皆のところに戻ると筋肉祭りが開催されていた。
『筋肉筋肉〜♪』となにやら嬉しそうに妙な踊りを踊っていた。
真人少年とクドリャフカくん、理樹少年寄りの感性を持つらしい裏くんまでは解るが、観鈴と呼ばれた少女と巫女もどきの格好の少女も踊っていた。
そしてどういう経緯か黒シャツの男まで踊っていた……半裸で。
「いっやっほ〜ぅ! 国崎最高〜!」
「うおおぉぉぉっ! こっちも負けていられねーぜ! 筋肉最高〜!」
何を争っているのだろう?
私の頭脳では理解不能だった。
「では、こちらも負けていられないな! リトルバスターズ最高〜!」
謙吾少年までもが例のジャンパーを着て参戦した!?
このクソ暑い中、馬鹿なのではないだろうか?
「おい、何だその『リトルバスターズ』ってのは?」
「ああ、リトルバスターズっていうのは、わたしら八人のグループ名なのですヨ」
「ほぅ、八人組か……ちょっと格好良いではないか」
「本当は、もう二人いたのですが、今は故あって八人なのです」
「そうか……裏よ! わらわたちも八人居るし、名前をつけるべきじゃ!」
「でもおまえたち、はちにんもいないぞ」
「案ずるな。ここには来ておらんが、美凪、佳乃、みちる、柳という仲間がおる」
「ほぅ……そちらも八人いるのか……おもしろい」
私の口元が少し緩む。
いい事を思いついた。
「君たち、私達リトルバスターズと勝負しないか?」
リトルバスターズ! Missing two その3 『夢の続き』
「なんじゃと?」
「ああ、心配しなくてもいい。勝負といっても危険なことじゃない。きっと楽しいぞ?」
「ほう……面白そうじゃな。受けてた……」
「待て、神奈」
「なんじゃ往人よ? 怖気づいたか?」
「俺はこれからメシ代を稼ぎに行かなければならん。今日こそはラーメンセットだ」
「ふむ、賞品も無しではつまらないな。では、買ったチームは負けたチームに食事を奢って貰うという事でどうだ?」
「その勝負、受けてたつ!」
「うわっ!? 切り替え早すぎるよ往人!?」
「裏、お前も女なら解るだろう? 男なら受けてたたねばならない時があることを!」
「今はそんな時じゃないし、全然解らないよ……別にかまわないとは思うけど……それとボクは男だよっ!?」
『えっ!?』
今、この少女……いやいや少年か?
何を言った?
自分は男だと。
…………いやいや、そんな筈は無い。
そんな、都合のいい奇跡、あり得たりはしない。
「何で君はそんな格好をしているのだ?」
私はストレートに聞いてみた。
「う……えっと……神奈との約束なんだ」
「神奈? 約束?」
「余が神奈じゃ……ふむ……その目、ただの好奇心では無さそうじゃな。裏よ話してやれ」
「え? あ、うん、ボク、少し前に死にかかってたらしくて……それで神奈に助けてもらったんだ」
「な……」
待て。
ちょっと待て。
それは……一致するではないか。
いやいや、これくらいの偶然では……
「それで、ボクはその時のこと、それより前の事、全部憶えてないんだ……聖先生の話だと脳死寸前まで追い込まれたからだとか言ってたけど」
……はは……待ってくれ裏君。
それでは君がまるで……
「それで自分の名前も思い出せなくて……そしたら神奈が名前をくれたんだ。神奈には昔、裏葉さんっていう付き人が居たらしくって……その人の名前を一文字貰って裏っていう名前になったんだけど……」
「だけど?」
「裏葉さんって女の人で、裏葉さんの名前を継ぐなら裏葉さんと同じ格好をしろって言われて……その……こんな格好を」
これは……奇跡なのか?
奇跡的に助かって、記憶喪失になって、女装せざるを得ない状況……そんなありえない状態に……?
美魚君を見る。
彼女は涙目で頷いていた。
あの美魚君の目から見ても裏君は少年だと判断されている。
だが、まだ確かめなくてはならないことがある。
「裏君……二つほど聞きたい事がある……いいかな?」
「うん、なに?」
「君が記憶喪失になったのは、いつ頃だ?」
「……えっと……今から一年くらい前かな?」
「もう少し正確に解らないか?」
「う〜ん……あっ!」
「思い出したか?」
「うん、そう言えば一週間前に誕生日を祝ってもらったんだ。でも誕生日なんて解らないから暫定的に目を覚ました日っていうことにしたんだった」
「余も生まれた日は憶えておらなんだからな。ここに来た日を誕生日としてもらった。裏もそれに倣わせたという訳じゃ」
「誕生日がないのは可哀想……」
「それに誕生日が増えれば、ご馳走を食える日も増えるからな。俺としては大歓迎だ」
「往人は食べるだけじゃなくて、プレゼントも用意しとこうよ……ボクはともかく、観鈴や佳乃さんや遠野さんが悲しむよ」
「そんな金があったらラーメンセットを食っている」
「はぁ……」
「がお……」
「益体なしにも程があるな」
何やら話が変な方向に向かって行っている気がするが……
ともかく、一年と一週間前か。
あの事故から見ると、三週間……。
そして見つかった時には死にかけていた……
時期的にはありえる……ありえるが……
そんな瀕死の状態で三週間……生きていられるものなのか?
