『物腰が上品な少女』天野美汐
 彼女は今、水瀬家の前に居た




                          美汐 〜魅惑の招待〜
                       物腰上品少女が味わう硬く、熱いモノ




 数日前の事です。

「天野、今度の休みに家に来ないか?」

 相沢さんが私を誘ってくださいました。唐突です、唐突過ぎます……いえ、勿論嬉しいのですが。

「唐突過ぎますね。一体どうしたというのですか?」

 本来なら二つ返事で了承するのですが、相沢さんには何時もからかわれていますから、つい用心してしまったのです。

「ん〜、いやな。今度の休みは何故か皆外出する事になってな。俺一人留守番なんだ」

 そういえば真琴も水瀬先輩とあゆさんと出かけるような事を言ってましたね。という事は相沢さんと二人っきり!?

「天野……アレ、好きだったよな。今度は二人っきりだから、沢山……な?」

 私の考えなどお見通しなのか、笑いながら私の耳元で囁くように言います。た、確かにアレは好きですが……

「でもまぁ、天野にも都合があるだろうし、無理にとは言わんが……どうだ、来るか?」

「行きます!」

 そうです。ここで躊躇うわけにはいきません。相沢さんを想う私にはライバルが多いのですから。相沢さんがお世話になっている
水瀬家には従兄妹である水瀬先輩。それに真琴とあゆさん。学校でも美坂先輩にその妹の栞さん。上級生の倉田、川澄両先輩。
そして……あの方もそうなのでしょうか? とにかく強敵揃いなんです。
 栞さんやあゆさん、真琴は積極的に相沢さんにアプローチしていますし、水瀬先輩や美坂先輩は同じクラスですからほぼ一日
一緒にいると言っても良いでしょう。そして先輩達二人は……あのサイズは反則でしょう……。
 かく言う私には、コレといったアピールポイントがありません。強いて言えば上品な物腰でしょうか? でもこれは相沢さんに
「オバサンくさい」とからかわれてしまっているのでそうとは言えませんね。つまり私は『相沢さん争奪レース』において不利な
状況にあるのです。ところが、です。何と相沢さんの方から私に声を掛けてくれたのです。チャンスです! この機を逃す訳には
いきません! それに……アレが、好きですから(ポッ)

「と言うわけで、絶対にイカせていただきます!」

「何が、と言うわけで、なのか分からんが……そうか、じゃあ待ってるからな」


                         ★   ★   ★


「おかしなところは……ありませんね」

 休みの日。今私は相沢さんのお宅(と言っても正確には彼のお世話になっている水瀬家なのですが)の前で、身だしなみの最終
チェックをしています。取り出した手鏡で髪型などを点検……問題ありませんね。歯だって念入りに磨いてきましたし、お風呂に
入って身体を隅々まで洗ってきました。下着だって……その……コホン、とにかく準備はオッケーです!

 ピンポーン

 チャイムを鳴らして暫く待っていますと、ドアが開いて相沢さんが出迎えてくれました。

「よう天野」

「本日はお招きに預かり、ありがとうございます」

「相変わらず天野は……」

「相沢さん(キッ)」

「は、ハハ……まぁ玄関で立ち話もなんだから、上がってくれ」

「お邪魔します」

 何時ものやり取りがあり、私は水瀬家に入ります。玄関では勿論靴を揃え、先を行く相沢さんに付いて2階の相沢さんの部屋へと
向かいます。

「しかし時間通りだな」

「当然です。時間に遅れるなんて人として不出来でしょう」

 某国際A級スナイパーの人ばりに正確に着くように計算しましたから。

「家の方はもう出かけられたのですか?」

「ああ、天野が来る前にさっさと出かけたぞ」

 真琴達がいれば騒がしいのですぐ分かりますが……気配を探ってみましたがどうやら本当にいないようですね。もっとも「あの方」
なら気配を殺すなどわけないでしょうが……

「天野、どうかしたか?」

 階段の途中で立ち止まっている私を見て、相沢さんが声を掛けてきます。

「いえ、何でもありません」

 そうですね、余計な事を考えずに今はこの「二人きり」の時間を楽しむとしましょう。


「さ、入ってくれ」

「失礼します」

 相沢さんに案内されて部屋に入ります。部屋の中はベッドに机、造りつけのクローゼットに本棚、ガラス張りのテーブル……
割と整頓されていますね。以前お伺いした時と殆ど変わりがありません。以前ですか? 真琴と二人でこの部屋にお邪魔したんですよ。
その時はまぁ……三人でしたし、途中から水瀬先輩達も一緒に、その……コホン。それはさておき、

