ボクが神奈にKOされてから目覚めたのは、お昼を少し過ぎてからだった。

 目が覚めると神奈に膝枕されていた。

 ビックリした。

 すごくビックリした。

 あの神奈がボクを労わってくれてるという事実に。

 以前に一度だけ膝枕をされた事はあったけど、ボクがどうこうよりも、往人が遠野さんに膝枕をされている光景を見て、真似したがった結果だった。

 だからボクはびっくりして跳ね起きた。

 そんなボクを見た神奈は少し……いや、かなり不服そうだった。

 ……なんでだろ?












 リトルバスターズ! Missing two その6 『天狗』














 「あれは、余が裏をのしてしまったから、その罪滅ぼしじゃ!」


 うん、まぁ、神奈がそう言うならそういうことにしておこう。

 それはともかくとして……どこに向かってるんだろう?

 ……というか、自動的にボクまで連れて行かれるのは何でだろう?


 「お? どうした理樹? 不思議そうな顔筋して」

 「普通に顔とか表情って言ってよ……で、何処に向かっているの?」

 「ああ、まずは身軽になるために宿に荷物を置きに行くんだ」

 「へ、へぇー……ち、ちなみに、宿の名前は?」


 真人に問いかけた問いに謙吾が答えてくれたけど……どうにも嫌な予感がする。


 「すまん、覚えてない。だが、来ヶ谷に聞けば解るはずだ」

 「そ、そう……まぁ、着けば解るよね」


 来ヶ谷さんに関わるとロクな目にあっていないので、スルーすることにした。

 幸い、来ヶ谷さんには聞かれていなかったらしく、何事も起きなかったけど……


 「安心しろ裏。悪いようにはならないさ。むしろ面白そうなことになりそうだ」


 目が爛々と輝いている柳を見てボクは不安を拭い去ることは出来なかった。












 解ってはいたんだ。

 もう、流れがこういう流れだったってことは。


 林へ続く山道の前に建っている一軒の宿屋。

 『マスターリミット』

 それがこの宿の名前だった。


 「随分とボロいな」

 「まぁ、そう言うな謙吾少年。宿泊費が安く、何より美人の女将がいると男女問わずに評判だったんだ」

 「絶対、美人女将って言うところで決定に踏み切りましたね?」

 「ああ、そうだが、何か問題があるか? 美魚くん?」

 「いえ、安いのならそれでいいです……ところで直枝さん? どうしてそんなところで膝を着いて項垂れているのですか?」

 「そっとしておいてやれ西園。裏にも色々と事情があるんだ」

 「はぁ……」


 ああ、どうして世界はこんなにも残酷なんだろう?

