それは本当に唐突だった。
「相沢さん!!」
俺、相沢祐一の部屋に、後輩、天野美汐が飛び込んできたのは…
夏ですから♪
「いつか あの遠い〜♪」
歌を口ずさみながら部屋を片付けた。
誰かが来るってわけじゃない。
ただ、そろそろ抜け毛や埃をどうにかしようと思っただけ。
(布団も干しとくか)
夏ということもあってか、痛いくらいに陽光が降り注いでいる。
「海。こういう日に海とか行けたらどれだけいいことか」
きっと気持ちいいだろう。
「ま、掃除掃除っと」
掃除機のコンセントを差込、スイッチを入れる。
中々に賑やかな音を立てて掃除機は動き始めた。
「この吸引力…中々に侮りがたいものがありますな」
などとわけのわからないことを言いながら、真っ赤で一本の角が生えた掃除機をあちらこちらへと動かした。
五分経過。
「こんなところか」
言ってから、俺の掃除機「シャア専用掃除機」をしまった。
三倍の能力で働きます、が売り文句だった。
「何か冷たいものでも飲もうかな」
最後に布団を干して、一階に降りようとしたときだった。
下からどたどたと中々に騒がしい音が聞こえてきた。
「?」
「どうしたの?」
「…」
「わ、上行ったよ」
名雪の声と近づいてくる足音。
「相沢さん!!」
足音の主、後輩の天野美汐が部屋に飛び込んできた。
「天野!?」
いろんな意味でびびった。
てゆーか、俺の知ってる天野はこんな登場はしない。
「相沢さん、頼みがあるんです」
「た、頼み?」
「はい」
電話じゃ駄目だったのだろうか?
まさか、家に急襲をかけてくるとはね。
「あ…あの……」
頬を赤らめて、どこか言いにくそうにもじもじとしている。
「わ、私の…」
「私の?」
「水着を選んでください!!」
……………
神様ごめんなさい。
海に行きたいなんて思った私が悪うございました。
「だ…駄目でしょうか?」
えーと、お願いですから上目遣いでこっち見ないでください。
「駄目じゃあないけどさ……どういう風の吹き回し?」
「好きな人に選んで欲しいだけです」
………
「はあ!?」
今、何て言った?好きな人?
「ご迷惑だったでしょうか?」
「いや、迷惑とか、そういうんじゃなくて…」
ただ、現実を把握できていないだけ。
そりゃあ、俺だって好きなんだけどさ…いくらなんでも出来すぎてるって思ってしまうんだよなぁ。
「本気かどうか計りかねていると?」
「そりゃあ、ね。話がうますぎる。できすぎてるんだ」
「なら、これで…」
天野が俺の唇をふさいだ。
キスをした。
「ぷはぁ…」
天野が俺からゆっくりと離れ、息を吐き出した。
「…私は本気です」
「えっと……」
もう迷う事はない。
「そういうことなら、喜んで」
「祐一さん、どれが似合うと思いますか?」
いや、迂闊だったね。
とても恥ずかしいです。
だって、周りみんな女の子で、水着売り場だよ?
下着売り場よりはましだと思うけどさ。
「えっと……無難なワンピースあたりがいいかと」
美汐のほうを見ずに行った。
「わかりました。では、あとは当日のお楽しみということで私が独断で選びます」
この状況からやっと解放されるのか。
「では、後二十分ほどそこにいてくださいね」
……鬼だ。
一週間後。
2人っきりで海まで来た。
わざわざ人の少ない場所に。
「泳ぎましょうか」
「そうだな」
えっと、これが初デートということになるのだろうか?
「うぅ…緊張するなぁ」
呟いてから、美汐のほうを見てみる。
「ぶっ!」
右手と右足を同時に出していた。
つまり、緊張してるってこと。
「わ…笑うなんて、それほど酷な事もないでしょう……」
あ、沈んだ。
「いや、別に妙に意識しなくても、今までのようにやっていればいいんだって、そう思ったから」
「そう…ですね。肩肘張って、楽しくなかったり、疲れてしまっても意味ないですからね」
「そういうこと。というわけで…」
俺は美汐の手をとった。
「楽しもうか!!」
「はい!!」
結果、俺たちは翌日2人揃って寝込むほどに遊び倒した。
まぁ、泳ぐだけでもなかったんだけどな。
こんなになるまで楽しんだ。
これからも、もっと楽しめそうだ。
「祐一も美汐ちゃんも頑張るね」
寝込む俺に対して、名雪の冷ややかな一言。
「うるさい。余計なこと言うな」
「だって、ねぇ…」
いい加減、名雪に腹が立ってくる。
でも、大して力も入らないので何もしないでおく。
次があったら絶対何かしてやる。
「祐一、頑張りすぎだよ」
やっぱり、今にしよう。
「起こすのやめるぞ」
「わ、ごめん。もう何も言わない」
何だか、ここにいてもあまり休めない気がする。
俺は、ゆっくりと体を起こした。
「あれ、もう大丈夫なの?」
「全然。でも、ここにいてもあまり休める気がしないから、美汐のところに行ってくる」
俺は服を着替えて、秋子さんにどこに何をしに行くかを伝え、
「美汐のところに寝に行ってきます」
「了承」
了承を得て、外に出た。
「さぁて、行きますか」
ここから歩いて5分。
結構近いのです、はい。
そんなこんなで、間をすっ飛ばして美汐の家。
「すいませーん」
声を出して人を呼んでみる。
「はぁい」
返事があった。
多分、母親あたりの。
「すみません、自宅のほうで休んでても休めそうにないので、こちらでお嬢さんと一緒に休んでていいですか?」
「どうぞ♪」
何だか、やけに楽しそうだ。
「美汐〜祐一君が来たわよ〜♪」
母親がそう言った直後、
ドタバタタドタン、ガララガタッ!!!
何かものすごい音がした。
「あらら。慌ててるわね」
何でそんな事も無げに言えるんですか?
「今部屋に行ってごらん、いい光景が見れると思うわよ」
「は?」
言われたとおりに行ってみる。
「美汐」
「ゆ、祐一さん!?」
そこには、着替え中の美汐がいました。
これを狙ってたんですね、あなたは。
「き」
「き?」
「きゃぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!」
えーと、多分、全快したあと、俺の命はなくなると思います。