「死にかけていたと言っていたが、どんな状態だったのだ?」
「えっと……どうだったの、神奈?」
「お主は……確か全身の骨が砕けておったの……血はあまり流して無かったが衰弱度合いが酷かった……というか見つけた時には息してなかったぞ」
「ええぇぇ!? 初耳だよ!?」
つまりギリギリだったのか。
「それで……警察にはそれを届け出たのですか?」
美魚君の質問の意図は明らかだ。
警察ならば記憶が無かったとしても身元を調べて貰えるはずだ。
「届け出たんだけど、解らないって言われた」
馬鹿な!?
あの事故から三週間だぞ!?
その辺りの関連付けくらいされてもおかしくは無い筈!?
……いや待て……三週間?
そうか!? その時点で死亡届が通っていたのか!
遺体が出なかったとは言え、状況的にあの爆発に巻き込まれたのは明らか。
一応、遺体の捜索は行われたが見つからず、爆散したという結論に至った。
……となれば行方不明ではなく死亡扱いになる。
死亡扱いになった時点で戸籍は失われるから、身元を探しても書類上は見つかるはずが無い!
……彼女は
いや、彼は……
直枝理樹
私たちリトルバスターズの要たる少年に間違いない。
「理樹君!」
「え? ええぇ!?!?」
「くるがや!?」
「ゆいちゃん!?」
「姉御!?」
「「来ヶ谷さん!?」」
「「来ヶ谷!?」」
自然とそう呼んでいた。
自然と足が動いていた。
自然と彼を抱きしめていた。
もう離さない。
君は私に……いや私達に必要なんだ。
君や恭介氏なしでは、駄目なんだ。
何をしても心の底から楽しめないんだ。
私に無いはずの『心』が軋むんだ。
「私達がどれだけ心配したと思っている?」
「え? え!?」
君は知らないだろう? 私たちがどんなに絶望したか。
「私達がどれだけ悲しかったと思っている?」
「おい、どうした!? いきなり理樹の名前なんか呼ん……で……? り…理樹……なの…か?」
君は知らないだろう? 私たちがどんなに苦労したか。
「私達がどれだけ泣いたと思っている?」
「来ヶ谷さん……やはり……そうなのですか?」
君は知らないだろう? 私が今、どれだけ嬉しいか。
「私達がどれだけこの瞬間を夢見ていたと思っている?」
「お、おい……お主ら!?」
「直枝さん!」
君は知らないだろう? 私がどれ程君を……
「少年……よくあの状況下で生きていてくれた……おねーさんは嬉しいぞ」
「にはは、裏ちゃん、モテモテ」
「……良かったな、裏」
観鈴君と往人と呼ばれた青年が優しそうな瞳で少年を見ていた。
「リキ……リキなのですかっ!? リキー!」
クドリャフカ君は先に抱きついた美魚君に負けじと少年に抱きつく。
「理樹……? 理樹? 理樹ーー!」
恐る恐る見ていた鈴君もクドリャフカ君に続いた。
「理樹君、生きてた……生きて……生きてた! 理樹君!」
小毬君も呆けた顔をしていたが鈴君に続く。
「は……はるちん、夢見て……? いたひ……夢じゃない……理樹くん……理樹く〜ん!」
葉留佳君も自分の頬を抓って、それが夢じゃ無いことを確認して抱きついた。
「うおおおおぉぉぉ! 理樹ぃぃぃっ!」
「理樹ぃぃっ!」
そして真人少年と謙吾少年も……ってちょっと待て、君達まで来たら……
どーん。
ゴロゴロゴロ……
砂浜に全員倒れてしまった。
砂が熱い。
ぶっちゃけ火傷しそうだ。
だけど、そんな事関係ない。
今は、君を抱きしめることの方が重要だ。
「少年……もう、何処にも行かないでくれ」
驚いた。
涙が流れていた。
涙などもう、とうの昔に枯れ果てていたと思っていたのに……
皆も涙していた。
ああ、少年……君は罪深い少年だ。
こんなにも多くの女性を泣かせたのだからな。
そして少年。
私は君に、もう一つ聞かなければならないことがある。
「少年……助かったのは君一人なのか?」
「え? 違うよ。ボクとあともう一人、柳って言うんだけど、柳もボクと同じように……」
少年がそう答えかけたその時、上から声が聞こえてきた。
「よう、裏。なかなか楽しそうな事になってるじゃねーか」
聞き覚えのある声。
「でも裏。お前が男だって言うことは言ってあるんだろうな? じゃなきゃセクハラで訴えられるぞ?」
その人物は堤防の上で、何か毛玉の様なものに足を乗せこちらを見下ろしていた。
「うん、ちゃんと言ってるってば、柳!」
ちょうど逆光になっていて顔が見えないが、声でわかる。
今日は皆で遊べる最後の日となるはずだった。
だが……世の中、良くも悪くもそんなに思い通りに行かない物らしい。
あんな全てを奪い去るような不幸があったのならば……
逆に全てが戻ってくる奇跡が無いと誰が言い切れるのだろう。
私たちは漸く……
『恭介ぇっ!』
やっと八人から十人に戻れるのだ。
あとがき
どーもー、秋明です。
Air側は所謂ご都合エンドとゆーものですね。
神奈がいて、往人がいて、みちるもいて、観鈴もいて……さすがに柳也や裏葉はいませんがw
まぁ、みんな平和に生活してますよ的な状態です。
あと、死亡届云々は知りません、ただの推測です(マテ
深く突っ込んであげないでください。
それでは、また次の話で会いましょうw