ブロロロロ……
バスが前方へと走り去っていくのを眺めながら、俺、上城秀一はバス停から家へと向かう。
あの後結局3バカはほったらかしにしてホテルを後にした俺。
行きは探偵ごっこよろしく自転車で猛追してきたわけだが、帰りは心身ともに疲れきった状態だったのでバスでの帰宅である。
先程の出来事……俺の能力は涼香の両親の人体実験によって与えられたと言うこと。
謎の男、友成に3バカ。友成の繰り返した意味深な発言の数々。
そして、実験台にされたのは俺だけではなく、美久もそうらしいということ。
バス停から自宅までの距離をトボトボ歩きながら、頭の中ではそれらのことが相変わらずグルグルと渦巻き続けていた。
やがて自宅と言うかマンションが見えてきた。
とりあえず腹が減ったので何か食おうと心持ち早足になる俺。
そんな俺の目に、マンションの入り口にいる見慣れた男の姿が映しだされた。
「……安西? 何やってんだお前」
そこには安西が何故か真っ赤な薔薇の花束を持って佇んでいた。
「おぉ!! 待っていましたよお義兄さん!!」
「……はい?」
お……お義兄さん?
「男安西、一生のお願いです!! 妹さん、上城美久さんを俺に下さいっ!!」
「ハ、ハァ!!?」
〜SS作家妄想伝9〜
『兄と妹』
「いや……何だよ急に」
「俺、彼女に惚れてしもたんですわ!! そんな彼女への思いをこの薔薇に託しましてん!!」
「何故に関西弁……」
そう言って薔薇を俺に突き出してくる安西。
「いや、それはそれとして何故俺にその薔薇を渡す。美久に渡したいんじゃないのか?」
「あぁ……いきなり家に押しかけるのもマズイよなぁと思って。それでお義兄さんに渡してもらおうと思いましてね」
「そのお義兄さん言うのやめぃ。気持ち悪い」
そりゃ、まぁ美久がいつかお嫁に行く日にゃそう呼ばれるんだろうけど、今、こいつに呼ばれるのはなぁ……
つか何を急にこのバカは無茶苦茶言い出したんだろうか。昼間に失恋したばかりでは……
「あーもう、今日は勘弁してくれ。いろいろと疲れてるから」
先程のホテルでの出来事といい現在の状況といい。
これ以上何も考えさせないでくれよということで、半ば会話をぶった切る形で俺は安西に別れを告げた。
だが、それでもまた安西に呼び止められる。
「こ、この花だけでも渡してもらえないか? 萎れないうちに見せてあげたいんだ」
「……わかったよ」
安西から薔薇の花束を受け取る俺。
「んじゃ、よろしく頼みます〜」
そして安西は小走りでマンションを後にしていった。
「……何だってんだよ、どいつもこいつも」
「ただいま……」
「あ、お兄ちゃんお帰りなさーい」
キッチンから美久の声が聞こえてくる。
「ご飯もうちょっと待ってね。今作ってるとこだから」
「あ、あぁ」
キッチンの前を通って自室に向かおうとする俺、とそこで美久に声をかけられる。
「あれ? お兄ちゃんその薔薇どうしたの?」
「これか……」
俺は安西から渡された、両手いっぱいの薔薇の花束を美久に差し出した。
「えっ?」
「お前に、プレゼントだ」
「え……」
突然の事に固まる美久。そして……
「……ぐすっ」
「な、何泣いてんだよ?」
「う…うう……お兄ちゃーん!!!」
「うわぁ!?」
がっしりと俺の胸に飛び込んできた。
「お、おい……どうしたんだよ美久」
「うっ……ありがと……」
……嬉し泣きされてるのか、ひょっとして。
「あ、あーのな、美久、残念だけどこれ、俺からのプレゼントじゃないから。勘違いしてるみたいだけど」
「……え?」
「あれだ、あれ、安西からのだよ、これ。下で渡された」
「……そ、そうなんだ……アハハ、勘違いしちゃったね」
スッと離れていく美久。
軽く笑ってはいたものの、傍から見てもその落胆振りはそーとーなモノに思えた。
「……でな、俺、何がどうなってるか訳わかんないんだよ。夕食の時でいいから話してくれるか?」
「あ、うん……。でも、私もよく分かんないんだけど……」
「あーうん、どうせあのバカのことだ、ろくでもないことだろう」
「そ、そんなこと言ったらかわいそうだよ」
「まぁ構わんさ。それと俺もいろいろ話さなきゃいけないことがあるんだけど。……例の記憶の件とか」
「えっ?」
「それも夕食の時にな。ちょっと先にシャワー浴びてくる」
「あ、うん……」
薔薇の花束はとりあえずテーブルの上に置き、俺はキッチンを後にした。
「……ふぅ」
お茶を飲んでとりあえず一息入れる。
リビングに目をやると、棚の上の花瓶にさっきの薔薇がきれいに生けられていた。
「ゴメンね、お花は早めに花瓶に移し変えてあげないと」
その作業のために席を外していた美久が戻ってくる。
「で、さっきの話がだいたいの説明なんだけど……」
「……それは何とも災難だったな」
俺は美久から安西に告白された経緯を説明された。