 もう少しボクに優しくしてくれてもバチは当たらないと思う。

 そんなことを嘆いていると上から声が響いてきた。


 「客かぁぁぁぁっ!?」


 十メートル以上ある林の枝と枝の間を、どこぞの忍者みたいに飛び跳ねながら、その人はボクたちの前に降り立った。


 「わふーっ!? て、天狗ですっ!?」


 その人物は空手の胴着に真っ赤な天狗の仮面をつけて仁王立ちしている。

 この人物こそ、宿『マスターリミット』の館長のMr天狗。

 明らかに本名じゃないので、本名を聞いたんだけど、大人の事情って言われて教えてくれなかった。


 「もう館長! いつもいつもそんな登場ばっかりしてお客さんを怖がらせてどうするんですか!」

 「はっはっは! 少し修行をしていたものでな」


 あと、格闘技の流派の総帥でもある。

 たまに練習相手にさせられて、ボクと柳はその度に死ぬような目に逢わされてきた。

 あと、この性格だもので、息子さんと娘さんが武者修行という名の家出をしていたりする。

 でも一年に一回開かれる格闘技の大会で大体出会うので館長はあんまり気にしていないようだ。

 まぁ、そんなこんなで本来なら息子さんと娘さんのポジションである若旦那と女将の役割は……


 「ううぅ……柳ぃ……」

 「裏、もう諦めろ」

 「しくしく……」


 ボクと柳は唖然とするリトルバスターズと笑いを堪えている往人達の前まで歩いていき、館長の横に並び皆を振り返る。


 「ようこそ宿屋『マスターリミット』へ」

 「俺が若旦那の柳で……」

 「ボクが女将の裏です…………しくしく」


 ボク達は丁寧に頭を下げ……

 それを見たリトルバスターズの皆は、目を点にした後、もう遠慮の欠片もなしに大笑いした。

 ……若干一名、鼻血を噴出していたことも追記しておく。




















 「最高だ、最高だよ少年。いや、今は女将と言うべきかな?」

 「げふっ!?」


 皆を部屋に案内し、お茶を持ってきた時に捕まった。

 出来ればそっとしておいて欲しかった。


 「直枝さん! 直枝さん! 棗さんとそこまでの境地に……素敵です! 若旦那と女将……あぁ、こういうのもすごくアリですね!」

 「ごぶっ!?」


 西園さんがかつて無いくらいに興奮している。

 いや、元々こういうキャラだったのかもしれない。


 「いいなーいいなー理樹くん、いいなー! 女将の格好すっごく似合ってるよー」

 「あぐっ!?」


 似合いたくないよ! っていうツッコミすらも出来ないくらいボクの精神はズタボロだった。


 「……これはこれでアリか」


 な、何がアリなの謙吾っ!?


 「ところでよ……あの天狗、かなり筋肉してたよな? 一度闘ってみたいぜ」


 真人、まるでボクが女装してるのが普通みたいなリアクションされても何だか悲しいよ……


 「……じ〜」

 「う……何? クド?」

 「そ……そのむねは一体どうしたんですかっ!?」

 「ぐはっ!?」


 痛いところを突かれた、というか知ってて見ないフリしてくれてるのかと思ってた。


 「あっ、ホントだ……自然すぎてはるちん、普通に気付きませんでしたヨ? さすがひんぬーわんこ! 胸にはうるさいですね」

 「こっ、これはその……神奈に無理矢理パッドを……それにこれも一応仕事だし……決してボクの本意じゃないからね!」


 でも最近、付けすぎてしまったせいか、無いと微妙に落ち着かないような気もする……絶対に人には言えないけど。


 「理樹……」

 「な、何? 鈴?」

 「へんたいだな」

 「う、うわあぁぁ〜〜〜ん!?」


 泣いた。

 咽び泣いた。

 鈴の言葉に的確に事実をえぐられて咽び泣いた。

 ボクは咽び泣きながら、部屋から逃げていった。













 「女装の変態性を突かれて泣いて逃げ出す少年……まさかこんな光景がまた見れるとは……おねーさん、もう限界だよ」

 「人間、真理を突かれると、ああも容易く壊れてしまうものなんですね……」

 「あの〜、みおちん? さり気に他人事みたいに言ってるけど、みおちんもその原因の一端だったと思いますヨ?」

 「え? あれって理樹の奴が似合ってるから、自分でやってるんじゃなかったのか?」


 ……遅いから心配になって来て見れば案の定か。

 裏が泣きながら飛び出していったのを見れば一目瞭然だったが。


 「おい、真人。裏にそれは絶対に言うなよ? そんなこと言われたらあいつ、咽び泣きながら首を吊るぞ」

 「ふむ、今度は恭介氏か。どうした?」

 「裏を探しに来たら案の定の展開だな。……まぁ、俺としては面白いからそれでいいんだが」

 「ああ、少年は実に弄り甲斐があるからな。……で、察するに恭介氏は自分の過去が気になって訪れた口かな?」

 「ああ。やっぱり気になるからな……で? 昔の俺はどんな風だったんだ?」

 「それは私が語るより鈴くんに語ってもらった方が良いだろう」


 確か、俺の妹と言っていたな。

 ほとんど話が出来ていないんでどんな性格かわからん。


 「む? 私が昔のきょーすけのことを語ればいいのか」

 「おい、ちょっと待て?」

 「どうした、きょーすけ?」

 「お前、俺の妹なんだろ?」

 「そうだ」

 「じゃあ、何で名前で呼ぶんだ?」

 「苗字で呼んだらわかんないだろ」

 「いや、そうじゃなくてだな? 他にも呼び方はあるだろ?」

 「……何がいいたいんだ?」

 「俺のことはお兄ちゃんと呼んだりはしていなかったのか?」

 「だれがするか!」

 「……じゃあ、兄さんとか」

 「きょーすけと呼んでいた」

 「……そうか」


 何故だか……何故だか本当によく解らないんだが、妹にお兄ちゃんと呼ばせないといけないような気がするんだが……


 「……恭介お兄ちゃん?」

 「ぐはぁっ!? に、西園? お、お前も俺の妹だったりするのか?」

 「はい。苗字が違いますが、義理の妹です」

 「ぐはぁっ!?」


 な、何だこの胸の高鳴りは?

