな」

男の声。

月明かりに照らされた姿は、狼男。

「ワーウルフ、これで、伝承の怪物は何体目だったか」

ゴブリン、吸血鬼、鬼に続いて4体目である。

「月夜の決戦か。そういう洒落た見方もあるわけか」

だが、と続ける。

「貴様らが何と言おうが人質を取った時点でこれを決闘だの決戦だのというつもりはない。これは、許されない行為を糾弾し、解放するための戦いだ」

ハウリングカノンを手放し、テンペストゲイルへと転じ、ヘイムダルから降りる。

「覚悟を決めろ…!」

























【19:19 ものみの丘】


美汐から連絡を受け、祐一はものみの丘に来ていた。

そこでは狐の遺体が積み上げられていた。

「何なんだ…これは」

どうしようもない憤りを感じ、声を荒げる。

「待ちくたびれたよ」

その惨劇とは不釣合いな穏やかな声が祐一にかけられる。月に照らされた優男が美汐を腕に抱えて立っていた。

「貴様…!」

「動かない。僕が何を抱えているか、わからないわけじゃないでしょ?」

男は美汐を抱える腕に少しだけ力を込める。

それだけで美汐はその表情に苦痛を浮かべる。間違いなく、ここに助けを呼ぶ形で祐一を呼んだのは美汐だった。

だが、呼ばせたのはこの男に違いなかった。

「何を考えている」

「おや、僕は君に真実を教えてあげようっていうだけさ。僕は戦いが嫌いでね、これでも虎なんだけどね」

瞬間、祐一は相手がビーストであることを理解した。

「僕は、君が戦い続ける姿を見て忍びないとさえ感じたのさ。だってそうだろ?戦う理由を見つけたと言っても、君は自分が何なのかを知らない。

 勿論、この天野の巫女もね」

男はさらに続ける。

「君は寧ろ、全ての憤りを世界にぶつける権利がある」

「何故だ」

「聞いては駄目です!」

続きを促す祐一に美汐は必死になって静止しようとする。美汐は既に男の口からその話を聞かされていた。

「君は黙っててよ。話が終われば彼のところに返してあげるから。そうしたら、彼に殺された2人目の人間になれるんだから」

「あゆはまだ死んでない」

祐一が呻くような声で漏らす。

「そうだね。でも、あれじゃ生きているとも言えないんじゃないかな?」

男の言葉に祐一は何も言えない。

確かに、あゆを昏睡状態にするきっかけを作ってしまったのは祐一なのだから。

「まぁいいさ、続けるよ。まず言っておこう。君の両親を殺したのは僕だよ。僕は限りなく人間に近い存在だから復活と同時に天野の結界を出ることができた。そして、余計なことをしてくれた君の両親を殺しにいった。

 これに関しては後で僕を殺してくれればいい。僕はこの戦いはどうでもいいからね。

 ともかく、君の両親は余計なことをしてくれた。君の体を機械に変えて輝石の力を増幅させる装置に作り変えたんだから」

「な…に?」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。

今、この男はなんと言った?

「聞き取れなかったのかい?ならもう一度言うよ。君は両親の手で体を作り変えられたのさ、輝石の力を増幅させる装置としてね。どこでその存在を知ったのかもわからないけど、それでも、君の両親は輝石がどういうものかを知った上で君に埋め込んだ。

 隠すためにね。

 ま、君はそれに気付かず救済を願ってしまったから迂闊にも輝石を発現させることになってしまったんだけどね」

機械の体。

昔、テレビで見たことがある。まさしく、仮面ライダーじゃないか。

ただし、違うのは、祐一は命の危機にさらされていたわけでもなく、近しい人を殺されていたわけでも、悪の組織にさらわれたわけではない。

両親の手で、あるものを隠すためだけに改造されてしまった。

機械の体では愛しい人との間に子供を設けることなどできない。いつかは世界に不和をもたらすかもしれない。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

込み上げてくる感情を抑えきれずに、祐一は絶叫した。

誰が。

誰が。

誰がこんな結末を願った?

