「ハハハハハハハハハハハハ…………」

俺の隣で乾いた笑いを上げている男が一人。
「……落ち着けよ、そろそろ」
「ハハハハ……、はぁ、言われんでも分かってるわい」
安西はガクッと肩を落とした。
「まぁ凹む気持ちはよーく分かる。でもこんな白昼堂々奇声を上げるこたぁないだろうに」
「うるへー、お前に俺の気持ちなんぞ分かってたまるかぁ!!」
「あーあー、だから落ち着けって」
大学の中庭を行きかう人々が、俺たちの座るベンチの方を冷ややかな目で見て通り過ぎていく。
「……畜生」
「……女にフラれただけでそんなに自暴自棄になるなよ」
「……ふぅ」
つい先程、安西は前から気になってた女性に思い切って告白。
そして素敵なまでに玉砕したのだった。
「何でこう、いい女には先客がいるんだよぉ」
「そこで略奪愛なんてどうだ?」
「他人事だと適当なこと言いやがって……」
さっきからお互いずーっとこんな感じ。
「……上城」
「何だ?」
「お前、この後講義あるのか?」
「ん、あぁ一応。夕方の分があるな」
「そうか。じゃあ憂さ晴らしに行くぞ」
「は?」
「は? じゃねぇよ。友人が失恋の痛手から立ち直るためのリハビリに付き合えって言ってんだよコンチクショー」
「いや、だからこの後も講義あるってさっき……」
「黙って俺について来い!!」
「……言ってる事無茶苦茶だな、お前」
こうして俺は半ば無理矢理安西にどこかしらへと連れて行かれることになってしまったのだった。


あ、俺? 俺の名は上城秀一。
ぶっちゃけSS作家って言う設定、別にいらなくなってきた気がするけど一応SS作家だ。









〜SS作家妄想伝6〜
『涼香大走査線』








カキーン!! カキーン!!
「くそっ!! ふんぬっ!! ボケッ!!」
「安西ー、アッパースイングになってるぞー」
「じゃかあし!!い!! 黙っ!! てろ!!」
カキーン!! カキーン!!
安西に連れてこられたのはバッティングセンター。
俺たちがしょっちゅう利用している馴染みの場所だ。
「女!! なんて!! シャボン玉!!」
……何かすっごいうっぷん晴らしてるなぁ
「上城!! お前!! やらないのか!!」
「別にスイングにあわせて発言しなくてもいいのに」
「しょうが!! ないだろ!! 癖だ!!」
「どんな癖だよ……。まぁ、俺もひと飛ばしするか……」
そして財布から小銭を取り出そうとしたその時。

「あ」
バッティングセンターの前の道を、一台のタクシーが横切っていく。
その客席に座っていた人物に、俺は見覚えがあった。
「どうし!! た? 上城!!」
「……悪い、ちょっと抜けるわ」
「おいっ!! 講義は!! もう!! 始まってるぞ!!」
「違う、ちょっと野暮用だ。んじゃな」
「お、おい!! コラ!! 待て!!」
俺は急いでバッティングセンターを飛び出し、前の道に出た。
「クッ、間に合うか!?」
そして自転車に飛び乗り、前方はるかに見えるタクシーを追ってペダルをこいだ。


詳しい話聞かせてもらうぞ、涼香。




「……」
当然のことながら自転車が車に追いつけるわけもなく。
「ふぅ〜」
俺は駅前で缶コーヒーを口にしていた。
「あの時とっさにタクシー拾って、ドラマ見たく『前の車を追ってください!!』とかすればよかったな……」
駅前に並ぶタクシーの列を眺めながらつぶやく。
「……ん?」
その中の一台……、あれ、涼が乗ってたタクシーじゃないか?
……間違いない。追う時ちゃんとナンバーは記憶したし、運転手のハゲた後ろ姿も同じだ。
俺はそのタクシーに近づいていった。

「すいませーん」
「ん? 客なら前の乗り場に行ってくれ」
「あ、そうじゃなくて、あなたさっき女の人乗せてましたよね?」
「女の人? そう言われても何人も乗せてるから分からんよ」
「あー、年齢は自分と同じくらいで、背は160センチほどのショートカットのスラッとした女性です」
「……あぁ、ついさっき乗せたな」
「すいませんがそのあと彼女、どこに向かったか教えていただけないでしょうか?」
「……てかアンちゃん何者だ?」
あからさまに怪しい目で俺を見つめるハゲ親父。
とここで、先程用意しておいたデマカセ設定をつむぎだす。
「……実は自分、探偵業をやってるものでして、先程言った女性の浮気調査をおこなってるんですよ」
「アンちゃん探偵さん? はぁ〜、探偵なんぞ初めて見たなぁ。だいぶイメージと違うが」
「ハハッ……、で、調査にご協力いただければ幸いなんですが」
「浮気調査か。ならあの姉ちゃんはクロだな」
「えっ?」
「あの姉ちゃんの行き先、そこの駅前ホテルだったし。そこで密会してんじゃねぇの?」
「駅前ホテルですか」
親父の指差す方向には大きなビル。駅前ホテルだ。
「ご協力ありがとうございました」
「いいってことよ。じゃ、頑張れよ」
俺はホテルの方へ小走りで向かうのだった。

てか、別に探偵を名乗る必要性などまったく持って無かったな。
友人だって言っときゃいいものを。それに普通、探偵が自分で浮気調査してるなんてバラさねーし。
……ま、いいか。ちょっと面白かったし。




