目が覚めると、暗闇だった。
「……ここは?」
『ここは……学園都市の中心だよ。藍藤静那くん』
「!?」
声のしたほうを見ると、円柱状のビーカーのようなものに入った、逆立ちの変態が居た。
『変態などと言われたのは初めてだが……』
「読心術ですか?」
声に出してはいないはず……。
『違う。君は今、身体検査の会場で眠っているはずだ。意識だけを、ここに持ってきた』
意識、だけを?
『そう。私はアレイスター・クロウリー。学園都市の統括理事長をしている』
「統括理事長!?」
逆立ちの変態が統括理事長だなんて……。
『だから変態ではあるまいに……』
「それで……なんで俺はここに?」
『あぁ、そうだった。君の能力についての話だ』
「……?」
『君の能力は“法則解析(アナリーロウ)”……全く、私もこんな反則が出てくるとは思っていなかったよ』
法則解析(アナリーロウ)?
『君の能力は、この世の法則を捻じ曲げる能力だ。最も、人の身で出来ることには限界があるのだが。とにかく、一つだけ言って置く。この学園都市で、君の存在は無敵に近い』
「……!」
俺の現実が認められたってことか!?
『まぁ端的に言えばそういうことだ。能力の発現レベルはLEVEL5。つまり、現時点での最強だ。さて……本題に移ろう』
「なんで俺が呼ばれたか?」
『そうだ。君はこの学園都市がなんのために存在しているか知っているかい?』
確か……LEVEL6だっけ。
『そう。神ならぬ身にて天上の意思に辿りつくもの……LEVEL6を誕生させることだ。はっきり言えば、現時点では君が一番近い』
「!?」
『だが……なのだよ。君の力は先ほども言ったようにほぼ無敵。そんな人間がLEVEL6にまで上り詰めてしまったら、もう人間界では誰も対処できなくなる。君の周りに誰も居なくなって孤独になるのは嫌だろう?』
「……」
『結論を言おう。君はLEVEL5だが、LEVEL6にはしないつもりだ。メインプランは今まで通り、一方通行……第一位にやってもらう』
「俺はどうすれば?」
『序列、は知っているね?』
「LEVEL5にだけある、アレですよね?」
『そう。君の序列は第零位。これは公開するつもりだ。なんで零か、までは絶対に他言無用だ。……まぁ、同じLEVEL5になら言ってもいいぞ。君の親友になら、ね』
「帝督はLEVEL5なんですか!?」
『あぁ。おそらく序列は第二位。彼にはスペアプラン……LEVEL6シフトの二番手を担ってもらうからね』
そっか……帝督はLEVEL5か!
最強の二人組……夢をかなえるのは難しくなさそうだ!
『そこで、君を呼び出したもう一つの理由だ』
「……?」
『LEVEL6には、遠からず誰かが辿りつく。その時に、もしその人間が暴走するようなら。君が歯止めになって欲しい』
「……分かりました」
『そうか。なら話は終わりだ。君には私への直接交渉権を与えておく。ケータイに私の番号が入っているだろうから後で見たまえ。と言っても、私からは念話だがね』
その直後、俺は再度意識を失った……。
@
「………きろ!」
あん?
「おきろ静那!」
目を開けると、天井と俺の間に、とても良い笑顔の帝督が居た。
「どうしたんだよ、随分と嬉しそうだけど」
「俺もお前も、LEVEL5だ!」
「……マジか」
どうやら、今までの会話は夢ではなかったらしい。
ということは、俺たちの夢の第一段階は突破されたのか。
胸が熱くなるのを覚え噛みしめる。
「俺たちの現実は、本当の現実になったんだよ! これがハイテンションでなくて居られるか!」
「はは、そうだな!」
いつの間にか俺も笑顔になっている。
おきれば、そこは会場ではなくて先ほどのホテルだった。
「……いつの間に戻ってきたんだ?」
「お前がずっと眠ってるから、そのまましょっ引いてきた」
馬路ですか。もといマジですか。
脳内でくだらないことを考えていると、隣からガタン、と音が聞こえた。
「……?」
ベッドから起き上がり、横を見ると。一人の女の子がこちらを睨んでいた。
ていうか胸でか!? なんすか!? 中一だろ!?
