『お嬢様』の倉田佐祐理
 彼女は今、大事な人達の元へと向かっていた




                          佐祐理 〜魅惑の体験〜
                       お嬢様のドキドキするお昼と課外授業




「ふぅ」

 今佐祐理はお弁当の入ったリュックを背負って階段を上っています。それは勿論、何時もの場所でお昼ご飯を食べる為ですよ。
因みに佐祐理一人で歩いています。舞と祐一さんは先に行って待ってるはずです。クラスの用事で遅くなってしまったので二人
には先に行って貰ったんですよ。さて、着きました。ここを昇ればすぐに何時もの屋上手前の踊り場です。

「祐一、駄目……」

 舞の声が聞こえます。声の内容から察するに祐一さんも居るようですね。でも、駄目って如何いうことでしょうか?

「こんな所でシテいたら駄目」

「舞……」

 どうやら祐一さんが何かやっていたのを、舞が注意しているみたいですね。ちょっと興味がわいてきました。このまま出て行っても
良いのですが、一階下に居て様子を窺う事にしましょうか。……佐祐理ってばイケナイ娘ですね。

「もうすぐ佐祐理も来るから」

「そう言ってもな、舞。我慢出来ないんだよ」

 もう来てますよ〜、とは言いません。佐祐理は相変わらず舞達の一階下にいます。気配を消すコツは掴みましたから、流石の舞も
佐祐理が来ていることには気が付かないようですね。それにしても祐一さん、何が我慢出来ないんでしょうか?

「この所、欲求不満なんだよ。授業中もずっと……」

 ……ひょっとしてアレのことですか? そういえば男の人って時々我慢が出来なくなるってクラスの女の子達が話していましたね。
「彼って一旦火が点くとスゴイのよ」とも言ってました。祐一さんもそうなんでしょうか? はぇ〜、佐祐理、ドキドキしてきました。

「祐一……」

 状況を察するに、先ず祐一さんがやってきましたが、舞も佐祐理も居なかったので、つい……その、一人でシテいるところに舞が
やってきたようですね。それにしても、舞も祐一さんも冷静ですね。現場を押さえられたら気まずくなると思うのですが。あ、勿論
これもクラスの女の子達が話していた事ですからね〜。

「舞、こればっかりは駄目だ。俺は先ず食欲よりもこっちを解消したいんだよ」

 舞や佐祐理は勿論、後――不本意ですが――他の女性達には優しく接する祐一さんが、ここまで言うなんて……。あの人の料理には
及びませんがそれでも、何時も「美味い」と言ってくれる佐祐理のお弁当よりも優先したいだなんて……。

 祐一さん、そんなにタマっているんですか? 佐祐理に言ってくれればいつでもOKですよ〜。……ハッ、前に祐一さんとやった
ことがありましたね。

『ご飯にしますか? それともお風呂?』

『いや、食べるのはお前じゃ〜』

『きゃ〜』

 そうです、アレの実現ですよ! そして既成事実を作って祐一さんゲットです! 舞ですか? たしかに舞は大切な親友です。けど
祐一さんを巡ってはライバルですから。昔から言うじゃないですか、『ソレはソレ。コレはコレ』って。倉田佐祐理、突貫します。
先ずは舞を排除しなくてはいけませんね。舞は今、祐一さんのシテいる現場を見てしまって混乱している筈です。そんな舞に気配を
消した佐祐理が背後から忍び寄り、当身を食らわせて気絶させるなんて簡単ですよ。こう見えても佐祐理は運動神経は良いんです。

「(では行きますよ、舞……覚悟してくださいね)」

 佐祐理が行動を開始すべく、一歩を踏み出した時でした。舞がポツリと呟きます。

「だったら……私がシテあげる」

 はぇっ? 佐祐理は思わず足を止めてしまいました。声を出すのは避けられましたが。ま、舞も大胆な事を言いますね。祐一さんを
狙う女性は多いですから、チャンスは逃さないという事ですね。流石は舞、侮れません。

「祐一が自分の手でスルより、私がシタほうが……イイから」

「い、良いのか、舞?」

「はちみつくまさん」

 ふぇ〜っ! 大胆すぎます。学校で、お昼休み中に、佐祐理がいつ来るか分からない(もう来てますが)状況でヤッちゃうんですね!
佐祐理が慌てている間にも、二人は準備、というかなにやらゴソゴソ動いています。