何でも公園でしょげてる安西を見つけた美久が、優しくなだめてあげたことが発端になったらしい。
その後突如元気になった安西に『俺、あなたに惚れました!! 付き合ってくれませんか』と告白されたとか。
あのバカ、立ち直り早すぎるというか何と言うか……
「で、どう答えたんだ?」
「う、うん……、少し考える時間を下さいって」
「それにも関わらずアイツは薔薇を持ってきた、と」
「そ、そんなに悪く言わないであげて。……安西さん、本気だと思うから」
「まぁ、それは分かるけどな」
安西は冗談半分でこういう事をやる奴じゃないってのは、友人の俺自身が一番よく分かっていた。
それだから余計に性質が悪いんだけどなぁ。
「それで、お前はアイツの事どう思ってるんだ? ……まぁ答えにくかったら答えなくてもいいけど」
「う、うん……、安西さんはお兄ちゃんの友だちでよく知ってるし、いい人だと思うよ」
「……その割にはさっき花束渡した時、安西からだって分かってえらく落胆してたよな」
「う……」
「つまり、恋愛対象としては見れない、と」
「そ、そういうんじゃないよ、別に安西さんが恋人なのは嫌って訳じゃないし……」
「……ならアレか、他に好きな人がいるのか?」
「!?」
「……分かりやすいな、お前」
「うぅー……」
すっかり真っ赤になってうつむく美久。
我が妹ながら、その姿はとてつもなく可愛いと思う。
「安西には残念だが、自分の気持ちに素直にならないとな、うん」
「……そうだね」
「んー、断りにくかったら俺から言っておこうか?」
「……いい、それは自分で言うよ」
「そっか」
もう一度リビングの薔薇に目をやる。
2日で2回の失恋、何と言うか……恋多き男だなぁ、安西も。
「……ちなみに、よかったら教えてもらえないかな、その好きな人」
「えっ!?」
「いやいやいや、もちろん答えたくなかったら別に答えなくていいから。いくら兄妹でもそこまでプライベートに干渉しちゃマズイもんな」
とは言うものの、内心ものすごく気になっていた。
親代わり、と言うほど大層な事はしてないけど、大切な妹の相手だ、兄として気になるのは当然のこと。
「……」
「い、いやいやいやゴメンな、ヘンな質問して。忘れてくれていいから」
……これから先程のホテルの件を説明しようと言うのに、何を聞き出そうとしているんだ、俺。
まぁ、重い話になるからまずは軽い話から入っておこうと思ったんだが……美久にとっては重い話だったよな。
「うんホントゴメン、軽く聞いちゃって悪かっ」
そんな俺の弁解を遮る形で、美久の答えが返ってきた。
「……ちゃん」
「…?」
「……お兄ちゃん」
「ん、俺がどうした?」
「……私が好きな人は……お兄ちゃん」
「ほぉー、美久が好きな人はお兄ちゃんかー、いやいやそれは知らなかったなぁー……って、俺ぇー!!?」
「……うん」
「ちょ、ちょっと待てって、そんなまたご冗談を……」
「……冗談でも何でもないよ、私の好きな人はお兄ちゃん、上城秀一さん」
「え、え……マ、マジですか?」
「……さっきお兄ちゃん花束渡してくれたよね。あれ、お兄ちゃんからのプレゼントかと思って私すっごく嬉しかったんだ」
「な、な……」
「安西さんに好きだって告白された時ね……パッと答えが出なかったの。それで少し考えさせてって答えてさ」
横目で薔薇を見やる美久。
「そこにお兄ちゃんが薔薇を持って帰ってきた。結局は勘違いだったけど、他の人じゃなく、お兄ちゃんがプレゼントを持って帰ってきてくれたことをどうしようもなく喜んでる自分がいて」
「……」
「その時気付いたの。私、お兄ちゃんが好きなんだなって」
「……」
突然の告白に、今度は俺の方がどうリアクションとっていいのか分からなくなってしまう。
「……ゴメンね、こっちがヘンな話しちゃって。いきなりこんなこと言われても困るよね。だって私達、兄妹だしね」
「……美久」
やっと何かを言おうと口を開くが、
「ごめんなさい、ちょっと一人にさせてくれるかな……」
そう言って美久は、自分の部屋へと戻っていってしまった。
ひとりキッチンに残された俺は、ただただ呆然とするしか術はなく。
「……美久」
気が付けば、時計の針が指し示す時刻は午後11時57分。
過去の出来事に力の話、それに加えて妹・美久の告白……
思考回路の処理が全く追いつかない出来事が立て続けに降りかかってきた、そんな一日が終わろうとしていた。
あとがき
執筆ペースが思うように上がらない筆者の舞軌内です〜
SS作家妄想伝も第9話〜
書いてる自分が言うのも何ですけど、おめでてぇ話だなぁーと。
妹からの告白ですよ、そんな話、それこそ妄想ですよ。
そう、まさにSS作家妄想伝。
この話は、SS作家の私の妄想を書きなぐった話ですので、このようなタイトルが付いているのですよ!!
……と、今さっき取ってつけた様なタイトルの説明ですが。
それではこの辺で〜