黒髪を背に流したその子は、俺が見ると、顔を赤くして目を背ける。……ええと。
「忘れたのか静那。女の子と相部屋」
「あぁ……あったなそんな話も」
すっかり忘れてたぜ。ていうか、この子のほかにもう一人居るはずじゃ……居た。
ベッドから目から上だけ出してこちらを見ている。……なんですかこのカオス。
「じゃあ紹介するな。黒髪美人のあの子が、吹寄制理さん」
俺を睨んでいた子が、目を背けたまま軽く頭を下げる。
「んで、こっちの金髪少女が、重音(かさね)里奈(りな)さん」
目だけ覗かせている女の子が、こちらに視線を合わせて挨拶。小声でこんにちはと聞こえた。
「んでこっちね。俺の幼馴染の、藍藤静那だ」
「よろしく〜」
俺が軽く手を振ると、吹寄さん……だったか。彼女が口を開いた。
「貴様が……第零位と発表された法則解析(アナリーロウ)なの?」
二人称貴様かよオイ……。
「もう発表されたのか……早いな学園都市」
「あの、さ……」
「あん?」
恥ずかしそうに手を擦り合わせながら、またも目を背ける吹寄さん。
「私、LEVEL0なのよ。だから、能力を見て見たいな……って思ったんだけど、ダメ、か?」
「能力を?」
「ちょうどいい!」
いきなり声をあげた帝督……あん? どこだ? ……居た。なに重音さん口説いてんだテメェ。
「俺と一回勝負しろ!」
……マジかコイツ。
@
その数分後。俺たちは、ホテルの外にある公園にいた。もう夜遅く、誰もいないようだ。
相対する俺と帝督のほかには、少し離れて吹寄さんと重音さんも居る。
「いくぜ……静那!」
「望むところだ!」
正直一回も使ったことがない能力。どの程度扱えるかは分からないけれど。
俺はただ単に帝督に突っ込んだ。
「直接攻撃かよ……能力使えよ」
そう呟いた帝督。突如その背中に六枚の翼が勢いよく生える。
俺の振りかぶった拳をかわすように、後方へと羽ばたいた。
「羽かよ」
「羽とか言うなし!」
怒鳴りつつ、帝督はちょうど二階ほどの高さまで飛び上がる。
「……何よアレ」
「すごい……」
吹寄さんと重音さんの呟きが聞こえる。ていうか、帝督派手だなぁ。
「んじゃ、俺も飛ぶか」
瞬間、周囲に降り注ぐような風圧。俺を台風の目にしたそれは、周りの木々を叩き落とすように巻き起こる。
「これは……気流か!?」
さすが帝督、察しが早いな。俺が今周りの窒素酸素二酸化炭素やらを解析して、疑似的な気流を作り出したのも瞬時に理解したようだ。
……ま、関係ないけど。
俺の周囲が下降気流。では何が起こるかと言えば、上昇気流が出来上がるわけだ。
風の力に任せて飛翔する。
気流を意のままに操って、帝督の正面へ。
先ほど躱された腹いせに、思いっきり拳を叩きこんだ。
「オラァ!」
「ッツ!」
帝督はその翼で俺のパンチを防ぐと、もう一段階上昇する。っつーか、翼痛い。
俺よりさらに上空から見下ろす帝督。
「俺の能力言ってなかったよな。俺の能力は“未元物質(ダークマター)”この世に存在しない物質を生み出し、操る能力だ!」
「……存在しない、物質?」
突如、翼から数多の光線が射出された。
「なに!?」
「街灯から出ている明かりをレーザーにしただけだ」
「んなこと出来るわけ……」
「ないよな? だが静那。“俺の未元物質に、その常識は通用しねぇ”」
「!? カッコイイセリフ吐きやがって」
さてどうするか。コイツの非常識な攻撃をかいくぐるには。……!?
「苦しいだろ」
「な…にを……?」
「お前の周りに、大量の酸素と結合する物質をばら撒いた。呼吸困難になるのは当然だ」
殺す気か!?