「……祐一、ここに横になって」

「舞、良いんだな?」

 祐一さんの問いに、舞が頷くのが気配で分かります。ついで、舞の「ん……」という、普段からは想像できないイロっぽい声が聞こえ
ます。舞ってばこんな声も出せたんですね……って、イキナリですか!? もっとこう準備とか色々あるじゃないですか!?……舞は既
にデキあがっていたのでしょうか? え? 何がイキナリとか準備とか出来上がっているかですって? あはは〜、佐祐理はちょっと頭
の悪い普通の女の子ですから分かりませんよ〜。

「……どう?」

「ああ、たしかにいいな」

 舞が躊躇いがちに尋ねると、祐一さんも実に気持ち良さそうに答えます。少しの間、二人とも黙っていましたが、祐一さんが突然動き
出したようで、舞の慌てる声が聞こえてきました。

「祐一、動いたら駄目」

「すまん……」

 祐一さんは、謝りながらも動きを止めるつもりはないようです。

「あっ……ゆ、祐一。そんな、激しく……ぽ、ぽんぽこったぬ、きさんっ……」

 舞は準備出来ていなかったようですね。辛そうにしています。しかしその声の中にも艶っぽさがありますね。はぇ〜。佐祐理、もっと
ドキドキしてきちゃいました。

「祐一……駄目!」

「ごぉっ」

 辛そうにしていた舞が、終に祐一さんにチョップをしたようですね。打撃音にあわせて祐一さんの声が聞こえます。

「大人しくしていないと駄目」

「むぅ……じゃぁ、ゆっくりするから……いいか?」

「ぽ、ぽんぽこ……」

「舞」

「……はちみつくまさん」

 舞の了解を得た祐一さんは、今度はゆっくりと動いているようです。舞も時折「ん……」と声を漏らすだけです。いけませんっ、この
ままでは祐一さんを取られてしまいます! 仕方アリマセン、ここは一つ佐祐理も乱入して三人で愉しむことにしましょう。スタイルでは
舞に負けますが、佐祐理だって祐一さんを慕う女性達の中ではトップクラスですから。祐一さんに、「佐祐理さんの方が良いな」と言わせ
て見せます! あはは〜、祐一さんをゲットするのは佐祐理ですよ〜。

「祐一さん、舞!」

 一気に階段を駆け上がり、二人の前に現れます!

「二人ともずるいです。佐祐理も一緒……に……」

 はぇ? おかしいですね。二人とも『おたのしみ』の最中ですからそれらしい格好になっている筈なんですが、衣服が然程乱れていま
せん。二人の体勢も変です。祐一さん……が舞の……上にのっています。

「佐祐理」

「佐祐理さん」

 二人とも佐祐理を見上げる格好になっています。ハッ、駄目です。今祐一さんは横になっています。加えてこの学校の制服はスカート
が短いですから……。一瞬で悟った佐祐理は一歩下がって祐一さんから見えない位置に移動します。そうして二人から文字通り一歩距離
をおく事によって冷静になれました。改めて二人の様子を見ます。







 シテいるんです……


































 『膝枕』を
 

 「はぇぇ?」

 思わずどこぞの『あはは〜』と笑うお嬢様のような声を……って、佐祐理の事ですね。まだ困惑しているようです。

 祐一さんは横になっています。そして祐一さんの『頭』が正座している舞の膝の間の『上』に乗っています。耳掃除をする時によく
やる片方の太腿に頭を乗せるやりかたではなく、正座して合わせた太腿の間に頭を挟むようにのせる方式ですね。

