翌日。四人で柵川中学に入学届を出すと、校長は泣いて喜んでいた。LEVEL5が二人も! とか言ってたな。うん、悪い気はしない。
その日のうちに寮が与えられ、そこで一旦制理、重音さんとは別れた。
寮部屋は、帝督と隣同士。最上階ということで見晴らしもよく、三年間過ごすのになんら問題はなさそうだ。
俺が寮部屋に届いた物資を片付けていると、チャイムの音がした。
「……帝督か」
「よう、買い物行かねぇ?」
適当な身なりで、繁華街へと出かける。買う物を聞くと、主に食材だった。お前、意外と自炊派か。
ちらちらと、通りすがりの女の子たちが帝督を見ていく。
「「ッツ、これだからイケメンは……あ?」」
帝督に向かって文句を言うと、同じ言葉が帰ってきた。なんすか、嫌味っすか?
ぶっちゃけ身長は同じくらいだけれど、コイツのツラはどう考えたってモデルかなんかだ。元の世界でいうなればジャニ〇ズ。
「なんでハモんだよテメェ」
「うるせぇよ帝督このイケメン野郎が」
「テメ……ハァ。ほら、着いたぞ」
目の前にはスーパー。学園都市といえど、スーパーは一緒か。
……あん?
「オイガキ! 何で黙ってんだよ!」
「っく!」
……オイオイ。何事だよ。スーパーの脇で女の子が数人に囲まれてやがる。路地裏ならまだ可愛げがあるが、白昼堂々天下の往来で何してんだよ。
って、いつの間にか帝督スーパー入っちゃってるし。はぁ、俺が助けるか。
「……何事だテメェら。白昼堂々と」
「あぁ!? 部外者はすっこんでろ!」
「いやぁ、部外者どうこうじゃないだろ……大丈夫か?」
「このくらい……超平気です」
「ふざけてんじゃねぇぞクソガキ!」
俺が手を差し伸べた少女に、殴りかかろうとする輩が一人。
「ちょっと黙ってろハゲ」
「ぐわぁ!」
目の前のスキンヘッドの腹を爆発させてみた。
「何しやがった!?」
「殺すぞコルァ!」
喚く男ども。黙れっての。
「話ができねえからだぁってろ」
帝督との戦いのあと、かなり自分の能力を研究した。考えれば考えるほど、俺の能力はチートなんだよ。
……ま、こんなんでいっか。死なない程度に。
瞬間、彼らの周囲に何かが大量に落ちたような錯覚がした。だが、それがなんなのかは全く分からない。それは当然だろうな。分子なんて人に見えるようなものじゃない。
それがたとえ、周囲の20パーセント以上を占める物質だったとしても。
「……ぁ……」
「……ぅぁ……」
「苦しいか?」
俺がバタバタ倒れていく相手に問いかけると、酷く怨嗟の籠った眼で睨みつけてくる。
ま、自分たちが死にそうなのに、愉快そうな目してんだからしょうがない。
「今、酸素を固体化してみたんだ。なんか周囲の影響もあって落ちちゃうから、疑似的にお前らの周りから酸素が無くなった状態だな」
「ぇと……え?」
見れば隣で少女が唖然としていた。
まぁ、目の前で大量殺人が起きる瀬戸際なんだから仕方がないか。
「こんなこと、できるんですか……?」
「超能力者なもんで」
「え? えと……」
混乱している彼女を余所に、俺はそのままこの場所から背を向ける。
「さぁて、俺はフェミニストなもんでな(嘘)、女の子が傷つくのを黙ってみてるわけにゃいかねぇんだ」
「今、かっこ嘘って超聞こえましたけど!?」
「……っつーわけで、そのまま倒れてな」
超スルーですか……という少女の声を無視して、ある程度の酸素だけ元に戻すと。
そのまま路地を去ることにした。
@
「……さて、少し話をしようか」
場所を変えて路地裏。そこにあったドラム缶に少女を座らせ、俺は目の前にしゃがみ込んだ。
改めて見ると、まともな服装じゃない。工場の作業服みたいな格好だが、ところどころ肌が露出しているほどボロが酷い。一体どんな仕打ちを受けてきたのかと、今にも詰問したいくらいだ。
「とりあえず、名前は? 俺は藍藤静那ってんだ」
「絹旗……絹旗最愛です」
「じゃあ、最愛。何があったんだ? 服もボロボロだし、傷も見える。とても、まともとは思えないんだけど」
