仮面ライダーSAGA

#.8 会合
















【5/22 PM17:12 市内アパート】

「ここに住んでくれ。家賃くらいなら僕の給料から出すから」

そう言って、衛次は翔矢に部屋を紹介した。というのも、郊外の廃屋に勝手に住み着いている住所不定の人間を協力者とするのは些か体面が悪いという事情があったのである。

翔矢としても、家賃等の問題があったからこそ廃屋を利用していたのであって、今回の衛次の申し出は願ってもないことだったのだ。

「何から何まで、本当にありがとうございます」

翔矢は素直に礼を言った。

部屋の面倒を見てもらっただけでなく、家賃まで払ってくれる。更にはヘイムダルの為に駐輪場つきのアパートを探してくれたのだ。

これを喜ばない手はない。

「いや…僕なんかは本当に至らないところが多いから。助けてもらうお礼って考えてくれるといいよ」

それでもやりすぎな節はあるが、衛次がそれでいいと言っているのだから、それでいいのだろう。

翔矢は自分を納得させた。

「それで、ささやかながら引越しのお祝いということで何人か集めてみたよ」

「は?」

疑問の声を上げる翔矢だったが、直ぐに部屋に祐一、美汐、梓が入ってきた。

「やほ」

朗らかに挨拶する梓。

不完全ながらも翔矢が周囲に受け入れられたということで、梓は心が軽くなっていた。

「よ。来てやったぞ。こっちは俺の付き合ってる…」

祐一が隣に立っている美汐を肘で突付く。

「天野美汐です。よろしくお願いします」

丁寧にお辞儀する美汐。

性格がよく顕れているそれぞれの挨拶。だが、翔矢としてはここにこの面子がそろったこと自体が作為的なものを感じてしまう。

「天原翔矢。よろしく。で、ここに相沢が来てる時点でなんか裏があると思うんだが、どうだ?」

「当たり」

祐一が砕けた口調で言った。それは、翔矢の緊張をほぐそうとしているのか、また別の理由があるのか、翔矢は計りかねていたが祐一自身が裏があるということを肯定したのだから、先にそちらを聞くべきだという結論に至った。

「なら相沢。訊くが、何しに来た」

「俺じゃない。美汐さ」

そう言って、祐一は美汐を前に押し出した。

「そんなことしていただかなくても自分で行きます」

少し、不平をもらしながらも美汐は翔矢の前に立った。

その視線は下腹部…翔矢の持つ青い輝石が埋め込まれている部位だった。

「成る程。そこでしたか」

1人、納得がいったと言わんばかりに頷く美汐。だが、それで他の面々に分かるはずがない。

それに気付いているのだろう。

美汐は直ぐに説明を始めた。

「警察のほうには以前お話しましたし、祐一さんにも障り程度はお話しましたが、あなたはまだ何も知らないようです。

 そもそも、あなたの持つ輝石が本来、正しい形で伝承として伝えられてきたものです」

翔矢の持つ輝石。それは、ベルトに埋め込まれた青い輝石。祐一の持つ赤いものとは全くの別のもの。

本質は似通っているのに、違うものであるというくらいは翔矢も理解していた。だが、それがどういうものであるかまでは理解していなかった。

「青の輝石は、いつか襲い来る災厄の全てを打ち砕く力の象徴であると伝えられてきました。それは、狼の化身とも言われ、狼を大きな神と書く大神にかけているのではないかと思います」

語る美汐だったが、そこに一切の感情はこめられていない。

祐一が翔矢の扱いを人間のそれへとさせたがまだ多くの人の中で蟠りが残っているのだ。もっとも、それを気にするのは梓や祐一であって、翔矢自身はどうでもよかったりする。

「狼、か。確かに、あの時俺を助けたのは狼だったな」

一度命を失った日のことを思い出しながら翔矢。もっとも、正確には失ったわけではなく、失いかけただけなのだが。

それそれとして、翔矢は美汐の話と自分の体験などを統合した上で自分の持つ力がどういうものなのかを考え始めていた。

襲い来る災厄の全てを打ち砕く力の象徴。力の象徴。

奇跡を起こし、周囲の人々を救った祐一の赤の輝石。

その奇跡は、救いだった。

「…随分巧く言葉を使って祀り上げたものだな」

そして、翔矢は一つの可能性に至った。

「青の輝石は、襲い来る災厄を打ち砕くものじゃない。純粋に破壊の力を持つものだ。逆に、相沢の輝石が多くの人の命を救ったのは、救いの象徴だからだ。つまり、本来は一つだったものが分かれたのか、初めから両極として用意されていたのか。どちらかだ。