「ふ、二人とも……何やってるの?」

 一目瞭然ですが、尋ねずにはいられません。舞は祐一さんの頭を撫でながら(羨ましいです)答えます。

「膝枕……祐一が自分の手を枕にして寝ていたから」

「あぁ、うん。そうしたら舞が『膝枕』してくれるって言うからさ。「ソッチのほうがイイ」って」

 祐一さんも気持ち良さそうにしながら言います。あくびも混じっていますね。「自分の手で〜」というのはそう言う事だったんですね。

「そんなに眠いの?」

「ん……あぁ、この所ちょっと……な。いまは佐祐理さんの弁当より、コッチの睡眠欲を解消したいんだよ。授業中も寝ていたんだけど
 まだ眠くてさ」

「祐一、とか言いつつ頭を動かしたらくすぐったいから駄目」

「ん〜、しかしな〜こんないい感触を味わわないなんて、そんな酷なことは無いぞ」

 半ば石化している佐祐理を尻目にイチャついています。ハッ……イケマセン! またしても呆然としていました。これ以上舞に祐一
さんを独占させるわけにはいきません。

「ゆ、祐一さん! 佐祐理もシテあげます!」

 舞と隣に座ると、祐一さんの頭を掴んで強引に佐祐理の太腿の上に乗せます。その際に祐一さんの首辺りからなにやら鈍く、洒落に
ならない音が聞こえた気がしますが……。

「……」

 ふふ。祐一さん、気持ち良さそうに眠っていますね。

「佐祐理……祐一が白目むいてる」

 舞が隣で何か言ってますが知りません。こうして佐祐理の優雅なお昼休みは過ぎていくのです。


                         ★   ★   ★


 あれから目を覚ました(復活? 蘇生?)祐一さんとお昼を済ませましたが、祐一さんは何事も無かったかのように平然としていました。
それに、こんなに寒い所でも平気で寝られるなんて……ひょっとして「怪我をしても直ぐに復活するギャグキャラ」の人なんでしょうか?

 それはさておき、時間を確認すれば確かに戻ったほうが良いですね。祐一さんと二人でお弁当の後片付けをします。舞は次の授業の準備
があるので先に戻っているんです。後片付けをしていると祐一さんが「美味かった」と言ってくれました。何気ない一言ですが、一番嬉し
い言葉です。また頑張って美味しいものを作ろう、という気になれますから。

「佐祐理さん」

「はい?」

 佐祐理達も教室に戻ろうとした時、祐一さんが声をかけてきました。何時もとは違って何処と無く真剣な雰囲気を漂わせています。

「今日も、お店に来るよね?」

「え……はい。勿論行きますよ」

 佐祐理が答えると、祐一さんも安心したのか笑ってくれました。

「良かった。佐祐理さん、お店の人気bPだからさ。来てくれるとお客さんみんな喜ぶんだよ」

「あはは〜、そんなこと無いですよ」

「いやいや本当だって。じゃ、また後で」

 学年が違うので、祐一さんとは廊下で別れました。


                         ★   ★   ★


 放課後
 佐祐理は今、お昼に祐一さんと話していた「お店」に向かっています。舞は居ません。

 実は今、佐祐理はとあるお店でアルバイトをしているんです。佐祐理と舞は学校を卒業したら二人で(いずれは祐一さんと三人で)
暮らす予定なので、その費用を稼ぐ為に先日から始めたんです。舞は別の所でアルバイトをしています。


『佐祐理さん、アルバイト探しているの? だったら良い所があるよ』


 祐一さんがアルバイトをしているお店を紹介してくれました。なんでも居候先の家主さんの伝だそうですが。初めてそのお店を見た時、
佐祐理は戸惑いました。時給などの待遇は良いのですが、その……色々と「テクニック」が必要なお店だったんです。


『大丈夫だって。佐祐理さんならすぐにコツを掴めるよ』


 祐一さんはそう言って、身体を使って文字通り「手取り足取り」教えてくれました。

 ……ドキドキの課外授業です。

 佐祐理……ハジメテの体験です。

                         ★   ★   ★


『コレを、塗るんですね。すごくぬるぬるしています……』

『そう。全体に塗って……』


『こ、こうですか?』

『あぁ、うん。いいよ、佐祐理さん。もっと手首を動かすようにして。リズム良くと言うか』


『ど、どうですか?』

『あぁ……すごくうまいよ。佐祐理さん……』

『あはは〜、なんだかコツが掴めました!』

 
                         ★   ★   ★


 祐一さんが指導してくれた日々が思い出されます。何も分からなかった佐祐理ですから失敗もありました。満足させられなくてお客
さんを怒らせてしまった事だってあります。でも、その度に祐一さんは優しく、時には厳しく佐祐理を指導してくれました。その甲斐
あって今ではお客さんも「うまいよ」と言ってくれるんです。

 そんな事を考えながら歩いていますと、佐祐理は既に駅前まで来ていました。ここからバイト先のお店までは直ぐです。駅前の大通り
から一本はずれた裏通りへと歩きます。冬のこの時期は既に日も落ち、空には星が瞬いています。営業を始めているお店のネオンが空の
星に対抗するように輝き、人々を誘っています。色々なお店がありますね。普通の飲み屋さんから……えっちなお店まで。佐祐理が行く
のも、そんな場所にあるお店です。

 最初、祐一さんに連れられてきた時には随分緊張しましたがもう慣れました。呼び込みの声が飛び交う通りを制服姿のままで歩いてい
ます。こんな所を歩いていたら即座に補導されるか、いやらしい声をかけられるかするところですが、佐祐理の事は知れ渡っているので
そんな心配はありません。