「じゃ、ちょっと待っててくれ」

 そう言い残して相沢さんは部屋を出て行きました。私はクッションの上に腰を下ろして相沢さんが来るのを待ちます。

「……」

 落ち着きません。この、待っている時間と言うものは通常より長く感じるものです。失礼とは思いながらも、つい部屋の中を
見回してしまいます。本棚は……使われた形跡の無い参考書がありますね。その下は……漫画ですか。こちらは頻繁に出し入れされて
いるようです。おそらく真琴辺りが利用しているのでしょう。勉強机ですが……こちらも綺麗に整頓、と言うか使われていないので
散らかしようが無い、といったところでしょうか? そしてベッド……いつもあそこで相沢さんが…………ハッ! いけません、
つい妄想に浸ってしまいました。……ここは一つ、ベッドにダイブして相沢さんの匂いを身体全体で吸収するべきでしょうか?

「……」

 イエ、匂いといわず、この家には相沢さん御本人がおられるのですから御本人にダイブして……

「あまの〜」

 イエイエ、こういう状況ではベッドに……

「お〜い、あまの〜」

 ですが……でも……

「お〜い、みっし〜……」

 先程から何か聞こえますね。何方でしょうか? 私の思考を邪魔しないでいただきたいものです。私はこれから相沢さんとの……

「って、相沢さん!?」

 そうです。先程から煩かったので、私が穏便かつ速やかに、実力行使にて沈黙していただくべく拳を繰り出そうとした相手は
当の相沢さんでした。

「おぅ、相沢さんだぞ。って、さっきからブツブツと何呟いていたんだ? それに……その握り拳は?」

 冷や汗をかきつつ相沢さんが質問してきます。不味いですね、そんなところから見られていたなんて。これでは上品な物腰の私の
イメージが台無しです。ここは美坂先輩に教えていただいた通りに相沢さんを説得しましょう。

「何でもありません」

「いやしかし……」

「何でもありません(睨みつけ+握り拳)」

「わ、ワカリマシタ(汗)」

 ふう、やはり誠意あふれる説得というものは効果があります。相沢さんにも納得していただけたようなので、この件はこれでお終いに
しましょう。

「待たせて悪かったな、ちょっと準備に手間取ってな。早速だが、天野……」

 カチャカチャ

 相沢さんは、例のアレを慣れた手つきで取り出します。

「何度見ても、大きいですね。ソレは……」

「ああ、そうだろ。だがな天野、今日はコレだけじゃないぞ」

そう言って相沢さんは持っていたものを私の目の前に置きます。

「こ、これは!? あ、相沢さん。一体コレを何処で?」

「秋子さんから貰った。天野、コレも好きだろ?」

「……ハイ」

 えぇ、認めます。私はソレも好きです。相沢さんのアレだけでは寂しいと言うか、物足りないと言うか……でも、こんな事を知ったら
相沢さんが……でも、良いです。好きな人の前では全てを曝け出したい、その気持ちがありましたから。

「そうか、良かった」

 相沢さんはからかうことなく、そう言ってくれました。普段は他人をからかう事に生きがいを見出すような方ですが、それでも
真剣な時というものは弁えています。

「コレだけじゃ物足りないだろ? だから用意したんだ。って言うか秋子さんが「コチラも一緒にどうぞ」と渡してくれた」

「流石ですね。こんなスゴイモノを……」

 流石は「あのお方」、秋子さんです。

「まぁ、試してみようじゃないか」

「ハイ」

 では、いよいよです。私は相沢さんの差し出したモノを手に取ります。

「相変わらず……硬いですね。それに……コレ、凄く熱いです」

「じゃあ、先ずはコッチを、な」

「ハイ」

 どうしてここまで硬くできるのかが不思議でなりませんが、それはさておき、早速ソレをクチに入れます。

「ん……」

 クチに含み、ゆっくりと口全体を動かします。ソレはクチの中でまるで意志を持っているかのように動きます。これは……

「ふぁいふぁあふぁん(相沢さん)」

「天野、クチに入れたまま喋るなって」

 そうですね。これは食事の時にも注意される事です。普段の私ではやらない事をやってしまいました、不覚です。手に取ったソレを
一旦口元から離して落ち着くと、先程言いたかった事を言います。

「コレ、何時もより硬いです。それに、大きいですからずっとクチにしていると顎が痛くなってきます」

「まぁ、今日はちょっとな。……無理する事無いぞ?」

「イエ、大丈夫です」

 私はコレが好きなんですから最後までヤッテ見せます!


