「……ただいま」
「リースちゃん!?」
振り向いた先にはリースちゃん。
あの時と……リースちゃんがいなくなった一年前から、全く変わっていない彼女がそこにいた。
「おかえりなさい、リースちゃん」
「……タツヤは……うぷっ!? は、はなせ〜」
ああん! もう絶対放さないんだから♪
一年前と全く変わらない抱き心地のリースちゃんを抱きしめて、頭をなでる。
「…………サヤカ、苦しい」
「もう! めいっぱい可愛がっちゃうんだから!」
もがもが、ともがくリースちゃんを心ゆくまで可愛がってからリースちゃんを開放する。
開放されたリースちゃんはすぐに私から離れる。
相変わらず猫みたい。
「でも、リースちゃんが帰ってきてくれて本当にうれしいわぁ♪」
「…………用事が出来たからこっちに来ただけ」
「うふふ……理由はどうだっていいのよ、リースちゃん。きっと達哉くんも喜ぶわ」
「…………」
「リースちゃんが居なくなってから、達哉くんすごく落ち込んでいたのよ? 今でも落ち込んだままなんじゃないかしら?」
「………………………………………………………………………………………………そう」
長い沈黙の後、リースちゃんはそれだけ口にした。
リースちゃんは一番達哉くんに懐いていたから、きっと思うところがあったのでしょう。
「タツヤは何処?」
「あらあら♪ リースちゃんは達哉くんのこと大好きなんですね」
「……どこ?」
「それが困った事に、起きたら誰も居なかったの。麻衣ちゃんと二人で何処か出かけたのかしら?」
「……」
「そ・れ・と・も〜? 実は達哉くんはデートに行っちゃってるとか」
「…………む」
あ、少しリースちゃんのご機嫌がよろしくなくなったような。
さっきまでとは微妙に雰囲気が変わった感じがしますね。
もう少し続けてみましょう。
「で、麻衣ちゃんは達哉くんが心配で後をつけていったのかも知れないわねー」
「……タツヤはデート出来るほどモテない」
「あらあら、でも達哉くん結構格好いいからわからないわよー?」
「タツヤは女々しくて泣き虫」
あらら。リースちゃんの中での達哉くん像は女々しくて泣き虫なんですか。
リースちゃんの前で泣いちゃったりしたんでしょうか?
「でも、そういう人がいいって言う人も世の中にはいるから、そういう人が相手かも知れませんよ?」
「…………むむ」
「リースちゃん自身にも心当たりがあるんじゃないかしら?」
「…………むむむ………………………………ある」
「実はリースちゃん自身だったりしてー♪」
「ち、違う」
「あららー? そんなに慌てちゃって……」
「あ、慌ててない」
「でも、本当に何処行っちゃったんでしょう? せっかくリースちゃんが帰ってきてるのに」
「…………探しに行く」
「あらら、リースちゃん不機嫌。達哉くんも可愛そうに」
「……そんなことない。それとサヤカ……お願いがある」
「何ですか?」
「実は――――」
野良猫よりも気紛れな その2
「お…おはよ、朝霧くん」
「ああ、おはよう遠山」
「え、えーっと、えーっと……そ、その……」
「な、なんだ?」
「今日一日、不束者だから何卒よろしくお願いします!」
「え、あ、こちらこそお手数かけます……」
ペコペコと何だかわけもわからず頭を下げあう俺たち。
ふと我にかえる。
「…………」
「…………」
「…………何言ってるんだろうね、私達」
「…………そうだな、普通に言葉おかしかったしな」
遠山と顔を見合わせて笑いあう。
一体、何をしているんだろう自分達は。
「いこっか?」
「そうだな。まずは何処行くんだ?」
「とりあえず映画館へ行ってチケット買いに行って……そのあとは時間見て決めよっか?」
「了解」
俺たちのデートはこんな感じで幕を開けるのであった。
「むぅ〜」
遠山さんとお兄ちゃんが一緒に歩き出す。
一体いつの間にそんなに仲良くなっちゃったんだろう?
少なくともお兄ちゃんは……
「あ〜あ、お兄ちゃん好きなのはここにもいるのに……」
って言っても、お兄ちゃん壊滅的に鈍いし……
なんせ菜月ちゃんともあーだったし。
まぁ、菜月ちゃんもお兄ちゃんと同じくらい鈍かったけど。
それなのに……
「なんで遠山さんなんだろ?」
そりゃあ、遠山さん美人だし、明るくて性格もいいし、退屈しないと思うけど……
私だって決して引けをとっているわけじゃない……と思いたい。
「やっぱり兄妹っていうのがマズイのかなぁー……はぁ」
髪を止めてるリボンを撫でる。
お兄ちゃんはいっつもこう。
兄妹だから……
だから私なんて気にも留めないし、兄妹だからっていってずっと一緒だと思ってる。
こんなリボン一つで私を絡め取ってるのだ。
「お兄ちゃんのバーカ……」
でも……
だけどやっぱり……
「捨てちゃえないんだよね……はぁ」
溜め息をついていると映画館の中へ入っていく二人。
どうやら映画をみるらしい。
「うう、今月おこづかいピンチなのに……」
しくしく……と心の中で涙を流して千円札と銀貨数枚に別れを告げる用意をする私。
それはそれとして、どれ見るんだろ?
