ボク達は昔の友人だったらしい仲間達と再会出来た。
……とはいえ、ボクたちの記憶も勢いで復活っていうことも当然なくて……
「だから俺たちに教えてくれ。俺たちは十人だったのに、どうして俺達二人だけが記憶を失ったのかを。何があったのかを」
「記憶を失った事は私達にも解りません……というか、お二人が生きている事すら知らなかったのですから」
「だが、何があったのかは答えることが出来る。ただ少し長い話になる」
「じゃあ、かのりんの所で話すといいんじゃないかな? お姉ちゃんが柳君たちの主治医だし」
聖先生を交えて教えてもらうことになった。
リトルバスターズ! Missing two その5 『Missing memories』
「……で? 君たちが二人の知り合いだと?」
聖先生が椅子に座ってリトルバスターズの面々を訝しげに見ていた。
ここは霧島診療所。
病気になった人には聖先生が診察をして
お腹を空かせた往人には流しソーメンか聖先生のメスが飛んでくる謎のスポットだった。
「そうだ」
八人のリーダーらしい来ヶ谷さんが簡潔に応える。
何だか先生と雰囲気が似ている。
「それで君たちは二人の記憶を取り戻したいと?」
「その通りだ」
「二人がそれを望んだのか?」
「…………」
来ヶ谷さんの表情が変わった。
それを見て取った聖先生が言葉を重ねる。
「記憶喪失というのは事故が原因となっているのが殆どだが、外的要因のみではその症状は維持されない」
「…………」
「普通、生活を送り続けることで記憶は僅かずつでも回復していくものなのだ。だが、二人にはその兆候が全く見られない。そうなると記憶障害の原因は心因性……つまり本人達が思い出したがっていないということになる」
「おい、ちょっとまて! それじゃあ恭介や理樹が俺たちのことを忘れたがっていると……そう言いたいのか!?」
「落ち着けジャンパー君。私は君達の過去も知らないし、どの様な経緯でこうなったのかも解らない……が、君たちは彼ら二人の全てを知っているのか?」
「なに?」
「人間、誰しも心の中に闇を飼っているものだ……本人の自覚のあるなしに関わらずな」
そういって先生は少しだけ遠い瞳で妹を見た。
「……少し言い過ぎたか。まぁ、そう落ち込むな。先程、心因性と言ったが、大体の見当はついているのだ」
「ええぇ!?」
「ちょっと待て!? 俺、初耳だぞ!?」
「ボクもだよ!?」
「言うわけないだろう。コレが十中八九の原因ならコレの所為で君たちは記憶を失ったのだからな。徐々に回復しているかもしれないのに、コレを見せてまた記憶を失ったらどうする」
そう言って先生は数枚の写真を取り出した。
そこにボクたちの記憶を失った原因らしきものが写っているんだろう。
「それを見せてもらっても構わないか?」
「いいだろう。だが一つだけ条件がある。その二人にソレが何なのか解るような行動は絶対にするな。それが条件だ。あとは二人の治療をしたいのならするといい。ただし、三日に一度ここに二人を連れて来い」
そういって写真を来ヶ谷さんに渡した。
来ヶ谷さんはその写真をひったくる様にして取って……
その写真を見ようと他のメンバーも後ろから覗き込むようにして見て……
そして来ヶ谷さんが叫んだ。
「っ!?!? 見るな小毬君!!!」
私は鋭い目つきの医者から写真を受け取りソレを見た。
ソレは二人が発見された時の写真だった。
そしてこれこそ私達が最も見たくなかった光景……
二人は……死んでいた。
瀕死とかいうレベルじゃない、これは誰が見たって死んでいる。
何しろ、身体の腐敗が始まって、蟲が湧いているのだ。
結論だけ言えば彼らがここに生きているのだから、死んではいなかったのだろう。
だが……何故、これほどまでの状態から五体満足でいられる?
少なくとも少年の四肢と恭介氏の左足はもう無理だ。
切断しなければ腐敗が侵食していくだろう。
何故……?
