「……」
つい先程まで、バッティングセンターで『絶叫!失恋憂さ晴らしフリーバッティング』を繰り広げていた安西義男(20)
しかし相棒の上城秀一が急にどっか行ってしまったのでやる気も失せ、その場を後にした。
その後、こみ上げてくる失恋の苦い記憶に苛まれ、公園のベンチにてリストラサラリーマンの如く凹みのポーズ。
そんなダメ姿をとある人物に目撃されてしまう。
「……あれ?安西さんじゃないですか」
上城美久。親友・上城秀一の義妹。
「どうしたんですか、そんな落ち込んだ顔して?」
「美久ちゃん……か」
その後、何となく失恋云々について友人の妹に全て吐露する安西。
そんな精神的に参っている安西を、親身になって慰める美久。
「安西さんは運がよかったんですよ。これでまた、新しいの恋に踏み出すチャンスを与えられたんだから」
「……美久ちゃん」
沈み始めた西日に照らされた美久の顔を見て安西は確証した。
……俺、この娘に恋してる、と。
そんな安西の心をときめかせた美久の兄の名は、上城秀一。
まさか妹がそんな色恋沙汰に巻き込まれていようとは夢にも思っていないと言うかそれどころではない状況に陥っている、自称SS作家だ。
〜SS作家妄想伝8〜
『伏線貼りまくりはもうやめてーと言う心境ですよ』
駅前ホテルの宴会場。
見た感じ軽く30畳はあろうかと言う大広間だが、そこにいるのはたったの6人。
上城秀一に鈴原涼香、暴力団友成組の組長を名乗る男・友成圭一。
そして、麻酔をかけられ床で爆睡するアゴ・タコ・ジゴロの3バカトリオだ。
「……では、何からお話しましょうかねぇ」
不敵な笑みを浮かべる友成。
「俺の力がどーたらこーたらとか言ってたな。何でアンタが力の事を知ってるんだ?」
「まぁまぁ結論を急ぐ無かれ。あんまり早いのは女の子にも嫌われますよフフフ」
「……エロジジイめ」
ほれ見ろ、下ネタに弱い涼香なんか真っ赤になってうつむいてしまってるがな。
「では、まずは君の失われた記憶についてから語っていかなければならないねぇ」
「俺の……失われた記憶」
涼香が転校していった時近辺の記憶。どうしてもこのあたりの記憶が俺の頭には残っていない。
「といっても口で説明するのはめんどくさいね。記憶を取り戻させてあげようか」
「え?」
と俺が反応したのもつかの間、友成は目にも止まらぬ速さで俺の背後に回りこんでいた。
「な、なに!?」
「はーい、ちょっとチクッとするよー」
「ちょ、テメェ何をっ!!!」
その瞬間、電撃のような感覚が首筋から全身へと駆け巡る。
痛みにたまらず俺はその場にひざまずく事となる。
「ムグッ……、な、何なんだ……」
「大丈夫大丈夫、ちょーっとツボを刺激しただけだから。ほーら、時期にまぶたが重くなって君は失われた記憶を夢で見るんですよフフフ」
「わ、訳わかんねぇ……よ……」
しかし友成の言うとおり、俺は抗いようの無い眠気に襲われ、そのまま意識は断絶した。
声が……聞こえる……
「アハハハハッ、そんなこともあったね、涼おねーちゃん」
「うんっ、今思い出すだけでも……ププッ」
ぼんやりと視界が開いてくる。そして、この光景がどういうものなのか理解できてきた。
……ここは、鈴原涼香の家。俺の記憶から欠落していた部分か……
小学生の俺は……美久と一緒にこの家に遊びに来ていたんだっけ。
「何楽しそうに笑ってんだよ」
記憶の中の俺が、記憶の中の少女達に話しかける。
「ん、あぁーちょっとした思い出話」
「フフン、おにーちゃんには教えてあげなーい」
「なにおー!!」
「「キャハハハハハ」」
幸せな記憶。そう……ここまでは幸せだったんだ。
ドスドスドス。廊下から足音がこちらに向かってくる。
「ん、あ、パパ、ママ。おかえり〜」
「おじゃましてま〜す」
幼き俺の目に写ったのは、とても優しい涼香の両親。
でもその日、あの二人の目は今まで見たことも無いような恐ろしい目をしていたんだ……
「今日はお仕事早く終わったんだね。ここんとこずーっと帰ってくるの遅かったから寂しかったんだよ〜?」
「……」
「パパ? どうしたの、そんな怖い顔し……」
