※間におまけSSを入れた関係で後書きにしては長いです


本当はとても寂しがりで、泣き虫で、甘えんぼ

だけど小さな体で精一杯強がっている

そんな彼だからこそ、わたしは抱きしめてあげたい

もし、あなたのところにやって来たなら

わたしの代わりにそっとやさしく撫でてあげてくださいね



<Keyスタッフの手記:ぴろシナリオ>
[概要]
 関西弁を話す猫のお話。
 真琴シナリオクリア後、ぴろの命名シーンの選択で

・キャット伊藤
・猫塚ネコ夫
・安田のネコ

 のうち『安田のネコ』を選択するとフラグが立ち、エピローグに追加シナリオが発生。

 猫は咎人。
 失った少女の姿を求め旅を続ける。
 いつか見上げた空へと想いが届く日を夢見て……。


[補足]
 名雪は安田幸(ユキ)の生まれ変わりで、ぴろの罪がためにネコアレルギーであるという設定はどうでしょうか?


[結末追記]
 真琴シナリオの結末を巡って開発が難航。ぴろシナリオは没。



 もちろん冗談ですが(笑)
 そんな状況を想像してこの物語を書き上げました。
 久々に本気のものを書くと疲れますね。
 もちろんいつも手を抜いてるとかそういうわけじゃなくて、言うなれば気力150でなければ書けないとかそんな感じのがこれです。


 Kanonコンプリートしてから常々不満に思っていたことがあります。
「何で佐祐理シナリオがあるのにぴろシナリオないねん。こんなにプリチーなのに」

 佐 祐 理 さ ん よ り ネ コ の 方 が 好 き な の か お 前 は ?

 ゴメン、大好き。キャラ抱き枕は絶対買わなくても、頭に乗せられる本格ぴろのヌイグルミ買いたくなったくらいに。
 1000円〜2000円あたりなら絶対買ってた(ぁ)


 そ、それはともかく……本編のぴろとはなんとも謎なネコです。
 真琴の恩人だと言われたり、真琴の頭部を好んだり、突然失踪して春に戻ってきたり……。
 こいつはタダモノじゃない。かわいい顔をして絶対に何かある。
 そう思えば思うほどますますぴろの虜に。
 それでクリアしてから今日の今日まで、ぴろの秘密をずっと考え続けてきました。
 その僕なりの答えがこのSSです。
 ずっと寝かせて練ってきた物語だったので書き上げられた時はとても嬉しかったです。

 何はともあれ、お読みいただきありがとうございました。
 読者の心に残る作品となれば嬉しい限りです。




【おまけ】
>また祐一に7年も待たされたら名雪が可哀想。
 そんな意見をこの作品に関して名雪ファンの方から頂きました。
 それに関して僕は……

『名雪は祐一と結ばれることが必ずしも幸せだとは思いません。
 何より真琴シナリオの後だと二号さんっぽいわけでむしろその方がかわいそうじゃないかと。
 名雪には7年前の呪縛から逃れて新しい恋を見つけて欲しい、そう願いを込めて7年という時間を設定しました。
 7年経っても彼女の気持ちが変わることないなら、その時こそ祐一は彼女の気持ちに応えてあげるべき、男として責任を取るべきではないかというわけです(それに7年後って二人の年齢考えれば遅くもないですし)
 また見方を考えれば、このシナリオの後には水瀬三姉妹(名雪・あゆ・真琴)が実現する可能性もあるので、案外数年後くらいには秋子さん・あゆ・真琴に囲まれて名雪が祝福を受けてるかもしれませんよ(笑)

 こういう補完SSを書くときに僕が心掛けているのは、想像して楽しんでもらえるものをということです。
 原作のように様々な結末や可能性を考えてドキドキしてもらいたいな……と。
 名雪は安田幸(ユキ)の生まれ変わりかもしれない、水瀬家があのあと大家族になってるかもしれない、そんな答えを書かずに暗示する程度に留めたところがあります』

