―――――桜
桜が舞っていた
長く、悲しみと苦しみに満たされていた冬も終わり、幸せの予感に彩られた春がやってきた。
今日はとある雪国の学園の入学式。
そして今、今年度から新入生となる一人の少女が学園の門をくぐろうとしている。
少女「これから私の高校生活が幕を開けるのですね……………………ちょっと緊張します」
祐一「…………おい栞、お前入学式は二度目じゃなかったか?」
栞「えぅ〜、そんなこと言う人嫌いですぅ〜」
〜エンドなんかじゃない〜
祐一「そうは言われてもお前が留年した事実は変わらないのだから仕方ないだろう」
栞「えぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
あゆ「うぐぅ〜、祐一君さっきから栞ちゃんばかりとお話してないでボクらともお話してよっ」
真琴「そうよっ!今日は栞だけが主役じゃないのよっ!」
祐一「悪い悪い…………しかしお前ら三人がウチの制服着てるの見ると本当に奇跡が起きたんだなぁ、って実感するよ」
栞「祐一さん、何かひどいこと言ってません?」
祐一「気のせいだ」
奇跡――――――――――
そう呼ばれるにふさわしい出来事がこの街の冬を駆け抜けていった。
幾人かの少女は笑顔を取り戻し――――――――――ある少年は昔の記憶を取り戻した。
当事者たち以外にはその出来事はまさにファンタジーの世界の出来事であっただろう。
だが、当事者たちにはその出来事は必然の奇跡だった。
何故なら、奇跡は大切な何かのために心から願うものにしか訪れない出来事だから。
だから、少年―――――祐一の願った奇跡が少女たちに起きたのだ。
そして今日、美坂栞、沢渡真琴、月宮あゆの三人は祐一たちの通う高校に入学するのである。
香里「はいはい、そこまでよ相沢君。私の妹をあんまりからかわないでもらえるかしら?」
祐一「何を言う香里。俺は客観的事実を述べたに過ぎないぞ」
香里「それは別に否定しないけど…………」
栞「お姉ちゃん、否定してくださいっ」
名雪「祐一、香里。三人とも自分が高校生に見えないことを気にしてるんだからそんなこと言っちゃ駄目だよ〜」
祐一「……………………」
香里「……………………」
名雪「あれ、二人ともどうしたの?あゆちゃんたちもプルプル体を震わせて、気分でも悪いの?」
香里「…………まあ、気分が悪いというのは当たってるわね…………」
祐一「名雪……………………俺はそこまでは言ってないぞ…………」
名雪「えっ、えっ?」
あゆ「うぐぅ〜〜〜〜〜〜、ひどいよ名雪さん…………」
真琴「名雪…………後で秋子さんに言いつけてジャムの刑なんだから…………」
栞「…………そんなこと言う人…………大嫌いです…………」
祐一「しかしなあ…………栞とあゆはともかく、真琴までこの学校の生徒になるとはな」
真琴「さすがは秋子さんよねっ」
香里「真琴ちゃんは戸籍も無いのに一体どうやったのかしら…………」
名雪「香里、それは気にしちゃいけないことだよ…………」
香里「…………そ、そうね」
祐一「ま、まあその話はおいといてだな…………栞はもちろん、真琴とあゆも俺たちの後輩になるんだよな」
真琴「あぅ〜、後輩って?」
栞「後輩と言うのは『学校や職場で、自分より年少の人。また、あとから入った人(集英社国語辞典)』のことです。
よって私たちは祐一さんたちの後輩になり、祐一さんたちは先輩と言うことになりますね」
祐一「そういうことだ。さあ…………あゆ、真琴、栞、これからは俺のことを『祐一先輩』と敬意を込めて呼ぶがいいぞ」
真琴「祐一は祐一じゃない。真琴はそんな呼び方なんてしないわよ!」
あゆ「そうだよ、ボクも呼び方は祐一君のままがいいな」
祐一「くっ…………し、栞!お前は先輩って呼んでくれるよな」
栞「水瀬先輩なら別にいいですけど…………祐一さんはやっぱり祐一さんですよ」
祐一「し、栞まで…………どうしてどいつもこいつも漢(おとこ)のロマンがわかってないんだ…………」
名雪「だってわたしたち女の子だし」
香里「だいたい漢(おとこ)のロマンって何なのよ…………」
