仮面ライダーSAGA
#.3 Myself
【20:37 住宅街】
「相沢さん。あなたがテンペストであればあれが何か判るはずです」
美汐は視線の先にいるプレデタリと祐一を見比べる。
「テンペストって何だよ……けど!」
祐一はプレデタリを睨みつけた。
その瞳には決意の色があった。
「今ここには美汐がいて、これからも同じことがあるかもしれない。そして、何より俺には何が何だかわからないけど力がある!!」
祐一は自分の腹部にそっと手を添えた。
「だから…俺は戦う!!」
その腹部に赤い石とそれを包み込むベルトが出現する。
そして、顔の右側で腕を十字に組む。
その腕を頭の上を通るようにして反対側へと移動させる。
そこから右腕を右斜め前方に一気に突き出した。
「変身!!」
その叫びと同時に赤い石が輝きを放つ。
「赤い…輝石?」
美汐は不思議に思った。
自分はそんなものは知らない。
「俺は…自分がヒーローだ何て思えない。でも、それでも…この名前を名乗りたい」
輝きが収まり、そこには十字をあしらった純白の鎧を身に纏った真紅の双眸の戦士。
「俺は仮面ライダー……クロスだ」
祐一――クロスは拳を握り、ファイティングポーズを作った。
一方、付近の住宅の屋根の上。
「あいつ、使い方を覚えちまったぞ」
「構いませんよ。所詮は人間。直ぐに限界が来ます。あれはテンペストではない。人間に無理矢理埋め込んだ輝石などその体が持つわけがない」
「ふん…だが、あの相沢教授がただの人間に、自らの息子にただ埋め込むだけで終わると思うのか」
「は…あれが完全適合者ってか?」
「ふむ…ですが、彼がこの町に来てから半年近く経過しています。なのに、存在に気付いたのがごく最近のこと。どうやら、相沢教授は彼に何らかの細工をしていたのでしょうね」
三人の男がクロスの姿を見ていた。
「おい、あそこにいるのは巫女じゃねえか?」
「ほう…天野の末裔。自分の心を乱し、封印を弱めてくれた事には感謝するがな」
「まぁ、まだ輝石を手にしていない、テンペストの所在も掴めない、あの獣どもと小競り合いを繰り返している。そんな現状で殺したところで我々は不利なままなのでしょうがね」
男たちは直ぐにその場に背を向けて姿を消した。
まるで、初めからそこにいなかったかのように。
一方、クロス。
プレデタリがクロスの姿を認め、一瞬で闘志を漲らせて跳躍した。
クロスは半身退いたが、すぐに思い直し飛び出した。
「俺は逃げない!避ける時でも…前に出る!!」
一歩、足を強く踏み出し、向かってくるプレデタリの腕を取り地面に叩き付けた。
純粋なパワーで言えばクロスのそれはデフィートは勿論、テンペストすらも上回る。
故に叩きつけられたプレデタリを中心に亀裂が広がった。
一気に決めようと近付くが背筋に冷たいものが走り足を止める。
だが、それは遅かった。
足を止めたクロスの頭部にプレデタリの長く伸びた尾がクロスの頭部に叩き込まれた。
「がぁっ!!」
クロスが仰け反る。その間にプレデタリはクロスとの間に距離をとる。
(前に出るにしても…力任せと考え無しは却下、だな)
そう決めて一瞬で距離を詰めるべく駆ける。
プレデタリは先程の尾での一撃を有効と判断したのかまたその尾でクロスを狙う。
「ふっ!」
その尾を姿勢を低くしてかわし、手刀で切断する。
いける、クロスだけでなく、傍で見ている美汐もそう思った。
しかし、彼等は失念していた。
今、目の前にいるのは“蜥蜴”なのだ、と。
クロスがプレデタリの腹部にパンチを入れて、追撃しようとした瞬間…
「…蜥蜴の尻尾切りって言葉忘れてた」
プレデタリの尾が再生していた。
実際、クロスにとってプレデタリの尾は厄介なものだった。