 と答えさせてもらいました。
 その上で名雪ファンへの一つの可能性として追加エピローグを書いてみました。
 幸せななゆちゃんを見たいという方は以下のSSを読んでみてください。



◇ぴろシナリオエピローグ ver.名雪◇
 あれから二年。
 真琴が帰ってきて、何故かあゆも水瀬家に居候していた。
「やっぱり早すぎたか?」
「ううん、わたしは嬉しいよ。今とっても幸せ」
「ったく、真琴も秋子さんも強引だよな。『結婚式見たい』で『了承』はないだろ」
「くすっ、そうだね」
 タキシード姿の祐一が悪態をつくのを見て微笑むウエディングドレス姿の名雪。
 本心ではそんなこと微塵も思ってないくせに素直じゃないところは昔から変わってない、そう思うと名雪は自然と笑いがこぼれるのだった。
「ねえ、祐一。本当にわたしなんかで……」
「ストップ。それはもう無しだぜ。俺だって同じ気持ちなんだ」
「……うん。でもやっぱり信じられないよ。わたしの隣に祐一がいること」
 真琴が帰ってきて、当然祐一は真琴と一緒になる、名雪はそう思っていた。
 いや、祐一もそう思っていただろう。別れる前に結婚式も挙げたのだから。
 だが、帰ってきた真琴は祐一と少し距離を置くようになり、それどころか居候仲間のあゆと一緒になって名雪と祐一の仲を応援すべく色々気を回し始めたのである。
 気を回すと一言で言えば小粋なことに聞こえるが、どこか幼いところのある真琴とあゆの二人である。
 露骨過ぎて祐一と名雪は『やれやれ』と顔を合わせてよく苦笑いさせられていた。
 しかし、結局今日という日を迎えてしまったあたり二人の計画にはまってしまったと言わざるを得ないだろう。
「まあ、強いていうならあれだな」
「あれって?」
「名雪は女に惚れられやすいってこと」
「え……ええっ!? わたし、女の子と結婚しないといけないの!?」
 目を丸くして顔を真っ赤にする名雪。
 その頭の中には真琴と誓いのキスを交わしている自分の姿があった。
 さらに真琴だけでなく、あゆ、香里、秋子、美汐と身近な女性全員とその瞬間を迎えるシーンが走馬灯のように流れていく。
 天然ボケと称される割には妄想力豊かな花嫁だった。
「こらこら、パニくるな。別に変なことじゃないぞ。女が女に惚れるってのも男が男に惚れるってのも」
「え? 祐一ってもしかして」
「もしかして……何だ?」
 北川君のこと……と言いかけて名雪は慌てて息を飲む。
 本日仲人をやるその人物のことを今口にしたら、式場で両頬が赤くなっていたことだろう。
 ……祐一に引き伸ばされて。
「まあ、行き過ぎるとそういうのになるのかもしれないが、もっと普通のことだ。もし名雪が香里のこと好きだったら、お前はどうする?」
「えーっと、結婚する?」
「……結婚から離れろ」
 頭を押さえて顔をしかめる祐一。
 名雪の名雪たる所以を嫌と言うほど味あわされ、これから先の生活に一抹の不安を覚える。
 やるときはちゃんとやる、そう分かっていてもこの調子では信用しろという方が無理な話だろう。
「じゃあ言葉を変えるぞ。名雪は好きな人にどうあって欲しいんだ?」
「それはやっぱり幸せになって欲しいよ」
 今度は即答だった。
 それを聞いて祐一は頬を緩める。名雪でよかった……と。
 きっとその気持ちはこれからの自分にも向けてくれることだろう。
「そういうことだ。真琴もあゆもそう思ってお前を応援したんだろ」
「でも、どうしてわたしなの?」
「ばか、さっき言っただろ。名雪は女に惚れられやすいってな」
「全然意味が分からないんだけど」
 困り顔の名雪に祐一は、あとは自分で考えろと笑い飛ばす。
 こんな奴だからこそ好かれるんだろう、と思いながら。
 実際、二人が名雪に譲ったのはその一途さを感じたからだろう。
 その一途さは二人も持っていたもので、それでも名雪が一番強かったのだ。
 そのくせ名雪は三人の中で誰よりもその気持ちをひた隠しにしていた。
 気持ちを伝えられない辛さをよく知っている真琴とあゆの二人なら、名雪の幸せを願いたくなるというのも道理といえば道理だろう。
 水瀬三姉妹はみんな優しくて、そして誰よりも姉思いなのだ。
「ねえ、祐一」
「なんだ?」
「幸せになろうね」
 自分達のためにも。そして、この幸せを願ってくれた人達のためにも。
 穏やかな表情で呼びかけた名雪に祐一は力強く頷く。
「ああ、幸せにしてやるぞ。名雪」
 思わずキスをしようとした祐一だったが、それは後でと名雪にさらりと断られてしまった。
 この瞬間、式場でディープキスをしてやろうという企みが祐一の頭に浮かんだことを名雪は知るよしもない。