「お、サユリちゃん。今からお店かい?」

 佐祐理が歩いていますと、サラリーマン風の方に声をかけられました。最近お店によく来るようになった方です。

「はい、そうなんですよ」

「そうか……じゃあ、今日も行こうかな」

「お待ちしてますね〜」

 営業スマイルで答えました。本当の笑顔は大事な人にしか見せませんから。お客さんと別れると――何か用事が残っているそうで一緒
には来ませんでした――お店へと急ぎます。

「おはようございます」

 従業員通用口からお店に入った佐祐理は、既に来ているお店の人たちに元気よく業界での挨拶をします。皆さんも口々に挨拶を返して
くれました。今日も一日頑張ります! 早速更衣室で着替えないといけませんね。

「ふぅ……」

 着替え終わると、部屋に備え付けの姿見でおかしな所が無いかチェックします。うん、大丈夫ですね。

「しっかり働いてお金を稼がないといけませんね!」

 姿見の前で、気合をいれた佐祐理は廊下に出ます。そしてこの瞬間から「お嬢様の倉田佐祐理」ではなく「お店の女の子・サユリ」に
なります。お店では本名とは別名を名乗っても良いそうですが、佐祐理はまだ自分を佐祐理としか呼べないので、お店では「サユリ」と
名乗っているんです。

「あ、サユリさん」

 廊下でばったりと祐一さんに会いました。どうやら祐一さんもこれからお店に出るようですね。

「祐一さん、今日も宜しくお願いします」

「あぁ、こちらこそ。でもサユリさん、お店にいる間は違うでしょ」

「あ、そうでした。「ユウ」さんでしたね」

 間違えてしまいました。祐一さんもお店では「ユウ」と名乗っているんです。

「ユウくん、サユリちゃん。早速お店のほう、入ってくれる?」

 店長さんから御呼びが掛かりました。お店には既にお客さんが来ています。

「行こうか、サユリさん」

「は、はい……」

 ユウさんと一緒に歩いていきます。お店に出るこの瞬間は、いつもドキドキしてしまいます。

「サユリさん、緊張してる?」

「はい……サユリ、うまくデキるか何時も心配で……」

「サユリさんなら大丈夫さ。もうコツは掴んでいるし……俺よりうまく出来てる位だよ」

「ユウさん……」

「お店の人気bPなんて事は気にしなくて良い。何時も通りの佐祐理さんでヤれば良いんだよ。だから自信を持って。な?」

「はい!」

 ユウさんの励ましに、サユリは元気を貰いました。そうですね、何時ものように……祐一さんを想ってシテいる時のようにヤれば
良いんですよね。

「じゃ、ここで」

 ユウさんはお店に入るとサユリとは別の所に行きました。早速お客さんの相手をしていますね。このお店では男性もお店にでて
お客さんの相手をするんです。ユウさんってお客さんの間でも人気があるんですよ。……ちょっと妬けちゃいます。

