あの日から、自分はここにいていいのかと思う時がある。

とは言っても今の生活に不満も文句も無い。この街は良い街だと思っているし本当に良い友達に出会ったと思っている。

水瀬名雪、月宮あゆ、美坂栞、美坂香里、沢渡真琴、天野美汐、川澄舞、倉田佐祐理、北川潤……俺に暖かく接してくれる親友達。

水瀬秋子、俺の叔母で名雪のお母さん。とても優しい人だ。

そんなこの街での暮らし。

はっきり言って幸せだと思う。


でも、一つだけ不満がある。それは…俺 相沢祐一と言う存在。

普通の高校生。そう。普通の高校生……の筈だった。


『奇跡』の力を使えるようになるまでは。


きっかけは…秋子さんが事故に遭ってから…あゆが俺の前から消えてから…栞の病状が悪化した時から…真琴が病で倒れた時から…佐祐理さんがあの夜 魔物に襲われてから…舞が自分の剣で自分を刺した時から。

その時俺は願った。

『彼女達が助かりますように、又みんなで笑えますように』と。

そして奇跡は起きた。みんなは助かった。

始めは自分の力に驚きもしたが、嬉しかった。この力があれば、これからもみんなを……親友達を守ることができると。


でも…時が経つに連れて怖くなった。

『奇跡』の力でみんなを救う事が出来たが、この力は決して世間に受け入れられる力じゃないと思うようになった。

舞がその例だ。親戚達にさんざん利用された挙句、異端の目で見られるようになったくらいだ。

だからこの力を知られれば、俺は絶対に畏怖の存在となる。

悪しき者達に狙われる存在となる。

今度はこの力の所為でみんなが傷つくかもしれない。

でも…それでも彼女達は俺を受け入れてくれるかもしれない。

今まで通りでいてくれるかもしれない。

でも、駄目だ。このまま彼女達と一緒にいては駄目だ。彼女達にも被害が及んでしまうから。


なら、俺はどうすればいいのか。

自殺でもすればいいのか。

いや、それは出来ない。それは彼女達の心を傷つけることとなるから。絶望のどん底に叩き落してしまうから。

じゃあ、どうすればいいと自問自答を繰り返した。

そして、答えは簡単に出た。

それは…彼女達から姿を消す事だ。この街を出る事だ。


そして…俺は夏休みの初日の7月20日にこの街を出た。




〜風のトビラ〜



ガタンゴトン!!ガタンゴトン!!

電車が走る。と言っても始発電車なので乗客は俺しかいないが。

ガタンゴトン!!ガタンゴトン!!

誰もいないので俺はボストンバックの中身を確認する。

夏休みの宿題、携帯電話、ノート型パソコン、お金、預金通帳にカード、懐中電灯、衣類、ナイフ、電池、コンビニで買ったお菓子とジュース等だ。

本当なら、テントに寝袋等も持って行きたかったが時間が無かったので持っていけなかった。

その時アナウンスが流れた。

「え〜っ。ご乗車ありがとうございます。次は終点東京駅。東京駅です。関西方面と東海方面に行かれる方はお乗換え下さい。」

そこで、俺は頭を悩ます。

「何処に行こうかな。あの街を離れる事しか考えて無かったから…どうしよう。」

そう悩んでいるうちに電車は止まった。

「まあいいか…。東京駅で考えるか。でも、あまり時間はないな。もう10時だからみんな俺が街を出てった事に気付くと思うし。もしそうだとしたら…佐祐理さんあたりが怖いな。」

俺はそう言うと恐怖で震えたが、気を取り直して地図を広げた。

「なるべく東京からは離れたいけど…。」

その時だった。

「…風音市?地図で見る限りでは海岸に面していて海に囲まれた土地にある地方都市だけど…。」

その時だった。

「うっ…。」

突然頭が痛くなった。



『…又、会おうな。』

『ああ、そうだな。絶対又会おうな祐一。』

『祐一くん。絶対に…手紙書いてね。私…待ってるから。』

『いやだよう。行かないでよ。祐一お兄ちゃん。』

何だ…この光景は。駅みたいだけど…。

駅名は…風音駅…?