 会話が少し途切れた、その時に扉が乱暴にノックされる。
「なゆ姉、ゆういちー、出番だよ」
「だ、ダメだよ真琴ちゃん。扉は手で叩くんだよ」
「いーのよ。だって手が汚れてるもん」
「よくないよっ。だいたい結婚式が始まる前にケーキ食べちゃうなんて……」
 訂正。扉が何度も乱暴に蹴飛ばされた。
 何やら外でもめ始める二人に顔を合わせて苦笑いする祐一と名雪。
「あの馬鹿、こっちに来る前にケーキを手掴みで取ったな」
 あの馬鹿とはもちろん真琴のことである。
 そういう軽口が現在の祐一と真琴の関係をよく表していると言えるだろう。
「あゆちゃんも大変だね」
 控え室の外から聞こえる説教と屁理屈の応酬。どうやらあゆの方が姉らしい。

「行こうか、名雪」
「うん。あ、そうだ」
「何だ?」
「さっきのことだけど、祐一は好きな男の子っているの?」
「あのな……それが式前に花嫁の訊く言葉かよ」
「だって、気になるよ。さっきの言葉、経験がある人の言葉だもん」
 こういう時は妙に鋭いやつめ。そう思いながら祐一は天井を仰ぎ見る。
 そしてその上に広がっているであろう広い空を。
「ああ、惚れた男なら一人だけいる」
「それって誰なの? 祐一のお父さん? それとも北川君?」
「その話はまた後な。いい加減外の二人がうるさい」
「あ、うん。今日はよろしくね、祐一」
「ああ、行くぞ名雪」



「では、新郎新婦の入場です。皆様、盛大なる拍手でお迎え下さい!」
 たくさんの拍手を浴びながら、二人は歩を進めていく。
 ふと、その道の真ん中に何か白いものがいるのが目に入った。
 その瞬間、祐一と名雪、そしてその後ろについて歩いていた真琴とあゆから小さい叫び声が上がる。
 それは行儀よくお座りをしている一匹の小さなシャム猫だった。
 だが、その小さな外見にも関わらず、彼らの目にはとても大きく、力強いものに映って見える。
 何故なら彼は……。

「ただいまや。祐一、名雪……おめでとさんやで」


 ぴろ、ネコさん、ぴろちゃん、それぞれの呼び名を口に四人が猫を囲む。
 猫は、初めて、嬉しさに大粒の涙をこぼして泣いた。





 まあ、あくまで可能性の一つを具体化したものですが、楽しんでいただけたら幸いです。
 結末はこれだけじゃないですので、是非皆さんの胸の中に素敵な思い出を描いてあげてください(笑)
 ちなみに、何でARIA(アリア)なのかというと、ネコだからです。
 関西弁は『ケルベロス→ケロちゃん→ぴろちゃん』より。
 ではでは、ここまでお付き合い下さりありがとうございました。


ジブリのカントリーロードを聴きながら……
(2004年10月14日)