仮面ライダーSAGA
#.1 刻まれる十字
【2007/5/3 AM11:27 駅前】
祐一だった白い戦士はゴブリンの腕をその胸に生やしたままゆらりと顔を上げた。
まるで十字架を模したかのような顔に、真紅の双眸。
「何…だ?」
何が起きたか、祐一にもゴブリンにもわからなかった。
さらに、ゴブリンは自分の片腕がなくなっていることにも気付けないでいた。
”ゴト…”
硬い音を立てて腕が地面に落ちた。
その瞬間、初めてゴブリンは腕がなくなったことを知った。
しかし、落ちた腕は石のようになっている。
「喰ったのか?貴様!!俺の腕を!!」
「喰った?俺が?」
ふらふらと後退る祐一。
「これが……俺?」
祐一も自覚した。
自分の姿が変わっていることに。
「ぅ…」
声が漏れた。
「うわぁああああああああああああああああっ!!!!」
絶叫と共に祐一はゴブリンに殴りかかった。
何が何だかわからない。
それでも、こいつは自分を殺そうとしている。
まだ死にたくない。
ならば、
「倒す」
覚悟を決める。
「それはこちらの台詞だ!!」
ゴブリンも残った片腕で殴りかかってくる。
祐一はそれを上半身の体捌きだけでかわしていく。
(こういうの、昔取った杵柄て言うんだろうな)
そんなことを考えながらかわし、捌き、反撃する。
「ぃやあっ!!」
ゴブリンがストレートを放つ。
「ふっ!!」
祐一はその腕を捌き、掴み、投げる。
その瞬間、祐一は右足が熱くなるのを感じた。
そして、その熱さに導かれるかのように自分の真上を通過しようとするゴブリンにサッカーで言うところのオーバーヘッドキックを叩き込む。
そして、当たる瞬間に右足が輝く。
綺麗に着地した祐一の後ろでゴブリンの体から十字に光が溢れ、爆発した。
「…終わった、のか?」
その言葉と共に祐一の姿が元に戻った。
【同時刻 駅裏】
変身した翔矢――テンペストの元に引き寄せられるかのように蜘蛛の怪物がやって来ていた。
「外れ…か」
ポツリ、と呟くテンペスト。
早くも自分の力の使い方の一部を覚え、自分から相手を引き寄せていた。
ただ、これはまだ知らないことだったが、自分で引き寄せられるのは低能な相手だけで、自分の求める相手は寄ってこない。
だが、
「ま、腕試しには丁度いいさ」
そう決めて駆け出す。
テンペストの持ち味はキックとスピード。
それを活かし一気に蜘蛛――アレスタという名前がある――の懐に入る。
しゃがみ込んで、下から上に突き上げるようにして蹴りを入れる。
アレスタの体が浮いたところで立ち上がり、自分も跳び踵落しを決める。
「ギィッ!!」
アレスタから苦悶の声が漏れた。
地面に沈んだアレスタの口を掴み宙に放る。
「ふっ!」
テンペストのパンチ力は祐一の変身後の状態より弱い。
だが、補うかのようにスピードがある。
地面に落ちるまでの間に10発以上のパンチをアレスタに叩き込む。
心なしかその胸部が凹んでいるようにも見える。
だが、それでもテンペストは容赦しなかった。
地面に落ち、崩れる直前に側頭部に蹴りを叩き込んだ。
「…その程度か?」
テンペストは苛ついたようにアレスタを見据える。
アレスタはそれに対して怯えを見せる。
「その程度なら死んじまえよ」
その言葉と共にテンペストは風になった。
アレスタはテンペストの動きを知覚出来なかった。
「…死ね」
叩き込まれるパンチ。
スピードと体重の乗ったパンチはアレスタの体を造作もなく貫き爆発を起こす。
「くだらない」
爆発の後、そこにはテンペストが一人残っていた。
【AM11:29 天野家】
「迷惑です」
この日、祐一と旅行に出かけるはずだった天野美汐は出かける直前になって家にやってきた警察官と何度目になるか忘れてしまった「迷惑です」を言った。
「いえ、ですから先日から出てきている怪物の事はご存知でしょう?その怪物があなたを狙っているということがわかったので護衛をつけるということになったのです」
「迷惑です。帰ってください」
この警官は疲れ切っていた。
何を言っても「迷惑です」の一点張り。取り付く島もない。
「替わろう。君はもう帰っていい」
その時、一人の私服警官がその警官を下がらせた。
「大地警部、済みません」
「気にするな」
そんなやり取りを終え、大地――翼が美汐を正面から見据える。
「そんなに我々が護衛につくことが迷惑か?」
「ええ。迷惑です」
そんな美汐の対応に翼は内心溜息を吐く。
「ならばこうしよう。我々は君に気付かれない程度に勝手に動く。君はいつもの生活をするといい」
「なら構いません。警察如きで何か出来るとは思いませんが」