みんな、泣いてる。

俺も俺と同い年くらいの黒い髪の少年も青い髪の女の子も赤い髪の女の子も…。

…誰だろう。この子達は…。

…それに何だ。あの青い髪の女の子は…。名雪に似てるけど…違う。

でも、とても懐かしい。



「はっ…。」

そこで俺の思考は現実に戻った。

「さっきのは一体何だったんだ?んっ…風音駅って…。」

俺はそう言うと再び地図を広げる。其処には風音市と書かれていた。

「風音市…か。此処までだと結構距離があるけど…行って見るか。何か懐かしいと思うし…。」

そうして俺は風音市までのルートを調べ、新幹線に乗った。





風音市に到着したのはその日の夕方だった。

東京駅から新幹線やローカル線やらを乗り換える事4回。風音市に到着までに掛かった時間は考えたくも無かった。

「ふう…やっと到着したか。」

俺は電車から下りて呟く。

そして…すぐ前を見ると回想通り「風音駅」と書かれた案内板が立っていた。

だが…その時だった。

「うっ…。」

又、頭が痛くなった。



『なあ…。鳴風は俺と真とどっちが好きだ?』

『う〜ん。分からないよ。祐一くんもまこちゃんも優しい人だから。』

『じゃあ同じくらいか…。』

『うん、そうなるね。でも、どうしたの?』

『それは…。俺、お前の事が…。』

『…?』

『いや…何でもないよ。』

『変な祐一くん。』



「またか…。」

俺は頭を押さえながら呟いた。

でも、少しだけ分かった。

それはあの子達の名前だ。あの青い髪の少女が鳴風みなもであの黒い髪の少年が丘野真であの赤い髪の女の子が真の妹のひなただ。

この街で出会った幼馴染で親友達だ。

でも…彼等はもうこの街にいない筈だ。

鳴風も真達も俺が風音市を引っ越してから数年後に風音市を引っ越したんだ。

鳴風と約束した通り手紙を送ったけどある日を境に「転居不明」で戻ってきたんだよな。

だから、鳴風達がこの街にいる筈が…そう思ったその時だった。



「ねえ、まこちゃん。成績表はどうだった。」

「…全然駄目。と言っても補習の心配は無いと思うけど。」

「お兄ちゃんはここんとこうわの空だったしねえ。」

「…ひなた。余計な事を言うな。」

「あっ。ゴメンゴメン。でも、ボーッとしていたのは事実だよ。」

「ひなた!!(怒)」

「うにゅ!!お兄ちゃん、ひなたが悪かったから許してよう。」

「…たく。でも、あいつは今頃どうしてるかなと思ってね。」

「あいつって…十年前に引っ越した祐一くんのこと?」

「ああ、あいつは成績は良かったけど他人の事によく首を突っ込んでいたからよく担任とかと衝突していたからなあ。」

「そうだね。何かある度に責められてた人を庇ったり弁護したりしてたからね。」

「ああ。ホント見てるこっちがハラハラしたしな。でも、凄く優しい奴だったな。」

「うん。とても優しくて暖かい人…。」

「あっ、みなもお姉ちゃん顔が赤いよ。」

「えっ、そう?」

「うん。でも、いいんじゃない。お兄ちゃんを彩ちゃんにとられてから元気が無かったし…。それに、あれから何度も告白されてるけど全部断ってるから。」



「あれ…。」

駅前を歩きながら話し合っていた一人の少年と二人の少女を見て俺は数分固まった。

三人の人物全員が記憶の中の三人に似ていたからである。

話し声は聞こえなかったが…本当に似ていた。

でも、間違いない。きっと彼女達だ。

俺はそう思うと急いで駅から出るが…駅から出たところで足が止まった。

「あいつ等に会ってどうするんだよ。」

そう。今の俺は普通の高校生じゃない。『奇跡』の力を持つ能力者だ。ある意味異端者だ。会いたいけど…会えない。

「はは、会える訳…ないよな。」

俺はそう言って自嘲気味に笑う。

だが、その時だった。

「それなら彼女達に会いに行けばいいじゃないですか。」

「えっ!?」

