「……」
ホテルの長い廊下を、涼香の後に続いて歩く。
「……なぁ、どういうことなんだ?」
「……」
「なぁ、さっきの男は何者なんだ?」
「……」
「それ以上に、俺、一体どうなるんだ?」
「……大丈夫。しゅうくんは大事なゲストなんだから」
「ゲスト?」
「……ついたわ」
涼香が立ち止まる。
「松の間……」
「さ、入りましょ」
「お、おぉ……」
そして松の間のふすまが開かれた。




俺の名前は上城秀一。
何かもう後には引けないヤバイもんに頭突っ込んじまった、一応SS作家だ。









〜SS作家妄想伝7〜
『極道の馬鹿たち』








ガラガラガラ……
「ガラガラガラ!?」
何でふすまなのにそんな音が……
「来たかね涼香君。さ、中に入りなされ」
「はい……」
先程部屋に来たと思われる男の声に則され、松の間に入る涼香。
俺もその後に続いた。
「おっ、鈴原さんも来ましたか。もう食わせてもらってま……って、て、テメェは!!?」
「いっ……」
食事していた例のチンピラ三人衆が立ち上がる。
「落ち着けお前ら。上城君は私が呼んだんだ」
「だ、ダンナが……?」
そう言われ、座るチンピラたち。
どうやらこの男、地位はこの中で一番高いようだな。
「ささ、そこに座ってくれ。まぁ、急なことだったので君の分の料理は無いが」
「はぁ……」
俺は言われるがままに、涼香の隣に座った。
「……あの」
「うん、君の言いたい事は分かるよ。一体何がどうなってんだって言うんだろ?」
「そ、そうですが……」
「では、まずは自己紹介から始めようか」
そう言って、上座に座る初老の男は箸を置いた。

「私の名前は友成圭一。まぁ俗に言う……悪の親玉ってやつかな?」

「悪の……親玉?」
……何言ってんだこの爺さんは?
「あぁ。世界制服を企んでいる以上、悪人としか言えんじゃないかね?」
「せ……」
……世界制服。ゴメン、今ものすっごく吹き出しそうになった。
横目でチラッと涼香を見る。
「……」
しかし、何故か大真面目にこの話を聞いている。
ちょうど俺の前の席に座ったチンピラどもにいたっては、こちらに睨みを効かせているし。
「……スイマセン、ちょっと意味がよく分からないんですが」
「あんだとコノヤロォ!!」
「だんなに何て口利いてんだボケェ!!」
「いてかますぞコラァ!!」
チンピラ三人が揃って立ち上がる。
「ひ、ひぃぃ!!?」
「落ち着け3バカ」
「うっ……」
友成と名乗る男に言われて再び席に着くチンピラたち。
……3バカなのか。
「まぁ普通分からんわな、こんな話。とりあえず……友成組の名を聞いたことはあるかな?」
「い、いえ……」
「まぁ一般人には無縁の世界かねぇー、極道の世界は」
「極道……」
「ま、正直うちは山口組とかそういう有名どころと比べたら、まだまだ小さな組だわな。知らんのも無理はない」
いや、組の大小に関わらずそんなに世間一般に知られるようなものではないだろうに。
「でだ、こーした極道稼業に首突っ込んじまった以上、上を目指すのが男の道ってモンだろう。夢はでっかく世界制服。どうだ、悪くないスローガンだろ」
「どうだって言われても……」
それにしては何かそんなに暴力団くさくないんだよなぁ、この爺さん。
まぁ、横の3バカはそりゃヤクザ者にしか見えないが。
「でだ、上を目指すからには強大な力が必要なわけだよ。まぁここで言う力は、いわゆる黄金色な力だったりするわけだが」
「……資金力、ですか」
「どんなに腕っ節が強くても、結局金がなければ何にもやっていけない。そんな世知辛い世の中だよ現代日本は」
「はぁ……」
やっぱり暴力団くさくないよなぁ……
だが、そんな考えは次の一言で軽く消し飛ばされる事となった。
「ただ、そんな金の力など遙に及ばない力もこの世には存在しているのだよ。……そう、君が持っているような特別な力」
「!?」
……この男、俺の亜空間物質形成を知ってる!?
「な、何で俺の力を……」
「フフフ、そんな事はどうでもいいじゃないか」
「よくない!!」
「うんうん、若いねぇ。私もそんな頃があったものだ」
「……」
涼香を伺い見る。
「……お前が喋ったのか?」
「それは違うわ。……その力はもともと、友成さんが与えたもの」
「えっ……?」
……どういうことだ?
「その辺の話はまた後でいいじゃないか。話を進めさせてくれ」
「えっ、あ……」
「簡単に言おう。上城君、君には是非とも我が友成組に協力していただきたい」
「……」
「なぁに、恐れるものなど何も無いはずさ。君の力は他のチンピラはおろか、警察すら超越しているはずだしな」
「……」
確かに俺の持つ力は、並大抵の人間に太刀打ちできるものではない事は、自分が一番よく理解している。
だが、そんないきなり任侠の世界に足を突っ込めなどと言われても……
「仲間だって大勢居るさ。とりあえずここにいる人間は全員メンバー」
そう言って回りに手を向ける友利。
3バカ、友利、そして……
「涼……もか?」
「……」
無言で頷く涼香。
「さ、どうかな?」
「どうかなって……、そもそも俺、友成組が具体的に何をやってるかなど知りませんし」
「だいたいがVシネで哀川翔がやってるようなヤクザ稼業だよ」
「いや、だから……」
そこでゼブラーマンを引き合いに出すか、普通?
「まぁ君くらいの力の持ち主なら、殺し、強奪、爆破など一端の組員には任せられない仕事を任せられるしな」
「……よく分からないですけど、やりたくはないですよそんな事」
そんな、自ら進んで犯罪行為を犯したくはない。
「そうか……、君なら承諾してくれると思ったんだがなぁ……」
そう、どこか芝居がかったように頭を抱えて言う友成。
「本人の意思は尊重しなきゃね。仕方ない」
「は、はぁ……」
帰れる……のか?