クロスにはテンペストにないパワーがあるが、テンペストほどのスピードはない。
テンペストはそのスピードを利用して尾の長さというリーチの差をゼロに変えていたがクロスにはゼロに変えられるだけのスピードはない。
繰り返す事になるが、クロスの最大の武器はそのパワーにあるのである。
「相沢さん!!その尻尾を切断しなければいいんです!!」
思案していると美汐の声がクロスに届いた。
「切り落とさなきゃいい……そうか!」
クロスは覚悟して駆け出した。
プレデタリは尾を突き出してクロスに攻撃を仕掛けた。
だが、クロスはそれを縦に切り裂いた。
つまり、切り落とさずに尾を無力化しているのである。
「とあっ!!」
全力でプレデタリの胸を蹴り飛ばして距離を作ると全力で跳躍した。
「くらえ……クロスセイル!!」
クロスの腹部の赤い輝石が輝き、その光が右足に宿る。
そのまま光に包まれたクロスはプレデタリを貫いた。
「Cross Fire」
クロスの言葉と同時にプレデタリが十字に閃光を放ち、爆発した。
【20:43 商店街】
その日、燕 梓は親と口論の末に家を飛び出していた。
「まったく…やりたい事あるって言ってるのに大学行け、ばっかりなんだから」
その口調、態度などを見れば誰でも彼女が怒っていると分かるだろう。
だからこそだろうか。
彼女が商店街に起きていた異変に気付けなかったのは。
「ぅや?時間も時間だけど…」
誰もいない。
それは当然だった。
熊の怪物、フェロシティが出現し住人全てが避難したあとなのだから。
「てゆーか、店もどこも開いてないのよね」
現状を知らない梓としてはどこか店に入って時間を潰したかったのだが、唐突に女の子の泣き声が聞こえてそうもいかなくなった。
「あたしも相当お人好しだよね」
言いながら苦笑し、その声の方向へと進み、後悔した。
「これ…冗談?」
梓の前に広がるのは怯えきった女の子とその目の前に立つフェロシティの姿だった。
おそらく、どんな馬鹿でも理解できるだろう。
放っておけばみんなフェロシティに殺されてしまうだろう、と。
そして、梓は割と馬鹿に分類されるタイプだった。
フェロシティの目の前に飛び出し女の子を抱きかかえて走り出した。
が、フェロシティは平常時の梓以上に速い。
まして、今の梓は一人の人間を抱えている。
逃げ切れるわけがなかった。
しかし、そこに不確定要素が入り込めばどうなるのか。
「見つけた」
その声と同時に、バイクのエンジン音が鳴り響きフェロシティを弾き飛ばした。
「あ…天原?」
立ち止まった梓はバイクに乗っている少年――翔矢の姿に覚えがあった。
いや、覚えがあった、などではない。自分はこいつとある程度は話の出来る知人だった。
「あんた…紗代の葬式にも来ないで何やってんのよ」
「…どけ。俺はあいつに用がある」
梓は翔矢に詰め寄るが、翔矢は目もくれずにフェロシティに歩み寄る。
「ちょ…」
「テンペスト……」
梓に背を向け、翔矢は拳を握り締めた。
「変身」
その拳を左頬の横から一気に振り下ろした。
光に包まれた翔矢の姿は光が収まる頃にはテンペストのそれへと変わっていた。
「天……原?」
「俺はあいつを殺す。それで終わりだ。あいつが…あいつが紗代を殺した!!だから俺があいつを殺す!!」
叫んで、テンペストは跳躍、フェロシティの首を横薙ぎに蹴り飛ばす。
着地と同時に距離を詰め、フェロシティの口を塞ぐ。
「この口が…牙が紗代を!!」
腕を口の中に突っ込むと舌を引きちぎった。
「返せよ……紗代を返してくれよ!!」
血を吐きながらふらついているフェロシティの腹部に全力で拳を打ち込む。
「ちょっと天原!!そんなふざけた戦い方してんじゃない!!そんな…子供泣かせるような戦い方で紗代の仇なんかとらないで!!
