仮面ライダーSAGA
#.10 テンペストVSデフィート
【5/25 10:22 警察署地下】
――模擬戦闘は制限時間15分間、その時点でブザーが鳴りますから速やかに終了してください。
広い、何も無い部屋に入った翔矢と衛次。そこに椎名の声が響いた。
その声に対し、2人は頷くとそれぞれの戦闘体制へと移行させるために準備を始めた。
衛次がフェイスガードを手に持った。
翔矢がいつものように構えた。
「デフィート」
「テンペスト」
同時に動く。
「起動」
「変…身ッ」
真っ青な装甲に、真紅の機械の双眸。頭部中央の角が額を基点に後頭部の方からせり上がってくる。そして、止まると同時に双眸が強く輝いた。
青い装甲に真紅の双眸。人々を守る狼の化身となったテンペスト。油断無くデフィートに対し構えた。
〈オオオオッ!!〉
先に動いたのは衛次だった。
一気に詰めると、その勢いのまま拳を振りぬいた。その一連の動作には無駄がない。テンペストはそれをかわすために跳躍、そのまま天井にぶつかるも、その足で天井を蹴り、デフィートに向かい降下してくる。
〈スラッガー、発射〉
だが、デフィートはそれを読んでいたかのようにスラッガーを構え、引鉄を引いた。爆発でテンペストが飛ばされる。
「ちぃ…流石に甘くはないか」
空中で姿勢を整えると、テンペストは何事も無かったように着地した。そして、発達した視覚、聴覚を活かしデフィートの位置を掴む。
だが、デフィートもテンペストを捉えていた。元々、災害救助、暴徒鎮圧が目的なのだ。これぐらいの障害はものともしない。
立ち込める煙の中を突き進むテンペスト。それに対し、デフィートはネイルを構え、煙の中から駆けて来るテンペストに照準を合わせる。
トリガーが引かれた瞬間、テンペストは自分が既に察知されていた事に気付く。同時に、スライディングの要領で床を滑り、攻撃をかわすと同時に距離を詰める。生半可な攻撃ではいなされてしまう。それを理解しているからこそ、テンペストは起き上がりざまにデフィートがディバイダーを固定している右の腰を狙って拳を繰り出した。
〈くっ…!〉
かわしきれず、ディバイダーが床に落下する。それを拾い上げると、テンペストはゆっくりと正眼に構えた。
本来、ディバイダーのような大型のナイフ程度の刃物ではこのような構えを取る事はない。
「変転…フェンサー」
その言葉と共に、ディバイダーが細身の剣に転じ、テンペストの姿が漆黒のそれへと変わる。
気付けば、デフィートは地面に倒れていた。
少し離れた位置では剣を振り抜いた姿勢のテンペストが立っている。それは、オルガに対し繰り出したかまいたちだった。それをフェンサーフォームの持つスピードを活かし、知覚させる前に仕掛けたのだった。
〈時間も無い。一気に行く〉
最初の制限時間。それは、デフィートが一切の補給を受けないで連続で全力稼動できる時間だった。そして、無情にもその時間は迫ってきていた。
だからこそ、勝負に出る。
スラッガーを右手に、ネイルを左腕に持ち、しっかりとテンペストに狙いを定めた。
「やれるものなら…!」
テンペストもそれに応えるかのように走り出す。
手にした剣をしっかりと握り締め、放たれる銃弾を切り払っていく。
(至近距離からの全力で斬りかかって来る)
(至近距離からあれを撃ってくる)
互いが互いの手の内を探っていた。そして、完全に読み切れていないのは、
「うおおおおおおおおっ!!」
〈もらった!〉
デフィートだった。
剣を振り抜くテンペスト。それをその身で受けながらも必死になって堪えるデフィート。これだけの攻撃であれば動作の後は隙だらけになっているはず。
だが、違った。
「ディバイ…」
テンペストは振り抜いた勢いのままに前宙の要領で回転、高く突き出した右足…踵を体勢の整っていないデフィートの頭部に叩き付けた。
「ダッシャーッ!!」
〈うわあああああああああああああっ!!?〉
衝撃にデフィートは後ろに倒れてしまう。そして、
カシャンという音と共に、半分ほど砕けたフェイスガードが地面に落ちた。
「負け…か。やっぱり、これがデフィートの限界か」
汗だくになった衛次が、機能を停止したデフィートの装甲を外しながら呟いた。衛次自身、翼達が気付いていたデフィートの限界に気付いていた。だが、それを認めたくないのが装着者として人々を守ると決めた衛次自身だった。
しかし、今回、その限界により、ウェアを取り逃してしまった。もう、その限界に対して目を瞑る事はできなかった。
だからこそ、このような形でも明確な形で答えを出そうとした。デフィートではテンペストと同列の存在を超えられないということ。