「天野、そろそろ……」

 暫く経ってから、頃合なのか相沢さんが教えてくれました。

「ハイ。……では、いただきますね」

 アレを手に取ると、口に含みます。同時に熱い液体が私の口腔内に流れ込んできました。味覚にはっきりと味が感じられますが
これは……

「ゴクッ……ゴクッ」

 一口、二口と飲んでいきます。液体が喉を通って胃へと落ちていくのを感じます。

「ふう……」

 漸く嚥下し終え、口から離すと一息入れます。ふと、私を見ている相沢さんと目が合いました。相沢さんは期待に満ちた目で私を
見ています。

「どうだった?」
 
 感想を聞きたいようですね。「美味しかった」と言ってもらいたいのでしょう。そう言いたいのは山々なのですが

「……とっても濃くて……苦いです」

「そうか……濃かったか?」

 正直、もっと薄くないと飲むのは辛いです。期待通りの感想を得られなかった相沢さんですが、特に気にした様子もありませんでした。
そしてまた、私の前にアレを見せ付けます。

「あぁ、まだこんなに……」

「今日は二人きりだから沢山楽しめるぞ」

 赤らんでいく顔を止める事は出来ません。

「(皆さん、申し訳ありません)」

 私は心の中で謝罪していました。でも、私だってスキなんです。折角ですから独り占めさせていただきます。硬いアレを口に入れ、
そしてまた相沢さんから熱いモノをいただくのですが……私に油断があったのでしょう、ふとした拍子に手からスルリと抜けたソレは
私に向かって熱い液体を飛ばしてきます。

「キャッ」

「天野!?」

 ソレは私の顔や服に飛び散ってしまいました。ああ、床やテーブルにまで……

「天野、大丈夫か?」

 慌てて相沢さんがティッシュを取って、私の顔を拭います。

「あ、相沢さん!?」

「いいから動くなって……よし」

 私の顔を拭き終えた相沢さんは、次いでテーブルや床を拭き始めます。無論私も手伝います。服には大してかかっていませんから
洗濯すれば大丈夫でしょう。

「悪かった。ちゃんと天野に声を掛ければ良かったんだ」

「イエ、私が不注意でした。つい、夢中になって……」

 お互いに謝りながら、後始末をしていきます。なんとも気まずい雰囲気になってしまいました。ですが後始末を終える頃には
すっかり元の雰囲気に戻りました。

「天野。今度はちゃんとスルから、もっと……飲むか?」

「……ハイ、いただきます。ですが相沢さん……」

 その時です。外が騒がしくなったかと思うと階下で玄関のドアが開く音がしました。

「ただいまー!」

 どうやら真琴達が帰ってきたようです。イケマセン! こんなところを真琴達に見られたら……

「ぬぅ、帰ってくるのが早すぎるぞ!?」

 このことは相沢さんも予想外だったのか驚いていました。

「あれ、誰か来てるのかな?」

 玄関にあった私の靴に気が付いたようですね。

「これは……美汐の靴ね! 祐一ったら真琴達がいない間に美汐を連れ込んだのね!」

 真琴の叫びに混じって「だおっ!?」だの「うぐぅ!?」といった妙な声まで聞こえてきます。という事は水瀬先輩とあゆさんも
いらっしゃるという事ですか。さらに不味いです。

「許せない。真琴を差し置いて……クンクン……祐一の部屋ね!?」

 流石は元狐、匂いと音で私達の居場所を見つけましたか。などと冷静に判断している間にも真琴が階段を駆け上がる音が近づいて
きます。途中「だおっ!?」だの「うぐぅ!?」といった妙な悲鳴が聞こえます。おそらくは暴走する真琴に突き飛ばされるなり
踏みつけられるなりしたのでしょう。これは、かなり怒っていますね。真琴は肉まんが好きですが、最近はコレも気に入ったようで
すから。
 階段を上がりきった真琴が相沢さんの部屋のドアを思いっきり開けました。

 バァン!

