「何か面白そうなことになってるな、裏」
柳がボクを見て笑っていた。
楽しいことが大好きな柳は居ても立ってもいられないのか、堤防から格好よくジャンプ。
空中で一回転して砂浜に着地した。
「このっ……バカ兄貴! どれだけ心配したとおもってるんだ!」
「うぉっ!? なんだなんだ!?」
ボクに抱きついていた少女の内の一人が柳に跳びかかった。
リトルバスターズ! Missing two その4 『8人のラストミッション』
今度は柳が皆に抱きつかれていた。
これはやっぱり……そうなのかな?
ボクが記憶を失う前の知り合いだったのかな?
だとしたら、とても嬉しいことなんだけど……
「ね、ねぇ!」
ボクが呼びかけると最初にボクを抱きしめた人が振り向いてこちらを見た。
ただ、その表情は笑顔なのに何故かボクの心の中で警鐘が鳴り響くような表情だった。
「ああ、すまんすまん、少年ももっと女の子達に抱きしめられ続けたかったよな。よしよし、おねーさんが抱きしめてやるから安心しろ」
「ちっ、違うよっ!? ……ってわぁ!?」
その人に飛び掛かられ、今度は顔が胸に突っ込まれるようにして抱きしめられた。
な、なんで!?
「どうだ? 気持ちいいだろう? ひゃっほう! 何だか解らないが堪能しまくってやるぜゲヘヘ、と思いながら遠慮なく堪能するがいい」
「ももっもももも!?」(思ってないよ!?)
何とか脱しようと、もがき、砂浜を転がるが目の前の人は離してくれない、それどころか……
「あーーーっ!? 姉御が理樹くんを誘惑してますヨ?」
「その通りだが、それがどうした葉留佳君?」
「姉御ばっかりずるいずるいー! わたしも! はるちん、突貫しまーす!」
「もももー!?」(やめてー!?)
大変なことになってきた。
水着姿の女の子とこんな……ずっと密着状態でその……顔を胸に押し付けられた状態なんて……もたない。
理性とか酸素とか色々と。
ああ……光が見える……
何だかよく解らないけど、こんな死に方ってすごく恥ずかしいよね?
『ええい! お主等、いいかげんにせぬかっ!?』
ああ、神奈が怒ってる。
やだなぁ……宥めるのっていっつもボクだし。
柳と往人はすぐ逃げちゃうし。
あ、動きが止まってる……今なら抜け出せる!
「ぶはぁ!?」
ボクは顔を上げて酸素を目いっぱい吸い込むと多分ボクの歴史上最速で動いて、女の子から離れて神奈の後ろへまわった。
柳もボクの隣まで来た。
「柳! 裏! お主等は余の従者じゃろう! 主を差し置いてデレデレと……このっ! くぬっ!」
ポカポカと神奈がボクと柳を叩いてくるけど全然痛くない。
だけど、神奈の機嫌が良くなることもなさそうだ。
「…………」(裏、神奈の子守はお前だろ? 何とかしてくれ)
「…………」(担当とか決めてないでしょ!? っていうか柳がボクにいつも押し付けていってるだけじゃないか!)
「…………」(ちっ……しょうがねーな、貸し1だぜ、裏)
「…………」(それ、明らかにボクの方が貸してる数多いよね!?)
「まーまー、落ち着け神奈。初対面の相手に嫉妬は見苦しいぜ?」
「んなっ!? ち……違うわ馬鹿者! 誰が嫉妬なぞ見苦しい真似をするものか!」
「だったら、もう少し寛大な態度をしたらいいんじゃないか? 今みたいに嫉妬と間違っちまうかもしれない」
「う……うむ……確かに今みたいに勘違いが起ってしまうかも知れぬな……余は絶対に確実に明らかに嫉妬していたわけではないのだからな」
「じゃあ今回のことは不問でいいよな? 俺たちだって不意打ちだったんだし」
「うむ、今回だけは特別に不問にする」
柳がこちらに向かってウィンクしてくる。
やっぱりすごいなぁ、柳は。
「今のって嫉妬じゃなかったんだ?」
「いや、明らかに嫉妬だったろう。本人に自覚はないみたいだが、そこがいい。おねーさん、もうはぁはぁだよ」
「わふっ!? 来ヶ谷さんが危険なお〜らをはなってますっ!?」
「なんか、ちっちゃいりんちゃんみたいだね〜♪」
「わたしは、あんなのじゃなかった」
「ん? 美魚君はどこに行った?」
「西園なら恭介と理樹が見つめあってる光景見て鼻血だしてぶっ倒れてるぞ」
「そう言えばそのリアクションも久しぶりだな」
至福の表情で倒れていた女の子を起こして話を聞くことになった。
彼女達は予想通り、ボクたちの知り合いだったらしい。
「「リトルバスターズ?」」
「そうだ。君たちはリトルバスターズの一員だった」
「よく解らないけど、仲良しチームだったってことでいいのかな?」
「有体に言えばそうだな……その辺りは真人少年と謙吾少年と鈴君に聞くといい。その三人と君たち二人が元々のチームだった」
