仮面ライダーSAGA

#.2 復讐鬼、邂逅す











【PM14:23 警察署】

「さて、相沢祐一君。一つだけでいい。応えてくれたら君を解放しよう。だから聞かせてくれ。君は何者だ?」

祐一を前にした翼はただそれだけを訊いた。

「俺にも何が何だかわからないんです。だから、自分が何者なのかという質問には答えられません」

翼や、同席している衛次の予想に反し、祐一の口調はしっかりしていた。

どれくらい狼狽しているだろうか、などと考え、それなりに時間を空けたわけだがそれでもこれはしっかりし過ぎている。

「ふむ…なら、質問を変えるとしよう。君は君が倒したという怪物の仲間か?」

「違います!!」

翼の質問に、祐一は絶叫で返した。

「俺はあいつに殺されかけたんだ!!あんな奴等の仲間でなんかあってたまるか!!」

その感情を一気に爆発させる祐一。

誰が見ても怒っている。

「済まない。我々としては君が敵となるか、それとも味方になるかを知っておきたかったのでね」

翼は素直に頭を下げた。

「それから、君は自分の姿を見ているか?」

「腕ぐらいなら…」

その言葉どおり、祐一は自分の腕しか見ていない。

自分の姿を確認できていないのだ。

「記録映像で、本来なら機密事項でもおかしくはないんだが、君にとっては自分の姿だ。見ておくといい」

衛次が小型モニターを用意する。

「これって…」

「駅前の防犯カメラの映像だよ。で、こっちが君だ」

衛次が指を刺しながら祐一を指す。

「何すか、これ。まるで、仮面ライダーじゃないすか」

「そうなんだよねぇ。まぁ、僕らもそれほどこのシルエットについてあれこれ言えないんだけどね」

衛次が苦笑しながら映像の中の祐一の姿を拡大する。

「十字架…みたいな感じだ」

祐一の素直な感想に、衛次は頷く。

「仮に、君のこの姿を仮面ライダーと呼称するならクロス、と呼ぶね。少なくとも、僕はね」

衛次の言葉に祐一は食い入るように画面を見つめる。

「さて、気が向いたらこちらに連絡をくれ。その力でこちらを手伝ってくれるなら助かるが、嫌なら何もしないでいい。こちらはこちらで何とかする」

翼はそれだけ言って立ち上がった。

「…どこへ?」

「君を帰すんだ。何しろ、数時間前に帰した君の連れが早速来ている」

翼は祐一を連れて出て行った。

「彼を仮面ライダーと呼ぶにしても、僕のは呼べないんだろうな」

衛次は笑いながら使った機材を片付け始めた。
























【PM19:36 河川敷】

翔矢は自宅からバイクを持ち出し、捜索範囲を広げて紗代の仇を探していた。

そして、周囲が暗くなる中河川敷で蜥蜴の怪物、プレデタリが川から出てきたところに遭遇した。

「また別の奴か。まぁいい。殺してやるよ。貴様もなぁ!!」

バイクをプレデタリに向け一気に加速する。

「テンペスト……変身!!」

翔矢がテンペストへと姿を変える。

「死ねよ」

その言葉と共にテンペストはプレデタリを轢いた。

「ぁ…?」

そこで、自分のバイクの形が変わっていることに気付いた。

「一緒にこいつまで変わっちまうのか?まぁいい。殺すだけなら何でもいいさ」

前輪で踏みながら、テンペストは跳んだ。

そのまま立ち上がるプレデタリを殴り飛ばす。

「立てよ。てめえも殺してやるからよ」























【PM19:42 警察署】

「衛次、出たぞ」

衛次たちが使っている控え室に入るなり翼が口を開く。

「どこに?」

「河川敷、3丁目あたりだ」

「わかりました」

衛次はすぐに駆け出した。

その足で署内の地下室に駆け込み、黒い耐ショックスーツへと着替える。

そのまま全身に装甲を身につける。

最後に初老の男性がフェイスガードを持ってくる。

「わかっているな?」

「はい、神崎主任」

その言葉と共に神崎は衛次にフェイスガードをつけ、腹部のバッテリースイッチをつける。

同時にそのフェイスガードの双眸が赤く光り、頭部中央から一本のブレードアンテナが競り上がってくる。

これこそ、警察が誇る多目的武装装甲服『デフィート』だった。

そして、衛次がその専属装着者だった。

〈デフィート、起動しました〉

「パワーアクチュエーター、正常動作。ロック解除」

神崎の言葉と共に壁に固定されていたデフィートが前のめりになる。

「直ぐにエクスチェイサーにケーブルを接続しろ。バッテリーの消耗を少しでも抑えろ。作る量より減る量のほうが多いのは前回でわかっているだろう?」

〈了解〉

衛次は傍に止めてあるデフィート専用の白バイ『エクスチェイサー』から電源ケーブルを引き出すとそれを腰に繋ぐ。

そして、そのままエクスチェイサーに跨ると一気に発進させた。

エクスチェイサーは地下から地上に出る。同時に進路上の信号が全て青になる。

『衛次、ネイルと単分子カッターのロックは解除してある。十分に注意して使え』

〈はい〉

衛次の耳に翼の声が届き、それに答える。

デフィートは真っ直ぐ、河川敷へと向かっていった。
























【19:52 河川敷】

「ふっ!」

吐き出される息と同時にテンペストの足が真っ直ぐプレデタリの腹部に伸びた。

「ギィッ!!」

叫びと共に後退するプレデタリ。

間髪入れずにテンペストが跳びかかってくる。

プレデタリが体勢を整えた瞬間にテンペストがその顔面を殴りつける。

既にプレデタリの体はボロボロだった。

全身出血、殴られて腫れ上がっている。

「終わりか?」