 だが、赤の石は今まで見つかっていなかった。つまり、何者かによって隠されていた。何故存在するか、そこさえもぼやかした上でな」

これが、翔矢の至った可能性。

そして、

「やはり、あなたもこの可能性に行き着いたんですね」

美汐もまた、辿り着いていた。

祐一が変身した。だが、テンペストではなく、赤い石を持っていた。あの冬に起きたこと。

全てを集約した時、赤は救いの象徴ではないかと気付いた。では、青は?

「まぁ、輝石の話はもういい。全てが憶測でしかない。だが、あんたはあの怪物がなんであるかを知っているはずだ。それを、教えてもらいたいな」

全てが憶測。青がどうなどとそういう次元ですらない。まだ、可能性でしかない。

そして、今は人に仇なす怪異こそが問題なのだ。

「…そうですね。今、多く確認されているのが獣…区別をつけるためにビーストとでも呼びましょうか。そのビーストです。古代文明が最強の兵士を作ろうとした過程で生まれた、戦闘生命体です」

「戦闘…生命体」

衛次が呟く。そんなものが存在していたなど、そんな物を造り得る古代文明が存在していたなど、誰も知らない。

だが、今の技術でもあれほどの存在を作り出す事はできない。つまり、別の何かが作り上げたのか、生物の異常進化でしかない。

だが、異常進化であるなら確認される固体が一つ限りであるという事に説明がつけられない。

「そして、戦闘生命体は暴走した。人々を駆逐し、文明は壊滅寸前にまで追い込まれました。人々はたった一体だけ、暴走しなかった固体に青の輝石を埋め込み、ビーストの殲滅を開始しました。

 ですが、その固体はビーストを殲滅することはできませんでした。そこで、一人の人間に自分を奉げたのです。そうすることで、その人間はビーストを超える戦闘能力を得ることができたのです。己が肉体を武器とし、時には荒ぶる弓を手にし、疾風の如き剣を手にし、獅子奮迅の戦いをしたのです。それが、テンペストでした」

テンペストが、古代の戦士だった。それは確実な事実として伝えられてきた。

それを守ってきたのが、代々ものみの丘を管理してきた天野の一族だったのだから。

「テンペストは、全てのビーストを倒し、封印しました。そして、最後にその人間から離れて、自分を輝石とともに封印の礎とすることでビーストがこの世に出ることがないようにしてきたのです」

「そして、その均衡が今になって崩れた。そういうことでいいのか?」

「そうですね。それが何故なのかは分かりませんけど」

何故。

その言葉に対し、祐一や翔矢は明確ではないものの答えを持っていた。1つだけ、いたはずだ。

ビーストとは明らかに違う存在が。それは、明確な意思を持って祐一に狙いを絞っていた。正確には祐一の持つ赤の輝石に、だが。

「何故って言う言葉はあまり正解ではないと思う。相沢君は2度、ビーストとは全く別種の存在と接触してるはずだ。それも何らかの形で関係してると見るのは強引ってわけでもないと思うけど」