ハッと後ろからの視線に気付く。
皆だって気になっているのだ、見ないわけがない……小毬君もだ。
「っ!?!? 見るな小毬君!!!」
私はそう叫んで写真を懐に仕舞った。
そして後ろを振り返った。
「え……? なに、今の? ……嘘……だよね?」
「気をしっかり持て、神北!」
「…………ほわあぁ!?」
小毬君が目を丸くして素っ頓狂な声を上げていた。
うむ、いつもの小毬君だ。
小毬君は記憶を失っている二人をじーっと見た。
「う……なに?」
「神北だったか? 両手を交差させてよって来るようなリアクションをされる様なことがそこに書いていたのか?」
「なんだろ、柳?」
「きっとあれだ、スペシ○ム光線の真似だろう。……って事は俺達怪獣だったのか!?」
「ヤだなぁ……そんな過去」
小毬君はおそらく十字架のつもりなんだろうが、二人には解らなかったみたいだ。
まぁ、ほとんどゾンビみたいな状態だったからな、仕方ない反応だろう。
「それと観鈴? 怪獣と恐竜は違うし、そもそも怪獣ですらないからボクたちをそんな期待のこもった視線で見ないでよ!?」
「が、がお……」
「さて、疑問は残るが、それよりも二人の記憶を戻すことが先だ」
「でもよ、記憶を戻すってどうすればいいんだ?」
「まず、二人に何があったかを話す。その後、私達で印象深かったイベントを再現してみようと思う……それでも駄目な場合はその後に考えよう」
……ということでリトルバスターズの皆が事のあらましを語ってくれた。
ボクたちの通っていた学校の修学旅行の途中でバスが事故を起こして道から転落したというのだ。
真人と謙吾の二人がボクと鈴(さん付けで呼んだら怒られた)を庇ってくれたおかげでボクと鈴は無事だったらしい。
そこでボクと鈴は横転したバスから皆を救い出し、最後に隠れてついて来ていた柳を助け出そうとしたところで、ボクと柳は鈴の目の前で爆発に巻き込まれ……
その先は解らないらしい。
警察が来て現場検証を行い、ボクと柳は状況から見ても死んだと判断をした。
一応、捜索もされたが状況が状況で、鈴もその現場を目撃していたことから、すぐに打ち切られた。
皆も自分達で捜索したかったらしいのだけども、怪我の所為で動けず、再びその場を訪れる頃にはもう二月ほどかかったとのこと。
そして一年が経過して……この町でボクたちは再び出会った。
「すげぇな裏! お前、マンガの主人公みたいじゃねーかよ!」
「にょわ! 女装変質者が主人公に格上げ!?」
「……主人公で賞、進呈」
「あ、ありがとう」
お米券を貰った!
っていうか、いい加減に女装変質者は止めてほしいよ、みちる……
いや、女装してるのは事実なんだけどさ……
「で?」
「で? って何?」
「こちらでの出来事は今語っただろう、少年。今度はそちらの番だ」
「うーん……別にたいしたことしてないよ?」
今度はボク達が語ることとなった。
だけど、語れないことも幾つかある。
例えば……神奈のこととか。
「ボクたちは、気がついたらベッドの上で、何にも憶えていなくて……途方に暮れていたよ」
「そうだな、裏と俺の身元が解る物を俺たちは全く持っていなかった事と、警察でも解らないと言われた事もあって、色んな推測を立てたな」
「兄弟だとかはともかく、犯罪者やら、ホモカップルだとか、宇宙人やら未来人やら超能力者とか散々な憶測ばっかりだったけどね……」
「ま、いいじゃないか。これで何者か解ったんだしよ」
「そりゃそうだけど……それでボクたちを発見した神奈にお礼を言いに行ったら、何故か神奈の従者にされて……」
「余はお主らの命の恩人じゃぞ? 死ぬ気で奉公するのが道理じゃろう」
「……そういうわけで、神奈の言いつけと、職業柄、この格好をする羽目に……ううぅ……」
「職業?」
「ああ。俺たちだって食わないと生きてけないし、神奈は見ての通り働くなんて出来そうもないからな。俺たち二人と神奈の生きていく為の金は俺と裏が稼いでるんだ」
「いや〜……はるちんは、理樹君の女装する必要のある職業が気になって仕方ないのですけれども」
「そうですね……そこの所は無視できません。詳しくお願いします」
「葉留佳君はともかく、美魚君は明らかに自分の趣味の為に聞き出そうとしているな」
「しかし、理樹が女装をしなくてはいけない職業って何なんだ? 三枝や西園でなくとも気になるぞ?」
「…………」
リトルバスターズの面々が押し黙る。
何を想像してるのだろう?