「葉塚さん…」
変身を解いた翔矢はどこか申し訳なさそうに衛次を見る。
「いいんだ。これは、僕が望んだことだから。こうして、限界にきてるって事を知りたかっただけなんだ」
全ての装甲を外した衛次は立ち上がる。
割れてしまったフェイスガードを拾い上げると、それをもう一度、地面に叩きつけた。
「僕のくだらないプライドが、守れたはずの人を失わせる結果に繋がった。だから、僕はそのプライドの元凶であったデフィートの性能に対する過信を失った。これでいいんだ」
一方、2人の戦いを見ていた椎名と神崎はそれぞれの反応を返していた。
「あいつ、警察の備品を壊しましたよ!器物損壊の現行犯じゃないですか!!」
椎名の反応は最もだった。
だが、神崎は何も反応を見せない。
「主任?」
おかしく思った椎名が声をかけつつ、神崎の視線の先を見る。
それは、いつもデフィートのパーツが格納されていた場所。だが、隣にもう1つスペースが存在している。
「大地…待たせたな」
神崎は呟いてから、手元のキーボードを操作して暗証番号を打ち込んでいく。
そして、隣のスペースのロックが解除された。
「これはな、葉塚がデフィートと別れる決心をしたら出そうと思っていたものだ。生憎と、それを発案いた人間が死ぬことでその決心がつくとはな」
「これって…」
それを見て、椎名は言葉が出なかった。
「これこそが、試作2号を超える試作3号。あの怪物どもと戦うためだけに作られた力の象徴…」
【5/25 18:21 水瀬家】
夕食の準備が着々と進んでいく中、祐一は一人テレビを見ていた。今現在、彼の出番はない。だからこそ、ニュースでも見てみようかなど考えたのだが。
そして、そのニュースは流れた。
『昨日、――で男性の遺体が見つかりました。身元は、警察官の大地翼さん』
「え…?」
祐一は何も知らなかった。
今日は翔矢のところにも、警察署にも寄っていない。普通の生活をしながらだからこそ、周りの人を大事にしなければならないという部分が作用して生まれた擦れ違いだった。
そんな時、祐一の携帯電話が鳴った。
ゆっくりと開いてみる。
発信者は、『葉塚衛次』だった。
ゆっくりと、通話ボタンを押す。
『相沢君。ニュースは見たと思う。ニュースの報じている通り、先輩が亡くなった。殉職ってことになる。僕が、取り逃してしまった奴に出くわしたらしい。
多分、これを期に県警の中で僕らの発言権はかなり低下する事になると思う。だから、独自の判断だけで動ける君たちの力が今よりずっと必要になってくると思う。ごめん…こんな事に巻き込んで。
取り敢えず、今は感情の整理をつけてくれ。僕も、今は冷静でいるだけで精一杯だから』
そうして一方的に通話が終わった。
「大地さんが…死んだ?」
浮かんでくるのは、大切なものを奪われた怒り。守りきれなかったことに対する後悔。
だが、それに対して祐一がなにかできたわけではない。それは翔矢にも言える事だった。それでも、祐一は納得できなかった。自分に、翔矢に、衛次に。
戦う力を持っていながら、自分に近しい人すら守れなかった自分たちに。
「…天原」
祐一は携帯電話をそのまま操作し翔矢に電話をかけた。
『…相沢か。言いたいことは何となく、想像がつく』
それきり、翔矢は何も言わなかった。
「天原は…どう、思った?」
『…悔しかったな。こういう言い方は怒られるかもしれないが、あの人も世界を形作る歯車の一つだった。それは、紗代が大好きだった世界を構成する一つでもあったんだ。それを守りきれないことは、純粋に悔しい』
少し形は違うものの、祐一と翔矢は似ていた。
守れなかったことを悔いる気持ち。それは、同じだった。
『お前は、答えをどうするつもりだ?俺は…もう立ち止まったりしない。この戦いの答えも見えてきた。俺はそこに辿り着くそのときまで立ち止まったりしない。お前は…どうするつもりなんだ?』
違いは、決意だった。守り切れなかったゆえに起きた悩み。それに対し、どう答えるか。それは祐一が自分自身に課したものでなければならない。
「俺は…」
考える。翼は何を考えていたのだろうか、と。
彼は。
「俺も。止まらない。力が足りないことだってあるかもしれない。でも、もう立ち止まったりしない。この道が正しいって思えるんだ。だったら、もう立ち止まれない」
簡単だった。
翼は警察官である事に誇りを抱いていた。それは、あまり深く関わったわけではない祐一や翔矢ですら感じ取れるくらいに。
だったら、その誇りを守れるように。安全を守り、安心を生み出す。そのために戦い続ける。