「じゃ、死んでもらおうかな」
「はい。……って、えぇっ!?
「アゴ、タコ、ジゴロ、殺ってしまえ」
「「「了解!!」」」
そう言われ3バカが立ち上がった。
「え、えっ……、何ですか?」
「死ねやボケェー!!!」
「なぁぁぁぁぁ!?」
次の瞬間、俺はがたいのいい男の拳が飛んでくる。




「……」
が、その拳に殴られたのは俺ではなく、カバーのない抱き枕だった。
「ちっ」
舌打ちするがたいのいい男。
「流石だな、“停める者”の力は」
つぶやく友成。
「……とめるもの?」
「うん、私が見込んだだけの事はあるようだな。アゴ、タコ、ジゴロ、手加減はいらん、本気で殺しにかかれ」
「「「了解!!」」」
そして俺の前に勢ぞろいする3バカ。
「……何なんすか、あんたらは」

「フフフ、俺の名はアゴ」
ヒョロッとした男が言う。
「俺の名はタコ」
大柄な男が言う。
「俺の名はジゴロ」
小柄な男が言う。
「友成組債権取立て恐怖の極悪トリオといったら、俺たちのことよ!!」
そして3人で決めポーズ。

「……」
「ははぁ〜、恐れをなして何も言えんか?」
「……い、いや……」
何か関わりたくない人らと関わっちまったようだよ、ママン。
「……一ついいですか?」
「あぁ」
「……アゴとかって、本名ですか?」
「「「んな、んなわけねぇだろ!!」」」
3人そろって反論される。
「好きでこんな名前なんか付けてないわ!! コレは勝手に友成のだんなが……あ」
そういって口ごもるジゴロ。
その先で、ギラリと光る友成の鋭い視線。
「……何か?」
「い、いえ!! 何でもないっすよ!!」
「……大変ですね、あなたらも」
「き、貴様に同情される筋合いなんぞ無いわ!! アゴ、やっちまえ!!」
「おぉ!!」
そう言って殴り掛ってくるアゴ。
「……またバカの一つ覚えみたいに」
俺は精神を集中して、亜空間物質形成を行おうと右手を前に出そうとした……が、
「なにっ!?」
俺の右手には一本の細い糸が巻き付いており、動かす事が出来ない。
その糸を持っているのは……
「た、タコ!?」
「フフフ……」
このままではいかん、今俺の目の前にはアゴの拳が……

