「さて、そろそろ本腰を入れるとするか」
「先程までも別の意味で本腰が入っていた気もしますが……」
「はっはっは、少年と恭介氏があまりに可愛かったものでな……さて、もうそろそろ心の傷も癒える頃だろう」
「でも姉御? ……理樹くん、壁に向かって謎のツッコミを入れ続けてますヨ?」
「恭介さんも、壁に向かって何かポソポソ呟いてるけど……」
「あの二人はあれでいて繊細だからな」
「ま、まぁ、気持ちは解るけど……」
「なぁ、謙吾?」
「何だ?」
「理樹と恭介、元に戻る前に壊れるんじゃねぇか?」
「安心しろ、女装の時点で、もうこんなことになるんじゃないかと思っていた」
まったく安心できない会話をしながら、二人の治療が始まった。
リトルバスターズ! Missing two その7 『誤解と嫉妬と秘密は誰が為に』
「さて……まず、誰からいくかだが……私の場合、準備が必要だな。すぐにできる者が居るのなら、そちらから始める方がいいだろう」
どうやら来ヶ谷さんの治療には準備が必要らしい。
「はるちんは台所を貸してもらえれば、二時間くらいでイケますヨ?」
「わふー! 私は筆と墨汁があればすぐにでも大丈夫ですっ!」
「……私は直枝さんと海に行ければそれで大丈夫です」
「私はお菓子があればだいじょ〜ぶっ!」
「俺はポストか銅像があればいけるぜ!」
「……まて真人、お前、アレをやる気か!?」
「ん? これなら恭介も理樹もどっちにもOKだろ?」
「公共物破損だろう!?」
「理樹と恭介の為だ、ポストと銅像にはおととい犠牲になってもらうぜ」
「こいつバカだ!?」
多分、尊いと言いたかったんだろう。
「で、謙吾っちと鈴はどうするつもりだよ?」
「俺は野球だな、バットとボールとグローブがあれば大丈夫だ」
「で、鈴はどうするんだ?」
「………………ろ」
「ろ?」
「お…ろ」
「どうしたんだ鈴? はっきり言えよ」
「お風呂だ! お風呂と猫があればいい!」
ピシィ!
何故か部屋に走る緊張感。
っていうか、風呂くらいで何を驚いているんだろう?
柳と鈴は兄妹なんだから、別に問題ないんじゃないかなぁ?
いや、今現在だと微妙にまずいけど……
「お……俺達は兄妹だからな、風呂ぐらい……」
「おまえじゃない、理樹とだ」
「なにぃ!?」
「ええぇぇぇっ!?」
「ちょっと待て、それって裏と鈴が付き合っていたって事か!?」
「……む……そんなこともあったような無かった様な?」
「ええぇぇぇ!? ちょっと待ってよ!? いきなりそんな事言われても!?」
すごい勢いで困るんだけど!?
「ほぅ……? 裏よ? お主、余の下僕の癖に、余所の女に手を出しておったか」
「えええぇぇ!? 待って神奈!? きっと何かの間違い……」
「久しぶりに折檻が必要のようじゃな……」
「待つんだ神奈。問題はそこじゃないだろ? 裏が鈴とそういう関係なら、将来、裏は俺の義妹ってところが焦点だろ?」
「そこが焦点でもないよ!? それとなんで妹なの!?」
「少年……いや女将、君は一度鏡を見た方がいい。胸まで仕込んで何を今更」
「忘れていたかった事実を!?」
「で、結局どうだったの鈴ちゃん? 理樹くん優しくしてくれた?」
「何の話をしてるのっ、そこ!?」
「ん? (付き合っても)なよなよしてたと思う」
「ん〜、つまり理樹くんは貧弱ボディだったと」
「曲解しないで!?」
「そ、それだったら私はリキと、も……毛筆プレイですっ!?」
「クドは何に対抗してるのさ!? っていうか毛筆プレイってなに!?」
「ふむ、なるほど……その為の筆と墨汁か」
「納得しないでよ!? 少しは疑おうよ!?」
「でよ、理樹と何か一緒にやって思い出してもらおうって趣旨までは何とか理解できたんだがよ……?」
「だから何でそこで一杯一杯なの!? 前々回と大して進歩してないよ!?」
「やっぱり、殴って思い出させた方が早くねーか?」
「オチまで同じなの!? 結局それなのっ!?」
「そうじゃな……それしかないな」
「神奈のはただの八つ当たりじゃないのっ!?」
「待て神奈! いくら主でも俺の義妹に手を出すのなら黙ってられないぜ?」
「だから妹じゃないよ!?」
「ほら、裏も恥ずかしがらずに『お兄ちゃん』と呼んでいいんだぞ?」
「話を聞いてよ!?」
無茶苦茶だよ!?
むしろくちゃくちゃだよ!?