 これが噂の妹属性っていうやつなのか……?

 しかも、義理?

 やべぇぜ!?

 何だか解らないがすごく萌えるシチュエーションの筈だと俺の中から俺が叫んでる!?


 「に……西園……わんすもあ」

 「恭介お兄ちゃん?」

 「がふっ!?」


 なんという衝撃!?

 思わず胸を押さえて後ずさってしまうほどに強烈な衝撃だった。


 「……まぁ、冗談ですが」

 「なっ!?」


 嘘?

 嘘だ!

 むしろ妹じゃないというのが嘘だ!


 「衝撃を受けてるところ申し訳ないのですが、少し、周りの視線を気にした方がいいかと……」

 「はっ!?」


 西園の言葉に慌てて周りを見渡すと、何対もの冷ややかな視線があった。


 「恭介……やっぱり……」

 「少年がツッコミを忘れなかったように、恭介氏もその魂は忘れていなかったようだな」

 「まさしく、三つ子の魂百までも、ってやつだよね……ってクド公、クド公はロリだから恭介さんに近寄ったら孕まされますヨ?」

 「わ、わふーっ!? り、リキの為にもそれだけは……」

 「きょーすけ……」

 「り、鈴……これはその、違っ」


 俺が弁明のため、思わず鈴に手を伸ばすと、鈴はサッと身を引いた。


 「よるな、変態ロリシスコン兄貴め」

 「う……うわああぁぁぁぁっっ!?」


 裏、ごめんな?

 裏のあの時の気持ち、良く解ったぜ。

 世界はいつだって残酷なんだよな?

 ああ、そうさ残酷さ。

 何故、再会早々に妹からこんな仕打ちをうけにゃならんのだ!

 なんでだよ!

 わけわかんねぇよ!

 俺はただ妹が好きなだけなのに!


 「柳……」

 「裏……」


 いつの間にか目の前に裏がいた。

 よく見れば宿の外の林の切り株のところまで来ている。

 無我夢中で走った結果らしい。


 「世界は……残酷だな」

 「うん……残酷だよね」

 「言いたい事が伝わらずにHENTAI扱いだしな……」

 「ボク達はHENTAIじゃないのにね……」


 裏の瞳を見る。

 悲しみに彩られた瞳。

 きっと俺も同じ瞳をしているんだろう。


 「裏……」

 「柳……」


 俺たちは涙を流しながら、ひしっと抱き合って己達の境遇に涙しあった。


 「恭介さん、先程は少しからかい過ぎまし……そうですか、お二人はやはりそういう関係だったのですね」

 「「に、西園(さん)!?」」

 「いや……以前から怪しいとは思っていたが実際そうだとは……おねーさん、愕然だよ」

 「ロリ、シスコンに続いてホモにまで手を伸ばすとは……さっすが恭介さん」

 「やはり、落ち着くべき所に落ち着いたというわけか」

 「リッ、リキは男の人の方が良かったんですかっ!? わふーっ!? さすがにこれはどうしようもないですっ!?」

 「もう、ふたりとも、こっちよるな」


 わいわいがやがや……

 がやがや……

 ………

 ……

 …


 「お主等……確か『りとるばすたーず』とか言ったか……もうその辺にしといてやってはくれぬか?」

 「ほれ、この通り、抱き合ったまま精神崩壊しておるではないか。余の従者なのだからすぐ復活するじゃろうが、あんまり長い間呆けられても困るからの」


 何処か遠くで神奈の声を聞きながら俺たちは真っ白になったままぴくりとも動けなかった。
















 あとがき


 書いてはいたが提出するのを忘れてたお馬鹿さんな秋明です。

 いや、taiさんが言ってくれなきゃ完璧に忘れてたね。

 そんな感じでBL風味の第6話。

 タイトルが適当です。

 もちろん、天狗はお覇王父なお方です。

 この辺りは割りとノリですね(マテ

 では、次の話で会いましょう。