朝。
「……10時かよ」
時計を見て、とても学校には間に合わない時間だと悟る。
「あー、まだ目がしょぼしょぼする……」
昨晩は5時までSSを読みふけっていたからな。
とりあえず布団から這い出る。


「……」
テーブルの上にはおにぎりが二つ、書置きと共に置いてあった。
『いくら起こしても起きないので、ご飯だけ置いていきます』
紙の片隅に『早く起きろバーカ』とちっちゃく書かれている。
それでも一応ご飯は用意しててくれたのか……
そんな愛のこもった握り飯を持ち込み部屋に戻る。
俺は妹の優しさを噛み締めながら、パソコンの電源を入れた。


俺の名は、上城秀一(かみしろしゅういち)。しがないSS作家だ。








〜SS作家妄想伝〜








朝起きてまず最初にやることはメールチェックだ。
自分のSSに対する感想と、投稿作家の作品を受け取るための重要な作業。
「またスパムかよ」
ただ、来るメールの6割強がウイルスメール・スパムメールだったりする。
「えーと、とりあえず今のところはメールなし、と」

次に行う事、それは掲示板の確認。
キリ番リクエストが来ていないか、密かに楽しみにしている。
「うわ……100000ヒット自爆した……」
最悪のパターンだ。


時計を見る。
「10時45分……」
もう大学の講義はとっくに始まっている。
だが、この授業は終了間際に出席取るから、今から行っても間に合うには間に合うが……
しかし先程キリ番を自爆したせいで、何もやる気が起きない。
「……仕方ない」
携帯を取り出し、授業に出ている友人にメールを打つ。
「いつものごとく出席お願いします……っと」
そう言えば今学期に入ってからまだこの授業、一回も出てなかったな……
まぁ、いいか。




昼。
笑っていいともを見ながらカップラーメンを食べていると、携帯にメールが届いた。
妹からだ。
「なになに? お夕飯オムライスにしたいんだけど、卵とケチャップを買ってきてくれないか……か」
卵もケチャップもちょうど切らしていたっけ。
「……買いに行くかな」
かわいい妹の頼みを無碍に扱うわけにもいかないな。 こうして俺の午後からの予定は、4時間目の講義に出席することから買出しに行くことに変更された。
ビバ ダメ大学生。


マンションの部屋を出て、しっかりと施錠する。
最近このあたりでもピッキング被害が出てるらしいからな。
「それに、いざと言う時あいつを守れるのは俺しかいないんだし……」

この部屋に、俺は妹の美久と二人で暮らしている。
両親の仕事の都合で子供だけの共同生活を送っているわけだが、一つ屋根の下にいい年の男女が二人暮しということで、今まで散々人にからかわれてきた。
だが、あくまでも二人は兄妹。そう言った浮いたことはまるで無く。
いや、考えようとしなかったと言った方が正しいか。やはり兄弟間の恋愛感情と言うものはタブーだろうし。
まぁいくら俺があれこれ妄想しようと、妹の方が何も考えていなかったら話にならないしな。
「ついでに立ち読みでもしに行くかな」




時刻は4時。
「……少々時間つぶし過ぎたかな」
俺は六冊目の漫画雑誌を棚に戻し、本屋からスーパーに向かった。


そのスーパーの店内にて。
「あ、お兄ちゃん」
そう呼びかける声に振り向くと、ブレザー姿の我が妹、上城美久が立っていた。

「あれ、何でお前がここに?」
「何でって、お夕飯の材料を買いに来たんだよ?」
「は? でもメールしてきただろ? だから俺が買いに来たのに」
「あー、返事が来なかったから、てっきりまだ寝てるのかと思っちゃったよ」
「お前なぁ」
「まぁいいじゃん。とりあえずお買い物しよっ」
とことこっと俺の隣に走り寄ってくる美久。
ちょうど頭が俺の肩口の高さにあり、セミロングの髪からほのかに酢豚の香りがした。
「……酢豚!?」
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「い、いや……何か酢豚のにおいがして……」
「そこの試食販売の?」
美久の指差す先では、パートのおばはん(恐らく)が酢豚の素の実演販売を行っていた。
「ビックリさせるなよ……」
「?」