「いらっしゃいませー」

 それはさておき、サユリもお客さんの所へ向かいます。

「やぁサユリちゃん。また来たよ」

「あ、いつもありがとうございます」

 今日最初のお客さんは、この店の常連さんです。もう何年もこのお店に通っている方らしいですが、最近はサユリを気に入ってくれた
みたいです。

「今日はツイてるね。サユリちゃんにあたるなんて」

「あはは〜、そう言ってくれると嬉しいです。……でも、こんなに毎日のように来てお身体の方は大丈夫なんですか?」

 サユリがお客さん――おじさんの身体を心配して聞きますが、おじさんは豪快に笑いました。

「ガハハハ。これでも昔からそのスジでは有名だったんだ。まだまだ若いモンには負けんよ!」

 自分の元気さをアピールするようにペチペチと叩いています。

「早速で悪いけどサユリちゃん、頼むよ」

 我慢が出来ないようですね。物欲しそうな目でサユリを見ています。

「あ、はい。それじゃ始めますね」


 お客さんの希望を聞いてから、最早身体で覚えたと言っても良い手順を、よどみなく実行していきます。先ずは拭いてから、アレを
塗ります。

「お、うまくなったね〜」

 おじさんが感心したように言ってくれます。以前のサユリはここでも手間取ってしまい、お客さんを怒らせた事がありました。

「あはは〜、コツは掴みましたから」

 お客さんと会話している時でもサユリの手は止まりません。軽快にリズムよく動かしていきます。

「お、その動き……イイね」

 おじさんに褒められました。これもユウさんの指導のお蔭です。でも、

「あの……そんなに見つめられると、恥ずかしいです」

 おじさんはサユリのシテいる所をじっと見ています。

「フフ、その恥じらいながらシテいるところがまた良いんだよ」

 おじさんの視線に手元が狂いそうになりますが、サユリは運動神経は良いですから何とか堪えます。

「サユリちゃん、そろそろだよ」

 流石は常連さんです。親切心から頃合を教えてくれました。でもサユリだって頃合なのは分かっています。一旦手を止めておじさん
に尋ねます。

「……かけますか?」

 このお店ではお客さんにかけるかどうかを聞くんです。お客さんによってはかけない人もいますが。

「あぁ」

 おじさんは今日はかける事を選びました。サユリもお客さんの要望に答えるように手を動かします。そして仕上げです。

「……ふぇ〜」

 モノがたっぷりと……かかりました。あまりの量に零れ落ちていくソレは、サユリだけでなく床にまで……。

「あの……よかったですか?」

「もちろん」

 でもおじさんは、実に満ち足りた顔をしています。お客さんが喜んでくれれば何よりですよね。

「じゃあ、また来るから」

「ありがとうございました〜」

 コトを済ませたおじさんが帰っていきます。サユリは勿論笑顔(営業スマイル)で見送ります。宣言どおり、またすぐにやって来るで
しょう。

「ふぅ……」

 一息入れたサユリは、ちょっとお店の様子を眺めます。いろんなお客さんが来ていますね。お店の子と会話を愉しんでいる所もあれば、
黙々とシテいるところもあります。あ、そのお客さんはコトを済ませるとそそくさと帰っていきました。やっぱりこういうお店に来るのは
恥ずかしいものなんでしょうか?


                         ★   ★   ★


 あれから何人ものお客さんの相手をしている内に時間が過ぎ、もうすぐバイトの時間は終わりです。流石に疲れました。

「サユリさん、お疲れ」

 お客さんが途切れた合間を縫ってユウさんがやってきました。ユウさんも疲れているようですね。

「あ、ユウさんもお疲れ様です」

 ユウさんは凄いです。多くのお客さんを見事なテクニックで捌いていましたから。それでいてお客さんとの会話をおろそかにせず、
楽しい一時を過ごさせたのですから。

「でもユウさんって凄いですよね。何処でそんなテクニックを身につけたんですか?」

 これはサユリが前から疑問に思っていた事なんです。今までは聞きそびれていたんですが。

「あぁ、秋子さんにけっこうシゴかれたからな〜」

 やはりそうでしたか。ユウさん、いえ祐一さんの居候先の家主で叔母(こう表現するのは怖いんです。イロんな意味で)の秋子さん。
何かと謎の多い人だとは思っていましたが。

「さ、もうひと頑張りだ」

 再びやって来たお客さんに気が付いたユウさんが応対に出ます。何人かやってきたようで、その内の一人をサユリが担当することに
なりました。時間的にみて今日最後のお客さんですね。ちょっとサービスしちゃいましょう。

「いらっしゃいませ〜」

「……佐祐理」

「え?」

 お客さんの姿を見て驚きました。だってサユリの良く知っている人でしたから。

「ま、舞……」

 お互いにどんな仕事をしているか知ってますが、お店に来るなんて初めてのことです。サユリは驚いていますが、舞は平然として
います。

「ど、どうしたの舞。お店に来るなんて」

「今日は早く終わったから迎えに来た……でも、今はお客さん」

「そうなんだ。じゃ『いらっしゃいませ〜』だね。あ、今の佐祐理はサユリだよ、舞」

 営業スマイルとは違う微笑を浮かべて舞に応対します。だって舞は親友ですから。いっぱいサービスしちゃいます!