「……って、え?」
ない。
飛んでくるはずのアゴのパンチが目の前から消えた。
そう思ったと同時に、左手に感じる痛み。
「つっ!?」
見ると右手同様に糸が巻きつけられていた。
「い、いつの間に!?」
「ハハハ、俺らをただのチンピラと思ってもらっちゃ困るよ」
左手の糸を握っているアゴが笑う。
「クッ……」
今の俺は両手の自由を奪われている。
これでは……物質形成が出来ない。多分。
「ヒャヒャヒャ!! あっけない幕切れやなぁ、上城よぉ?」
ゆっくりと近づいてくるジゴロ。
「今のお前にゃ特殊な力は使えまい。後はじっくり殴り殺すってのも乙なんやけどなぁ」
そう言って内ポケットから取り出したものは……
「一思いに殺してやるよ。ありがたいと思ってーな」
一丁の拳銃。
その銃口を俺の額にくっつける。
「ほな、さいなら」
「くっ!!」
引き金に指がかかり、俺は覚悟を決めた。


バキューン!!!


「……」
が、
「……え」
意識がある。……俺、生きてる?
「「「な、なんじゃこりゃあー!!?」」」
「えっ?」
気が付くと俺の目の前でジゴロ他3名が、体中をロープで縛られて転がっていた。
「な、何でだ……」
「……な、何が起こったんだ?」
俺自身も何がなにやら分からない。
「……あれ?」
いつの間にか、両手に巻きついていた糸らしきものもなくなっているし。
……力が発動したのか?

「ほほぉ……、こいつは驚いたな。報告以上じゃないかね、涼香君」
「……そうですね」
そう答える涼香の表情からは、それと言った感情は汲み取れない。
「しかし、この私ですら全てを見る事は出来なかったな。想定外の大成長、か」
「……」
「ハハハ、しかしまだ力を己の本能の赴くままにしか利用できていないようだな」
「思考がそのまま具現化している、と言ったところでしょうか」
何か冷静に解析されてるし。
「まぁよい。上城秀一君、君の力、しかと確認させてもらったよ」
「……アンタ、この力について何を知っているんだ?」
「知りたければ教えてあげよう。失われた過去の記憶と共にな」
「なっ……」
失われた記憶……、涼香がいなくなった時の事か?
「それが分かれば……君の大事な妹さんの事についても分かるだろうしね」
「ッ!?」
美久の事かっ!!
「まぁまぁそう熱くなるな。話す前に……機密保持を確約しておかねばな」
そう言って友成は、床に転がっている3バカの元へ歩み寄る。

「だ、だんなっ、とりあえず解いてください!!」
「今度こそあの野郎、キャーン言わせてやらな気がすまねぇ!!」
だが、
「いや、ご苦労様。君たちにはそのままもう少し休んでいてもらおうか」
「えっ?」
友成はおもむろにポケットから何やらスプレーを取り出した。
そして、三人の顔にそれをプシューとかけていく。
「だ、だんな、一体何を……」
「まぁ、人に聞かれちゃ拙い話なんでね。子一時間ほど、お休みなさい」
「だん……な……」
そうつぶやいたのを最後に、3人は動かなくなった。

「テ、テメェ、自分の仲間を……」
「ん? いやいや単に眠り薬をかけただけだよ。特に命に別状はない」
その割に3人は死体のように動かないんだが……
「しかし君もお人よしだねぇ。自分を殺そうとした相手を心配するとは」
「……」
「まぁそんな事はどうでもいい。では、お望みどおり説明してあげようじゃないか」
ごくり。
己の生唾を飲む音が聞こえてきた。


「君の力の真実を」











あとがき

筆者の舞軌内です。

SS作家妄想伝第七話ですねぇ。
ハイ、また涼香の正体分からずじまいでした。
ま、まぁ次回こそは力の謎と共に全て分かるはずですので。
しかしまぁ、戦闘シーンの描写力……日々精進ですな。

んで本編に関係無い話。
最近分かった私の癖というのがあるんですよ。
それは、『多忙になればなるほど執筆意欲が沸いてくる』
今ちょっといろいろと日常生活が多忙になりつつあるんですが、そうなってくると何故か創作意欲が沸いてくるのです。
逆に暇で暇で時間が有り余ってる時は、何にも書く気が起きないヘタレに成り下がってしまうのですが。
んー、ある意味テスト前に無性に部屋の掃除がしたくなるのと同じ心境かなぁー

それではこの辺で〜