すごく知りたくない。
『……じゅるり』
小毬さん、来ヶ谷さん、西園さんがよだれを袖口でぬぐった。
この話は早々に切り上げた方が良いと直感が全力で告げていた。
「そんなことより、ボクたちの記憶を戻すのってどうやるの?」
「まぁまぁ、焦るな少年。その話を詳しく聞いてからでもバチは当たらないぞ?」
「その通りです。直枝さん、お話を……」
「おいおい、あんまり裏をいじめてやるなよ。どうせすぐに解る事なんだしよ」
「そうなの?」
「ああ、何日かここに滞在するんだろ? ならすぐ解るさ」
「恭介氏がそういうならそうなんだろう。後の楽しみとしておこう」
そう言って来ヶ谷さんは、ちょいちょいと指でこちらに来いと示す。
当然ボクはそれに従うはずもなく、後ずさり、背後にある筈の出口までの距離を思い出していた。
「んじゃっ!」
ボクは記憶を思い出す代わりに、何か大切な物を失う様な気がするので逃げ出すことにした。
だけど……
「おいおい、人が折角、記憶を戻そうとしてやろうとしているのに、その反応はおねーさん、傷ついたぞ」
「うわっ!? は、はやっ!?」
何だか反則気味な速度で捕まえられた。
そしてそのまま、床に仰向けに引き倒される。
そして少しだけ頭を上げられて……床と頭の間に異様に柔らかい何かが挟まれた。
「……え……えっと……?」
「不思議そうな顔をしている少年に一応解説してやるが、これは膝枕というやつだ」
「なんで?」
「いや、以前にも君は私に膝枕された事があって、同じ事をする方が昔をトレースしやすいだろう? 過去の体験をなぞる事で、過去の記憶を呼び起こすというわけだ」
「……以前にも、ボクは、膝枕を……?」
深く考えてみる。
よくわからない。
別方面から考えてみる。
以前のボクがどうだか解らないけど、今のボクより少しだけ大胆だったのかな?
「何か思い出したか? 少年?」
来ヶ谷さんが真面目な表情でそう問いかけてきた。
してることは膝枕だけど、その瞳は真剣な風に見える。
「うーん、ごめん……よく解らないや」
「そうか……『うっひょい、女の生足を堪能し放題だぜ! この際だから顔を埋めて絶対領域にも到達してやるぜ!』と喜んでいた記憶も思い出せないか」
「えええぇぇぇ!?」
「……裏……お前……」
「や、柳!? 何でそんなに戦いてるのっ!? 嘘に決まってるよ! ね? 来ヶ谷さん!? 嘘だよね!?」
「おねーさんの純潔を嘘の一言で済ますとは……おねーさんはとても悲しいぞ……よよよ」
「それ、明らかに泣きまねだよね!? 西園さんから目薬受け取ってたよね!? っていうか、何でそんなもの持ってるの!?」
「乙女のたしなみです」
「嫌な嗜みだな」
「にょわー、よく解んないけど、裏が変態だってことでいいのかー?」
「そうだ。理樹はへんたいになった」
「違うよっ!?」
「あの、理樹くん? その格好のまま否定しても説得力ないですヨ?」
「そうだったー!?」
「大丈夫です、リキ! リキがどんなに変態でも、リキとの友情はでっど・えんどですっ!」
「それじゃ友情が死滅しちゃってるよ!? ネバーエンドじゃないの!?」
「だいじょーぶ! 理樹くん、可愛いから!」
「大丈夫じゃないし嬉しくもないよ!?」
「ところで、もうそろそろ俺にラーメンセットを奢ることは思い出したか?」
「そんな話してないよ! それとさりげなく奢らせようとしないでよ!?」
「今日の少年は輝きまくりだな」
「昔っから理樹は突っ込まずにはいられないからな」