その言葉と共に美汐は荷物を持つ。
「どこへ?」
「お付き合いしている人と旅行に行くんです。それから、”彼等”はまだこの町から出ることは出来ません。仮に、私を殺したとしても、です」
それを翼に言って美汐は鍵を閉めて駅に向かって駆け出した。
遅刻は確定だった。
【AM11:47 警察署】
「大地警部、どうでした?」
警察署に戻ってきた翼を出迎えたのは彼の部下である葉塚衛次――階級は警部補――だった。
「かなり厳しいが、同意は取り付けてきた。が、このGWの期間中は護衛は要らないと言い切られてしまった」
「GW中だけ?」
衛次は不思議に思い問い返した。
「彼氏と旅行だそうだ。いい気なもんだ」
「まぁ、高校生ですからね」
納得し、衛次は次の質問を用意する。
「で、我々は?」
「流石に、県外の山中の温泉地に我々の装備を持っていけば気付かれる。所轄に依頼して何人か腕っ扱きを回して貰う。で、こちらは出現に備えて待機だ。
それから、何かあったか?態々出迎えるのだから、何かあったのだろう?」
今度は翼が質問をする番だった。
「えぇ。警部があちらに出向いている間に駅前に出たそうです」
「何かあれば出動する許可は与えておいたが?」
翼は部下が職務怠慢をしたのではないか、と疑い始めた。
「いえ…デフィートに酷似した白い奴が始末してしまったという通報でして、今は処理班が動いています」
「他には?」
「一人、その白い奴と思われる少年を拘束しています」
衛次は「着いて来てください」と言って翼を誘導する。
「名前はわかるのか?」
「はい。相沢祐一、です。現在、両親が海外に行っているため叔母の家に居候中の高校三年生です。それから、例の護衛対象の恋人のようです」
それを聞いて翼は頭を抱えた。
面倒に面倒が重なった、と。
【同時刻 警察署ロビー】
「相沢さんと面会させてください」
美汐は祐一が警察に捕まった事を知って迷わず警察署に向かった。
「は…?」
だが、受付にいる人間がそんなことを知るわけもない。
「ですから、相沢さんに」
「天野さん、こちらにどうぞ」
そこに衛次がやって来て美汐を呼んだ。
「会わせていただけるんですか?」
「いえ、今日はお帰りください。後日、きちんと連絡などもしますので」
そう言った衛次が立っているのは入口の自動ドアの前だった。
「嘗めてますか?」
「いえ。こちらにも都合もあります。一段落しましたら普通に面会…というか迎えに来てください。話を聞くだけ聞いたらこちらも彼をこれ以上拘束するつもりはありませんから」
「……その言葉、信じます」
美汐はそう言って衛次と擦れ違った。
(スーツ姿のくせに、体から金属や油、それに火薬の匂いがしますね)
(彼女が、護衛対象…か。まぁ、彼女たちの旅行が中止になるのはこちらとしては好都合かな)
それぞれの想いが交わる中、物語は動き出す。
次回予告
警察で取調べを受ける祐一。
そんな中出現する蜥蜴の怪物、エントワインを倒すために警察は多目的武装装甲服『デフィート』の出動を許可する。
現場に到着したデフィートの前に現れたのは過剰にプレデタリをいたぶるテンペストだった。
一方、祐一の知人である月宮あゆは自分そっくりな少女を街で見かける。
交わる心と覚醒する力、戦いは誰のために?
次回、仮面ライダーSAGA
#.2 復讐鬼、邂逅す
後書き
セナ「戸惑う祐一」
祐一「何か、逮捕されてないか?」
セナ「あ、大丈夫。任意同行だから」
祐一「それ、大丈夫なのか?」
セナ「さて、今回の話のちょっとした解説を」
祐一「俺は何で変身したんだ?」
セナ「そこはまだスルー」
祐一「おい」
セナ「祐一のキックはまだ必殺という形ではありません。なので、強い相手を前にしたら効かないこともあります」
祐一「まぁ、無意識でやったしなぁ」
セナ「ついでに、改造人間だから再改造で強くなる事も出来る」
祐一「それ無茶苦茶嫌なんですけどねぇ」
セナ「まぁ、そんなことしなくてもどこまでも強くなれるんだけどね」
祐一「話が逸れてるぞ」
セナ「おっと、そうだった。翔矢の戦闘スタイルは今のところは必要以上に相手をいたぶってボロボロになったところで全力で止めを刺すってスタイルで」
祐一「何でそんなことに?」
セナ「恋人殺されてブチ切れてるから」
祐一「で、次回は俺の変身は?」
セナ「…ない」
祐一「折角変身ポーズも用意したのに!!」
セナ「次回は遂にベールを脱いだデフィートが戦闘に参加します」
祐一「でも、スペックは三人中最弱だよな?」
セナ「だってただの装甲服だし」