俺が聞くと、最愛は俯いて呟いた。
「……暗部を知らない表の人間が、超分かるわけないです」
「……それでもだ」
「表の人間を引き込むわけにはいかないです」
「あのな……とりあえず話してみろ」
「だから! 表の人間は超踏み込んじゃいけない問題なんです!」
キッと俺を睨みながら声を上げる最愛。だけど、目には涙が浮かんでいた。
表に裏ねぇ。よくわかんねぇけど。
「なぁ最愛。表とか裏ってさ、どこで区切られてんだ?」
「……」
「俺には最愛が言う裏とか表は分からない。でも、それって分からなくてもいいんじゃないか?」
「……?」
「むしろ、分からないほうが良いと思う。自分が裏の人間だと思うから、表の人間を遠ざける。逆もまたあるかもしれない。でもさ、そんなの、あっちゃいけないだろ?」
諭すように、最愛の肩に手を置いた。彼女はボロ布のような右袖で目を押さえて嗚咽していて、とても話せる状況じゃ無さそうだ。だから、俺が一方的に話す。
「大丈夫。最愛は裏とか表とか関係なく、良い子だと思うよ。今だってきっと、俺を巻き込まないために話さなかっただけだろうし。それは、最愛が否定しても気にしない」
そっと、彼女を抱きしめる。俺の胸に、ちょうど顔が来るように。泣くなら、人に縋ってなけばいい。
一頻り泣いた最愛は、少し落ち着きを取り戻したあと、ことの次第を話してくれた。暗部の組織で下働きをさせられ、チャイルドエラーなのをいいことに実験すらもされ……クソ野郎。
「ちょっと待ってろ最愛」
「ふぇ?」
俺はケータイを取り出し、二つの電話をすることにした。
「…………お。もしもし、帝督か?」
『あん? テメェどこに行ったかと思えば』
「悪いんだけどさ、買い物終えたら荷物を置いて、スーパーの前きてくんねぇか?」
『はぁ!? なんでだよ』
「簡単だよ。……俺らの伝説の始まり、冒頭部分を綴るだけさ」
『……。すぐに行く。待ってろ!』
よし。とりあえず一人。
「今の相手は誰なんですか?」
「俺の親友さ」
「へぇ……超羨ましいです……」
「さて、もう一つ」
「…………繋がったか」
『なんのようだ……いや、分かっているさ。許可しよう。あの研究所はもう必要ないからな』
「どうやって知ったかは聞かないっスけど……もう一つお願いがあるんスよ」
『……?』
「戸籍。俺に妹を追加」
『なるほど。君は優しい人間のようだ』
「偽善ッス」
よし、これでオッケーだ。
「今の相手は誰なんですか?」
「統括理事長さ」
「へぇ……超羨まs……て、え!? 統括理事長!?」
「あぁ。俺の恩人……かな? 変態だけど」
「変態!? 超統括理事長のイメージが!」
俺の脳内に抗議の念話が届いた気がするが、気にしない。
「静那さん……統括理事長と超パイプがあったり、超トンでもない能力を使ったり……超何者なのか問い詰めます!」
「……しがない中学一年生だよ?」
「超違います……」
茶番は置いておいて……とにかく。最愛を痛めつけた施設をぶっ潰す。
最愛の案内で辿りついたのは一つの研究所。
ここで最愛は実験動物にされていたらしい……。
「許せるわけ、ねぇな」
「あぁ。きてくれて助かったよ、帝督」
ことの次第は説明した。あとは、俺と帝督でこの研究所に突っ込む。
「私も超行きたいんですけど……」
「ダメだ。お前の能力は知られているし、当然それに対する対策は打ってあるはずだ。なら、わざわざ最愛を危険に晒すことはない」
俺が首を振ると、最愛は黙って頷いた。
しおらしいのが、少し愛らしい。
「終わったら、一緒に映画見に行こうか?」
「映画……ですか?」
「俺も詳しくは知らないんだけど、最近はB級映画ってのが流行らしい。な? 行こうぜ」
微笑んで最愛を見やる。彼女は頬を赤らめて、頷いた。
「超約束しましたからね?」
「あぁ。絶対だ……帝督、行くぞ!」
「へいへい……俺もさっさと里奈ちゃん攻略するか」
なんだかテンションの低い帝督だったけど、なんかあったのか?
