のっけから激しくネタバレってます。

 そんなのヤだ! って方は引き返すこと推奨。

 真エンドの少し前の場面からです。














「恭介っ……!」


 恭介の身体が力無くバスにもたれかかっていた。

 血もたくさん流れている。

 一刻の猶予もない状態。

 だけど……だからこそ慎重に行動しないといけない。

 落ち着け、落ち着くんだ。

 恭介を見る。

 恭介は上着を着ていない。

 なら上着はどこだ?

 ただ単に着ていなかっただけ?

 違う、上着は背中にあった。

 そうか! これで燃料への引火を抑えてるんだ。

 僕はそれを理解して恭介をどけて代わりのものを置き、恭介を背負う。

 そしてバスからある程度遠ざかり、もうすぐ安全圏内と言っていい場所までたどり着こうとした時……


 「っ……、もうすぐ……もうすぐ、だからね……恭す……」


 え?


 奇妙な感覚。

 そうこれは経験したことのある感覚。

 前に階段から足を踏み外した時に感じた……



 浮遊感



 浮いてる。

 恭介を背負ったままで僕が浮いている。

 いや、厳密には違う。

 吹き飛んでいる。

 錐揉み回転をしながらも見開いた目には森の緑とバスから吹き出る炎が映し出され……

 僕達が向かっている緑の先には地面が無かった。


 (そ、そんな……せめて恭介だけでも)


 もし僕が人生の中で一度だけ自画自賛する場面を選べといわれたら、この瞬間でしかなかったと思う。

 爆風で背負っていた恭介と僕が引き離されかけていた。

 それをなんとか恭介の手を力一杯握り、恭介の頭を強く抱く。

 そして祈った。

 リトルバスターズの全員と無事にまた笑い会えることを。

 そして……


 「うわああぁぁぁぁぁっっっ!」


 僕は地面の見えない闇の中に落ちていった。

















 リトルバスターズ! Missing two その1 『Restart』















 (ここは……?)


 真っ暗な場所に居た。

 どれ程ここに意識無く横たわっていたのか、目は既に暗闇に慣れていて、ここが夜の森だということが解る。


 (そうか……俺は死んだか……)


 だけどそれでいい、理樹と鈴が生きたのならそれでいい。

 本当なら全滅の所をなんとかあの二人を生き延びさせたのだ。

 あいつらならもう大丈夫だ、きっと二人で生き残っている筈だ。

 死亡確定の俺達の最後の悪足掻きとしては大金星と言っても過言ではない。

 もう、皆で遊べないのかと思うと身が引き裂かれそうになるほど辛いけど……これが最善手だった。

 ま、過ぎた事は仕方がない。

 せいぜい、このあの世とやらで遊び倒してやるさ。

 理樹と鈴以外はこっちに来てる筈だしな。

 それにしても……


 
 なんだ、あの世っていうのはこんな場所だったのか



 そう声に出そうとして喋れない事に気付いた。

 そして喉に激痛が走って……いや、全身が痛みをあげていることに気付く。

 ……痛い?

 死んでも痛覚って残るのか?

 ……まさか俺は生きているのか?

 全身の痛みを無視して立ち上がろうとして立ち上がれないことに気付く。

 左足が折れている。


 何とか上体を起こして気付く。


 すぐ隣にここには居ないはずの人物が倒れていることに。


 (理樹っ!?)


 理樹は……かろうじて生きている。

 あくまで「かろうじて」だ。

 全身がありえない方向に曲がっていた。

 幸い、出血は微々たるもののようだ。

 そして気付く。

 理樹の怪我は深刻なレベルだ。

 俺の傷も深刻なレベルだ。

 だが、俺の怪我には理樹に比べて追加で受けているはずの傷が圧倒的に少ない。

 理樹の状態からして、理樹と俺は高い場所から転げ落ちたもののようだ。

 だが、俺にはバス転倒時以外の傷がほとんど無い……といってもさすがに左足がやられてしまってはいるが。

 だが、理樹に比べると圧倒的に軽傷……つまり理樹が俺を庇ったんだ。


 馬鹿野郎。


 俺なんかさっさと置いて行っちまえばよかったんだ。

 理樹は鈴と二人で生きていけばよかったんだ。

 いや、違うか……あの状況下なら救出されるべき順序は俺が最後のはず。

 つまり、他の皆を助け出して最後に俺を助け出そうとしたって事か。


 やるじゃねーか、理樹。


 お前は運命を変えようとしたんだな。

 皆と共にあることを願ったんだな。

 その為に強くなれたんだな。

 お前は立派だよ。

 不完全ながら運命を捻じ曲げた。

 でもこのままでは俺たちは死ぬ。


 はっ……仕方ねーなぁ……


 理樹がここまでやったのに、兄貴分の俺がここで何もしないっていうのはありえねーよなぁ……





 理樹……


 理樹の左肩を俺の右肩で支える。


 必ず助けてやる……


 折れた左足で無理矢理立ち上がる。


 俺達はこんな所でくたばっちゃいけないんだ。


 痛みも無理も無視して歩く……皆の待つ場所を探して……












 どれ程歩いただろう?

 よく解らないが、一つ解ったことがある。

 それは俺達二人は自力でこの状況を打破することが出来ないという事だ。

 理樹が目覚めたとしても理樹は自力で歩けない。

 俺はかろうじて進むことが出来るが、失った血の量が多い。

 そのうち俺は意識を失うだろう。

 この様な状態で下山出来るかと問われれば答えは否だろう。

 下山という選択肢は現実的ではない。

 ならば、少しでも長生きし、誰かの助けが来るのを待たなければならない。

 体力の浪費を抑えることが出来、尚且つ発見されやすい場所。

 そして夜露を凌げる場所。

 そんな場所を……見つけた。

 運が良かった。

 いや、まぁ、運が良ければそもそもこういう事態にはなっていないんだが。

 樹の洞があった。

 その中に理樹をそっと横たえ……


 ああ……俺ももう終わりか……


 理樹に折り重なるようにして、俺の身体から力が抜けた。




 みんな……

 俺と理樹は……生きている……

 だから……

 早く助けに来てくれ……