「……う〜」
朝食の席で俺は頭を抱えていた。
「どうしたの、お兄ちゃん? ご飯、美味しくない?」
「い、いや、そんなことはないぞ。ちょっと考え事をしてただけ」
そう言って妹が作ってくれた味噌汁をすする。
もちろんその味は美味である。それこそもう市販のインスタント味噌汁が飲めなくなるくらいに。
「……じっくり味わってくれるのはありがたいんだけど、そろそろ出ないと学校間に合わないんじゃない?」
「あー、別に間に合わなくてもいいよ」
「ダーメ。同じこと言って3日連続で1時間目サボってるじゃない」
「あの授業は出席取らないからさー」
「それでも行くの。ハイ急いだ急いだ」
「……分かったよ」


俺の名は、上城秀一(かみしろしゅういち)。現在絶賛スランプ中のSS作家だ。









〜SS作家妄想伝2〜
『脱・スランプのススメ』








とりあえず学校に到着。真ん中の一番後ろの席に座る。
この場合、端っこに座っては教官の視線が逆に気になって寝れないのだ。
「珍しいな、お前が一限から来るなんて」
友人の安西が隣の席にやってきた。
「口では卒業5年計画とか言ってるけど、根は真面目だからな、俺」
「嘘つけ。昨日もまた授業サボってSS読みふけってたんだろ」
「……」
安西の言葉を無視するように、俺は机に突っ伏した。

「JOさんよぉ」
「……ネット以外でその名を呼ぶな」
JOと言うのは俺のハンドルネームだ。
上城の『上』も『城』も『ジョー』と呼ぶところに由来している。
「最近執筆滞ってるじゃないの。掲示板でも皆に煽られてるだろうに」
「むぅぅ……、今、ちょっとしたスランプに陥ってる」
「ハァ〜、いいねぇスランプって言える人は。俺なんか書けてる時がスランプみたいなもんだよ」
安西も一応SS作家の端くれだ。ちなみにハンドルネームは『先生』
コイツは自身のサイトを持たずに俺のサイトに寄生している投稿作家なのだが、その更新頻度は絶望的に遅い。 なのである意味年がら年中スランプと言ったところだろうか。 「まぁ、近日中には復活したいところだが……」
「無駄に連載増やしすぎたのが敗因じゃねーのか?」
「……」
痛いところを付いてきやがるな、コイツ……
授業中にでも、ある程度内容を考えるか。


本日の授業は1時間目から4時間目までの計4コマ。
その間ずっと授業中はSSの構想を考えていたのだが、全く持っていいアイデアが浮かんでこない。
変に気負いすぎてるのが拙いのかねぇ……
そして迎えた3時間目の終わり、俺は次一緒に授業を受ける安西に電話をかけていた。
「あーちくしょう、安西、4限抜けるから」
「はぁ?」
「どうもいいネタが浮かばなくて、授業なんか出てられるか」
「じゃあどうすんだよ」
「ネタを求めてブックオフ行ってくる」
「アホかお前はぁ!?」
安西の非難をボタン一つで消し去って、俺は1人自転車置き場へと向かうのだった。




自転車にまたがり、ブックオフへ向かう。
ネタを求めてと言っても、単に立ち読みしに行くだけだし。
「……今日も執筆、やめとくかなぁ」
持病の執筆イヤイヤ病が発病しているようだなぁ……


「ん?」
ふと路地裏の光景が目に入る。
そこには、2,3人の男と1人の女。
私服の女を、いかにも不良っぽい学ランの奴らが囲んでいる構図だ。

「なぁ、別に俺らは強姦とかそういった目的じゃないんだからさぁ」
「金さえ出しゃあ、手は出さねぇよ」
「そんな……お金なんて……」
「だったら、お肢体頂くしかないよなぁグヘへへへ」

……これは穏便な雰囲気じゃねぇな。

「ほらぁ」
「キャッ!!?」
大柄な男が女の体を突き飛ばす。
「俺、ここ一週間くらいヤッてないから溜まっててよぉ。思いっきりぶっ掛けさせてもらうぜ」
「いや……いやっ……」
「へへへっ、優しくしてやるってば」
小柄な男はそう言いつつ、乱暴な手つきで女性の上着を引き剥がしにかかろうとし……

「ゲハァ!!」

その後頭部に、ミニ六法が直撃。男は倒れた。

「な、何だ!?」
「強姦かぁ〜。刑法第177条で2年以上の懲役だな」
「なな、何だテメェは!!」
ヒョロッとした男が怒鳴る。
「いやいや、ただ通りすがりの大学生っすよ、法学系の」
「そんなん聞いてるんじゃねぇ!! 何しやがんだボケェ!!」
「いや、とりあえず目撃してしまった以上、何とかしないとマズイなぁと思っただけっすよ」
「何だとぉ!?」
「えーと、『おいチンピラども!! 彼女からその汚ねぇ手を離しやがれ!!』とか言ったほうがいいのかな?」
「ふざけてんじゃねぇこのボケェ!!」
こちらの思惑通りに大柄な男が殴りかかってきた。
「おっと」
「なっ」
次の瞬間、男の体は宙を舞った。

「グワッ!!」

そして、背中からコンクリートの地面に叩きつけられる。
口から紅い物を吐いて、大柄な男は動かなくなった。
「な……何だ……?」
「何だって、背負い投げだけど?」
「せ、背負い投げって……」
「こう見えて、小中高と柔道続けてきた身ですからね」
一歩前へ進み、ヒョロッとした男と距離を詰める。
「ち、畜生!!」
そう言って、男はポケットからナイフを取り出した。
「死にくされぇぇぇ!!」
俺目掛けて突進してくる男。


ザクッ!!