そして、それを知っている衛次が口を挟んだ。

衛次は実際に遭遇したわけではないが、祐一から報告を受けていた。

一番最初に遭遇したゴブリン。そして、吸血鬼。この2種は明らかにビーストとは異なっていた。

「第二の勢力、ですか」

「あぁ…口振りからして、ビーストみたいに単独で殺し続けるようなタイプじゃなくてある程度組織で動いてるな、あれは」

美汐の言葉を翔矢が繋ぐ。

翔矢はゴブリンは知らなかったが、吸血鬼はよく知っていた。そして、そのときの言葉などからあれが何らかの組織であると推測していた。

そして、その推測は限りなく正しい。もっとも、あの一件以来その組織は表に出ることはなく、実体は見えないままだったが。

「まぁ…今分かってる事ってのはこれぐらいだよな」

「そうだろうな」

一瞬の沈黙の後、祐一が口を開き、翔矢が祐一の言葉を肯定した。

そして、再び沈黙が訪れた。翔矢自身、元々口数が多いわけでもない。祐一はこの状況で言うべき言葉がなかった。美汐は持っている情報は全て晒した。衛次も持っている情報は他と大差ないので何も言えなかった。

「あ…翔矢。ご飯、作ろっか?」

その沈黙を唐突に、唐突過ぎる話題で破ったのが梓だった。確かに食事には丁度いい時間ではある。皆の話も終わったのなら、それでもいいだろう。

「あ、じゃあ俺たちは帰るわ」

「はい、失礼します」

それを受けて祐一と美汐がまず帰った。

「じゃ、僕は何かに備えて待機だからそろそろ戻るよ」

それから衛次が帰った。

残ったのは部屋の主となった翔矢と、梓だった。

「何だか、一気に人がいなくなると寂しく感じちゃうね」

「そうだな」

不意に、ちょっとした切なさに似た感情を抱いてしまう梓。翔矢はそれほどではないが、たしかに、紗代がいなくなったときに似た感情を感じていた。

それが寂しいという事なのだと気付くまで時間はかからなかった。

「何時の間にか、誰かが傍にいるって事に慣れてたんだな…」

昔は違った。誰もいなかった。寂しいなんて思わなかった。それが当たり前だった。

昔の、紗代に出会う前のことで印象的なことを思い出せと言われても、翔矢は父親を告発した事以外浮かばなかった。

人殺しの子供になってから、紗代に出会うまで、翔矢には何もなかったのだ。何もないから何も浮かばない。

だが、今は誰かがいないということに寂しさを感じてしまっている。

「これから先…多分、もっと寂しいって思うことがあると思う。そういうとき、一番傍にいてくれるのは誰なんだろうな」

だから、こんな事を口走っていた。

「私は、消えたりしないよ。翔矢は私を守ってくれるんでしょ?だったら私は消えたりなんかしない。ずっとずっと、翔矢の傍で、その寂しさを埋めてあげる。そうすれば、私だって寂しくなんかないから」

「ありがとう、梓」

梓の想いをしっかりと受け止め、これからどうするかを考えながら、梓が作る夕食を待った。
























【5/22 PM20:14 美坂家】


美坂香里は、俗に言う才媛だった。

学業成績は学年トップ。運動能力も悪くない。

その全ては、元々妹のためだった。

重い病に冒されていた妹。その妹を救うために、幼き日の彼女は医師を志した。無論、それが過酷な道程であることなどわかりきっていた。

だが、大好きな妹を救うためならばと覚悟をしていた。

しかし、現実は非情だった。

彼女がその目標に辿り着くまでに妹の命の灯火は消えてしまう。その現実を突きつけられ、それまでのような気さくさで妹に接する事ができなくなり、やがてその存在が初めからいなかったと思い込もうとし始めた。