駅前ホテル、ロビーに入る。
ざっと見渡すが、ここに涼の姿は見当たらない。
「……泊り客なんだろうか」
そう思っていると、俺の視界の先に見覚えのある男たちが現れた。
「旦那が来るのって今夜っすよね?」
「別にこんな早くに来る必要は無いでしょ」
「しゃーないがな。はよ来いって言われてるんやし」
……あのエロゲヲタチンピラ3人組だ。
「はよ来いって言っても、早すぎでしょ、兄貴」
「せやから鈴原さんが呼んでんねやからしゃーないがな」
……鈴原。
「じゃ、さっさと行きましょうか」
3人組はエレベーターに向かっている。
追わなければ。でも一緒のエレベーターに乗るのは……

「……ウッ、俺、トイレ行きたいっス」
大柄な男がそう言い出した。
「あー、もうエレベーター来たがな。我慢でけんのか?」
「ムリっす!! 爆発っす!!」
「兄貴、我慢できてもエレベーターん中で屁とかされたらイヤなんですが」
「あーもう、なら俺ら先に行っとくぞ」
「で、でも俺、部屋どこかわかんねぇ」
「7階の704号室や」
「分かったっす!! あー、出るぅぅぅぅ!!」
そう叫んで大柄な男はトイレの方へと走り去っていった。
「……じゃあ、行きますか」
残った二人はエレベーターに乗り込んでいった。

「……7階の704号室か」
トイレから戻ってきた男がエレベーターに乗り込んだ後さらに時間を置いてから、俺も彼らと同じく7階へと向かうのだった。




704号室前。
「……」
ここに涼香がいるんだろうか。
でも、今入ったらチンピラたちがいるかもなぁ……
「いざとなればまた亜空間物質形成で乗り切りゃいいけど」
でも出来るだけことは荒立てたくない。
「……」
そう悩んでいると、ドアの向こうから物音が。とっさに通路の影に隠れる。
ドアが開いた。
「……本当に迎えに行く必要てあるんか?」
「喜ぶと思うんですけどね」
……涼だ。
部屋を出た3人、あのチンピラ3人に何か話しかけている。
「いいじゃないすか兄貴。どうせ待ってたって暇なだけだし」
「そーそー。それよか空港でスッチー見物してたほうが有意義ですって」
「……まぁ、なら行くか」
そう言って男たちはエレベーターの方へと戻っていった。


……行ったな。
俺は再び704号室前に立ち、ドアをノックした。
「はーい」
声が聞こえ、やがてドアが開いた。
「何か忘れ物でも……え」
「よぉ」
「し、しゅうくん……」
俺の姿を見て、明らかにうろたえた表情を見せる涼香。
「な、何でここに……」
「ちょっとお前にいろいろ、聞きたいことがあってな」
「……」
「涼」
「……とりあえず入って。話は中で」




広々とした室内空間。
「いい部屋だなぁ」
「どこにでも座って」
俺は目の前にあった椅子に腰掛けた。
続けて涼香もベッドに腰掛ける。
「……聞きたいこと、何でも答えるわ。もう今更隠せないし」
「ならとりあえず……さっきの奴等は何者だ?」
「あの三人ね。まぁ、仕事の同僚と言ったらいいのかしら」
「同僚? でもあいつらお前を襲ってたし……」
「……あれね、演技だったの」
「演技?」
「そう。それもしゅうくんに気付かれるための」
「……何で?」
「あなたの力がちゃんと機能するか、確かめるために」
「俺の……力?」
……亜空間物質形成の事か?
「でも何でそんなことを……」

ドンドン

「!?」
「今のって、ノックの音じゃ……」
「よ、予定より早いわ……、しゅうくんはとりあえずクローゼットの中に隠れて!!」
「わ、分かった」
俺は涼香に言われたとおり、クローゼットの中に身を潜めた。


聞き耳を立ててこっそり部屋の様子を覗いていると、涼香が人を中に入れたようだ。
「は、早かったんですね」
「まぁ、実は3日前にはもうこっちに来ていてね」
「えっ!? だったら連絡いただければよろしかったのに」
「まぁ私だって一人でブラブラしたい時もあるさ」
声だけではよく分からないが、相手の方は品のある話し方をする男のようだ。
「まぁこんな所で立ち話もなんだ。下の宴会場を予約してある」
「そ、そうなんですか」
「石井ら三人にはついさっき会って、既にそちらへ行くように指示してある。キミも『松の間』まで下りてきてくれ。ゆっくり食事しながら報告会といこうじゃないか」
「……分かりました」
「うん。もちろん、上城君も一緒にね」
「!?」
お、俺のこと……バレてる!!?
「じゃあ、先に食べてるよ」

バタン。

「……もう出て来ていいよ」
「あ、あぁ……」
クローゼットから出る。
「……バレてたのか、俺?」
無言で頷く涼香。
「フゥ……。俺、どうしよっか?」
「……一緒に来てくれないかしら?」
「松の間にか」
「うん……。しゅうくんに関係ない話ってわけじゃないから」
「……」
何か俺、とんでもない事に首を突っ込んじまったような気がするな……
でも、ここまで来たら今更引くに引けないんだろう。

「……分かった」

あーもう、なるようになれ。











あとがき

筆者の舞軌内です。
流されるがままに書いてきてるバカSS、SS作家妄想伝第六話ですねぇ。
冒頭でぶっちゃけたように、もはやSS作家って言う設定必要なくなってきたなと感じています。
まぁ、それでも一応タイトル等変更する気はないですけど。

それでは早いですが今回もこの辺で〜
だからあとがきまでリニューアルするのめんどくさいねん正直。