最愛を研究所の前に置いて、俺たちは走り出した。
@
「侵入者を発見しました」
「何? ……見ない顔だな。まぁいい。実験動物は放っておけ。キャパシティダウンを設置しろ!」
「「了解!」」
「さて、我々は避難だ……いや、頭に乗っている小僧を殺すのも悪くない、か」
「意外に、誰もいねぇんだな?」
「みたいだけど……油断はナシで行こう」
「もちろん」
とにかくすることは二つ。ここのシステムのダウンと、主犯研究者の排除。
どこに居るかまでは分からないが、とりあえず最愛から地図は貰ってんだ。地下三階のデカい施設が研究所に違いねぇ。
「静那」
「あん?」
走りつつ、横から帝督の声。
「こっから、俺たちの伝説が始まるんだよな?」
「あぁ。名実ともに最強の二人組……その幕開けだ」
「……ガラにもないほどテンション上がってきちまった……最愛ちゃんのためにも、俺たちのためにも、この研究所はぶっ潰す!」
「当然!」
地下二階から、降りる階段を見つけた俺たち。実際何度か襲撃があったみたいだが、帝督の未元物質で全て防いでいる。ぶっちゃけ、気付かないうちに帝督が片付けていた。
「さて、おそらくこの階段の下が研究施設だ」
「あぁ……所謂ラスボスだな」
「行くぞ、帝督!」
「もちろんだ静那!」
俺の能力で階段を破壊し、そのまま飛び降りる。
大きな扉があったが、帝督の翼で粉砕した。
「おやおや、画面で見るよりもガキじゃないか」
「テメェが主犯か……」
白衣を着た、白髪のジジイがそこに居た。見るからに小バカにしたような視線。俺たちを前にして、余裕だな。能力は見てると思うんだが。
「お前らガキどもがどんな能力を使うかなんて関係のないことだ……ワシの研究の邪魔はさせん!」
「最愛を実験動物にしておいて何をふざけたこと抜かしてやがる!!」
「最愛……? 検体番号で言ってもらわんとどれのことやらわからぬな」
「このや「テンメェ!!!」帝督!」
帝督が低空飛行で突進する。が、ジジイはニヤリと笑って、ボタンを押した。
キィィィィィィィィィィン
「ぐわ!?」
「……帝督!」
突進途中で帝督の翼が消滅し、帝督は頭を抑えて屈みこんだ。……俺も頭が割れそうだ。
それを見たジジイはあざ笑うように言う。
「こいつは能力者に反応する装置だ……お前らがどんな能力者だろうと関係ない……その意味が分かるかね?」
「……」
俺と帝督が黙っていると、自分に酔ったジジイはさらに続ける。
「これはまだ未完成だ。強い能力者にしかあまり反応せんしの。だが、好都合だ。お前らはかなり高位の能力者だったみたいだしな……ふぇっふぇっふぇ! ざまあないの!」
俺と帝督が何事も無かったようにジジイの話を聞いてても、まだ続ける。
「ワシはまだまだこの研究を続け、ゆくゆくは能力者どもを従えて学園都市を掌握する! まさに、まさにこれは最高の発明! ワシは……ワシは! 最高の科学者となるのだ!」
帝督、欠伸すんなよ。
「ワシは……ってむぅ!? なぜ! なぜキャパシティダウンが効いてない!」
あ、やっと気付いた。ちなみに、キィィィィィンって音はまだ鳴ってる。
「この音の振動を阻害することなんて造作もないしな」
「なにぃ!?」
俺が言うと、帝督も続ける。
「ついでに、今から俺たち反撃するから。ちょうどいい、この音波を、テメェみてぇなジジイにダメージを与える音波に変えてやるよ」
「そんなことができるわけが……」
「普通はな。だが、俺の未元物質にその常識は通用しねぇ」
「なんだと……未元物質……?」
また俺にバトンタッチ、帝督に続けて俺が口を開く。
「ついでにこの部屋の電気とか、既に凍結させてるからよろ?」
「有り得ない! そんなことをいつ!?」
「さっきお前が喋ってる時能力使って」
「できないと思うか? 残念だが、法則(ルール)は俺が作り出す」
「法則……まさかお前ら、新参者の“法則解析(アナリーロウ)”と“未元物質(ダークマター)”!?」
ジジイがほざいているが、俺たちは演算の真っ最中。ジジイ、怯えて失禁しやがった。きったねぇなオイ。
「は、はははははは! お前らそんなことしたら統括理事会から睨まれるぞ! いいのか!? ワシのバックは大きいんだ! 学園都市全体を敵に回すことになるぞ!」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ……」
帝督が頭を掻いて言う。さて……準備はいいか? 帝督。
「「―――逆算、終わるぞ」」
@
「おかえりなさい」
戻ってきた俺たちに、微笑んで最愛はそう言った。彼女なりに言葉を選んでいたのかもしれない、自然に出たものかも知れない。でも、俺にとって今一番嬉しい言葉であったことは間違いない。
「あぁ、ただいま」
「良かったな、最愛ちゃん。もうここに戻る必要はねぇよ」
帝督が最愛に笑いかける。そんな帝督に最愛はぺこりと……深く頭を下げた。
「とにかく、協力ありがとうな、帝督」
「何言ってんだ? 俺たちの活躍だろう? 礼を言う立場も、言われる立場もねぇ」
「はは、そっか」
笑って二人で、拳を突き合わせた。
そういえば、悪ふざけしたあとはいつもこうしていたな……大成功って。
「そんじゃ、俺は一足先に寮に戻るわ。静那は最愛ちゃんにしっかり生活用品かってやれよ〜」
「あ、おい! ……飛んで帰るとか。人様に見られたらお仕舞いだろメルヘン野郎……」
俺の呟きが聞こえたのか、最愛は横でクスクスと笑っていた。
と、さて。
「帝督に言われたとおり、行くか」
最愛のほうに向き直ると、なにやら彼女は腿に両手を挟んで俺から目を逸らしていた。
……?