これが、彼女の罪。

彼女自身が全てに優先して贖罪しなければならないと思っている罪。

「なのに…」

なのに、ここでもう1つの罪を自覚してしまった。

翔矢に対して、自分たちがしてきた事。その全てだった。

妹の存在を否定した。それは、辛い現実から目を背けるために。

翔矢の存在を否定した。それは、その存在を認めないために。彼自身に、落ち度はないというのに。

「栞、いる?」

だから、その罪を償うために、まずは妹に現実を告げることを選択した。

「はい、何ですか?」

ノックした部屋からひょい、と顔をのぞかせるショートボブの女の子。彼女が、香里の妹の栞だった。

「ちょっと、真面目な話があるの。いいかしら?」

「いいですよ」

栞は香里を部屋に招き入れた。

部屋の中はいたって普通の女の子の部屋になっている。大きなぬいぐるみや、ちょっとした小物。本棚を埋め尽くす少女漫画やドラマ、映画のDVD。

それを見て、香里は少しだけ溜息を吐いてから、栞が腰掛けるベッドに自分も腰掛けた。

「この前、学校に天原君が来てたの、知ってる?」

「え、はい。空を飛んでる怪物と戦ってた時ですよね?クラスの中でもそれで話題が持ちきりだったんです」

それはそうだろう。

天原翔矢という人物は川澄舞と似た理由で有名だった。それが学校内で留まっているか、街中に広がっているかの違いだ。

そして、翔矢は間違いなく後者だ。

「うん、それでね。あたしたち、天原君を認めなかったの。その存在が害悪でしかないと決め付けて、拒絶してた」

「…うん」

栞は頷くだけで何も言わなかった。それは、続きをお願いしますと、態度で伝えるためだった。

「でも、彼はあたしたちに言ったのよ。ただ、思い出のある場所を守りたいだけだって。その為に、周りの皆に傷つけられて。

 あたしは何も見てなかったんだって、思い知らされたのよ。漸く栞を見ることができた。でも、あたしは赤の他人で、何も知らない人のことを勝手に傷つけてたのよ」

はぁ、と溜息を吐いて、香里は俯いた。

「馬鹿よね。初めて言葉を交して、漸く気付けたのよ」

翔矢は人間として生きて、紗代を愛した。人間のままの心で戦い、思い出を、大切な人を守ろうとした。

そんな当たり前に気付けなかったのだ。

「お姉ちゃんは、どうしたいんですか?」

「…少しでもいい、助けになりたいの」

だが、香里自身、それは無理だと悟っていた。

翔矢は傷つけないためにこれ以上人を近くに置こうとしないだろう。戦い続けていく中で、広い人間関係は足枷になるであろうことなど、香里にだってわかった。

「じゃあ、お姉ちゃんは知ってますか?祐一さんが、この前、何をして、何を言ったか」

「え…?」

「祐一さん、警察に殺されようとしてた天原さんを止めて、自分も天原さんみたいに変身してみせたんですよ」

栞はあの時、現場にいた1人だった。

だから秋子の豹変振りにも驚いたが、一時は想いを寄せていた人の正体に心の底から驚き、裏切られたような気分になった。

だが、そんなこと、いくら近しい人間にも言えないだろう。それが迷惑になることもある。危険を呼ぶこともある。

あれは、翔矢を助けるためには必要な事だった。だから、祐一はその身を晒した。

「お姉ちゃんは馬鹿じゃないです。私だって、色々勝手に思ってました。

 でも、私もお姉ちゃんも気付いたんです。今から変わればいい、変えればいい。だから、名雪さんや倉田先輩や川澄先輩にも伝えましょう。そうやって、周りを変えていきましょう。そうすれば、あの人達のためになる筈ですから」

香里は、自分を情けなく感じていた。

栞は、自分よりも色々と考えていた。自分はまだ考えが至らなかった。

「私は、入院とかもしてましたから。考える時間は余ってたくらいですから」

栞は笑って言った。

それが、栞の結論だった。考える事。

香里は知識を追い求めた。

栞は時間と恐怖を埋めるためにより深い思考を求めた。

言い換えれば、香里は与えられた情報を集め、蓄積し、判別する事ができる。栞はその情報からその裏や足りない部分を推察する事ができる。それが、2人の違いだった。

「お姉ちゃんが自分が情けないと思うのは、人と分け隔てなく接するようにしたいって思ってるのにそれとは裏腹な事をしてたってことに気付いたからなんです。私だって、そういう風に悩みましたよ。流石に。

 だけど、お姉ちゃんは自分で分かってるはずです。人は変われる生き物だって。変わっていけるなら、過去の負い目を払拭することだってできる。違います?」

香里は、自分の情けなさの正体を全て自覚した。

1つは、栞の指摘の通り。そして、もう1つ。

(あたしは知識だけしか求めてなかったんだ。そこから考える事を放棄して、ただ知識だけを詰め込んでたんだ)

