「かぁ〜、だりぃ……」
深夜二時。俺はカタカタとキーボードを打ち続けていた。
いつもならこうしてSSを書いているのだが……
「何書けっつーんだよ、4000字も」
現在行われているのは、明日提出のレポートの執筆作業である。
しかしまぁ兎にも角にも指が痛い。普段SS書いてるときはそんなことないのになぁ……
「興味がなければ何でも辛いってことかねぇ〜」


「あ〜、やってらんねぇ〜」
午前三時、まだ半分も終わらない。
「チキショー、何のためにこんな苦労せなならんのだ」
それはもちろん単位のためだとは重々承知しているが。
「何か小腹が空いてきたな」
そう思い、俺はキッチンへと向かった。

「……むぅ」
しかしながらあいにく何も食料ストックが無い。
まぁ冷蔵庫に生肉とかの食材はあるけどさ、今から料理を始めるわけにも行かないし。
グゥゥゥゥゥ……
「……コンビにでも行くかねぇ」
気分転換も兼ねて。
部屋に戻り上着を羽織り、ポケットに財布を突っ込んで準備万端。
美久を起こさないよう、俺はそーっと家を出た。









〜SS作家妄想伝5〜
『その幼馴染、意味深につき』








マンションから最寄のコンビニまでは歩いて3分程。
自転車を出そうかと思ったが、こんな時間にガチャガチャやってたら近所迷惑だろうと思い徒歩でやってきた。
「いらっしゃいませー」
やる気のない男性店員の声に出迎えられて店内に入る。
とりあえずポテトチップスでも食うかなと思い、お菓子コーナーへと向かう俺。


「草津なんかどうですか? ゆっくり出来そうですし」
「まぁ、温泉地なんぞどこ行ったってゆっくりは出来るけどな」
「ほな、ハワイ温泉とかどうや?」
「あーあったなー、そんなところも」
お菓子売り場のちょうど向かい、雑誌コーナーから男性グループの会話が聞こえてきた。
そんな大声で話しているわけではないが、他に客がいないためよーく話の内容が聞こえてくる。
しかし、この声どこかで聞き覚えが……
「俺、近所の銭湯でいいっすよ。とりあえずこないだ手刀喰らった首筋がまだ痛みますから」
「かぁ〜、俺なんかまだ後頭部が痛いし。何が悲しくて六法なんぞぶつけられなアカンねん」
……手刀、六法、なんか俺、そのシチュエーション、知ってるんですけど。
俺はこっそりと、棚の影から男たちの姿を覗き見た。


「かぁー、何か思い出したら無性に腹立ってきた。あのガキ、一発殴りたくなってきた」
そんな物騒な事をのたまっておられるお兄様方。
それは、こないだ涼香に絡んでいたが俺にあえなく蹴散らされたチンピラ3人組だった。
「まぁそう焦るな。見つけた時にぶっ殺せばいいさ」
……ヤバッ、今見つかったらまた厄介なことになるな。
俺はそっと陳列棚に身を潜め、チンピラたちの様子を伺っていた。
さっさと出て行ってくれよ……
だが、3人はなかなか動く素振りを見せない。
何をそんなに長々と立ち読みしてるんだろう……

「……兄貴、出てないっすね新作情報」
「そか? 進行状況くらい載せると思ってたんやけどなぁ」
こっそりと大柄な男が手にしている雑誌の表紙を盗み見る。
「……!?」
思わず声が出そうになるのを必至で押さえた。
男が読んでいたのは、ギャルゲー情報誌。
……なんか今、彼らに対してものすごく親近感を抱いたのは気のせいだろうか。


デロデロデロデロデーン!!

「ん?」
小柄な男がポケットから携帯を取り出す。しかし、趣味の悪い着メロだな……
「あい、もしもし」
店内によーく響きわたるような大声で話し出す男。
あぁ、レジんとこで店員さんがすっごいオロオロしてるんだが……
「……え、ホンマですか?はぁ……、ハイハイ」
横の二人も雑誌を棚に戻し、男の話に耳を傾けているようだった。
「ハイ、ほなホテルに向かえばよろしいんでっか? わっかりましたー。ほなお願いしますー」

ピッ。

「誰からですか、兄貴?」
「鈴原さんからや」
……鈴原さん?
「どうかしたんですか?」
「あぁ、何か旦那がこっちに来るらしい」
「マッ、マジッすか!?」
盛大に驚く男二人。
「と言うことは、ついに……」
「始まり、やな」
「カァ〜!! 来ましたかぁ〜。だったら早くお迎えの用意とかしないと」
「せやな。ほな行くか」
そうしてチンピラたちはコンビニから何も買わずに出て行った。


「鈴原……」
今、ちっちゃい男が言った名前をもう一度自分の口で発音してみる。
「鈴原……涼香」
偶然にもそれは、涼香と同じ名字。
でも、そんな自分を襲ってたチンピラどもと涼香に付き合いがあるとは到底思えないし……
「……まさか、な」
そう自分自身を納得させ、とりあえずポテチの会計に向かった。




その日の夕方。
「だから自転車で来ればいいものを……」
「いいじゃない、たまにはお兄ちゃんも運動しないと。大学じゃあ体育の授業なんてないんでしょ?」
「まぁそうだけど……」
俺は両手にめいいっぱい荷物の入ったスーパーの袋を持って、美久の隣を歩いていた。
「しかし、いくらポイント5倍って言っても、買う量まで5倍にする必要はねぇだろうに」
「いいのいいの。買える時に買った方が安くつくんだから」
そう話す美久。
すっかり主婦感覚だな、こりゃ。
「でも、何で急に歩きで買出しに行こうなんて言い出したんだ?」

