オモウココロハジユウナレド


2−0  探偵、柊 楓










柊 楓
あなたの未来が見えます


お姉ちゃんの部屋に、あの日の男の人……大原響さんが泊まりこんでから2日目。

朝になっても目を覚まさなかったのでお姉ちゃんと一緒に放置してあります。きちんとご飯は食べてるみたいなので死ぬこともないでしょう。

けど、こういう状態を見てると思います。

きっと大原さんは将来は甲斐性無しの紐になるんじゃないかと。

お姉ちゃんはあの人のこと好きみたいですし、様子を見る限りじゃ両思いなんだと思います。けど、それでも紐は勘弁してほしいというのが本音だったりします。

よし。

私があの人について調べてみましょう。

…………

………

……



お昼休みとかを使って評判を訊いてみました。一応、色々有名な先輩だったので今でも情報を仕入れることはできました。

「え?大原先輩?やっぱり、女泣かせだよね」

「う〜ん……ちょっと、近寄りがたいっていうか、近寄るなオーラを全開で出してるよね」

と、結構ネガな答えばっかり変えてきました。

でも、それでも顔がいいのとストイックな感じだから寄って来る女の子は多いのが現状らしいです。

まぁ、皆酷いふられ方をしたという結果付でしたけど。

何と言うべきでしょうか。あの人は、女の敵かもしれません。

でも、お姉ちゃんと帰ってきたときはそんな刺刺とした雰囲気は成りを潜めてて、寧ろどこかすっきりしたような、落ち着いた感じでした。

難しいです。

本人かお姉ちゃんに直接聞いてみるべきかもしれません。そうなれば今すぐにも帰りたいんですけど、生憎とまだ授業が残ってますし、高校受験に向けた特別対策授業とかで放課後も残らなきゃいけないっていう始末。

今日だけでも帰りたいんだけど。
























柊 楓
突撃、実家訪問


実は大原さんの家が喫茶店だっていうのはわりと有名な話。お姉ちゃんは知らなかったらしいけど。

そこで、放課後に寄り道は禁止されてるけど寄ってみることにしました。

カウベルが静かに鳴って、カウンターでグラスを拭いていた女の人がこっちを向きました。

「いらっしゃい、寄り道はいけないんじゃなかった?」

凄く、優しそうな人。こんな人が家族にいるのに人を泣かすようなことをする大原さんが信じられません。

でも、この人、凄く若々しいんですけど、あの人のお母さんなんですよね。私はあの日家に来た二人を見て恋人かと一時は勘違いしてましたし。

その若さの秘訣を聞き出すべきかと思いますけど、今日はそれどころじゃないので心の中だけに留めておく事にします。

「すみません。訊きたい事があって寄らせてもらいました」

ぺこりと頭を下げて、本題を切り出します。

「そう。じゃ、立ち話っていうのもなんだから、どこか好きなところに座って。仕事をしながらだからカウンターに座ってもらうけど」

「はい」

私は正面の席に座ります。小母さんは私の前にお水を出してくれました。

「あの…大原さん……じゃなくて、響さんはお姉ちゃんを傷つけたりしますか?」

この質問に小母さんはちょっとだけ動きを止めたけど、すぐに元の仕事を始めた。

何だろう?答えにくいことだったのかな?

「今から言う事は、あくまで私の意見だから参考にはならないと思うけど、まず、傷つかない人間関係は偽物ね。そんなものなんてありはしないと思うの」

まさか、こんな風に一蹴されるなんて思わなかった。

「だけどね、傷つけてもその傷を埋めたり癒してあげることはできると思うの。小鳥ちゃんは響にそれをしてくれた。自分が傷つけられても、最終的には響の傷を埋めてくれた。そして、響は自分に向けられた優しさには絶対に応える。今の響なら。

 今まで蔑ろにしてきたものがどれだけ大切だったかを知ったから、その過ちを繰り返さないために自分が傷つけた分以上に小鳥ちゃんに優しさを向けてくれると思う。親ばかかもしれないけど、私はそう信じてるの」

何も言えなくなってしまいました。

傷つかない人間関係は偽物。そんな風に考えた事はありませんでした。でも、それが正しいと思えた自分がいるのも確かで。

「楓ちゃんは、今まで傷つけるしかしてこなかった響を信じられないと思う。でも、もう響は自分が傷つく事を怖がったりしないから。だから、信じてあげて」

ここまで言われてしまえば、私は「はい」としか言えませんでした。

納得もいったところで私は帰ることにしました。

「あ、言い忘れてたけど。今日はあの2人、デートに行ってるから」

最後の爆弾発言を背に受けながら。
























柊 楓
帰宅、今日の成果


家に帰るとご機嫌なお姉ちゃんがいました。

「ただいまぁ」

「あ、おかえりー」

満面の笑みで私を迎えてくれるお姉ちゃん。私はその姿を見つつ、首にかかってるネックレスに気付きました。

「それ」

「あ、これ?響君がプレゼントしてくれたんだ。どう?」

機嫌のいい理由がわかりました。

腫れて恋人同士になれたこと。デートに行けたこと。名前で呼べたこと。プレゼントをもらえたこと。

他にもあると思いますけど、大体は当たりだと思います。

「似合ってるよ、よかったね、もらえて」

「うん!」

やっぱり、思います。

こうして幸せそうにしてるお姉ちゃんをみてると、これでよかったんだって。

だから私は2人を応援します。

折角調べたけど、意味なんてありませんでしたね。でも、それでいいはずです。

明日からも、お姉ちゃんをよろしくお願いしますね?
























後書き

長々とかけましたが、漸くこの作品の続きをお送りする事ができました。

嘗て、雨コンペに出品したころは僕の中では短編としては異例の20kオーバーだったわけですが、これを書いた今、「ゲーム」が40k越えをしてしまいました。これを純粋に僕の話を膨らませる能力が向上したのか、それとも、話に収拾をつけられなくなってしまったのか。そのあたりが分からなくなってしまってます。


さて、今回は前話の後にデートに行ってるはずの2人じゃなくて、2人の関係について色々と考える妹――楓のお話でした。

それを踏まえ、更にこの話がスピンオフに近いものがあるということを理解したうえで、この作品の決まりごとであるタイトルの片仮名表記を止めてみました。

勿論、次回からの2章の本文ではしっかりと片仮名表記に戻る予定です。

1章で擦れ違う関係を描いてみたので、ここから先は響が更正していく様と、2人とその周りが絆を紡いでいく様を描いていければと思います。

では、今回はこれにて失礼致します。