倒れたプレデタリにゆっくりと詰め寄るテンペスト。

プレデタリは逃げ出そうと後退る。

「逃げるなよ。殺してやるからよ」

逃げ出そうとするその足を踏みつけるテンペスト。

「もう死にたいだろ?けど、まだ殺してやらないからな」

プレデタリは最早抵抗しようとはしなかった。

無論、プレデタリに理性はない。

だが、本能で理解できていた。

殺される、と。

〈現着しました〉

丁度、テンペストと向かい合う形でデフィートが到着した。

「…何だ、貴様?」

テンペストは突然現れたデフィートを睨みつける。

〈これは、君がやったのか?〉

衛次はもう驚いたりはしなかった。

既に祐一という前例がある以上、もう一人いるくらいでは驚かない。

「だったら何だ?」

〈協力しては、貰えないだろうか?警察だけではすぐに限界が来る〉

テンペストがプレデタリを完全に押さえ込んでいるため衛次は注意しながらもテンペストへ視線を向ける。

「…警察?」

テンペストがデフィートに歩み寄ってくる。

その間にプレデタリは逃げ出していく。

「お前…警察か?」

〈それが…何か?〉

衛次は何か嫌な予感を覚えていた。

「そうか…警察は紗代を助けてくれなかったくせにそんな物を用意してたのか……」

瞬間、予感は確信に変わった。

「何故助けてくれなかった!!」

絶叫と共にテンペストはデフィートに襲い掛かった。

〈く…〉

その拳を左腕に装着された小型シールドで受け止める。

テンペストは相手の硬さを理解して直ぐにより威力のあるキックに切り替える。

矢継ぎ早にキックを繰り出していくテンペスト。

『衛次!!離脱しろ!!』

衛次の耳に翼の声が届く。

(無茶言わないでくださいって!!)

聞きながら、衛次は無理だと思った。

これでは銃を抜く暇さえない。

『葉塚!!ブースターを使え。一瞬だが距離は出来る!!』

今度は神崎の声。

〈はい!!〉

デフィートは背面に小型のブースターを装備している。

瞬間的に大きなパワーを引き出すためと、このような状況で離脱を計るためである。

〈ブースター、点火!!〉

瞬間、デフィートの背中から火が吹いた。

「チィッ!!」

テンペストはそれをかわすが、直ぐに間違いだったと悟った。

距離の開いたデフィートはこちらに銃を向けている。

何となくで理解できる。

近接戦闘以上に、こいつはこっちのほうが得意なんだ、と。

〈ネイル、使用します〉

『許可する』

武装使用の許可を取り付け、衛次は迷わずそのトリガーを引きながら前に進む。

「く…」

今度はテンペストが防戦一方になった。

一発肩に貰った。

容赦なく貫通した。

自分でも理解できていたが、テンペストの外殻装甲は通常のライフル弾ですらストップできる。

それが拳銃程度で貫通された。

「ち…」

舌打ちして、テンペストは逃げ出した。

〈標的、撤退しました〉

『了解。バッテリー残量が少ない。狙撃モードだったか?』

〈はい。速かったので確実に当てに行こうと判断しました〉

衛次はエクスチェイサーへ近付きケーブルを繋ぐ。

〈それにしても…『紗代』って〉
























【20:32 住宅街】

結局、祐一と美汐の旅行は中止になった。

が、美汐の家で泊まることになった。

「相沢さん…前に何かいますよ」

美汐が前方にいる何かに気付いた。

「おい…あれ、尻尾が生えてないか?」

祐一は何故かその姿がよく見えていた。

倒せ、とどこかから聞こえたような気がした。

「天野…逃げろ」

「いえ。必要ありません。相沢さんがいて、輝石もここにありますから」

美汐は慌てることなく祐一を見ていた。

「今までは気付きませんでしたが、そうですか。巧妙に隠してあったみたいですね。では、相沢さんがテンペスト、ですか?」

「テンペスト?」

「…いえ。気にしないでください。ですが、今の相沢さんにはあれを倒す力がある。そうでしょう?」

祐一は俯いた。

自分はあれと同類なのではないかと、不安になった。

「相沢さん。あなたはあれと同類ではありません。ですが、あれだけ誰かのために一所懸命になれたあなたがここで躊躇うのですか?」
























次回予告

美汐は祐一に戦え、と言った。

祐一は美汐に人ではない自分の姿を見られたくなかった。

それでも、祐一は自分の力で戦う事を決意する。

一方、商店街に紗代を殺した熊の怪物、フェロシティが出現し、そこに翔矢のクラスメイトの少女が取り残されていた。

翔矢はそのなかで大切な事に気付く。

祐一も翔矢も流されていても何一つとして願いも何も叶わないと知り、自分の力で戦う事を決意する。

交わる心と覚醒する力、戦いは誰のために?

次回、仮面ライダーSAGA

#.3 Myself

















後書き

セナ「結局、何もしてないデフィート」

衛次「何しに行ったんですか、僕は?」

セナ「一応、プレデタリを殲滅しに」

衛次「何もしてないじゃんか」

セナ「それはさておき、この復讐ネタで長々と引っ張るのもあれなので次回で祐一も翔矢もちゃんと変身させます」

衛次「僕には縁のない話だね」

セナ「まぁね」

衛次「はっきり言うなよ。傷つくな」

セナ「まぁ、次の次ぐらいにきっちりいい出番を作るから」

衛次「そういえば、すぐに三人ライダーをやるのかい?」

セナ「いや。暫くはテンペストには一人の戦いをしてもらうつもり」

衛次「じゃ、僕は祐一君と一緒に戦っていくわけか」

セナ「そういうこと」