「だからさっきも言ったでしょ? お兄ちゃんの慢性的な運動不足解消のため」
「この程度の運動で解消されるんなら世話ないって」
「そう? だったらここから家までダッシュしてもらおうっかな〜」
「無茶を言うでない、無茶を」
それにしても、今日の美久はえらく機嫌がいいようで。

「……それに、こうやってお兄ちゃんと二人並んで歩くのもいいかなぁ〜って」
「ん、何か言ったか?」
「えっ!? な、何でもないよ〜」
「……?」


「あ」
俺たちの前方から、犬を連れた初老の男性が歩いてきた。
「小田嶋のおじさんじゃないですか」
「……ん、あ、秀一くんに美久ちゃんじゃないかい」
「小田嶋さん? うわぁ〜、お久しぶりです〜!!」
美久もその姿を確認するなり笑顔になった。
その初老の男性は小田嶋のおじさん。
俺たちが小さい頃から、よく面倒を見てくれていた近所の気のいいおじさんだ。
「二人はこんな所で何を?」
「見たら分かるでしょうけど、買出しですよ」
「あぁ……、ご両親、海外赴任されたんだっけ」
「おかげで今は二人暮しなんですよ〜」
両親が海外赴任したのは3年前。
その一ヶ月前くらいに小田嶋のおじさんは、うちの近所から引っ越していった。
「あ、じゃあ今は駅前に? 便利そうですね〜」
おじさんと談笑している美久。3年前だから、美久の中にはおじさんの記憶は残っているようだ。
……まぁ、小さい頃に遊んでもらった記憶はどうだか分からないが。

「ワウワウ!!」
おじさんの連れている柴犬が吠える。
「キュムキュムも元気そうですね」
「ハハッ、わし同様にコイツも年老いたからなぁ」
「いい子いい子」
美久はキュムキュムの頭を撫でてやっている。
この犬、美久にそーとー懐いてたな。俺なんか確か顔見ただけで吠えられてたし。
「ホント、美久ちゃんが小学生くらいの時はコイツも手のひらに乗るような子犬だったからねぇ。あの頃のかわいさは微塵もなくなったが」
そう言って苦笑する小田嶋のおじさん。
「……」
一瞬、美久の表情が曇る。
……思い出せないんだろうな、キュムキュムの小さい頃が。

「しかし、仲良くやってるようで何よりだな」
「えぇ、まぁ」
「二人暮しかぁ……、ある意味同棲みたいなもんじゃろ」
「えっ!?」
「ハハッ、何か君らの様子を見てたら初々しいカップルに見えてくるがねぇ〜」
「イヤイヤイヤ、そんなカップルとか……」
「ホホホ、そうしどろもどろになりなさんなって」
「イヤ、まぁ……」
自分でも赤面しているのが分かる。
今まで何度も人にこうやって兄妹の関係は冷やかされてきたのに、こんな妙な気分になったことは初めてだった。
やはり、昔から俺たちのことをよく知ってるおじさんに言われたのが大きいんだろうか……
「そ、そういう風に見えますか?」
恐る恐るおじさんに尋ねている美久。
美久もだいぶ赤くなっているようだな。
「まぁ冗談って部分もあるけど、何も知らない人が見たら、若夫婦……は言いすぎかな、ハハハ」
「はぅぅ……」
……放っておいたらまた変なこと言われそうだな。
何か話題を変えなければ……


「……あ」
ここで、先日の涼の話を思い出す。

『今はどうしてるんだ?』
『えーと、とりあえず小田嶋のおじさんちに泊まらせてもらってるの』

これは涼に接触できる格好の機会じゃないか。
と言うわけで早速質問。
「お、おじさん、そういえば涼はどうしてますか?」
「ん?」
「涼香ですよ、鈴原涼香。今、おじさんの家にいるんでしょ?」
「涼香って、あの涼香ちゃんか?」
「はい」
「わしの家に涼香ちゃんが? ……そんなことはないが」
「えっ?」
「しかし何で急に?」
「え、えぇと……涼香本人がそう言ったんですが」
「いや、泊まってないぞ。というか涼香ちゃん、帰ってきてるのか?」

その後いろいろと話を聞いたが、小田嶋のおじさんはどうも涼香が帰ってきてることすら知らないらしい。
「じゃあ何でそんな嘘なんかついたんだろう……」
「何か事情でもあるんじゃないのかねぇ」

ふと、真夜中のコンビニでの出来事が思い出される。
「……」
「まぁ、涼香ちゃんに会ったらわしのところにも顔出してくれって言っといてくれるかな」
「あっ、分かりました」
「それじゃ、わしはそろそろ。行くぞキュムキュム」
「バウッ!!」
おじさんは俺たちに別れを連れ、駅前に向かって歩いていった。


「……」
「お兄ちゃん?」
「ん、あぁ悪い。……じゃ、俺らも帰るか」
「う、うん」


涼香のやつ、やはり何か知ってるんだな……











あとがき

筆者の舞軌内ですー
書いてる最中は無性に喉が乾くSS作家妄想伝。第五話でございます。
まぁ上の前ふりに大した意味はありません

前回言った、前出た人が出てくるって言うのはチンピラ三人組です。
しかもギャルゲーマー(苦笑
それ自体に大した意味はありませんけど。
実際に本屋さんでガラの悪そうなお兄さんがエロゲ雑誌を読んでるのを見かけたんで、書いてみました。
人間、外見だけじゃ分かりませんよねぇ〜

それではさっくりと今回はこの辺で〜
……何かリニューアル版になってからあとがきが随分淡白になってますな。