其処には…麦藁帽子に白い服を着た少女が立っていた。そして、何故か今いる所は向日葵畑だった。

「確かに…前へ進む事や何かをするには勇気がいります。思うように行かない時もありますし失敗もあります。でも、それを恐れて何もしないのなら何も変わりません。」

「そうだけど…でも怖いんだ。」

少女は俺のその言葉を聞くとフッと笑った。

「貴方、意外に臆病なのですね。そんなに強い力を持っているのに。」

少女は呆れた口調で言うが、腹は立たなかった。その通りだからだ。

「そうだよ。俺は…臆病者だよ。みんなから…化け物扱いされるのが怖くて逃げ出した臆病者だよ。」

俺は力を込めて言った。

「そうですか。でも、それは自分が迷っている証拠です。」

「えっ?」

「やっぱり迷ってますね。では聞きますが、貴方自身はどうしたいのですか?」

少女はそう言うと俺に顔を近づける。

「さあどうしたいのですか?答えてください。」

そう言って更に俺に迫る。


俺は…。

俺は…。

どうしたいのだろう?

いや…

答えは出てる。

どうしたいのかは分かってる。

本当は彼女達に会いたいって…。

でも…会えない。

会うのが怖い。

だから、会えない。


だが、その時だった。

「その顔からしてもう答えは出ているようですね。」

「えっ?」

「貴方本当は彼女達に会いたいのでしょう?でも、自分の力の事を考えると会えない…違いますか?」

「……。」

「無言という事はどうやらその通りのようですね。」

そう。全くその通りだ。だから俺は彼女達に…鳴風達に会えない。

「でも、どうなるのかは会ってみなければ分かりませんよ。」

そうかもしれない。でも、会うのが怖い。

だが、その時だった。

「本当にそれでいいって…会わなくていいって思っているのですか?」

「えっ?」

「じゃあ聞きますが、何で貴方はこの街に来たのですか?」

それは…思い出した。

「分からない。でも、急に鳴風達の事を思い出して…それでこの街に来た。又、鳴風達に会えると思ったから。」

そうだ。最初は名雪達から離れる事が出来るのなら何処でもいいと思っていたが、あの時から、鳴風達の事を思い出してから…鳴風達に会いたいと思ったからこの街…風音市に来たんだ。

「それなら、会いに行けばいいじゃないですか。」

そうだった。こんなの簡単に解決出来る問題だったんだ。

只、俺が迷っていただけだったんだ。

その事をこんな子に悟らされるなんてな。

俺もまだまだだな。


「そうだな。素直に会いに行けば良かったんだよな。」

「はい、そうです。」

少女はそう言うとくすっと笑う。それにつられて俺も少し笑った。

「ありがとう。大切な事に気付かせてくれて。」

「いいえ。いいですよ。」

俺はそう礼を言って鳴風達を追う事にしたが、その前にある事を思い出した。

「君の名前を教えてよ。忘れずに覚えておきたいんだ。俺の名前はは相沢祐一って言うんだけど。」

「私の名前は…月代彩です。相沢祐一さんですね。私も貴方の名前を覚えておきます。」

こうして俺達は別れた。月代彩ちゃんか…。覚えておこう。



祐一と別れてから数分後…彩は一人で呟く。

「ふう。彼が相沢祐一さんですか。真さんの幼馴染という事はこの前真さんにアルバムを見せてもらったので知っていましたが…世話の焼ける人ですね。説得する為に結界の「ちから」を使う羽目になるなんて。でも…彼ならみなもさんの心を…。」

彩はそう言うと少し思案顔になる。しかし…

「でも、大丈夫ですね。彼はとても優しい人ですから。」

そう呟くと彼女は結界の「ちから」を解除し、その場を立ち去った。



それから俺は彼女達の足取りを追った。

One Dayという喫茶店から風音噴水公園、商店街等を回るがなかなか見つからなかった。しかし、風音学園の前でとうとう彼女達を見つけたが…そこで真とひなたの兄妹はみなもと別れてしまった。