「で、少年が恭介氏の義妹になるかどうかはさておき、私、鈴君、葉留佳君、クドリャフカ君、それと野郎連中は準備が必要だから、美魚君か小毬君から始めるといい」
「解りました」
「わかったよ〜」
…というわけで、ボクと西園さんと神北さんが一緒に出て行こうとしたところで神奈が言った。
「ま、待て! 余もついてゆくぞ!」
「ダメです」
……が、間髪いれずに拒否する西園さん。
「な、何故じゃ!? 裏に何か変なことをするんじゃあるまいな!?」
「神北さんのはどうかは知りませんが、私と直枝さんの秘密は他の人には知られると困る類のものです」
「し、しかし……」
「貴女にも私達に知られたくない事の一つや二つあるでしょう? それと同じことです」
「うぅ……」
「か、神奈落ち着いて? ボクはちゃんと帰ってくるから」
「ヤじゃ! 裏は余の従者じゃ! 余と共に居る義務があるのじゃ!」
「わがまま言わないで? ね? 帰りにアイス買ってきてあげるから」
「そんな物如きに余が釣られると思うておるのか!?」
「今日は膝の上に乗って食べてもいいから」
「……ダメじゃ」
「膝枕もしてあげるから……ね?」
「……………………添い寝もじゃ」
「うっ……わ、解ったよ。仕方ないなぁ……アイスはバニラでいい?」
「うむ……よいか裏よ! 事が済み次第、アイスを携え、疾く帰って来い! よいな!?」
「了解したよ。じゃあ、柳? お願いできる?」
「解った。神奈の世話は俺がやっておくから、裏はとっとと思い出してこい」
「うん。じゃあ行こうか西園さん、神北さん?」
「は、はい。行きましょうか直枝さん」
「うん。でも理樹くん? 私の事は小毬さんって呼んでね?」
・
・
・
・
三人が出て行った直後
「はっ!? あまりのショッキング映像&事実に少々固まってしまったようだ」
「な、何か理樹くん、女の子が板に着きすぎてますヨ?」
「……というか、あれは」
「りっ、リキがまるでマザーのようでしたっ!?」
「恭介、理樹はいつもあんな風にこの子をあやしているのか!?」
「ん? ああ、機嫌の悪い時にはな……まぁ、添い寝までいくのは久しぶりだが……」
「裏は余の従者じゃ。むしろ毎日こうでなくてはならぬと言うのに……あの益体無しめ」
「……理樹くんも苦労してるんですね」
「よもや少年に女として先に行かれてしまうとはな……おねーさん、完敗だよ」
「っていうか、お前ら、何でそんなに驚いてるんだ?」
「真人くんも見たでしょう? 理樹くんがまるでお母さんのように……」
「いや、俺、全部やってもらってたぜ?」
『……は?』
「おいおい、謙吾まで何で驚いてんだよ? 俺と理樹はルームメイトだったんだぜ? 耳掃除の時は膝枕で固定されたし、風呂だって一緒に入ったこともある。ちっさい時にはリトルバスターズで外泊したこともあったじゃねーかよ?」
「……む? そう言われればそうだな」
「だろ?」
「しかし真人、お前の場合、膝枕というより、筋トレしながら耳掃除するのが危ないからという理由で無理矢理固定されてた気がするんだが」
「へへっ、まぁな」
「なるほど……少年がいくら容姿が女に近い事の上に、真人少年によって植え付けられた習性よって、今の地位が獲得されたということか」
「……ホントーーーに苦労してるんですネ、理樹くん」
「ぐぬぬぬぬ……余の……余の扱いはこんな筋肉と同じ扱いじゃったのかっっーーーーーー!?」
「へっ、そう褒めるなよ」
「褒めとらんわ! このうつけが!?」
こんな会話があったとか無かったとか……
で、所変わって外出組みだが……
「それにしても直枝さん、いつも神奈さんにあんなことしていたのですか?」
「あ、うん。機嫌が悪くなると大体は」
「でもすごいね理樹くん! 私もあんな風なお母さんになれるかなぁ?」
「お母さんじゃないからね?」
そんな会話をしながら商店街を歩いていた。
それ自体は普通の事だ。
事実、裏は宿の料理の材料の買出しに何度も此処を訪れている。
だが、今回は状況が若干違っていた。
「おう、裏ちゃん! 今日もいい野菜が入って……って今日は女連れでお買い物かい?」
「あ、違うよ? まだ買出しじゃないんだ」
八百屋のおじさんが興味深そうに三人を見ていた。
ふーむ、と手を顎にあて、やがて悟ったかのように戦いた。
「……って事はデートかっ!?」
「いや、違……」
「似たようなものです」
「えええっ!?」
「何てこった……我らがアイドル裏ちゃんが女同士で……」
「だからボクは男だよっ!?」
「考え直すんだ裏ちゃん! 女同士なんて不健全だぞ!?」
「何度も言うけどボクは男だよ!?」
「こうしちゃいらんねぇ! 我らがアイドルを救わねば!」
「理樹くん? アイドルだったの?」
「いやいや……違うよ……」
「おう! おめーら! 聞いてたな!? 裏ちゃんファンクラブ緊急集合の連絡を回せ!」
『合点だ!』
「えええぇぇっ!? 何処から湧いてきたの!?」
「会長がまだ宿で仕事中ですぜ?」
「携帯に連絡だけ入れとけ!」
商店街中がパニックに陥った!