「グッ!!」
部屋中に美久の低いうめき声が響き渡った。
見ると、涼香の母親が美久の腹に一発パンチを打ち込んでいたのだった。
「み、美久になにしやがるんだ!!」
「キャハッ!!」
俺が吼えたのと同時に、涼香のうめきも聞こえてきた。
父親が、実の娘を手刀で眠らせていた。
「えっ!?」
何が何やら分からなくなった俺、先程までの威勢はどこへやら、急に襲ってくるは逃れようのない恐怖。
無言で接近してくる大人二人。
「やめろ、やめろぉー!!」
どんなに叫んでも歩みを止めない御両人。
壁際まで追い詰められた俺の記憶は……ここでまた寸断した。
……そして次に俺が目にしたのは、見慣れた自宅の風景。
「あら秀一、起きたの」
「……母さん?」
キッチンから母親が呼びかけてくる。どうやら自分はリビングにいるらしい。
「二人揃って昼寝してるんだから静かでありがたかったんだけどね。晩ご飯カレーでいい?」
「え、あ……うん」
リビングを見渡すと、ソファーで寝息を立てている美久の姿が。
その後話を聞いたところ、母親が帰宅したときには俺達二人はリビングで眠りこけていたと言う。
そして、揃いも揃って二人とも先程の鈴原邸での記憶がキレイに消えているのであった。
「というのが君の幼き日の消えた記憶って訳だ」
「!!?」
突如身体を襲う痺れにより、俺の意識は現実へと呼び戻されてきた。
「な、なにしやがった!?」
「ちょっと電気刺激をビリリと与えただけだがねぇ。痛かったら申し訳ない」
そう全く反省した気の無い顔で友成が言う。
「で、どうだったかな? 君の失われた記憶は」
「どうだったって言われても……つか、アンタ何をした、いやそれ以上に何で記憶について知ってる!?」
「……涼香クンのご両親はどういう仕事をしているか知っているかね?」
「え?」
突然の質問に頭が働かない。
「涼の親御さん……」
「大学教授よ」
俺が答える前にさらっと答える涼香。
「東京の方の有名な大学の教授でね。専門は生物工学」
「そ、それとさっきの記憶とが何の関係が……」
顔を伏せてしまう涼香。なんだ、エロネタに反応して俯いてたのじゃなかったのか……
「フフフ、その件に関して彼女の口から語らせると言うのは酷な物だよ」
話に割り込んでくる友成。
「い、一体何だってんだよ!?」
「彼女の両親……鈴原教授夫妻は生物工学の分野では世界的権威でな。加えて物理の分野にも非常に秀でていた」
そう言えば涼香の家って豪邸だったよなぁ……、親御さんそんなすごい人だったのか。
「そしてあの日、鈴原くんは自身の築き上げた最高の理論を形にするため、君たちを実験体に使用した」
「……え」
じ、実験体……?
「その結果、君にはその“停める者”の力が身についたわけだな」
……何とも現実味の無い話が目の前で繰り広げられているような気がする。
「わ、訳わかんねぇよ、つまり俺のこの力は、涼の親御さんがどこぞのライダーみたいな人体実験を行った結果身に付けられたものって言うのかよ」
「そのとおりだ。その実験の記憶を消すためにあの時の記憶は隠されていた。な、涼香君?」
涼香は……うつむいて何も語ろうとはしない。
何かに耐えているようにも見えるのだが……
「じゃ、じゃあお前何でそんな事知ってるんだよ!! お前、誰だ!?」
フッ、と軽く笑って友成は口を開いた。
「私の名前は友成圭一、先程述べた友成組組長と言うのは表向きの顔。私は……鈴原教授の協力者(パートナー)だ」
「パ、パートナー……?」
「まぁ細かく言えば、彼の研究資金を工面したりいろいろ融通を利かせてあげたのだよ。それこそ、いろいろとな」
『くっ……』
今一瞬、涼香が声をもらしたような気がしたが
「彼らはね、大っぴらには人様に言えないような研究や実験も行っていてな。まぁ、君らの受けた人体実験などが正にいい例だな」
その後の友成の話では、鈴原教授は主に人間の身体能力の限界を打ち破る研究を行ってきたという。
その成果はスポーツ選手の筋肉増強に始まり、海外の軍隊から特殊人体部隊作成の依頼なども来ていたという。