鳴風は学園へ入り、真とひなたは商店街へと向かった。

困った。これではどちらかにしか会えない。

だが、その時だった。

「うっ…又かよ。」

又、頭が痛くなった。



『ねえ、どうこの弾き方でいい?』

『どおって…音程ずれてるよ。』

『えっ…。』

『って、落ち込むなよな。そう簡単に上手く弾けるもんかよ。』

『うん。でも、祐一くんはこの曲を上手く弾くから。』

『でも、焦りは禁物。』

『うん、分かった。でも、この曲って何ていうの?知りたいな。』

『この曲は…「風のトビラ」って曲だけど。』

『いい名前の曲だね。ねえ、この曲を上手く弾けるようになったらみなものお願い一つだけ聞いてくれない?』

『先は長そうだと思うけど…いいよ。上手く弾けたら鳴風のお願い一つだけ聞いてあげる。でも、俺の出来る範囲内でのことだそ。』

『うん。』



「はっ…。」

又、過去を思い出したみたいだ。

でも、お陰でどちらに会うのかの決心はついた。

「鳴風に会いに行こう。」

俺はそう決心すると風音学園の中に入った。



俺は風音学園に入ってから鳴風を探す。でも、なかなか見つからない。

俺の足音が廊下に響くが別に気にならなかった。

只、今は彼女に会いたかった。

それだけだった。

「どこにいるんだろう?」

俺が足を止めて呟いたその時だった。

屋上からハーモニカの音色が聞こえた。

とても懐かしい。これは…。

「これは…「風のトビラ」。俺が昔鳴風に教えた曲だ。」

そして、俺は曲が何処から流れてくるのかを知るために目を閉じた。

「屋上からだな。」

俺はそう言うと屋上に向かって走った。


屋上まではとても遠かった。

でも、そんなに苦にはならなかった。

只、一分でも一秒でも早く鳴風に会いたかった。

そして、暫く走ってから屋上のドアに辿り着いた。

このドアを開ければ鳴風に会える。

そう思って俺はドアのノブに手を伸ばす。

幸いにも鍵は掛かっていなかった。

そして、俺はそのまま…ドアを開けた。




俺がドアを開るとそこには…茜色に染め上げられている街をバックに一人の青い髪の少女がいた。

その少女は…鳴風はドアを開ける音に驚いたのかハーモニカを弾くのを止めて俺をじっと見ていた。

俺も…その様子を見て何を言えばいいのか分からず硬直した。

しかし、凍り付いていた時間は動き出した。鳴風によって…。

「あ、ええと…。」

でも、まだ戸惑っていた。

「こ、こんにちわ。」

「あ、ああ。」

そして、俺もそんな鳴風を見て戸惑ってしまった。しかし、直ぐに落ち着いて聞いた。

「ハーモニカ、吹いてたのか?」

「うるさかった…ですか?」

「いや、そんな事は無いよ。ただ…。」

上手く言葉が出ない。

「只、懐かしい曲だったから。この曲は俺が…昔、幼馴染の女の子に教えた曲だったから。」

俺はそう言うとつい笑ってしまった。

「不思議ですね。この曲は私にとっても、思い出の曲なんです。」

鳴風は言った。

「この曲は小さい頃、よく遊んだ男の子が私に教えてくれたんです。」

そう言ってぎゅっ、とハーモニカを胸元に抱く。

「その子は引っ越していったけど、引っ越す前に約束したから。この曲を上手く弾けるようになったら私のお願いを一つだけ聞いてくれると約束してくれたから。」

目じりに涙を浮かべた鳴風が、思い出の中の鳴風と重なった。

「だから…頑張って練習しました。その子に再会したらこの曲を聴いてもらいたかったから。」

言葉を失った。そして、目元が潤んでいるのが見えた。

――ふぅ。

それに対して俺は大きく息を吐く。

「…確かに上手く弾けるようになったな。」

「えっ?」

「昔の約束しかも十年前の約束なんか覚えてるか、普通。」

「えっ?」

「約束だ。お前の願いを一つだけ聞いてやるよ。」