「しっかし……買い過ぎだろ、これ」
俺の自転車の前かごには、ギッシリと野菜やら肉やらの食材が詰まっていた。
「一週間分の食料だって。これでわざわざ買出しに出なくても済むじゃない」
「魚とか保つか?」
「冷凍すれば大丈夫だよ」
「そういうもんかねぇ」
そう言って俺は自転車にまたがった。

「……をい」
「何?」
「何故後ろに乗る?」
「いいじゃん、別に。どうせ行き着く先は一緒なんだからさ」
「ペダルをこぐ方の身にもなってくれよ」
「あ、何かそれ私が重いって言ってるみたい〜。罰としてお兄ちゃん、帰ったらお風呂掃除やりなさい」
「えぇ〜、分かった乗せてってやるから勘弁してくれよ〜」
「へへーん、ダメだよ。そもそも今週の掃除当番はお兄ちゃんなんだから」 「チッ、バレてたか」 軽口を飛ばしあいながらも俺は、美久を後ろに乗せて自転車を発進させた。
これが、俺たち兄妹のいつもの光景。
「じゃ、飛ばすからしっかり捕まってろよぉ〜!!」
「了解!!」
わき腹のところに美久の手が回されるのを確認し、俺はペダルをこぐスピードを上げた。




帰宅後は真っ先にパソコンに向かい、連載SSの執筆に勤しむ。
「最近更新サボり気味だったし、何とか今夜じゅうに一話アップしないとな」
そんな中、鼻腔をくすぐるいい香りが漂ってくる。
「お兄ちゃん、そろそろご飯にするね」
「おう、分かった」
俺はひとまず作業を中断し、キッチンへと向かった。


「いただきまーす」
美久にその様子をじーっと見つめられながら、オムライスを口に運ぶ。
「どうかな?」
「……うん、うまいな」
「ホント?」
「あぁ。前はケチャップがかかり過ぎだったけど、今回は適量でうまいよ」
「そう? やった!」
そう言ってガッツポーズをとる美久。
「お前も早く食わないと冷めるぞ」
「うんっ」

美久は二人で食事を食べる際、まず俺が食べるのを確認してからでないと自分は口に運ばない。
以前その理由を問うた際、
「何だよ俺は毒見役かよ〜」
と冷やかしたところ、
「違うってば。まずはお兄ちゃんの喜ぶ顔を見てからじゃないと私は美味しく食べられないんだから」
と真っ赤になりながら答えてきやがったこともあったな。
クッ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

「そういえば、朝お父さんから電話があったよ」
「親父から?」
「うん。何か年が明けるまで日本には帰って来れないんだって」
「ふーん。まぁ忙しいんだろうな」
両親は、そろって海外赴任している。 一時期は俺達も一緒にアメリカなどに渡ったこともあったが、どうにも馴染めなくて結局子供だけ日本の残ることに。
「誕生日とか、みんなで祝いたかったのになぁ」
「今までずっと家族で祝ってたもんな」
さっきまで明るかった美久の顔が曇る。
例年は両親も忙しいのを押して、美久の誕生日だけは日本に帰ってきてくれていた。
やっぱりこういったものは、身近な人にで祝って欲しいんだろうな。
「ま、今年は俺が盛大に祝ってやるよ」
「え?」
「俺だって家族の一員だろ。親父やお袋の分もパァーっと祝ってやるって」
「……そうだね、ありがとう、お兄ちゃん」

美久の顔に笑顔が戻る。
こいつは笑ってる姿が一番かわいいからな。しょげている姿はあまり見たくないし。
……まぁ言ったからには兄の威厳を保つためにも、今年の誕生日は手間暇かけて準備しておかないとな。




食後。
中断していた執筆作業を再開していると部屋の扉がノックされた。
「何だー?」

ガチャ

「お兄ちゃん、お風呂空いたよ」
「おう……ってお前、何だその格好!?」
入り口に立つ妹の格好に驚く俺。
「あ、コレ? どう、似合う?」
「に、似合うも何も……」
真っ白いバスローブを着た美久が、その場でくるくる回る。
「ジャスコで安売りしてたから買ってきたの。お兄ちゃんのもあるよ」
「俺のも?」
「うん。脱衣所に置いてあるから。あ、お風呂のフタ開けっ放しだから早く入ってね」
「わ、分かった……」
美久が部屋を出て行く。