この野郎、やってくれんじゃねぇか。
……だがな帝督。俺の能力をなめんじゃねえよ!
「ッシャコルァ!!!」
「!?」
俺を中心に広がる青白いフィールド。それは帝督の居る場所も包み込む。
「……何をした?」
警戒していたアイツだが、帝督の体には、なんの問題もない。当然だろうな。
「さぁ、何をしたんだろうな」
「呼吸が戻ってやがるな?」
さぁて、テメェにゃ訝しげな表情も似合うがそれよりも。
俺を呼吸困難にした罪、償いやがれ!
そのまま、空中の帝督に突っ込む。帝督はさらに翼から何かを繰り出そうとするも。
「……! 光線が発動しない!?」
「はは! この青白い場所は、俺が全てを操るフィールドだ。テメェがどんな物質を使おうと一つだけならすぐに逆算できる」
「もう取り込まれたってのかよ! だが、それでも俺の物質に反応するはずだ!」
「俺の能力は“法則解析”……物質の可能性を操る力だぜ? お前が既存の物質相手にどんなことをしようが、俺がその物質を見出してしまえば意味はねぇ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)」
「形状を変えたってのか? 俺の未元物質と組み合わさらないように!?」
「これが法則解析だ。そうだな……お前のように決め台詞を付けるとしたら……法則は俺が作り出す!」
一発帝督の腹に拳打を叩き込み、勝負は決した。
@
戦闘後……真夜中の303号室。
「まさか……あんなにあっさり負けるとはな」
「ていうか殺す気かお前。呼吸困難とか」
「そういうな」
俺たちが談笑していると、吹寄さんも入ってきた。
「貴様たち……戦闘がハイレベルすぎて何やってるのかわからないじゃない!」
「LEVEL5だけに」
横からぼそっと、重音さんが呟く。上手いこと言うなオイ。
「そういえばさ、静那」
「あん?」
「中学、どこにするよ」
「あぁ〜……適当でいいよ。寮が綺麗なら」
「俺も同意見だから悩んでるんだけどな?」
帝督が苦笑する。すると吹寄さんが言った。
「私が行こうとしてるところ、結構綺麗な校舎よ?」
パンフレットを取り出して吹寄さんが開いたページを、帝督と俺で覗き込む。
重音さんも同じように、吹寄さんの後ろから見ているみたいだ。
「柵川中学……? 帝督、聞いたことあるか?」
「んにゃ、無い」
吹寄さんがパラパラとページをめくっていく。なるほど確かに校舎は綺麗だ。近代的ではない、シンプルな校舎だが。
「寮はどうなってるの? 吹寄さん」
「……制理でいいわよ?」
「吹寄さん?」
「制理」
「吹y「制理」……はい」
目が……目が怖いです。
「それに、貴様たちと行けばいろいろ能力にも変化があるかも知れないし」
「そっか吹y……制理はもうこの学校で決めるんだ?」
「そうね。あまり高能力者がいないところが良かったし」
「……高能力者が居ない?」
その言葉に反応したのは、帝督。
「そうよ。大体高能力者っていうのは名門の中学やら高校に行くからね……ここは、普通の学校」
「エリート意識の人が少ないんです」
重音さんもアドバイスしてくれた。なるほど、俺もそういうウザイのは居ないほうが嬉しい。
帝督はまだ不安が残るようで、制理に問いかける。
「でも、それって俺たちが行くのはまずくないか?」
「大丈夫よ。柵川はむしろ高能力者を募集してるんだし。実績がないからみんな行かないけど」
「なるほどな。……静那はここでいいか?」
「小六の頃にした約束が果たせるならどこでも」
俺が言うと、帝督も笑う。
「当然。どこでも果たせるさ」
「ならここでいいよ……重音さんは?」
「あたしもここでいいです」
「なら決定だな。いざ、柵川中学へ!」
いつの間にか四人一緒に行ける学校を探していたが、まぁいいだろ。
「ところで、静那。約束って何よ?」
「あぁ……俺と帝督で、学園都市最強の二人組になる! てヤツだ」
「そうそう……って静那」
「あん?」
「もう……序列的には最強じゃね?」
「あ」