「サユリ」


















「……何?」




























「たこ焼きさん三皿。店内で」

「はい、たこ焼き三皿ですね〜。少々お待ち下さい!」

 元気に答えたサユリは、たこ焼き器に油を塗っていきます。このお店では注文を受けてから焼くので、いつでも焼きたてが食べられる
んですよ〜。充分熱くなった所に生地を流し込んで、蛸と天かすを均等に入れていきます。紅生姜は入れないのがこのお店の流儀だとか。

 徐々に焼きあがっていくたこ焼きを、舞もサユリも真剣な顔で見つめています。

「そろそろですね」

 サユリは手に持ったキリで、手際よくたこ焼きをひっくり返していきます。軽快にリズムよく、それでいて一つ一つ丁寧に。何時も
お弁当を作っている時のように、食べてくれる人のことを想って……。

「サユリ、上手い」

 舞が感心してくれました。はい、サユリ頑張りましたから。たこ焼きを焼くなんて初めてのことでしたから、最初は上手く出来なくて
お客さんを怒らせてしまったり、焼き上がりで満足させられないこともありましたが、今では「上手いね」とか「美味いよ」って言って
くれるんです。

 向こうではユウさんも同じようにたこ焼きを焼いていますね。お客さんは……女の子です。楽しそうに会話しているのを見ると妬け
ちゃいますね。

「サユリ、今日もあのおじさん来た?」

「うん、来たよ。舞の所にも?」

「はちみつくまさん」

 あの常連のおじさん、随分と健啖な方ですね。毎日あんなに食べても平気なんですから。この街では有名な大食いさんだそうですが。
因みに舞は、商店街にある同じ系列のお店で働いています。

「うん、いいかな?」

 焼きあがったたこ焼きをお皿に載せて行きます。あ、因みにここではソースや削り節、青海苔などはかけません。生地をだし汁
でといているので既に味が付いているんです。

「舞……葱はかける?」

「はちみつくまさん」

 舞の希望を聞いて、葱をかけるのですが

「あ、また零れちゃった」

 希望するお客さんには、トッピングで大量の葱をかけるんですがいつも零れてしまうんですよね。葱がサユリや床にかかります。
でも先程のおじさんも舞も、多くかかっているのが嬉しいのか何も言いません。

「はい、たこ焼き三皿お待ちどうさま……ちょっと蛸を大目に入れといたから」

 舞だけのサービスですよ。

「ありがとう」

 舞も嬉しそうですね。お金を払った舞は、お店の椅子に座ってサユリを待ってくれるようです。舞の近くでは、サラリーマン風の男の
方が凄い勢いで鯛焼きを食べています。あ、このお店は鯛焼きも売っているんですよ。食べ終わった男性はそそくさと出て行きます。
男性の方がああいった甘い物を食べるのは恥ずかしい事なんでしょうか?

「サユリちゃん、ご苦労様。今日はもうあがっていいよ。ユウくんも」

「はい、それじゃお先に失礼しますね。お疲れ様でした」

 店長さんの許可が出たので、サユリもユウさんも挨拶して着替える為に下がります。そして着替えが終われば、もうユウさんでもサユリ
でもありません。普段の祐一さんと佐祐理に戻ります。さ、舞も待っていますし帰りましょうか。

「舞、お待たせ」

「……みまみま」

 舞はたこ焼きを食べながら、佐祐理達を待っていました。佐祐理達がやってくると、まだ手をつけていないお皿を差し出します。

「おごりだから」

「お、舞がおごりなんて珍しいな。うんうん、お兄さんは嬉しいぞ」

「私のほうがお姉さん」

 舞のチョップが炸裂します。あ、今回のは結構力が篭っていたようで、祐一さんは本気で痛がっていますね。でもいつもの二人の
やり取りですから。その様子を眺めながら、舞に貰った佐祐理が焼いたたこ焼きを一つ口に入れます。

「はふはふ」

 まだ熱いです。外はカリカリ、中はトロリと。良かった、上手く出来ています。

「うん……佐祐理さん。美味いよ」

 祐一さんが褒めてくれました。舞も「美味しい」と言ってくれます。明日も頑張りましょう!




 後日・昼休み

 またしても祐一さんが眠そうにしています。あと、随分とやつれている様にも見えますね。

「あぁ、秋子さんとさ」

 なんでも毎晩ヤッているそうです。だから睡眠不足だったんですね。



『さぁ……いいですよ、イれてください』


『もっと……はやく動かしてください』


『たくさん……カケてくださいね』



 た、たこ焼きを、焼いているんです、よ……ね?


『ふふふ……』




 終わり



 あとがき

 すいませんごめんなさいもうしわけありませn(以下省略

 こんにちは、うめたろです。

 こんなネタを続けに続けて第五回目は、佐祐理さんの登場です。

 (とか言いつつ舞の出番が多かったり^^;) 

 相変わらずなモノで恐縮ですが、

 また何かとご指摘もあるでしょうが

 優しく見守ってくださいませm(_ _)m



 最後に

 今作品を掲載してくださった管理人様

 今作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにさせていただきます

 ありがとうございました

 では                                     うめたろ