注意:このSSはリースリットEND後のお話で、激しくネタバレです。まだやってない人は読まない方がいいと思います。
風が吹き抜けた。
一匹の野良猫が、俺の前から姿を消した。
気紛れな野良猫が姿を消して……
この空にただ一人しかいないことを理解して……
「うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
誰も居なくなった夜空で子供のように泣いた。
野良猫よりも気紛れな その1
それから幾らか時が流れた。
最初こそ失意のまま暮らしていたが、ずっとそうあるわけにもいかない。
大丈夫なふりはして見せた。
だけど、もしかしたらバレていたのかもしれない。
夏が終わる頃、フィーナ達が月へと帰っていった。
随分と心配をかけたと思う。
色々と迷惑をかけたと思う。
いつか、恩返しが出来る日がくるのだろうか?
賑やかな生活が夏と共に去っていった。
秋になった。
以前と同じ生活に戻ったのに寂しいと感じられるようになった。
それはフィーナ達が居なくなったからだろうか?
それともリースが居なくなったからだろうか?
多分、どっちもだと思った。
物悲しい秋も静かに流れていった。
冬になった。
身を寄せ合って歩くカップルが目立つようになってくる。
以前は気にならなかったのに、何故か無性に目に付いた。
身を寄せ合う人がいない事が初めて寂しい事だと気付く。
今頃、あの気紛れな野良猫はどうしているのだろうか?
気にはなった……だけど、それを知る事も出来ない自分に不甲斐無さを感じた。
春になった。
菜月が遠くに行ってしまった。
思えば菜月にも世話をかけっぱなしだった。
今までのお礼をと思い、向こうに行ってしまう前に気を回してみたのだが『気を回す暇があったらさっさと立ち直れー』とのこと。
あまり自覚は出来なかったのだが、どうやら俺はまだ立ち直っていなかったらしい。
驚いたが、どこか漠然と『ああ、やっぱり』と納得している自分が居た。
立ち直らないとと思うが巧くいかない。
自分の心にも嘘がつけたらいいのにと思う。
何故立ち直れないのか考えてみた。
驚くほどあっさりと答えが出た。
自分を縛っているものは後悔。
もしあの時『行くな』とリースに言えていたら。
無理矢理にでも捕まえていたのなら。
あの時の自分に一歩を踏み出す勇気があったなら。
もしかしたらリースは消えなかったんじゃないか? ……と。
今でもずっと家族の中に溶け込んでいて笑顔でいれたんじゃないか? ……と。
そんなきっと在り得ない可能性に縛られている。
そんな事をずっと考えている。
なるほど、ずっと考えていたのだからすぐに答えが出るわけだ。
この気持ちはきっと愛。
家族愛なのか恋愛なのか、こういった経験に疎い自分には解らない。
だけど、これだけは断言できた。
『リースを愛していた』
ああ、ダメだ。
どうやったって立ち直りようがないじゃないかこれじゃ。
大事な人を失った事には変わりないじゃないか。
立ち直るのには何が必要なのだろうか?
失ったもの?
癒してくれるもの?
全く新しい別の何か?
そもそも立ち直る必要があるのかとも思えてくる。
立ち直ったら立ち直ったで、失ったものにはそれほど価値がなかったのではとも思える。
やっぱり立ち直ったフリだけにしていよう。
悔恨は多く、心は混沌。
そもそも立ち直れないのだからフリしか出来なかったのだから……
春から少し経った。
紫陽花が咲いて……
梅雨が来て……
また夏がやってきた。
菜月が居なくなって少し賑やかさに欠けるが、遠山が同じ学科なのであまり退屈はしなかった。
ちなみに月方面の仕事に就けるような学科に進んだ。
もともと、普通の学科は成績的にあまりパッとしなかったし、取り柄と言えるのはこれくらいしかなかった。
それに……少しでもあの気紛れな野良猫に近づきたかったから。
そんなある日の事だった……
「映画?」
「そそ、映画」
「映画って、チケット買って、ポップコーン食べながら大画面で物語を鑑賞する映画のことか?」
「いやー……多分それ以外に映画って無いんだと思うんだけど……」
遠山と同じだった講義の試験を終えて、ご飯でも食べに行こうかとしていた所に、女子グループの輪を外れて遠山がやってきたのだ。
そして最初にもぞもぞと何かいい難そうにしていて、俺が促したところ映画に誘われたのだ。
「で? 他に誰誘うんだ?」
「え!? えーっと……その……ふ、二人がいいかなー……なんて……」
「……え?」
「…………」
「……え、あ? その……」
「そ、それじゃ明日の十時に商店街の出口でまってるから!」
それだけ言って、ダダダーと駆け出していく遠山。
さっきまで遠山と一緒だった女子グループが『きゃー』とか盛り上がっている声を尻目に……
「と……おやま?」
何とも未経験の事態に戸惑っている自分がいた。
次の日
あれから遠山を探してみたんだが遠山は見つからず、連絡を取ろうにも電話番号を知らないという事実に直面し次の日を迎えた。
断ろうと思っていたのだが、よくよく考えればいい機会なのかもしれない。
もう皆に迷惑をかけ続けるわけにもいかない。
吹っ切ろう。
……吹っ切れるのだろうか?