「……しかしアイツももうちょっと恥じらいを持てよな」
兄と言えども一応は男。いつ狼に変貌するかわかりゃしないんだから。
まぁ、美久を狙う不届き物は誰であろうとこの俺が成敗してやる。例えそれが俺自身であっても。 「……うん、どこぞで聞いたことのあるセリフだよな」
部屋を出るとき、入り口にほのかにシャンプーの香りが残っているような気がした。


「……」
脱衣所で青いバスローブを手に取る。
「……ちっ」
同じ白のバスローブだったら、どっちがどっちのだか分からなくなっていたかもしれないのに……
少々……いや、わりとガッカリ。
「……いかんいかん!!なに考えてんだ、俺は」
その後俺は煩悩を振り払うため、湯船に浸かる前にまず頭から冷水を被ったのであった。




午後11時。
「……よしっ、第12話完成〜」
書きあがったSSをもう一度見直し、大丈夫と判断して自分のサイトにアップする。
「さてと……、巡回するか」
そして、他の作家さんのサイトを歴訪していく。
「50000ヒット超えかぁ……、お祝いSSでも贈らねばなぁ」

トントン

「ういー」

ガチャ

「まだ起きてたんだ、お兄ちゃん」
「まだって、まだ11時だろ? 俺の夜はこれからよ」
「そうやってまた明日も朝起きないつもりでしょ」
「むぐっ……」
「毎朝起こす方の身にもなってよね。んじゃ、おやすみ、お兄ちゃん」
「おぉ、おやすみ」

パタン

結局今夜はただ小言を言いに来ただけの形になったがそうではなく。
寝る前に互いに部屋を訪れて、おやすみの挨拶をするのは俺達兄妹間での習慣である。
一日ごとに交互に出入り、ならいっそ部屋を2人一緒にしてしまえば済む話だが、その辺はプライバシーとかの問題もあって無しよと言うことで。 まぁ、部屋は分かれていてもお互い出入り自由だからあんまり関係ないことかもしれないが。

「……明日も朝からの講義か。まぁいい、読む方が先決だ」
こうしてSSを読みふける夜が更けていく……
明日も明日で、妹に起こされ、やる気なく学校に出て過ごす一日なんだろうなぁ。


そんな、とあるSS作家の日常。











あとがき

どもども、筆者の舞軌内と申す輩です。
初めての方は初めまして。ご存知の方はこんばんわ。自称ヘタレSS書きでございます。

えーとこの『SS作家妄想伝』、もともとこちらで連載していたバカSSなんですが、まだいろいろと未熟な段階で執筆していた頃の作品でして、ある程度時間が経ってから見ると至らないところも多々見受けられまして。
そこで思い切って全面改訂に乗り出そうと思い、かっこよく言えばリミックスした話がこちらでございます。
初めて読む方は初めまして。今まで読んでくださってくれた方はお久しぶり。
主に妹萌え分を上昇させたつもりではありますがいかがでしょうかしら。
つか未完の段階で修正版出すなよと言う話ですけども。しょうがない、移り気な性分な者でさ。

しかしこうしてあとがきも書き直ししてる訳ですが……昔のあとがき痛いなぁー
いや、今でも十分痛い文章なんですが、昔はそれを更に上回っててもうね。やだね。
何と言うか学生時代に出しそびれたラブレターを大人になってから見つけたような感覚ですよ。
……いやそれは言いすぎだわな。むしろ昔の読書感想文を読み返すような気持ち。
どの道こっ恥ずかしいことに変わりは無いんですがね。

とりあえず改訂版と言うことで修正以前のところまではちゃっちゃと更新していきたいところですが、何分当方遅筆な人間でして。
また更新感覚が空くかもしれませんが、その辺は寛大な心で許してやってくださいませ。
何気に自分とこでも連載書こうとかしてますからねぇ……
ま、まぁそれではこの辺で〜