「俺が機械…?それじゃ、俺は天原よりも化け物してるってわけだ。はは…笑うしかないよな」

口の端だけを吊り上げながら祐一は笑った。

「どけ。まずは、貴様を殺す。あとはそれから考える」

「いいさ。それが君の答えなら僕は受け入れよう。おそらく、唯一世界に復讐する権利を得た人間だったモノ」

祐一はゆっくりと男に歩み寄った。

「変身」

そして、その姿を転じさせ、無造作に男の心臓を抉り出した。そして、握り潰す。

男はその表情でそれが正しいんだと訴えている。相沢祐一らしからぬ行動だった。

「…近づかないでください」

そんな祐一――クロスを美汐は遠ざけようとする。

「真琴が…あの子が選んだのがこんな人だったっていうんですか」

冗談じゃない。そう言いたげに美汐は首を振った。

何故、こんな人間を強いとすら思ってしまったのか。

「あなたは…ここに倒れている子達が真琴の同胞だと知っても、その男の言葉を受け入れますか?その子達を全て殺したのがその男だとしてもあなたはそれを受け入れますか!?」

止めなければならない。

そして、彼の苦悩を受け入れなければならない。嘗て、彼が自分に対してそうしたように。

「真琴の?」

呟いて、横たわる狐たちを見る。一匹の亡骸を踏みつけていた。

そして、血に塗れた腕を見る。

「俺は…真琴もあゆも迎えてやれる資格なんかない。人間の体をしていない、血に塗れた俺に…」

項垂れ、絶望したように呟く。

事実、絶望していた。自分に、世界に。

「…天原さんの体だって、人間なんて呼べないって知っても同じことを言いますか」

美汐は知っていた。

テンペストがどういう存在で、それが何を示すのか。

「彼は、きっと知っているはずです。そして、あなたもそれを知る必要があります。勝手に絶望しているあなたには」

























【19:58 中学校 1階廊下】


テンペストと狼男の戦いは校舎の中へと移行していた。

お互いに拳を繰り出し、それを受け止め、そのまま走る。

そのまま廊下を駆け抜け、止まる。テンペストの足元には血溜りがある。紛れもない、人間のものだった。

「はぁっ!!」

拮抗していた状態から一瞬力を緩め、相手が踏鞴を踏んだ瞬間、その胸を駆け、蹴る。

空中で回転し、しゃがんだ状態で着地するのと狼男が壁を突き破るのは同時だった。

だが、狼男は壁を突き破るだけで止まれなかった。地面から離れた足をテンペストが掴むと今度は窓ガラスを粉砕して中庭に放り出した。

それは、これ以上の犠牲者は出さないという一つの答えであり、銃器を扱うトライナルが戦いやすくなるようにだった。

〈撃ちます〉

エクスチェイサーに跨ったまま、トライナルはファングを放った。

それは全て狼男に命中した。

「ここは任せます。俺はもう一体を追います」

〈わかった〉

この場を任されたトライナルは静かにアークロッドを抜くと正眼に構えた。

〈剣ではないけど、長さは申し分ない〉

ついでに言えば、強度も。

〈ぉおっ!!〉

裂帛の声と共に、アークロッドを振り抜いた。

狼男はそれを腕で受け止める。

何とか、それを地面に叩き落し、同時に距離を詰めアークロッドを封じる。

〈パワーアクセラレーター、限定解除〉

だが、それは罠にかかったのと同じことだった。

一切の制限のない、文字通りの全力でアークロッドを振り上げるトライナル。それを跨ぐように踏み込んできていた狼男は成す術もないまま打ち上げられる。

今度はそのまま野球の振るスイングの如く横薙ぎに振られたアークロッドの直撃を受けることになる。

〈バッテリー、オン〉

アークロッドが青白い光を放つ。間違いなく、放電している。

「ま、待て」

〈待たない。君たちを待てば待った分だけ犠牲になる人が増える。だから、僕は躊躇しない〉

ロッドの先端を狼男の口に差込み、一瞬で電圧を最大にする。

狼男の体が激しく痙攣し、暫くすると体中から煙を上げたかと思うと爆発した。

〈…欠片も残さず、か。徹底してるな〉

やはり、遺留品からの調査というのは無理か。それを理解したうえでトライナルはアークロッドを仕舞った。

そのままフェイスガードのみ外して月を見上げる。

(次は、ない)

