思考の放棄。それが、その情けなさの正体。

「栞。協力してもらえるかしら?今度は、間違えたりしない。だから、あたしたちから周りを変えていくわよ。

 それから、相沢君に事の真偽を問いたださなきゃ」

「程々に、ですけどね」

だからこそ、香里は動き出す。

今まで見てこなかった全てに目を向け、本当に人を守ろうとする人を守るために努力する人を支えるために。
























【5/22 23:12 住宅街 燕家前】


アパートから帰る梓を送った翔矢はそのまま梓の家の前に立っていた。

そして、ゆっくりとライダースーツに身を包んだ優男が闇から出現した。キズナだった。

「…第二の勢力、か」

「心外だな。我等こそが原初だ。この街に溢れる獣こそが第二なのだ」

翔矢の呟きにキズナが反論する。

それを聞き、翔矢は薄い笑みを浮かべた。

「何となく、分かっていたがな。あれらは貴様等に施されていた封印をより強固にするものじゃないかってな」

翔矢が美汐に伝えなかった自身の推論。そして、それが真実であるとの確証が得られた。

そして、今、ここに1人で立つ翔矢の元に現れたという事は。

「俺が、邪魔なんだろう?殺して、輝石を奪いたくてしょうがないんだろう?相沢の輝石を悲願の為に必要だと言った。そして、貴様は…」

言葉を発する翔矢の腹部にアルタークが出現した。

「救いの他に全てを打ち砕く破壊も必要だ。違うか?」

「フ…違わない」

翔矢もキズナも薄い笑みを浮かべた。

「テンペスト…」

静かに吐き出した言葉とともに右腕を左上に突き上げ、左腕を右の脇腹の前に翳す。

「変…」

ゆっくりと、その腕を水平に移動させる。

右腕が右一杯に開かれると同時に、右腕を左頬の前まで一気に移動させ、力強く拳を握った。

「身ッ!!」

そのまま右の拳を振り下ろし、左脇に固定していた左腕を右上に一気に突き上げる。

青い輝石から放たれた光が翔矢の体を包み、その光が翔矢の姿を戦う姿、仮面ライダーテンペストへと転じさせる。

「転身…」

キズナも自身の力を解放させるためにその姿を戦闘形態へと移行させる。

「オルガ…推参」

オルガ。姿形はテンペストのそれに限りなく近い。だが、テンペストに比べて禍々しさが目立つ。例えるのならば鬼。

いや、オルガと名乗った時点で立派な鬼なのだ。

狼と鬼。

その2人がにらみ合う。そして、

「「オォッ!!」」

同時に蹴りを見舞う。それは互いを相殺しあい、互いを吹き飛ばす形となった。

現状では互角。だが、それがどこまで続くかまでは分からない。

それを理解しているからこそ、テンペストは大きく跳躍した。

空中で回転、そのまま足を突き出しオルガを狙う。

オルガはその攻撃を後ろに下がってかわした。それは正解であり、不正解でもあった。

衝撃で道路が抉られる。そして、その衝撃を物ともせずにテンペストは前に出た。スピードを利用したタックル。それを決めると倒れたオルガの足を掴み駆け出した。

大切な人の住む場所で戦いたくはない。それがテンペストの…いや、翔矢の意志だった。

ある程度開けた場所まで出ると、掴んでいた足を離して放り投げた。

だが、オルガはそのまま姿勢を整えると何事もなかったかのように着地してみせた。

「悪いが、実験台になってもらう」

テンペストは宣言すると近くに刺さっていた鉄杭を引き抜くと意識を集中させた。

『己が肉体を武器とし、時には荒ぶる弓を手にし、疾風の如き剣を手にし、獅子奮迅の戦いをしたのです』

美汐の言葉が正しいのならば、己が肉体を武器とするのは基本となっている姿。荒ぶる弓を手にするのが学校で変身した姿。ならば後1つ。疾風の如き剣を手にする姿。

テンペストは自らの意志でそれを求めた。

そして、それは起きた。

真っ青だった装甲が漆黒に染まり、いくらか装甲が減った。手にしていた鉄杭が細身の剣へと転じ、剣を握る右腕には強化された手甲、反対の左腕には小型の盾が装着されていた。

