俺は秋子さんの甥、と言うことは秋子さんは俺の叔母で・・・。
突然の事態に混乱する祐一。
そんな祐一に秋子は一歩近づきヒョイッっと祐一の長い前髪を掻き上げた。
「あ、秋子さん!?」
振り払うことも出来ず戸惑う祐一に、秋子はフフフと笑いかけ、
「始めて見た時と雰囲気は少し変わりましたけど、かわいらしい顔立ちはあまり変わっていませんね」
「ぐはぁっ」
祐一の前髪が異様に長い理由。
それは何のことは無い、顔を隠すためであった。
祐一は童顔、と言うよりも「かわいい」と言う部類に属する顔立ちをしているらしく、城に住んでる女性陣やら、旅先で出会ったちっこい女魔法士らいわく「もう、特に目元がサイコー」とのこと。
何年経っても結局それは、背が伸びても、声変わりしても変わらず、最初の頃には「男なんだからそのうち男らしくなるよ」と励ましてくれた天馬も、「・・・まぁそれも個性さ」と諦められた。
祐一はもともと伸び始めていた前髪を下ろし、せめて「サイコー」と評された目元だけでも隠すことにした。
祐一もさすがにずっとこの髪型なので今更うっとうしくもなんとも無いが、それでも今も抱えるささいな、しかしある意味深刻な悩みの種である。
どのくらい深刻かと言うと、正直前髪を下ろした祐一のパッと見の印象は他の要因と相成りかなり怪しい。
それにもかかわらずこの髪型のままな事からも、自分の顔に関して相当コンプレックスを持っている事が伺える。
「かわいいですよ、祐一さん」
「・・・秋子さん」
心で涙する。
怨・魅偽手には
第一章 第五話 思い出と今も進む現在
「一度祐一さんに会った時、まだ祐一さんに名前が付いてなくて・・・」
「ああ・・・確か俺が祐一って名前を嫌がったんですよ・・・あの頃は、いや、帝都にいる間ずっと天馬さんには迷惑かけっぱなしでしたね・・・」
「・・・祐一さん」
「何です、秋子さん?」
「天馬さん。と呼んでるんですか」
うっ、と秋子の悲しそうな目と相成って言葉に詰まる祐一。
「・・・いや、なんというか・・・今更ってのは・・・気恥ずかしくて・・・・・」
「祐一さん」
「うう」
まるで叱られてる様な気分になりうめく祐一。
秋子が溜息をはく。
「い、イヤ、でも、別に父親と思ってないとかそういうんじゃないですよ? 俺の父親は相沢天馬です。この事実は絶対です。・・・てっ、うわ・・・」
言ってる今が恥ずかしい。
ある状態に落ちいっていた祐一は相沢天馬に拾われ保護された。
天馬はそのまま祐一を引き取り、自分の息子としてずっと育ててきた。
天馬も結構な親バカで祐一を可愛がっており、祐一自信も祐一の目から見たら何でも出来る天馬の事を尊敬していた。
二人は血はつながってないが、はたから見たら間違いなく親子と言う関係に他ならないだろう。
そんな祐一をみて秋子は、
「それならいいけど・・・そう言えば祐一さんと面と向かったのはあの一回だけでしたね。・・・あの時期は本当に忙しくて、それに祐一さんも人見知りしてましたしね」
その言葉に恥ずかしそうに頭を掻く祐一。
そういば、
「そういえば、娘って名雪ですか? 覚えてますよ。名雪の奴元気ですか?」
「ええ、とても」
あの当時いつの間にか研究者になっていた秋子だが、それ自体は面白く、何時しか没頭した。
そして秋子の研究は学園のように全般的にいろいろな分野を研究してる帝都の他に、術式研究が盛んな魔導国家にも認められ、2年間あまり秋子は学園、帝都、魔導国家を行ったり来たりしていた。
「最初、名雪を帝都につれてきた時も、忙しくて名雪の相手をして上げれなかったから・・・寂しいと思って今度からは姉さんに預けて行こうと思っていましたら、祐一さんと楽しく遊んだそうで『お母さん。またつれてきてほしいな』と言われましてね。それ以来帝都に行く時は天馬さんに名雪を預けてたんです。天馬さんにも悪いと思ったんですけど快く毎回受けてくれましたね」
「天馬さんも子供好きですからね・・・。俺にとって秋子さんは『名雪を迎えに来るお姉さん』って印象しかなくて・・・名前まで覚えてなかったんですよ」