【20:34 中学校 屋上】


キズナはそこにいた。その姿は既にオルガであり、多くのゴブリンを従えてテンペストを待ち構えていた。

そこにテンペストが駆け込んでくる。一跳びでゴブリンの群れを飛び越え、オルガの前に着地する。

「あの時に言った。次はない、と」

「聞いている。こちらからも言わせてもらおう。次などない」

それが合図だったのか、一瞬で2人ともが蹴りを繰り出し、お互いの蹴りで蹴りを止めるという状態になっていた。

「前よりも速いし、重い。テンペストの本質を理解し始めてるみたいじゃないか」

「…黙れ」

「よく言う。もう人間などでないことぐらい理解しているんだろう?テンペストになるということは、こちら側の体へと変質することを言う。もう、貴様はこちら側なんだよ」

オルガの言葉を聞きながら、テンペストはその脚を叩き落した。

「それぐらい知っている。それでもいいと思っている。俺がこうしていて、世界を救えるのなら、“世界樹の解放”に?がるのならな」

「知っていて我らを拒むのか?」

テンペストの言葉に、オルガはあからさまな不快感を示した。

「当たり前だ。それとこれとでは別の話だからな」

「よく考えろ。それが真に正しいのかどうか。次はないと言ったが、くれてやる」

それだけ言うと、オルガは屋上から飛び降りた。

慌ててそれを追うも、すでに校庭にオルガの姿はない。

「逃がしたか。こんな土産まで残して」

言いながら、振り返る。

そこには置き去りにされたゴブリンの姿がある。

「…一気に終わらせる」

























【21:11 天野家】


落ち着かない様子の祐一の前に、美汐は一冊の本を差し出した。

「代々の天野の人間が写本を続けた古代のテンペストに関する文献です。正直に言いますが、私は彼のことを口にしたくはありません。

 彼は全て気付いているでしょう。あなたも、それを知って、そのうえで世界に怒りをぶつけるかどうかを選ぶべきです」

「…どういう」

言いながら、付箋の貼られたページを開く。

瞬間、祐一の表情が凍りつく。

「待て。これが、天原に起きてるって言うのか?」

「はい」

信じられない。

そう叫びそうになるのを何とか堪えつつ、祐一は本に視線を戻した。

――テンペストとは人間とは別種の、人間を超越した存在である。そのために、アルタークを中心に新たな神経組織を形成。そこからアルタークからの信号、力を伝送しその体を変換する。その仕組みは鬼などの妖と同一とされ、最終的には人間ですらなくなってしまう。それを恐れた嘗てのテンペストは限界が訪れる前に分離、共に戦う人間を変えていったという。

――また、テンペストが人間を人間として保てるのは2週間程度とされており、それを超えると妖となると伝えられている。

「…天原がテンペストになったのはいつだ?」

「もう、20日は過ぎているはずです」

そろそろ3週間。

すでに、翔矢の体は人間ではない。それを理解したとき、祐一は言いようのない不安に襲われた。

「天原は、誰を憎むんだ…?いや、何を思ってそれを受け入れたんだ?」

祐一は、自分の体のことがどうでもよくなってきていた。

確かに、自分の与り知らぬところで体が作り変えられていたというのはショックだったが、それ以上に、鬼といえば、翔矢が戦ったという存在も鬼といわれていた。

それと同じになる。敵と同一になる。

翔矢がそれを受け入れている。それを知って、自分の小ささを知った。

「……だめだな、俺は。すぐに腐ってしまう。けど、血塗られてても、やっぱり真琴やあゆは俺が迎えてやりたい」

そして、決めた。

決して、揺るがない意志、戦い続ける理由。

それが、翔矢にあり、自分になかったものだと気付き、それはいつもすぐそばにあったことに気付けたから。
























次回予告

月日は流れ、数々の事件を解決し、3人の結束は強いものへとなっていた。

そんなある日、ウェアが衛次の前に現れる。

人間に、王への挑戦権を与える。

それだけを告げるために。

だが、それだけで衛次が終わらせるはずがなかった。

開始されるトライナルとウェアの死闘、最後に立つのはどちらなのか?

交わる心と覚醒する力、戦いは誰のために?

次回、仮面ライダーSAGA

#.12 王者















後書き

セナ「はい、これから先、一気にクライマックスへ向けて突っ走ります」

梓 「それで次が蛇編終了?」

セナ「そういうことになります。目標としては20話ぐらいですけど、そこまで持つかが微妙になってきました」

梓 「まぁ、そんなには引っ張れないか」

セナ「多分。そういうわけで、特別編2として準備してたシナリオを本編に組み込んでいこうと思います。そこで、クロス作品にONEが追加されます」

梓 「うわ…」

セナ「何がうわなわけ?」

梓 「趣味全開?」

セナ「元々、この作品自体が趣味全開だけど」

梓 「そうだったね。忘れてた」

セナ「そういうわけで、次回もよろしくお願いいたします」