「どうした?」
「さっき……統括理事会の人から超連絡があって……それで……」
統括理事会? ……あぁ。アレイスターさんに頼んだアレか。
「ふ、ふつつか者ですが、よ、よろしくお願いします……」
「それ、お嫁に行く時のセリフじゃね?」
「お、およ、お嫁!? ……うぅ、超恥ずかしいです……」
まぁ、とりあえず戸籍上は妹になったわけだ。
「これからよろしくな」
「は、はい!」
最愛の可愛らしい微笑みに、ついつい俺も感化されて笑みを返した。
「とりあえず、買い物行くか」
ボロボロの自分の服装に気付いたのか、最愛ははずかしそうに頷いた。
「は、はい……」
最愛との買い物を終えた俺は、寮の部屋に戻ってきていた。
「さて……とりま晩飯にすっか」
「あの……」
「あん?」
部屋に入って伸びをしている俺の後ろから声がかかる。振り返ると、最愛がなにやらキラキラした目でこちらを見ていた。
ちなみに服装はすでに変わり、可愛らしいフリル付きのミニスカートとブラウスという身軽なものになっている。
あん? 作業服? んなもん捨てたわとっくに。
「……どした?」
「私、超料理したいです!」
「……できるなら文句は全くない」
「はい!」
嫌な予感がしないでもないが……まあ彼女が楽しめるならその方がいいか。
喜び勇んでキッチンに飛び込んでいく最愛。冷蔵庫を覗き込んで、何にするか決めているのだろう。
「お、俺も手伝おうか?」
「超結構です!」
「……あ、そう」
嫌な予感しかしないのは、気のせいだと思いたい。
手持ち無沙汰になった俺は、最愛に通わせる小学校を選ぶことにした。
帰り際に聞いた彼女の能力はLEVEL4の窒素装甲(オフェンスアーマー)……どうやらその能力を研究されていたらしい。
でもまぁ、ぶっちゃけLEVEL4もあるのであれば、どの学校でも問題ないだろう……ということで、俺の通う柵川中学近辺に絞って探す。……そういえば。
「最愛〜?」
「はい! 超頑張ってます!」
……いや、聞いてないよ。ここまで来たら信用するって。
「じゃなくてさ、今何年生か分かる〜?」
「はい! 浪人生です!」
……いや、研究所にずっと居たらそうかもだけどさ……。
「最愛何歳〜?」
「お、乙女の年齢を「あ〜もう面倒臭い! 小学校に転入させるから年齢教えて!」……あ……そういうことでしたか」
やっと分かってくれたようだ。返答を待つ。
「でも……私なんかまで学校行き始めたら超お金掛かりますよ……?」
フライパンを木へらで叩くような音とともに、最愛の寂しそうな声がする。
「あぁ、平気平気。アレイスターさんの計らいで俺、月々5000万貰ってるから」
「桁が超違う!?」
なんか、俺の能力に対する研究のためと、LEVEL6にしない慰謝料的なものらしい。帝督に言ったら、俺の倍以上じゃねぇか! って怒ってた。いや……この半分でもかなり充分なんだけどね。
「だから平気〜」
「そういうことでしたら……今五年生です」
「ん、了解」
五年生か。まぁ、六年生よりは転校も不自然じゃないな。あ、でも前の世界で俺のクラス、六年の冬から転校してきたヤツ居たっけ。さて……ここと、ここのどっちかで最愛に選ばせよう。
「超出来ましたぁ!」
「……覚悟を決めるか」
「ちょっそれはいくらなんでも超酷い発言だと思います!」
テーブルの上に様々な料理が並ぶ。っていうか……。
「なんか……滅茶苦茶美味そうなんスけど先輩……」
「ふふん! 思い知ったですか!」
全体的に中華風なのは何でか知らないが、すごい。チンジャオロースーにショーロンポー、フカヒレスープに海鮮チャーハン。最愛サン、度重なるご無礼、お許しください。
俺の正面にちょこんと最愛が座り、二人で食事を開始する。
「うまぁ! 何コレうまぁ!」