せめて…もうちょっとスマートにいきなさいよ!!」
そんなテンペストを止めるかのように梓が叫ぶ。
「あんたがそんなだったら…紗代とあんたをくっつけたあたしは後悔するしかないじゃない!!」
その叫びにテンペストは振り返る。
「なぁ…紗代は泣いてるかな?」
「当たり前よ。あんたがそんなだったら悲しくて悔しくて泣いてるに決まってんじゃない」
「…そか」
テンペストはいったん俯くと直ぐに顔を上げた。
「その子、しっかり抱いとけ。それから、俺のバイクのそばに隠れてろ」
今までよりも、幾分か柔らかい声で言うと、フェロシティに向かって、真っ直ぐに駆け出した。
同時に、フェロシティが吹雪を吐き出す。
「ぐ…」
一瞬押し留められるが、それでも前へと向かう。
「邪魔を…」
吹雪の中心を突き進みながら駆ける。
「するなぁあああああああっ!!」
そして跳躍。その右足を目に見える形で風が包み込む。
「エボルト……バースト!!」
風と共にテンペストがフェロシティを貫き、爆発を引き起こす。
「風と共に去るがいい」
【21:37 警察署】
翔矢と梓は二人で保護していた子供の親を捜しに警察署まで足を運んだ。
親も避難してきていて、子供を捜しに行こうとしていたが警官に押し留められていた。
そんな親の元へ梓は少女を連れて行くと笑顔で対応をして直ぐに翔矢の元へと戻ってくる。
「直ぐに見つかってよかったね」
「…そうだな」
笑いかける梓に僅かに頬を綻ばせる翔矢。
「何か、さっきまでの荒れ具合からすると信じられないくらい穏やかだよね」
そんな翔矢に梓は素直に自分の思う事をぶつける。
これが本来の互いのスタンスだった。
「何ていうか…な。お前のおかげで落ち着けた。まぁ、お前の言う通りなんだよ。紗代を泣かせるようなことしてたしさ、あのままじゃ自分じゃ止まれなかったし。
だから、ありがとな」
「急に素直になんないでよ。照れるから」
梓はそっぽを向いて真っ赤になっているであろう顔を隠した。
「そ、それよりさ…学校でどうなってるか知ってる?」
「何となくわかるような気もする」
「天原が…紗代を殺した事になってるんだよ」
梓は心底悔しそうだった。
翔矢は学校においては嫌われていたが、あれほど大事にしていた恋人ですら自分が殺したなどと言われているのだ。
「それだけ俺が疎ましかったんだろ?去年の川澄先輩みたいにさ」
「でも!!」
「いいんだよ。俺には紗代がいてくれた。今はお前がいてくれるから」
それで十分だ、と翔矢は静かに首を振る。
「はぁ…そうだよね。紗代も周りのこと気にしてたら大切なものとか全部逃がしちゃうって言ってたしね。わかった。あたしは気にしない。でも…学校は」
「厳しいかな。行けるなら行きたいけどな」
言ってから翔矢は真っ直ぐに梓を見つめる。
「紗代の仇はとった。だったら、あとは紗代が好きだったもの、場所、人、全部に関わるものを守るのが俺の役目じゃないかって思うから。
梓は…知っていてくれたらそれでいい」
次回予告
祐一は正式に警察の民間協力者として活動する事になった。
そして、衛次と共に通報のあった現場へと向かう。
そこでは烏賊の形状をした怪物、ブラインダーと付近の不良グループがいた。
祐一は彼等を守る事に抵抗を覚えながらも向かっていく。
一方、翔矢は梓と共に亡き恋人、静原 紗代の自宅へと向かう。
紗代の家族に拒絶されながらも翔矢は必死になって頭を下げる。
許してもらうためではなく、守れなかった事を謝るために。
交わる心と覚醒する力、戦いは誰のために?