ちなみに会長とは言わずもがな記憶を失っても裏愛好家な某ロリコンである。
「さて、お嬢ちゃんたち? 少しお話があるんだが」
「ほ、ほわあぁ〜」
「あの、みんな? 小毬さん、怖がってるからもう少し自重してくれると……」
「はっ! 姫がそういうのなら!」
「姫じゃないよ!?」
「……ところで聞きたいこととは何ですか? 私達はそれほど暇ではないので手短にお願いします」
「君達と姫は一体どういう関係なのだ?」
三十過ぎのおっさんどもドアップにも涼しい顔で美魚は言い放つ。
誤解だらけの爆弾を。
「えーっと、ボクと彼女らは記憶を『私の初めての人です』ええぇっ!?」
「あ、そういえばそうだったねぇ」
「ほ、本当なの小毬さん!? っていうか何で小毬さんがそんなこと知ってるの!?」
「では、私達は先を急ぎますので……」
呆然としている商店街住人の隣をするりと抜けて歩いていく美魚。
そして何でもない、と言わんばかりに通常通り、ぽわぽわな小毬が後を追い……
、
「ねぇ!? それは本当なの!? そういえば鈴のことも有耶無耶のままだし……過去のボクは一体何してたんだよぉぉぉぉっっ!?!?」
裏が過去の自分にツッコミをいれながら二人の後を追った。
再び宿屋『マスターリミット』
Purururururu
「む? 誰かの携帯が鳴っているぞ?」
「あ、俺だな……なんだ、魚屋の玄さんか……もしもし?」
『か、会長ーーーーーっ!? 大変だ! 裏ちゃんが……裏ちゃんがーーーーーっ!?』
携帯越しに大音量で魚屋の声が室内に響く。
「なんだ!? 裏に何かあったのか!? どうした!? 裏は無事なのか!?」
『無事なもんか……もう手遅れだ……手遅れなんだよっ!? ちくしょう……ちくしょーーーーーーっ!?』
不穏な会話にバスターズの面々と神奈がガタガタッと腰を上げて柳に……柳の携帯に詰め寄った。
各々、真剣な面持ちで一言一句聞き漏らさないように神経を集中させ……
『俺たちの……俺たちの裏ちゃんが青い髪の嬢ちゃんに穢されたっ!?』
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
『だから裏ちゃんが謎の嬢ちゃんに……くっ!? 会長!? どうすればいいんだ!?』
「あー……何かよく解らんが、裏がその青い髪の女の子と『裏ちゃんの処女が青髪の嬢ちゃんに奪われたんだ!』……あー、お前らは落ち着け。俺が何とかする」
『頼んだぜ! 会長!』
Pi……
「さて、恭介……いくつかツッコミ所があったが……」
「言うな謙吾解ってる。それより問題は何故、魚屋の玄さんがそんな事言い出したかだ」
「そんなの決まっているだろう」
「お? 解るのか来ヶ谷?」
自信満々の来ヶ谷に恭介が聞き返す。
「当たり前だ。恐らく理樹少年が美魚君を物陰にでも誘い込んでエロいことをして、それを見られたんだろう。あるいは逆に美魚君が理樹少年を……ということかも知れんが」
バキィと音が鳴り、音源に目やると、神奈の握っていた煎餅が粉々に砕け散っていた。
神奈から異様なオーラが立ち込めていた。
あまりの異様さにバスターズはおろか、柳ですら言葉を失っていた。
そんな異様なオーラを振りまいてる神奈がゆっくりと部屋から出て行こうとしている。
そんな神奈に何とか柳が声をかける。
「か、神奈? 一体何処へ何をしに『躾じゃ』そ、そうか。気をつけてな」
「うむ……時に柳よ? お主は躾が必要なことをやってはおらぬだろうな?」
「いえ、何も」
即答した。
だって怖かったから。
「うむ、ならばよい。柳よ、仕事と記憶の引継ぎに励むが良い」
「はっ!」
恭しく頭を下げる柳。
そんな二人を怪訝な表情で見る来ヶ谷。
(彼女は二人の記憶の事で何かを知っている……のか?)
神奈の放った一言から何かを嗅ぎ取っていた。
あとがき
どーも、積んでたリトバスEXを始めだした秋明さんです。
EXの方をクリアして、尚且つ暇があればこのSSをEX仕様に書き換えたいなとか思ってたりする今日この頃。
あと、Web拍手も近日更新予定です。
それでは〜