祐一「馬鹿者!可愛い女の子の後輩に『せ・ん・ぱ・い(はぁと)』と呼んでもらうのは学生時代の男の約58%の夢であり、
ロマンなんだぞ!!」
栞「そ、そうなんですか?」
名雪「わたし、知らなかったよ…………」
香里「嘘に決まってるでしょう。だいたい58%ってどこから引っ張りだした数字なのよ」
祐一「20××年度北川調べだ」
香里「…………あの馬鹿男は…………」
??「相沢先輩」
祐一「うおおおっ!?」
真琴「あっ、美汐だ〜♪おはよう〜」
美汐「おはようございます…………真琴。皆さんもおはようございます」
香里「おはよう、天野さん」
名雪「おはよう〜」
あゆ「美汐ちゃん、おはようっ」
栞「おはようございます」
祐一「……………………」
美汐「相沢先輩、黙っていないで何か言ってください。挨拶されたと言うのに返事を返さないのは人として不出来ですよ」
祐一「…………い…………」
あゆ「い?」
祐一「い、い、いつからそこにいた天野ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
香里「さっきからいたわよ」
美汐「正確に言うと『漢(おとこ)のロマン〜』のあたりからでしょうか」
名雪「気づいてなかったのは熱弁をふるっていた祐一とそれを真面目に聞いていた真琴だけだよ」
祐一「…………不覚」
名雪「祐一、ときどき信じられないほど鈍いよね」
香里「人の心の動きには敏感なのにね」
栞「そこが祐一さんのいいところですよ」
祐一「…………栞、それは褒めてない」
真琴「あはははっ!祐一ぶざまね〜」
祐一「うるさいぞ真琴。……………………ところでどうした天野、いきなり俺の呼び方を変えたりなんかして」
美汐「いえ、相沢さんがお望みのようでしたので試しに言ってみたのですが…………お気に召しませんでしたか?」
祐一「いや、なかなかナイスだった。びっくりしていたせいで喜びを噛み締めている暇がなかっただけだ」
美汐「それはよかったです」
祐一「という訳でもう一度頼む」
美汐「嫌です」
祐一「ぐはっ…………それはゲームが違うぞ」
名雪「しかもお母さんの『了承』並の早さだったよ…………」
祐一「さて、天野も来たということはあとはあの二人だな」
??「祐一さ〜〜〜〜〜〜ん」
栞「あっ、来たみたいですよ」
祐一「佐祐理さん、それに舞、おはよう」
佐祐理「あはは〜おはようございます祐一さん、皆さん」
舞「…………おはよう」
祐一「すまないな二人とも。二人は大学生になったのにこいつらのためにこんな朝早くから呼び出しちまって」
佐祐理「気にしないでくださいよ祐一さん、佐祐理たちと祐一さんの仲じゃないですか〜」
舞「はちみつくまさん」
香里「大学の入学式は明日なんですよね?」
佐祐理「そうですよ、だから今日は暇だったんでちょうど良かったんですよ〜」
祐一「もちろん佐祐理さんと舞の入学式も見に行くから楽しみにしていてください」
舞「…………楽しみにしているのは祐一のほう」
佐祐理「あはは〜っ」
香里「さあ、これで全員そろったことだし入学式に行きましょうか」
美汐「そうですね」
真琴「早く行こうよ〜」
??「ふふっ、皆さん私を忘れていませんか?」
名雪「だおっ!?」
あゆ「うぐっ!?」
栞「えぅっ!?」
真琴「あぅ!?」
舞「…………」
香里「きゃっ」
佐祐理「あ、あはは〜…………」
美汐「な…………」
祐一「あ、秋子さん!?」
秋子「はい、秋子さんですよ」
名雪「な、何でお母さんがここに…………」
秋子「もちろんあゆちゃんたちの入学式を見るためですよ。私はあゆちゃんと真琴の保護者なんですから」
祐一「は、はあ…………」
秋子「もしかして私はお邪魔でしたか?」
あゆ「そ、そんなことないよっ」
真琴「そうよ、秋子さんは私たちの家族なんだからっ」
秋子「ふふっ、ありがとう」
祐一「さて、今度こそ全員そろったことだし…………」
栞「行きましょうか♪」
あゆ「うんっ」
香里「あたしたちは在校生の席ね。行くわよ、名雪、天野さん、相沢君」
名雪「わかったよ〜」
美汐「はい」
祐一「おう」
秋子「私たちは保護者の席ですね」
舞「…………保護者」