「わたしも全然ゆっくりしてる余裕がなっかたですから。だからわたしも『名雪が移動中に楽しそうに話してくれる男の子』って印象しか無かったですね。一度ゆっくり話したいなと思ってたんですけど」
そのうち秋子の方も落ち着き、帝都にはめっきり来なくなった。
そういえばあの当時よく名雪に「帝都には行かないの?」って聞かれましたね。
当時を思い出して少し笑みを浮かべる秋子、
「・・・そういえば、今更ですけど秋子さんって何の研究してるんですか。いや、薬学らしいことは聞いたんですけど」
「ええ、わたしは『エリクサー』の研究をしてるんです」
『エリクサー』とは幻の霊薬でありありとあらゆる癒しの効果があるものである。
その効力は死んでいなければありとあらゆる症状が治るとされている。
何故そのようなものが存在しているのかは未だ謎であり、歴史学者の研究テーマの一つだったりしている。
そしてその完璧な再現は難しく、何年か前まである論文が発表されるまで2割の効果の再現すら不可能とされていた。
「もしかして、4割の再現に成功した研究者が・・・」
「あらあら、恥ずかしいわ。でも、今は6割までの再現が可能とされてますよ」
マジかよ。てかめちゃくちゃ有名な研究者じゃないか。そして「成功者」だな、うむ。なんか、どっかの馬鹿が「成功者には成れませんよ」とかぬかしてたなぁ。
少々現実逃避気味な思考に陥ってる祐一に、
「そういえば祐一さん。学園の前で何してたんですか」
祐一は少しボーっとしてたらハッと気づき、
「いや、学園に入りたかったんですけど門番の子が通してくれなくて」
「仕方ありませんよ、学園の中にはいろいろな研究施設と、各学科の図書館や、あまり関係のない人が見れない貴重な資料などがありますから。それに舞ちゃんまじめな子ですから」
まじめな子に人質を進められたことは伏せておこう。
祐一は心に決めた。
それはともかく、
「まさにその貴重な資料が見たくて入りたかったんですけど」
「あら、どうしてですか?」
「うーん」
話すべきか話さぬべきか、秋子は学園の中でも特に偉い研究者だろう。
協力してもらえたらこれ以上頼りになる人もいない。
そうだな、少しだけ話すか。話しづらいことは・・・まぁ嘘も方便だ。
祐一はそう考え少し話すことにする。
「実はですね、帝都を出て旅に出たのはいいんですけど目的があまりなかったんですよ。だから少しの間・・・そうですね11・2歳のときかな、そのときにちょっと興味が沸いて調べてたことがあるんですよ。それを本格的に調べてみようかなと思いまして。そのための詳しい資料も学園ならありそうですし」
「? なんで旅になんて出たんですか」
・・・・・・・・・し、しまったぁぁーーーーーー! ここが一番「方便」を使わないといけないところだろーが!
祐一は自分に叱責を入れつつ思考をめぐらす。
・・・・・・秋子さんならいいか。それにここ何年間もずっと疎遠だったし、あの事も知らないだろう。
「実は、家出しまして」
「家出って・・・祐一さん!」
「話を最後まで聞いてください秋子さん。正確には半家出ってとこですね」
「? どういうことなんですか」
「えーとですねぇ。周囲に何も言わずに飛び出すのって、やっぱり家出ですよね」
「そうですね」
「でも、天馬さんには許可もらったんですよ。正確には黙っていこうとしたところで見つかっちまったんですけど、ね」
当時のことが少し思い起こされる祐一。
天馬さんあの時嬉しそうに見送ってくれたんだよなぁ。
正直黙って出て行くことが心苦しかった祐一にとってもあれほど嬉しかったことは無かった。
「でも、一体どうしてなんです・・・家出なんて?」
「秋子さんにも言いましたよね。『同じですよ』って」
「えっ」
「俺も・・・<超人>を目指してたんですよ。俺が家出たのって、<準超人>の試験前日なんです」
「それでも、一体どうして」
「別に・・・よくある話ですよ。『このまま自分はこの道に進んでいいのだろうか、もっと他の道は無かったのだろうか』って」
さしたる気負いも無くそんな風に答える祐一。
本当にそれだけだろうか?