「……殺ったか?」
だが、男のナイフは……
「あーあ、100枚貫通かぁ〜」
「なっ……」
俺の身体にかすることは無く、代わりに100枚入りルーズリーフに刺さっていた。
「な……今、確かにコイツに刺さったはず……」
「宴会芸は得意でね。さてと」

「ギャハッ!!?」

男の首に手刀を叩き込む。
「……ふぅ、疲れた」
大きく一つ息を吐いた。
俺の足元には二人の動かなくなった男が。
「ちっ、まさかここまで出来るとはな……」
六法アタックを喰らって伸びていた小柄な男が起き上がり、ボソッとつぶやいた。
「え?」
ここまで出来る……?
「テメェ、今度会ったら絶対ぶち殺してやるからなボケェ!!」
「あ、おい……」
そう吐き捨てて小柄な男は、路地の向こうへと走り去っていった。


「あ、あの……」
「ん?」
服に付いた砂埃を払っていると、女性が声をかけてきた。
「ほ、本当にありがとうございました!! あなたがいなかったら今頃私……」
「いやいや、まぁ無事で何よりですよ」
「ほんっとうにありがとうございました!!」
「そこまで深々と頭下げてくれなくても……」

ほぼ90度に下げた頭をゆっくりと上げる女性。
「まぁ良かった……ん?」
その顔に俺は見覚えがあった。
「どうか……しましたか?」
「まさか……、ひょっとして、涼?」
「えっ……、しゅう……くん!?」
「涼!? ま、マジで!?」
「しゅうくんなの!? ウソッ……」

俺が助けたその女性は、幼馴染の『鈴原涼香』だった。




所変わって近所の喫茶店。
「お前、北海道に引っ越したんじゃなかったのか?」
「今、ちょっと用事で帰ってきてるのよ。でもまさかしゅうくんに逢えるなんて……」
「……しかもあんな場面でな」
あんな場面=もちろん襲われてる場面。
しかしこんな天文学的な偶然もありえるんだなぁ……
「でもよく私だって気付いたね、あの時」
「こう見えても人の顔覚えるのは得意だしな。それに涼は昔っから変わってないし」
「あ、それってもしかして私が幼いまんまだって言う意味?」
「えっ、いや、そういう意味で言ったんじゃ……」
「……フフフッ」
「な、何がおかしいんだよ?」
「そういうところ、しゅうくんも変わってないな〜って思って」
「むぅ……」
クスクスっと笑う幼馴染。
顔を動かすごとに揺れる短めに揃えた髪は、知的な美しさを持つ彼女にマッチしていた。

その後話題は先程の話から互いの現状の話、そして思い出の話へとシフトしていく。
「中学ん時お前が引っ越してって、美久もだいぶ寂しがってたよなぁ」
彼女、鈴原涼香は俺の幼馴染でもあり妹の幼馴染でもあるのだ。
「そうね。みっちゃんは元気にしてる?」
「あぁ。何だったら今度遊びに来いよ。家の場所も変わってないしさ」
「うん、是非そうさせてもらうね」
その後も一杯のコーヒーだけで2時間近く語らいあう二人。
こうして楽しいひと時を過ごした後、お互いの携帯番号を交換し合い、喫茶店を出た。

「涼は小田嶋のおじさんのところに泊まってるのか」
「うん。しゅうくんの方から遊びに来てくれても構わないよ?」
「まぁそれは時間があれば。んじゃ、またな」
「うん、またね」
お互い手を振って反対方向に歩き出した。
「……しっかしこんなSSみたいなこと、実際にあるんだなぁ」




「ただいま〜」
「お帰りお兄ちゃん。……何かいいことでもあった?」
「何で?」
「顔にそうかいてあるもん」
「そうか? まぁな……」
そんな分かりやすい顔してたのか、俺。
んでもってここで美久に涼香のことを話そうか……と思ったがやめた。
さっき喫茶店で交わした、涼香との『いきなり家に押しかけて美久をビックリさせよう』計画を思い出したからな。

「さぁ、飯だ飯」
「……変なお兄ちゃん」
ククク、美久の驚く顔が目に浮かぶぜ……




そして夜。
「……いいねぇ、すらすら書ける」
今朝までのスランプが嘘のようだ。
「やっぱ実体験に基づくと書きやすいよなぁ〜」
こうして今書いているSSは、チンピラもの。
「いやぁ、こうやってサブキャラに光を当ててやるのもいいよなぁ〜」
こうして2時間かからないうちに、滞っていたSSの第24話は完成した。
「早速アップしてと……」
……まぁ、今日くらいは早く寝るか。
「ふぅ〜、疲れた」


そんな、とあるSS作家の日常。











あとがき

さてさて筆者の舞軌内ですよー。
ただひたすら我が道を行くバカ話『SS作家妄想伝』、期待されてもない第二話です。
まぁただの趣味です。勢いです。好奇心です。
例のごとくSS作家とその妹の愛と涙の人情劇を描いてるようなそうでないようなバカ話です。

幼馴染登場。しかもアクション。
SS作家なのにケンカが強い。尋常じゃなく強い。
だいぶ暴走してきました。
何か『SS作家』の日常を描いた『SS』ッぽくないですけど仕様です。
どんどんこういった訳の分からない方向に走っていきますのでご了承の程を。

第一回のあとがきはだいぶ修正したんですが、今回のあとがきはほぼ原文のままになったなぁ。
それではこの辺で〜