『その時思ったの。私、お兄ちゃんが好きなんだなって』

時計の針は深夜の3時をまわっているが、全くもって眠れない。
ベッドに横になったまではいいものの、俺は昼間のホテルでの出来事、及び義妹からの衝撃的な告白に思考回路がついていかなくなっていた。
「あーもう!!」
もしゃもしゃっと頭をかきむしりながら身体を起こし、窓を開けて夜風を部屋に取り込む。
が、吹き込んでくる風はとても生ぬるくて、余計に気分を苛立たせる。
「……明日は講義無いよな」
つまり、朝寝坊しても何しても問題無し。
ゆっくりとドアを開け、隣の部屋で眠る美久を起こさぬよう、足音を忍ばせてキッチンへと移動。
そして戸棚を開け、中から焼酎を引っ張り出す。
「この歳で『飲まなちゃやってられねぇ』なんてことになるとはねぇ……」


俺の名前は上城秀一。
齢二十にして夜中にちびちび酒を飲む、しがない文系大学生だ。
それと一応SS作家。









〜SS作家妄想伝10〜
『動き出す陰謀』








「ん……んん……」
目を覚ましたら、そこはキッチン。
どうやらあのまま酔い潰れて眠りこけてしまったようだ。
「……7時半?」
ただ、意外なことに時計の針は未だ朝の7時半を指している。
「もっと長いこと眠りこけてるかと思ったんだが」
時間が狂ってるのかと思いテレビを点けてみるが、画面には軽部真一の姿と共に7:31と言う時刻表示。
「結局いつもどおりの時間か……」
若干頭が重いと感じながらも、俺はいつもの朝の如く顔を洗いに洗面所へ向かうのだった。

戻ってくると、テレビの時刻表示は7:39
「……あれ?」
いつもなら、もうとっくに起きてきてもいいはずの美久が起きてこない。
「ひょっとして、先に行ったとか……?」
ただ、そうだとしてもテーブルの上に朝ごはんが置いてないのはおかしい。
……うちの妹はどんなに忙しくても、毎朝お兄ちゃんのために朝ごはんを作ることを欠かさない素晴らしい娘さんなんですよ。
まぁそれが無いとしても、テーブルの上に酔い潰れている兄の姿を見れば、せめて一声かけてくれてるはずだが。
「やっぱりまだ寝てるのか……?」
芸能コーナーが終わり、そろそろ出かけなければ間に合わない時刻。
俺はとりあえず美久の部屋へと向かった。


トントン。
「美久ー、起きてるかー?」
へんじがない。
「ただのしかばねのようだ……いやいや、んな縁起でもない」
もう一度ノックして呼びかけるが、しかし相変わらず無反応。
「……入るぞー」
ガチャ。
妹の部屋に足を踏み入れる。
女の子の部屋らしく小奇麗に整頓された室内、ベッドの上などに見られる可愛らしいぬいぐるみたち。
そんなファンシーな気分に浸っていたので即は分からなかったが、今現在、この部屋には主の姿が無い。
「あれ? やっぱり先に行っ……」
しかし、机の上には黒い通学カバンが置かれている。
まさかカバンを忘れちゃうなんてドジっ娘っぷりは発揮しないとは思うんだが……

ピンポーン
「ん?」
突然聞こえてきたチャイムの音。
こんな朝っぱらから誰が……美久か?
「はいはーい、今出ますよー」

ガチャ。
「どちらさま……って安西!?」
玄関を開けるとそこには、顔面ボコボコ、口から血を流しながら安西がへたり込んでいた。
「ど、どうしたんだよお前!?」
「う…うぅ……ワイはヘタレや……好きな娘一人守られへんどーしょうもないヘタレや……」
なぜか関西弁でうめく友人。
「だから何があったんだよ!?」
「み……美久ちゃんがさらわれた……」
「な、なにぃ!!?」




「……ふぅ」
お茶を飲んでとりあえず一息入れる安西。
俺も俺で、その間にパジャマからいつでも飛び出せるよう着替えを済ませていた。
「もう一度、その時の状況を詳しく聞かせてくれないか?」
「あぁ……あれは確か今朝の7時20分頃だった……」
淡々と語り始める安西。