「研究所での唯一の暇つぶしが料理本でしたからね。超舐めないでください!」
「いや……マジでうまいっす最愛サン」
「ふふ……ありがと」
「!」
満面の笑みの最愛。とてつもなく可愛いんですけど。今日からこの子が妹なんだよな……。
「あ……あの……」
「ん?」
感慨に浸りながらチャーハンをパクパクしていた俺に、最愛が不安げな視線を向けてくる。
「なんて呼べば……いいですか?」
「なんでもいいよ。最愛が好きな呼び方で。っつーか兄妹なんだ。敬語なんざ使わなくていいよ」
「あ、いえそれは私のデフォなんで……」
そう言って照れてから、一息置いて最愛は、俺と目を合わせて笑顔でこう言った。
「お兄ちゃん、でいいですか?」
「あぁ、それでいい」
@
「最愛〜、風呂沸いたから先入って〜」
「え……いやお兄ちゃん超先でいいですけど」
「いいから入れ」
「えぇ〜……」
とりあえず洗面所に最愛を押し込んだ俺は、ケータイにメールが来ているのに気がついた。
『from てーとく
text 明日入学式だとよ。新入生の集合は9:20だっつーから、9:00にお前んとこのチャイム押すわ』
もう明日っから入学式なのか。楽しみだな、学園都市の学校。
『To てーとく
text ほいほい了解。そういやさ、最愛の料理メチャメチャ美味いんだわ。30分前にウチ来てさ、三人で飯にしねぇ?』
送信っと……。すると、間髪いれずにメールが来る。こいつの返信速度は異常だ。
『from てーとく
text マジで!? 行く行く! んじゃ、8:30に行くな……
……あと。お前俺のアドレス帳名の“てーとく”マジやめろ。この前お前のケータイ見た女の子が俺のキャラ誤解してたから』
知るか。
「超出ましたよ〜」
湯上りでほんのり上気した最愛がバスタオルを首にかけて出てくる。
「あぁ、じゃあ俺入ってくるから、どっちの学校行きたいか決めておいて」
「あ、は〜い」
パンフレットを受け取った最愛を部屋において、俺は風呂に向かった。
@
最愛は静那が風呂に入ったのを確認すると、パンフレットを眺めて一人憧憬の念を噛み締めていた。
なんと言っても初めて“学校”に通うのだ。正直当然といえば当然かもしれない。
右の学校は常盤(じょうばん)小学校。名門常盤台中学の系列で、LEVEL2以上の能力者でないと受け付けない。ちなみに女子校である。
左の学校は河瀬(かわせ)小学校。能力などの縛りはないが、こちらも優秀な能力者を輩出し続ける名門。ちなみに共学。
「……どっちにしようかな。超迷いますね」
いずれにしても学校に行けるので、最愛にしてみれば静那が“こっち”と決めれば何も言わずに従うのだが。
「お兄ちゃんだったらどっちに行きますかね……あ、常盤は女子校か。……む? お兄ちゃん?」
何かが引っ掛かった最愛。実際この時最愛自身は気付いていないが、やはり家族というものに惹かれていたのだろう。そんなわけで、引っ掛かるものを懸命に探していた最愛だったが……。
自分→小五
お兄ちゃん→中一
つまり……
自分→中一
お兄ちゃん→中三
結論。一年間一緒に登校が可能!
引っ掛かりは完全に消えた。
「うん、中高一貫は友達とのふれあいも超少なくなりますしダメですね。そうです、絶対に小学校は単体じゃないとダメなんです。人とのふれあい超大事」
無理やり結論付けて、最愛は河瀬小学校に通うことを決める最愛。
と、そこで静那が風呂から出てきた。
@
最愛がかなり勢いよく「河瀬小学校がいいです!」と言ってきたので呑まれて頷いてしまったが、ふむ。
やっぱり共学ってことは、最愛も男子が気になる年頃なのかね?
『ダメだコイツは……』
「アレイスターさん!?」
……気のせいか。
あかん、初期の頃文章つうか厨二病過ぎワロタ。
ま、そこを潜り抜ければギャグの楽園が待っている!! 頑張れ俺!