「裏さんは突っ込まずにはいられない……ぽ」
「こんなことで輝きたくないよ!? それに昔からボクはこのポジションだったの!? あと、遠野さんは何を想像してるのさ!?」
「ところでよ、理樹の記憶を呼び覚ますって所までは、ぎりぎり何とか理解できたんだけどよ」
「そこで一杯一杯なの!?」
「もっと単純に理樹を思いっきり殴ったら良くなったりするんじゃねぇのか?」
「ボクは昔のテレビとかじゃないよ!?」
いい加減にこの状況に耐えかねて頭を起こそうとした時……
「あ、こら少年逃げるな」
「むご!?」
起こした頭を無理矢理膝に戻される。
ただ、急なことだったのでとっさに上手くボクの頭を止めれなかったのか、頭が逆方向を向いてしまう。
つまり……
「……少年、まさか本当に絶対領域に侵入したかったとは……おねーさん、ドキドキだよ」
「もごー!?」
「こら、暴れるな少年! 息を吹きかけるんじゃない。息を止めろ」
「もご!?」(死ぬよ!?)
「あぅ……少年、こんな時も頭を突っ込みながらも突っ込みを忘れないその姿勢は非常に目を見張るものがあるが……さすがに人前でこれ以上は……」
「もももごもごっ!?」(これ以上ってなにさー!?)
っていうか、頭を押さえつけてるのは来ヶ谷さんじゃないか! 離してくれれば事足りるよ!?
そんなボクの願いが通じたのか、頭が引っ張り上げられる。
「……た、助かっ」
「裏よ、そんなにその者の足が気持ち良かったか?」
助かってなかった。
すごい笑顔の神奈がいた。
どのくらい笑顔かというと、何日も前から楽しみにしていた遊園地に行く計画が仕事で行けなくなった事を話した時の神奈の笑顔だった。
ちなみにその時は神尾家の屋根からローリングソバットで蹴り落とされた。
「あ、あのね神奈? これは不可抗力というやつでね?」
「こ……こここ……この……大うつけがーーーーっ!!!」
「大体、余だって裏に膝枕ぐらいしたではないかっ!」
かんなは、こしをふかくおとし、せいけんつきをはなった!
りきに215のダメージ! りきはふきとんだ!
りきはふきとんでいる!
「だが、余の時は全然、恥ずかしがってはおらなんだではないか!」
かんなは、ふきとぶりきに、とびひざげりをはなった!
りきに127のダメージ! りきはよろめいた!
りきはよろめいている!
「余にはそんな事してこなかったではないか!!」
かんなは、からだがうきあがるほどの、ストマックブローをはなった!
りきに289のダメージ! りきはうちあげられた!
りきはくうちゅうでもがいている!
「この……この……益体無しがーーーっ!」
かんなのれんぞくこうげき!
かんなは、さんかくげりでりきをついげきした!
りきに67のダメージ!
「余だって……余だって……やはりお主も胸か? 胸なのかーっ!?」
かんなは、りきのくびにあしをかけ、じごくのだんとうだいをはなった!
りきに999のダメージ!
りきはたおれた!
「……この益体無しめが」
意識を失う直前、寂しそうな神奈の呟きと、後頭部に柔らかい感触を感じたような気がした。
あとがき
どうも、待っててくれてる人も、そーでない人も読んでくれた事に無上の感謝を。
こっから先は、当分は明るい話になりそうです。
あと、戦闘シーンはせいけんづきがしたかっただけですw
おかげで、ドラクエと半々みたいな描写にw
それはそうと、Web拍手の方も再開して、ちょっとしたSSも置いてたりするので、よろしければそちらもご覧になっていただければ幸いです。
では、また次の機会に。