「……まぁ、そこまでは解った……だが、これからどうするつもりなんだ? 俺たちも好きで記憶を失っているわけじゃない。思い出したいのは山々だが、どーにもこーにも思い出せん」
「聖先生も気長に待つしかないって言ってたし」
「そこで我々リトルバスターズの出番だ」
そう言ってリトルバスターズの面々を振り返って、彼女は高らかに宣言した。
「今から私達八人のリトルバスターズのラストミッションを伝える!」
「いえ〜!」
「パチパチ……」
「うぉぉ! 久々にこの筋肉がうなるぜ!」
「『第一回! げへへ、この際だから少年と恭介氏に私達に都合のいい記憶を刷り込みつつ記憶を取り戻させてやるぜ競争』だ!」
「ちょっとまてぇぇぇぃ!?」
「待って!? ちょっと待ってぇ!?」
「安心しろ二人とも……私達が必ず真実の記憶を取り戻させてやるからな」
「そんないい笑顔で言われても騙されないよっ!? それ、真実じゃないよね!?」
「記憶を失ってもツッコミスキルは失われていないな、少年。なぁに、それもまた真実の形の一つだ」
「ふっざけんなぁぁーー!?」
「よぉ〜し。がんばっちゃうよ〜♪」
「頑張らないでよ!?」
「理樹、事故の前に猫達にもんぷち一年分くれるっていってたぞ」
「理樹ってボク? っていうかそれ、あからさまに嘘だよね!?」
「裏と柳がラーメンセットを奢ってくれるって話も忘れたのか?」
「往人は関係ないよね!?」
「……どろり濃厚」
「観鈴!?」
「えっ!? なになに? 裏くんと柳くんが好きな物奢ってくれるの? じゃあかのりんはアイス!」
「佳乃さんまで!? 一体いつのまに!?」
「かわいそうで賞……進呈」
「遠野さん!? ありがとう……っていうかボクが貰う側になってるよ!? いや、本来ボクが奢る側ではないんだけども!」
「ツッコミまくりで生き生きしてるな、少年」
「誰の所為だよ!?」
「記憶を失った君たちの所為だな」
しくしく……
「で? 競争っていうからには賞品とかあんのか?」
「当然だ。逆にペナルティもある」
「よし、俺も参加させろ!」
「だから往人は関係ないよねっていうか、ボクの過去知らないよね!?」
「賞品、というか特典は少年と恭介氏を好きにできる権利で……」
「「ちょっと待てぇぇ!?(待って!?)」」
「棗×直枝…………はぅ」
「わー! みおちんがまた至福の表情で倒れましたヨ!?」
「ペナルティは我々が八人のままだということだ。どうだ? 負けられないだろう?」
黒髪の少女がニヤリと皮肉気な笑みを浮かべる。
返ってくる答えは一つしかないと知っているそんな笑みを。
「そうだな……それは負けられないな……理樹や恭介のいないリトルバスターズはもうこれ以上御免だ!」
「ああ。理樹と恭介の記憶をこの俺の筋肉メモリーで復活させてやるぜ!」
「すごいな真人。お前、メモリーなんて言葉が使えたのか!?」
「ええぇ!? そこって大げさに驚くところなの!?」
「ありがとよ」
「何で照れてるの!?」
「こいつバカだ!?」
「待ってて下さい、リキ! 恭介さん! 私が必ず二人のとぅる〜めもり〜を復活させてみます!」
「どうして君も無理に英語を!?」
「違います、リキ」
そういって薄い亜麻色の髪の少女が近寄ってきて、ボクの手をとった。
そして少しだけ寂しそうな瞳と眩しい笑顔で言った。
「『君』じゃないです。クドリャフカ・アナトリエヴナ・ストルガツカヤ……こっちでは能見・クドリャフカです。リキは『クド』って呼んでました!」
「え……えっと……?」
「さぁ、リキ? 呼んでみてください」
えっと……その……そんな上目使いで見られてもちょっと困る。
よく見たら……いや、よく見なくても可愛い女の子にそんな風に見られ続けるのは恥ずかしい。
「わふ〜……リキ……駄目……なのですか?」
「わ、わ……ちょっと泣かないで!」
「わふー……リキが目の前にいるのに……もう会えないと思ってた人が目の前にいるのに……私がいくら呼んでも応えてくれません……写真の中のリキと同じで応えてくれな……」
「ごめんね、クド……もう泣かないで? ね?」
ボクがそう言うと涙を流しながらもクドは笑顔になってくれた。
「わふ〜♪ やっぱりリキは優しいです!」
「わ!? 急に抱きつかないでよ!?」
「よし、能見君に続け! 勝負はもう始まっているのだからな!」
どうやら、ボクと柳はとても良い友人に恵まれていたみたい。
ボクは皆の呼び方を教わりながらそう思った。
あとがき
ども、作者の秋明です。
今回はちょっと短めです。
その代わりと言っちゃ何ですが、Web拍手を久々に更新しました。
ちょろっとSSSとか置いてたりしますので、見てやってくださいw
あと、何か物申したい方も良ければWeb拍手から物申しちゃって下さいw
それでは、また次回!