「「ま、真琴!?」」

「祐一、美汐……」

 部屋の現状を見た真琴が最初は小さい声で私達の名前を呼びます。それは別に落ち着いているからではなく、溢れる感情を
抑えての事のようです。

「ずるいよ……」

「真琴……」

「なんで……なんで……」

 真琴は私の声に耳を貸そうとしません。感情を抑えきれずに徐々に声が震え、大きくなってきます。そして、感情が爆発して
大きな声で叫びました。


「なんで、二人でっ!」


































「お煎餅食べているのよぅ!!」

















「お茶まで用意してっ!!」


 テーブルの上には相沢さんが私に見せた沢山の「お煎餅」の入った箱、茶筒と急須に湯のみ。テーブル脇にはポットが置いてあります。

「ソレって『特大堅焼き煎餅、Ver超○金Z』じゃない! 真琴もソレ好きなのに!」

 そうなんです。最近の真琴のお気に入りなんですよ、コレは。他にもVerガンダ○ウム合金、Verゾル○ニウム合金などが
あるらしいのですが。

「違うぞ真琴。コイツは新しく出た『Ver○合金ニューZ』だ」

 相沢さんの説明で納得しました。どうりで何時もより硬かった訳ですね。それにしても不思議です。どうすればここまで硬く
焼き上げる事ができるのでしょうか。

「なら余計に二人だけで食べるなんてずるいわよ! 真琴にも食べさせなさいよ!」

 真琴が怒って相沢さんに詰め寄ります。まあ当然ですね、食べ物の恨みは恐ろしいですから。しかし、残念です……二人きりなら
沢山食べられたのに……。

「分かった分かった。やるから大人しくしろ」

 相沢さんがそう言うと、真琴は大人しく座ります。相沢さんがお煎餅を一枚取り出して真琴に渡すと、真琴は嬉しそうに口に
入れます。

「硬いよ〜〜。流石は超合○ニューZね!」

 バリバリとお煎餅を噛み砕いていきます。ですが

「あぅ〜〜、顎が痛くなってきたよ」

 やはり真琴も、一旦口からお煎餅を離して顎を押さえています。

「硬いものを良く噛んで食べるのは健康に良いんだぞ」

 確かに、よく噛んで食べる事は大事です。噛む、という動きは脳の血液量を増やして脳の活性化に繋がり痴呆防止に役立つと
いわれていますし、噛む事によって出る唾液に含まれるホルモンが、ガン予防や老化防止にも効果があるとされています。
他にも、良く噛んでゆっくりと食事を摂れば満腹感も出てきて食事の量も抑えられますから、ダイエットにも効果があるでしょう。

 コホン、それはさておき

「祐一、お茶もらうね」

 悪戦苦闘の末に食べ終えた真琴は、事もあろうに相沢さんが使っていた湯飲みを取ると、私が止める間もなく飲み始めます。

「(か、間接キスですか!? そんな酷なことは無いでしょう)」

 しかし、そんなことに気が付かない真琴は一口飲んだだけで湯飲みから口を離しました。

「う〜、これ凄く濃くって苦いよ」

 真琴にもそう感じられたようです。これには相沢さんも気にしたようですね。

「そうか? 俺はこのくらい濃いほうが好みなんだが……」

「相沢さん。折角秋子さんが用意してくれた『高級特選玉露』なのですから、よく味わえる濃さと温度にした方が良いですよ」

「そうだな、お茶葉を減らすか。温度は……どうだったかな?」

「玉露は50〜60℃位のお湯で淹れるのが良いんですよ。先程のは熱過ぎです」

 相沢さんは急須に入ったお茶葉を減らしてから、これまた少し冷ましたお湯を急須に注ぎます。

「今度は大丈夫だろう。天野ももう一杯飲むだろ? さっきはこぼしちゃったからな」

「ハイ、いただきます」

「真琴も!」

「分かった分かった」

 相沢さんは苦笑しながら私と、既に真琴の物になっている湯飲みに、お茶を注いでいきます。

 こうして私の休日は平穏(?)に過ぎて……いきませんでした。
 それから、復活した水瀬先輩とあゆさんも交えての騒がしいお茶会になってしまいましたから。皆さんもコレはお好きなようで
 結局私は以前と同じくらいしか、食べる事が出来ませんでした。ですが、こんな雰囲気も良いですね。
 

 明日からはまた、相沢さんを巡っての攻防が繰り広げられます。

 天野美汐、負けませんから!




 終わり……ではなく、



 後日

 学校にて妙にやつれた相沢さんを見かけました。心配して尋ねてみますと……

「ああ、秋子さんにな……」

 なんでも随分と「シゴかれた」そうです。


『ふふふ、祐一さんの……飲ませてくださいね』


『……熱くて、濃いですね』


『この最後の一滴が美味しいんですよ』


 と。



 ……お、お茶の事ですよね? 


 お茶の淹れ方について随分しごかれたんですよねっ!?


『企業秘密です♪』




 ホントに終わり





 え〜っと、後書き?


 先ずは言おう!

「ゴメンナサイ」と!


 またやっちゃいました(4回目)うめたろです。

 長編の合間に妄想の赴くまま製作してしまいました^^;

 今回は美汐サンの出番です。

 内容については……まぁ、相変わらずということでm(_ _;)m 

 今回の薀蓄は一応調べましたが、何処かおかしいところがあってもご勘弁を

 また、キャラ達が煎餅好きなのは、このSS独自の設定という事で……

 今回もこの辺で〜〜〜〜〜(とんずら)


 最後に

 今作品を掲載してくださった管理人様

 今作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにさせていただきます

 ありがとうございました

 では                                     うめたろ