それが祐一の答えだった。
【5/27 12:11 駅前 オフィスビル屋上】
昼休みの時間帯、そこではOL達が昼食と雑談に花を咲かせていた。
そして、そこには不似合いな存在も混ざっていた。
その存在を誰もが気付かない。その姿は誰にも見えていない。
入口を塞ぐように立ち、長い舌を出したりしまったりしている異形の姿は誰にも見えていない。それがその存在…カメレオン型のビースト、スケルティアの特性だった。
誰にも気付かれる事なく、その舌を伸ばす。
1人のOLの腰に舌が巻きつく。
「きゃああああああああああああああっ!!!?」
悲鳴が上がり、同時にスケルティアの姿が浮かぶ。
「な…何なの、あれ」
誰も動けなかった。同僚が、友人が捕食されていく様を見続けるしかできなかった。
〈たぁああああああああああッ!!〉
もう少しで、スケルティアに最初の一人が飲み込まれる。そんな時、機械によって増幅された音声と共に、スケルティアの背中から火花が散った。
〈遅くなりました!警察の者です。すぐにここから非難してください〉
衛次の声。
だが、身に纏う装甲はデフィートではなかった。
『葉塚さん、今回が初陣なんですから無茶はしないでくださいね?シュミレーターを一日やりこんだからってすぐに完璧に使いこなせる代物じゃないのは私にだってわかりますからね』
内部のレシーバーから椎名の声が響いた。
〈わかっています〉
衛次は油断無く手にした大型の単分子カッターを構えた。
〈MRシステム3号…トライナル、行きます〉
衛次――トライナルは既にナイフとは呼べなくなっている単分子カッターを構え駆け出した。
その動きはデフィートとは較べるべくもなく、速い。
一瞬でスケルティアとの間の距離を詰めると単分子カッター、ドラゴンテールを振り抜いた。
火花を散らし、スケルティアは倒れる。
その間にトライナルはドラゴンテールを腰に装着し、ネイルを取り出した。新型となってもネイルは代わらずに装備されている。それは純粋に使いやすいからだったのだろう。だが、その口径は以前のものよりも大きくなっている。間違いなく、デフィートのままでは扱えなかった代物だ。
〈ファング、発射〉
新たにファングと名付けられた銃を撃つ。その全てがスケルティアを貫いていく。スケルティアも相手がテンペストでないことから油断があったのだろう。
だが、次の瞬間、スケルティアの姿が消えた。
〈消えた?〉
通常のカメラではその姿を捉える事ができない。
『葉塚さん。カメラモードを赤外線、質量感知モードに切り替えてください』
〈了解〉
椎名の指示のとおりにカメラを切り替える。視界がポリゴンのようなグリッドで構成された世界へと切り替わる。
そこには、周囲の建物とは明らかに違う、丸みを帯びた生物的な影が映りこんでいる。
〈そこかぁっ!!〉
ファングを構え、撃った。
何もないはずの空間からスケルティアの体液が飛び散った。
〈よし…!オービターオーカーッ!!〉
叫ぶと同時に、両脚部の装甲が開き、そこから銃身が覗いた。
『葉塚さん!?無茶しないって言いませんでした!?』
〈これは無茶じゃありませんよ。ぶっつけ本番って奴です〉
『それを無茶というんです!!』
椎名と口論を繰り返しながらも、次々と準備を進めていく。
〈パワーアクセラレーター、全開。リミッター、解除準備良し〉
トライナルが駆け出す。そのままロンダートの要領で地面に手をつく。
〈リミッタ―、限定解除〉
その瞬間、腕力が限界を超えた。
人間1人、遥かに重いはずの装甲すらも軽々と宙に浮かせてしまうほどの力で弾かれたトライナルは空中で回転、そのまま重量が生み出す加速を利用してスケルティアにぶつかる。
〈オービターオーカー!!バーストッ!!〉
その瞬間、両足に装着されていた銃身、スラッガーの銃身が一斉に火を噴いた。
オービターオーカー。
人為的にライダーキックを無理矢理再現した、トライナル最大の攻撃。パワーアクチュエーターを超えるパワーアクセラレーターの出力を最大にし、更には跳躍のための一瞬を利用するためにリミッター機能を一時的に解除、高く飛んだところで空中で姿勢を整え、キックを当てる。そして、その無防備に等しい一瞬に最大の攻撃を当てるために両足に装着されたスラッガーを発射する。
はっきり言って、使用する人間の事など一切考えていない、ただ純粋に立ちはだかる敵であるビーストを倒すためだけのもの。だが、それを使いこなす衛次は最早超人の域にいた。
容赦ないスラッガーの直撃を受けたスケルティアはそのまま爆発した。