「今上映されているのでそんなに時間待ちしないので尚且つあの二人が見そうなもの……」
あの二人ならアクションかな?
でも状況が状況だし恋愛モノの可能性も……
「えーっと30分以内に始まるやつは、っと……」
アクションなら『Duel Savior』で恋愛モノなら『月は東に日は西に 〜Operation Sanctuary〜』かぁ……
どっちだろ?
二人の様子を見てみると、何やら激論を交わしているようだった。
お兄ちゃんが身振り手振りを交えて剣を振るような格好と共に何か言っている。
おそらく『Duel Savior』がいいと推しているのだろう。
それに対して遠山さんは人差し指を立てて何か言っている。
多分、こっちは対立していることを踏まえて『月は東に日は西に 〜Operation Sanctuary〜』を推しているに違いない。
……楽しそうだなぁ。
あ、お兄ちゃんがガックリと肩を落とした。
どうやら『月は東に日は西に 〜Operation Sanctuary〜』の方を見ることになったみたい。
肩落とすお兄ちゃんの腕を抱えて楽しそうにチケット売り場まで引っ張っていく遠山さん。
あ、お兄ちゃんが慌てだした。
腕を抱え込まれた所為だろう。
遠山さん、菜月ちゃんほどじゃないけど胸あるから……
「そ……それくらい、私にだって出来るんだから」
頑張れば……多分。
はぁ、と溜め息をついてから私もチケットを買うのであった。
映画を見終わってから、何か美味しいものでも食べようとぶらぶらと街を練り歩いてみる。
遠山はあれからずっとご機嫌だ。
よっぽど内容がお気に召したらしい。
「ねぇ、朝霧くん」
「ん?」
「朝霧くん的にはさっきの映画どうだった?」
さっきの映画というのは『月は東に日は西に 〜Operation Sanctuary〜』のこと。
内容は学園恋愛モノで、色々と紆余曲折を経て最終的には幼馴染の娘とくっついてハッピーエンドの内容だった。
「いいんじゃないか? まぁ俺はあんまり恋愛とかした事ないっぽいみたいだし、あんまり気の利いた感想言えないけどな」
「……何でそんなに他人事っぽい言い方かなぁ」
「何が?」
「いや、『恋愛とかした事ないっぽいみたいだし』とか」
「…………もしかしたら恋した事があるかも知れないってだけ。自分でも何だかよく解らないまま終わっちゃったけどな」
「へえ〜、朝霧くん、そんな経験あったんだ?」
「まぁ、程々に」
「で? 朝霧くんから見てヒロインの娘はどうだった?」
「いや、実際にあそこまで尽くしてくれる幼馴染とかいればそれだけで人生勝ち組なんじゃないか?」
「へぇ〜、じゃあ朝霧くんは人生勝ち組?」
心底楽しそうにからかってくる遠山。
俺は苦笑しながら答える。
「……あのな、以前から言ってたけど、俺と菜月はそんなんじゃ……」
「そ、それじゃあさ……」
「うん?」
「あ……朝霧くんはどんな女の子が好き……なのかな?」
「……………………」
「……………………」
「……猫」
「へ?」
「野良猫みたいな奴かな……」
「そ、そうだったんだ……」
何か遠山が引いてる。
何かまずい事言ったか?
「ま、まさか噂程度には聞いた事あったけど、まさか朝霧くんがそうだったなんて……」
「噂?」
「今度、耳としっぽ買っておくね……何処でそんなの売ってるか知らないけど」
「は?」
「さーて、ごはんごはん! あっ! あそこなんていいんじゃない?」
「どれどれ……何か高そうなんだけど」
「いーからいーから!」
「おわっ!? 腕を抱えるなってば遠山!」
……と声に出しつつも顔がにやけてしまうのは男の性か。
間違っても姉さんや麻衣には見せられないな。
なんて思ってると……
ゲシッ!
「ひぎゃっ!?」
「ど、どうしたの!?」
思いっきり足を蹴られたかの様な痛み。
思わず変なうめき声をあげてしまった。
「いや、何か今、思いっきり足蹴られたみたいで」
「……朝霧くん、今、そんなに人通りないよ? 誰も私たちにぶつかってないし」
「だよなぁ……」
はてなマークを浮かべながらちょっと高そうなレストランへ入っていく俺たちだった。
あとがき
はい、第二話です。
微妙に話が進まなかったり……翠が難しい……
とりあえず、ちょろっとだけ拍手更新予定。