「えっ?ひょっとして…。」

「ああ、相沢祐一だ。」

鳴風は俺のその言葉から数秒の間、呆然としていた。そしてその表情が笑顔に変わり、涙の一滴が目尻からこぼれた。

そして、

「ひさしぶりだね……祐一くん……お帰りなさい。」

震える声で言った。

そして俺も、

「ああ、ひさしぶり……鳴風。そして……ただいま。」

と笑顔で答えた。





それから俺達は風音噴水公園に行きこれまでの事を話し合った。

俺はあの北の街での過去にケリをつけた事や自分の能力について話した。と言っても『奇跡』の力とは言わなかったが…。

そして、鳴風は父親が死んでしまった事やひなたと自分が姉妹だった事や大好きだった真が彩ちゃんを選んだ事について話してくれた。

これを聞いて俺は自分が恥ずかしくなった。甘ったれだと思った。

そして、『奇跡』の力の事で悩んでいた自分は何て愚かなんだと思わずにはいられなかった。

鳴風は俺よりも苦しんでいると分かったから。

だから、俺は鳴風を救いたかった。

でも、どうすればいいのだろう。

そう、悩んでいたその時だった。

「ねえ、祐一くん。私あの曲…「風のトビラ」を上手く弾けるようになったから一つだけ私のお願いを聞いてくれるんだよね?」

鳴風はいたずらっ子のような顔で言った。

「ああ。でも、俺の出来る範囲内でのことだそ。」

「うん、いいよ。祐一くんの出来る範囲内でのお願いだから。」

そして、鳴風は深呼吸をしてから…言った。

「私は祐一くんのことが好きです。だから、私と付き合ってください。」

「えっ?」

俺はその言葉を聞いて一瞬固まった。

しかし、直ぐに気を落ち着かせてから言った。

「でも、俺でいいのか?さっき言った通り俺は強い力を持ってて…。」

俺がその先を言おうとしたその時だった。鳴風に指を突きつけられてその先の言葉を言うのを防がれた。

「別に私は…そんな事気にしないよ。そして、それはきっとまこちゃん達も同じだよ。それに…強い力の持ち主であっても祐一くんは祐一くんでしょう。」

俺は鳴風のその言葉に何も言い返す事が出来なかった。そうだった。何を悩んでいたんだ俺は。

何かあったらこの力で…『奇跡』の力でみんなを守ればいいんだ。前向きに考えればどおって事なかったんだ。

俺はそう思ってふっと笑ってしまった。

だが、その時だった。

「でも、祐一くんはどうなの?私の事どう思ってるの?」

鳴風が悲しげな顔で質問してきた。

俺はそんな鳴風の顔を見て思わずたじろぐ。でも、すぐに動揺している心を落ち着かせて言った。

「いいよ。と言うよりも俺もあの時から鳴風の事…好きだったし。」

そう。あの日俺が鳴風に俺と真とどっちが好きだと聞いたのは…あの日から十年前から鳴風の事が好きだったから。

そして、俺の返事を聞いて彼女の顔は笑顔になる。そして…

「ありがとう。」

と言って俺の手を握って握手をした。

だが、そこで鳴風は俺にある注文をしてきた。

「今後は鳴風じゃなくてみなもって名前で呼んでね。恋人なんだし。」

「えっ?」

「駄目?」

「分かったよ。」

俺がそう言うと鳴風は…いやみなもはやっと手を離してくれた。





「風のトビラ」

それは、俺と鳴風との思い出の曲であり大切な曲。

でも、俺はこの曲をいつ何処で知ったのかは知らないし覚えていない。

いや、この曲に関しては殆ど知らない。

分かるのは弾き方だけだ。

でも、俺はそんなのはどうでも良かった。この曲のお陰で鳴風と再会できた。「奇跡の力」の恐怖から解放された。それだけで充分だった。

そして、これからの夏休みはと言ってもまだ始まったばかりだがみなもと…好きになった人と一緒に過ごしたいと思った。

それは…真達よりもいや誰よりもみなもと深い「絆」を作りたいと思ったから。



〜FIN〜