爆発の中からトライナルが歩いて出てきた。
〈ふぅ…オービターオーカー、ショックレジスター共に異常なし。これならいけそうです〉
『……了解しました。その代わり!!戻ってきたらちゃんと病院で精密検査を受けてくださいね!!』
〈はい〉
椎名の怒声を聞きながら、トライナル――衛次はフェイスガードを外した。
「先輩。先輩がオービターオーカーの搭載に反対しなかったのは、僕ならやれるとでも思ってたからなんですか?」
この問いかけに答えはない。もう、誰一人として、この問いに答えられないのだから。
【5/27 16:32 病院】
この日、祐一は未だに目を覚まさない少女、月宮あゆの元へと向かった。祐一の罪の始まりにして、贖罪の証。
だが、それでも彼女はまだ目を覚まさない。
「あゆ…俺、お前が目を覚ましたときに不満なんて起きないような世界にしたいんだ。そうしたら、お前は起きてくれるか?俺には彼女がいるし、今は戦いながら彼女と一緒に真琴の帰りを待ってるくらいなんだぞ。それでも、戻ってきて、くれるか?」
もしかしたら、他の女の子と仲良くしすぎて拗ねてしまったのか。
そんな事を考えて、小さく笑みが浮かんだ。
こんな事を考えられるならまだ余裕がある。
(祐一君。残念だけど、ボクはまだ起きられないんだ。でも、いつかまた会える。今みたいに、伝道者として。そして、生身の、昔、君のことが大好きだった月宮あゆその人として。だから、少しだけ待っててほしいんだ。
この前、青の方が存在力を消費しちゃったからね。まぁ、その前にボクが祐一君に干渉しちゃったからなんだけどね。でも、必ず、会えるよ。必ず、ね)
そんな祐一のすぐ傍には紗代の同列の存在となったあゆ、赤の輝石の伝道者となったあゆがいた。だが、そこに居るものの、明確に存在が定義されていない。それは、赤の持ち主ですら認識できないものだった。
それを知っているからこそ、あゆはゆっくりと背を向け、その場を立ち去った。
まだ、自分は元の体に帰る事は叶わない。暫く、この場所に来る事はない。
それは、祐一もそうだった。胸を張って、お前が笑っていられる世界を守ったぞと言える日がくるまで祐一はあゆの元を訪れる事はないだろう。
それが答えなのだから。
【5/27 23:14 ??】
「悲願の時は近い」
闇。
そこに声が響いた。
何がどれだけいるのか、それはわからない。だが、そこは特殊だった。
闇は全てを包み込み、何者をも通さない。その中で、何かが起きていた。
「世界樹の管理者。奴が根幹世界に顕現する日が近付いてきた」
「うむ。前回は根幹世界の者どもに邪魔をされる形となったが、今回であればテンペストも、赤もこの世に存在している。なればこそ、今しかないのだ」
「そうだ」
相槌の声に全員が一斉に振り向く。
声の主のいる場所だけ、闇が存在しない。彼は闇と同化出来ない存在だった。
「我等もそうだが、あの獣どもも本来の目的を思い出しているものがいる頃だろう。特に、獅子の王などはそうだろうな」
彼は、キズナだった。
「我等は神に叛く者。我等は、反信徒だ」
次回予告
キズナが行動を開始した。
翔矢を追い、破壊活動を開始する。
一方、祐一はものみの丘で惨劇を目の当たりにする。
そこで知らされる真実。
それは祐一を苦しめる事になる。
交わる心と覚醒する力、戦いは誰のために?
次回、仮面ライダーSAGA
#.11 ホントウ〜刃〜
後書き
セナ「取り敢えず、やっぱり筆が乗るこの作品」
梓 「それはそれで問題あるし、私出てないし」
セナ「たまにはね。ところで、今回、初めて真琴に関する部分でアプローチをさせていただきましたが、今作では真琴は登場しないはずです」
梓 「何で?」
セナ「彼女は存在自体が鍵ですから」
梓 「わけわかんないよ」
セナ「まぁ、それはともかく。翼が死んだことに対する弊害がいろいろな方面で出てきました。そして、それぞれがそれぞれに動き出しました」
梓 「あったね。翔矢のディバイダッシャーとか、葉塚さんのトライナルにオービターオーカーとか」
セナ「ディバイダッシャーなんかは前回ぐらいで軽く触れてはいるけどね。トライナルに至っては前々からちょっとだけ触れてはいたしね」
梓 「それよりもオービターオーカーが衝撃なんだけど。何、あの無茶苦茶ライダーキックは?」
セナ「あぁ、あれね?元になったのはブレイドの時のギャレンのバーニングディバイドかな。あんな感じで空中で動いてるってイメージ。如何にして装甲服にライダーキックをさせるかを考えてたらあんな感じになった」
梓 「そうなんだ…」
セナ「では、次回に続きます」