「行くぞ」

言うが早いか、今までを凌駕するスピードでオルガに切りかかる。だが、オルガはその動作に合わせて蹴りを繰り出した。

それを左腕の盾で受け止めるが、衝撃を抑えきれず後退してしまう。

「軽いな…基本はかわすべきだな」

そう呟き、今度は方向転換を繰り返しながら走り、オルガとの距離を詰めた。

そして、オルガの胸部装甲を切りつける。火花が散るが、オルガは僅かに仰け反るだけだった。基本的に、相性が悪い。

この姿はスピードと手数で勝負する姿であり、オルガのような重装甲を持つ相手に対しては中々効果的ではなかった。

「…だが、やりようくらいはあるはずだ」

距離を取り、その場で剣を一閃させる。その軌跡を弾くようにもう一度一閃。それを繰り返す。

不可視の刃がオルガを襲い、その装甲から火花を散らしていた。

オルガを襲うのは所謂カマイタチだった。それをテンペストは自身の意志で作り出し、武器としているのだ。

「やるな…!封印されている間戦い続けたテンペスト以上にやる」

オルガが咆哮を上げた。直後、迫っていたカマイタチが全て掻き消される。

(気迫だけで弾いただと!?冗談じゃない!!)

テンペストは一時は互角だと思っていた自分を恥じた。間違いなく、オルガは自分の上を行く。そして、今は辛うじて負けていないだけなのだと。

(逃げない事は勇気じゃない。時には退いて、力を蓄える事も必要だ。そして、俺はそれができる。全てから逃げ出すような真似はしない。その代わり…次はない)

だからこそ、テンペストは退く事を決めた。

それは恥ではない。勝てない相手に対して、退く事のできる状況で向かっていくのは無謀でしかない。まだ、退く事はできる。

「来いッ!!ヘイムダーーーールッ!!」

絶叫とともに、彼方より爆音とともに接近する一台のバイク。それがオルガに体当たりをかました。

「ぬぅ…!」

踏鞴を踏むオルガ。それを見つつ、テンペストは跳躍、ヘイムダルに飛び乗った。

「オルガ、だったな。次はない」

その言葉を残してテンペストは走り去った。残されたオルガはその方向に目を向けながら静かに変身を解いた。

「テンペスト…貴様から輝石を奪うまで待っていろ」

その言葉は闇とともに消え、残されたいたキズナも闇の中へと消えていった。























次回予告

実力の上での負けを自覚した翔矢は強くなる事を決意する。

そして始まる訓練。

そんな中、翔矢は訓練として進入した郊外の森の中で予想もしなかった人物と出会うことになる。

一方で祐一は美坂姉妹から質問をされることになる。

何故、戦うのか、と。

翔矢が求める力は誰のために使われるのか、祐一が戦う理由とは?

交わる心と覚醒する力、戦いは誰のために?

次回、仮面ライダーSAGA

#.9 答え
















セナ「長かったなぁ…仕事やら何やらの都合で全く続きが書けない環境にあったからなぁ」

梓 「そんな仕事始めるあんたが悪いんでしょうに」

セナ「や、後1年くらいで辞める気だけどね?次の目標もあるし」

梓 「それはともかく。翔矢が負けたね」

セナ「そろそろ仮面ライダーのお約束、特訓に入ってもらおうかな、と」

梓 「相沢は?」

セナ「あれはまだ。今は精神面での壁にぶつかってるところだから」

梓 「にしても、これの続きに着手してから完成に至るまでが長かったね」

セナ「いや、ブランクがありすぎて美汐が翔矢をどう呼ぶかを忘れてしまってて、その辺で時間を食ってしまって」

梓 「そうだよね。この作品書き始めたのだってカブトやってた頃だもんね」

セナ「そう。そして電王も終わってキバが始まって漸く8話完成なんだよね」

梓 「長ッ!」

セナ「や、他にもっと長く放置してしまってるのもあるからね。その辺も随時始動していく予定だけどね」

梓 「そんな感じですが」

セナ「今後ともよろしくお願いします」