しかしそれはあくまでも生物の運動能力を高める域に留まり、それを脱する事は出来なかった。
「しかしそこに物理学に精通した彼の嫁さんが登場する事により、研究は更に深みへと入っていくのだよ」
人知を超えた身体能力と、物質の形成そのものを司る物理学の融合。
彼らの目指すものはその後、手からビームを出したいなどのいわゆる超能力的なモノへと変わっていくのであった。
「この研究には10年以上もの月日が費やされた。ちょうど君たちの成長と平行して、教授達の研究も進んで行ったという事だよ」
そして完璧な理論、幾たびもの実験の末に彼らの研究はひとつの結論へと達した。
その成果を体現するため、あの日、俺達を襲って人体実験に利用した。
「と言うのが掻い摘んだ説明だよ、分かっていただけたかな?」
「……涼、今までの話は本当のことなのか?」
「……」
「涼!!」
「……事実よ、全て」
力なく答えた、マッドサイエンティストの娘。
「そんな……人体実験だなんて……」
己が身に何が起こったかを知ると急におぞましくなってきた。
「……あ、襲われたのは涼もだよな! と言うことは涼も何か変な能力持ってるのか!?」
「……私には無いわ。私は……失敗作だから」
「えっ?」
「ハハハ、自分を卑下する必要は無いぞ涼香君、君にも最高の働きをしてもらわねば困るのだからねぇ」
力なくうつむいたままの涼香と、いやらしい笑い声を上げる友成。
「……美久、美久も実験体になったのか!?」
「あぁー“母”の娘か。もちろん、と言うか彼女こそ鈴原教授の研究の集大成だからな。今、彼女軽く記憶を失ってるだろ?」
「な、何でそれを!?」
「ふむ、全ては順調と言う事か……フフフフ」
「な、何なんだよ一体!!!」
「まぁ話は大きく戻るが、上城クン、私の手助けをしていただけないかね?」
「ハァ!?」
「いや、先程述べたようなヤクザな仕事をさせる気は無い。いや君にはもっと成してもらわねばならぬ事が控えているからな」
「その含みを持たすような言い方やめー!! 何か伏線だらけでウワァー!! ッて感じになるの!!」
ついついSS作家の地が出てしまう。
ただそんな事は露知らずと話を進める友成。
「まぁ、協力してくれるのならば全てをお話しするよ。それまでは多くは語れない」
「……そんな人を勝手に実験体にしたような輩の協力なんかする訳ねぇだろ!!」
「フフフ、若い、若いねぇー!!」
次の瞬間、俺の身体は中に舞っていた。
ドスン!! 背中から鈍い衝撃と共に落下する。
「っ……」
「おやおや、お得意の亜空間なんとやらが発動する間もなく無様に吹っ飛んだねぇ。若い、若いよ」
「くそったれがぁ……」
「まぁいい。今日のところは挨拶だけと言う事で」
「……え?」
また殴りかかってくるのだろうかと身構えていたが、友成はそう言って急に部屋を後にしようとする。
「な、何なんだよ、バカみたいにあっさり引き下がって」
「いいんだよいいんだよ。最終的に君は私の手伝いをすることになるのだからねフハハハハ」
「わ……わけわかんねぇよ、もう全く」
涼香も気が付けば友成と共に部屋を出ようとしている。
「涼!!」
「……ごめんなさい」
こっちまでわずかに聞こえてくるようなか細い声でそうつぶやき、涼香は部屋の外へと走り去っていった。
「……何なんだよホント」
「では、失礼させていただくよ。また、明日」
「あ、明日……?」
そう言い残し、友成も部屋を去って行った。
「……何がなんだかさっぱりわからねぇ」
残されたのは数多くの謎とほとんど手の付けられていない宴会料理、そして床に寝転がる3バカだけであった。
「……って、こいつらどうするのよ」
あとがき
お久しぶりです筆者の舞軌内です。
SS作家妄想伝第八話〜
今回は冒頭が特に狂ってます。
とうとうSS作家と言う肩書きも“自称”になってしまいましたし。
本編もやたら含みもたしたしゃまだらくさい内容になっております、今回。
何つーか、書いてる自分も訳わかんなくなってくるというダメップリ。
ま、まぁ何とかします。
それではこの辺で〜