佐祐理「佐祐理たちはもうこの学校の生徒じゃないですからね〜。舞、行こう」
舞「はちみつくまさん」
あゆ「ボクたちは新入生の席だねっ」
真琴「じゃあ、早く行こうよあゆあゆ〜」
あゆ「真琴ちゃん、あゆあゆはやめてよ…………」
栞「くすくす」
祐一たちは足早に各自の行くべき場所に移動しはじめる。
しかし……………………
栞「祐一さんっ」
栞は祐一を呼び止めた。
同時に、その声が聞こえたのか祐一以外の面々も足を止める。
祐一「…………ん?どうした」
祐一は振り返って栞を見た。
栞はぺコン、と頭を下げて
栞「…………ありがとうございましたっ」
と、何故か祐一にお礼を言った。
祐一「いきなり何だよ?」
栞「えへへ……………………今までのお礼です。祐一さんにはこの冬、いろいろお世話になりましたから」
祐一「へっ?」
香里「あら、そういうことならあたしも言っておこうかしら…………ありがとね、相沢君」
名雪「わたしも〜…………ありがと、祐一」
あゆ「あっ、じゃあボクも…………ありがとね、祐一君」
佐祐理「佐祐理もそうしましょう…………祐一さん、いえ、祐一くん…………ありがとうございました」
舞「はちみつくまさん…………祐一、ありがとう」
真琴「べ、別に真琴は祐一に感謝なんてしてないけど…………皆も言ってるし、ありがとぐらい言っとくわ」
美汐「相沢さん…………私も…………有難うございました(照)」
祐一「な、何なんだよみんなして…………俺はそんなに大したことをした覚えは無いぞ」
秋子「ふふふ…………謙遜することはありませんよ祐一さん。
確かに祐一さんは特別何かをしたわけではありません、でも、祐一さんがいなかったらここにいる人は全員
笑顔でここにいることは出来ませんでした」
祐一「け、けど…………」
秋子「もちろんこの私もです。ですから私からもお礼を言わせてもらいますね…………ありがとうございました祐一さん」
祐一「秋子さんまで…………」
美汐「まあまあ、いいじゃありませんか相沢さん」
真琴「美汐の言うとおりよ、真琴たちが好きで言ってることなんだからありがたく受け取っときなさい!」
あゆ「そうだよっ」
舞「…………黙って受け取る」
名雪「ゆういち〜」
香里「たまにはこういうのもいいでしょ?」
佐祐理「そうですよ、祐一くん」
九人がかりで説得(?)される祐一。
そして……………………
祐一「…………わかったよ、俺の負けだ。皆の気持ちはありがたく受け取っとくとするよ」
秋子「ふふっ、祐一さんはやっぱりそうでないと」
栞「そうですっ、これでハッピーエンドですねっ!」
嬉しそうにそう言う栞。
他の少女たちも嬉しそうに笑っている。
祐一もそんな幸せな光景を見て嬉しそうだったが、ふと何かを気づいたかのように口を開いて言った。
祐一「栞、そいつは違うな」
栞「えっ、どういうことですか祐一さん?」
怪訝な顔をする栞、他の少女たちも同様の顔をする。
祐一「エンディングにはまだ早いさ、俺たちの物語はこれからが始まりなんだからな。それに…………」
栞「それに?」
栞の問いに祐一はニカッと満面の笑みを浮かべ、少女たちを見回して―――――そして、口を開いた。
祐一「ハッピーエンドなんかじゃない、何故なら――――――――――ハッピーに終わりなんてないからな!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
この話は私が初めて書いた短編です。多数のサイトに投稿済みなのですでに既読の方もいらっしゃると思います。
設定としてはKanonオールエンド後の話と言うことでご了承願います。ネタバレはほとんど無いはずですが…………
お話は入学式と時期ネタです(汗)なのに入学式自体の描写はないじゃん!という突っ込みはなしにしてください。
祐一君にラストの台詞を言わせたいが故に書いた作品です(笑)。
当初はオチに北川を持ってくる予定でしたが…………綺麗に終わらせたかったので北川の出番はなしです。
あと、ヒロインが誰になったのかは各自でご想像ください。今度はヒロインごとに書きたいですね。
では、今回はこの辺で。