次回、仮面ライダーSAGA
#.4 始動
後書き
セナ「テンペスト、復讐鬼から仮面ライダーへランクアップ」
梓 「あたし、かなり無謀な事してない?」
セナ「してるよ」
梓 「してるんなら早く直してよ」
セナ「いや、だって話の焦点はきちんと君にも向けられるわけだからそのときに問題点を浮き彫りにしたり、修正したり」
梓 「いや…変身する二人と装着する一人だけでいいじゃん」
セナ「絶対、嫌。それじゃ戦いだけを描く話になるから。僕としてはクウガみたいに戦いを描きつつもその周囲の人間の物語をきちんと展開していきたい」
梓 「…でも、その所為で弱く見えるって評価もあるけどね」
セナ「敵が強いだけ」
梓 「よく言う」
セナ「ていうか、本編で描かれてないだけでかなりの数のグロンギ(※1)を撃破してる。公式の設定とか考察ページに載せられた情報を見るととんでもない数になってる」
梓 「それにしようとか思ってる?」
セナ「それなりには。というよりも、アギトの場合はアンノウン(※2)を使い捨ててるような印象があったしね。龍騎は結局ライダーバトル(※3)を前面に押し出したし。ファイズはオルフェノクがもともと人間だったとかでいまいち憎めない連中だったし。ブレイドは予めアンデッド(※5)の数が決まってたからその中で展開する以上やり易い筈がかなり二転三転したからね。なんていうか、純粋に“敵”として描かれてきちんと描写されたのって結局クウガのグロンギだけだったと思う」
梓 「何で今ここで平成ライダーの考察をしてるのよ」
※1…超古代に存在した戦闘種族。リントと呼ばれる人類の始祖を殺戮するゲーム“ゲゲル”でリントの民を虐殺していたが、霊石【アマダム】の力で戦士クウガへと変身した青年の必死の戦いによって全て封印された。後に長野県の九郎ヶ岳に発見された遺跡において発掘チームが封印の礎となっていたクウガの眠る棺を開けてしまったことから封印が解け、現代に解き放たれた。
アマダムの力で戦士クウガへと変身した五代 雄介が一年にもわたる激闘の末に全てを撃破した。
※2…未確認生命体(グロンギの一般的呼称)が全滅した二年後に発見されたオーパーツとともに出現した異形の生物。第0号を除く全ての未確認生命体を撃破出来るとしたG−3システムを容易に撃破した。その存在意義はアギト、そしてアギトへと至る可能性を持つ者を抹殺する事にある。
最終的にはアンノウンを統括するエルと呼ばれるアンノウン全てを撃破し、アンノウンそのものを統括していた青年が人類という種を静観することとし、一応の終着を迎える。
※3…13人の仮面ライダーが自らの願いを叶えるためにライダー同士で殺し合いをするシステム。ミラーワールドという鏡の中の世界で繰り広げられる戦いだが、現実世界に戻るためにはライダーに変身している必要がある。そのため、変身するために必要なカードデッキを破壊されると元に戻れず、消滅してしまう。尚、この作品に関して言えばテレビ版、劇場版、テレビスペシャル、テレビスペシャル未放送分と、4種類の結末が用意されているが、テレビ最終話で一人残ったものの、また全てのライダーがライダーとしての記憶を失った状態で日常生活を送っている描写があることから無限に可能性を持った平行世界という見方も出来る。
因みに、13人全てのライダーが登場したのはスペシャル版だけである。
※4…夢や希望を見失った人間が突然オルフェノクと呼ばれる怪物へと変身するようになる。このオルフェノクに殺された人間というのは灰になって消滅する。ある意味、現象と呼んでいいものなので抜本的に解決する事は不可能。本編ではオルフェノクの王、アークオルフェノクを倒し、人間という種が滅ぶ事は回避された。また、劇場版ではオルフェノクが世界を支配した状態で、人間の味方をするオルフェノクや、行方不明になっていた主人公、乾 巧に対する感情などが描かれ、最終的には巧とオルフェノクの木場 勇治――尚、厳密には巧もオルフェノクである――がファイズとオーガに変身し、戦うが互いに巨大なオルフェノクを倒し、木場は力尽き、巧は真理(名字は度忘れ)を連れて去っていったところで終了している。この状態で人類という種が存続する事は恐らく不可能だったと思われる。
※5…超古代、地上で繁栄する種を賭けて繰り広げられたバトルファイトにおいて戦った52体の不死のモンスター。仮面ライダーは職業として存在し、アンデッドを封印するために活動していた。テレビ版では最後に残ったジョーカーとブレイドが対峙するが、ブレイドの最強フォーム、キングフォームは使い続けるとジョーカーになってしまうという諸刃の剣だった。ジョーカーが最後に残れば世界が滅びるという状態で、ブレイドの変身する剣崎一真は世界を守るため、友であるジョーカー――相川始を守るためジョーカーとなることを決意。バトルファイトを永遠に終わらないものとする事で自分の守りたいものを全て守りきった。
劇場版では4年後の世界が描かれ、ジョーカーが封印された世界でその後を生きる者達、暗躍する者などが描かれ、ある意味でテレビの正反対の結末となっている。