「今朝も俺はいつものように、登校する美久ちゃんを待ち伏せしようと思いこのマンションの駐車場までやってきたんだ……」
「ちょっと待てい」
安西の胸倉を掴み上げる。
「ちょちょちょ、俺は怪我人ですよ!? ちょっとはいたわってくれよ!!」
「何故に待ち伏せしてたこの野郎」
「や、やましい気持ちなんか全くないんですよ!! 俺はただ、朝一番に制服姿の彼女を見て、今日を生きていく活力を補充しようと思って……」
「……まさか友人がストーカーになるとは思ってもいなかったな、畜生」
「ストーカーとは人聞きの悪い!! 俺は手は一切出さん!!」
「……んな自信たっぷりに言うことじゃないだろ」
だが今は、コイツのストーカー疑惑に構っている場合ではないので話を進めさせる。
「そ、それでいつものように駐車場の柱の影に隠れて、マンションの入り口を凝視してたんだよ」
「……続けて」
「そしたら一階にエレベーターが降りてきてな、中から黒服の3人組が出てきたんだ」
「黒服の3人組……」
「その3人組に囲まれる形で、ぐったりした美久ちゃんも降りてきて……」
「何だって!!?」
「そう、俺もそんなリアクションしてな。慌ててそいつらの所に飛び掛っていったさ。『俺の女に何しやがるんだぁー!!』って」
誰がお前の女だ。
「だけどあえなく返り討ちでこのザマよ……、それでとりあえずお前には報告しておかないとと思い、階段を這って登ってきたんだ」
「そうか……」
「……スマンな上城。俺がもっとしっかりしてれば美久ちゃんは……」
「……いいさ。助けようとしてくれたことは確かなんだし。感謝してるぞ、安西」
「上城……」
こんなボロボロになりながらも妹を助けようとしてくれた安西。
俺は本当にいい友人に巡り合えたよな。

「それはそうと結構時間かかったよな。さらわれたのが20分だとしても、お前がここに来たの、確か45分を過ぎてたと思うが……」
「あー、それはちょうどこの3階に上ってくる途中、2階でものすごい可愛らしいこねこを見つけてなぁ。思わず戯れてたら時間が過ぎててへぶし!!
前言撤回。
思いっきりグーで安西の顔面を殴りつけておいた。
「つつつ……何だよいきなりぃ……」
「そのお前が殴られた3人組だけど、一人はヒョロッと背が高くて、一人がガッシリした体型で、一人が小柄な男だったか?」
「ん……まぁ確かそうだったと思うけど。でもやけに詳しいな、お前」
「3バカトリオか……」
アゴ・タコ・カツオブシの3バカトリオ。
と言うことは、昨日のホテルでの出来事と何か関係が……

チャララララー

「!?」
突如鳴り響く携帯。
画面を見ると、着信は……美久。
「美久!! 大丈夫か!?」
しかし電話の先から聞こえてきたのは妹の声ではなく……
「グッドモーニング上城くん。私だ、友成だ」
「!?」
昨日のクソジジイ……!!
「妹さんは我々が預かったよ。と言うよりはどうしても必要だから少々手荒な手段だったが拉致らせて貰ったよ」
「ふ、ふざけるな!!」
「フフフー、しかしこうしてわざわざ連絡差し上げたことは、どういうことか分かるかい?」
「どういうこと……だと?」
「再度招待しているのさ、私の計画に。君はもちろん妹さんのことが大事だろ? だったら素直に我々のところへ来てくれないかなぁー」
「こ、この野郎……」
「この街の港に第七倉庫と言う倉庫がある。そこに今から、向かってくれるかな?」
「……そうすれば妹は無事で済むんだろうな」
「私は紳士だ。女性に手荒な真似などしないよ。そちらが約束を守ってさえくれればね」
「……」
「ではまた、現場でお会いしましょう。……あ、言っておくが警察なんかに通報してみなされ。妹さんの命の保障はないよ?」
「グッ……」
「それに、警察なんかにどうのこうの出来る事態じゃないんだよね。君も私も能力者なんだから」
「能力者……」
「ではでは、そちらの方で」
ブチッ
「あ、おい、ちょっと待て!!」
ツー、ツー……
「……」

何がどうなっているのか全く把握できていない。
しかしそれでも……行くしかないのか。
「……上城?」
「ちょっと出かけてくる」
「お、おい!! 出かけるってどこにだよ!? ……まさか美久ちゃんを!?」
「……あぁ」
「だ、だったら俺も行くぞ!! 愛する人のためなら死ぬのだって惜しいとも思わないぜ!!」
「……その気持ちはありがたいが、もうお前にどうこうできる話じゃないんだよ、これは」
「そ、そんな……」
「だから……安西はここで待っててくれ。必ず美久を連れ戻してくるから」
「……」
無言で安西の目をじっと見つめる。
「……分かった。じゃあ美久ちゃんのこと、頼んだぞ」
「当たり前だ。兄として当然の責務、しっかりと果たしてきますさ」
「……頑張れよ」
「……ああ」
こうして俺は友に見送られながら、一路港の第七倉庫へと向かうのであった。




「……そういやここで待ってろって、何で俺、あいつんちのお留守番頼まれてんだ?










あとがき

どもどんも、遅筆作家舞軌内です〜

SS作家妄想伝・第10話。
とりあえずこれで一通りの改定作業は終了、続きの執筆に取り掛かることとなりますねー
ただ、その次回更新はいつの事になるのやら……
まぁなるだけ間が開かないようにしたいと思いますが、毎度の事ながら執筆ペース自体は劇遅ですのでご了承あれ。

てなわけで今回はこの辺で〜