いや、それを確かめる為に行くんだ。
遠山が二人っきりで出かけようと言ってくれた。
……つまり、そういうことなんだろう。
「あれ? お兄ちゃん、今日は大学休みなんじゃ……」
「ああ、今日はちょっと用事があって」
休みの日に珍しく早起きした俺を麻衣が物珍しそうに見る。
テーブルには湯気のたっているご飯。
作りたてのようだ。
麻衣は俺の言い分に、ふぅ〜ん、と気の無い返事をしてから……
「もしかして女の人とデートだったりしてー」
「ぶっ!?」
なんてとんでもなくピンポイントな推察を立てた。
「そ、そんなわけないだろ?」
「…………じ〜」
「…………」
「…………じ〜」
「…………」
「…………ま、そうだよね」
なんて言葉とは裏腹に思いっきり疑惑の視線を投げかけてくる麻衣。
心なしか湯気の立ってる朝食が冷めた様な気がした。
お兄ちゃんが出て行くのを見てこっそりと後をつける。
「絶対、何か隠してる」
妹……いやいや、女の勘。
もう、なんだか怪しさ満点すぎ。
微妙に着飾っているところとか。
心なしかいつもと雰囲気が違うところとか。
まだお姉ちゃんが家で寝ているから鍵をかけて……と。
すたすたと前を歩いていくお兄ちゃん。
商店街の出口で立ち止まって辺りを見回している。
明らかに誰かを待っている。
誰だろう?
菜月ちゃん……は、向こうの大学に行ってる筈だし……ってもうすぐ大学は夏休みなんだよね。
もしかしたら、こっちに帰ってくるついでにお兄ちゃんと遊ぼうっていう魂胆なのかも。
他に考えられるのは……リースちゃん……は、さすがにないかな。
リースちゃんいたら、お兄ちゃん、あそこまで落ち込まなかったわけだし……
なんて考えていたら、見知った顔がやってきてお兄ちゃんの隣に立った。
「なんで……? なんで遠山先輩……?」
「おふぁよ〜……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
誰も居ない。
その事に気付くのに15分くらいかかっちゃいました。
朦朧とする頭を引きずりつつも食卓にすわり、冷めた朝ご飯を食べる。
「そう言えば、二人ともお出かけかしら?」
誰も居ないリビングに自分の声が木霊する。
せっかくのお休みだし、一家仲良くお出かけしようと思ってたのに……
それに、どうも今ひとつ眠気が落ちない。
「そう言えば、まだ朝の緑茶を飲んでいなかったわ」
「…………はい」
「あら♪ ありがと」
ごくごくと特濃緑茶を飲んで一息つく。
「はぁ〜♪ やっぱり朝はこれでないと」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………あら?」
そう言えばどうして今、家に自分しか居ないのに緑茶を手渡されたんだろう?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ばっ! と緑茶を渡された方を向いてみるとそこには――――
つづく
あとがき
はい、作者の秋明さんです。
けよりなSS、始めましたw
動機としましては、リースシナリオをやって、あまりにも短かった事。
Endでエンディングが流れた後、エピローグがあるかと思いきやなかったこと。
そして、某チャットで書け書けと催促された事(ぉ
そんなこんなでリースSS『野良猫よりも気紛れな』をお送りします。
なにとぞ長い目で見てやってくださいw
あと何気に拍手更新します。
拍手の感想やら、Q&Aやら、次の更新やらも書いてますんで暇があれば見るのをオススメしますw
多分、これが更新されて一時間以内には拍手更新されてますんでw ←これ書いてる時点で10月14日の23:24
それでは次のSSでまた会いましょうw