秋子自身一度はその道を歩んだものだからこそ分かるのだが、そんな生半可な覚悟で<準超人>の受験資格は得られるものではない。
もちろん祐一にそんな覚悟が無くてもどうにかなるだけの才能があったのかもしれないが、だとしたら余計に惜いだろう。
あら、そういえば・・・
「何で天馬さんは許可してくれたんですか」
「俺も見つかった時点で諦めてたんですけど・・・他の人ならともかく、相手は天馬さんでしたし。でも天馬さんこう言ってくれたんですよ。『たまにはわがままも言え』って」
「わがまま、ですか」
「俺はそうでも無いと思うんですけど、天馬さんいわく名前を嫌がった時以来一度もわがままを言ったことが無いらしいんですよ。ですから『たまにはわがまま言って、甘えてくれ。「俺に後のことは任せろ」って、かっこつけさしてください』って」
そして天馬には祐一が何に悩み何故出て行こうとしたのか分かっていたのだろう。
いや、天馬だからこそ分かったというべきか・・・
「それ以来天馬さんとは?」
「ああ・・・、出かけに天馬さん『できたら近況を教えてくださいね』って言われまして、こっちが手紙を受けることは出来ませんけど、こっちからは何度か手紙を送ってますよ」
「そうですか・・・」
秋子は少し考えるそぶりを見せ、
「分かりました祐一さん」
「分かってくれましたか」
「学園に入りたいんですよね」
「ああ、そっちですか」
そういや、そんな話してたな。
「だったら入ってしまいましょう」
「いや、でも関係者以外は入れないんじゃ?」
「ですから、関係者になるんですよ」
秋子は微笑みながら、
「祐一さん学園に入学して見ませんか?」
沈黙。
「い、いいです。大体、俺スクール卒業してるんですよ?」
「ですけど祐一さん。関係者にならないと学園の資料は読めませんよ。いったいどうするつもりなんですか?」
忍び込むつもりでしたとはいえない祐一。
そして秋子も、
そこまで融通が利かないわけではないんですけどね・・・
とか思ってたり。
「それに祐一さん。スクール出身者だからこそ編入はしやすいんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、12歳まではとにかく一般教養を中心に学び・・・と言っても、初等部から入学する人は少ないんですけどね。13〜15は自分のしたいことを探す3年間です。そして最低でも16歳からは全ての人が自分の進みたい道を決め、それぞれのコースに進みます。ですが編入の場合、16歳以上で今まで教育を受けたことの無い人は1年間教養を学ぶことを義務付けられるんです。それがスクールの卒業生でしたら高等部への編入が可能です。もうこちらで学ぶ最低基準以上のことを学んでいるはずですから」
「うーん」
正直気乗りしない。
今更学ぶことも無いと言い切る訳ではないが、いってまで学ぶことがあるのか?
しかし、だからといって学問の最高峰の一つである学園の資料が読めないのは祐一としても痛い。
そうだなぁ・・・、
「条件付で、よかったら。そんな事言えるような立場じゃないですけど」
「条件・・・ですか」
そうです、とうなずく祐一。
少し困惑した表情の秋子を見ながら。
「学園には入学します。ですけどめぼしい資料を見終わったら出て行きます」
「祐一さん・・・・・・」
「すいません秋子さん。でも、そんなに長々といても意味があるとは思えません」
「じゃあ、意味があったらいる、と言う意味かしら」
「・・・それはそうですけど」
祐一は「そんなことは無いだろう」と思い口篭もる。
秋子は俯いて少し考える。
そして顔を上げ、
「分かりました祐一さん。ですけどこちらからも条件を出していいですか?」
「物にもよりますけど・・・」
「難しいことじゃありませんん。こちらに滞在中、家に泊まっていってください」
「・・・でも秋子さん・・・」
「祐一さん」
なにか言おうとした祐一をさえぎり、
「祐一さんは私の甥なんですよ・・・同じ町にいるのに身内どうし離れ離れなんて寂しいじゃないですか」
「・・・分かりました。しばらくの間お世話になります、秋子さん」
「はい、祐一さん」
そう言って秋子は穏やかに、そしてとても嬉しそうに微笑んだ。
mayです。・・・説明ばっか。
でも、も〜〜っと説明ばっかの話しが控えてたりして・・・。
こう言う話しを抜いたら一章も15話くらいで終われるんだろうけどな・・・道のりはまだ長いッス。
まだ一章で起こる事件の陰も形も見当たりませんね。
結構強引に秋子さんが祐一君の名前を覚えて無いようにしましたけど、名雪にもう一押ししてもらいますので。
次回はとりあえず家に帰る前に秋子さんの用事を済まさせてもらいます。
ではまた。