「っ! 秋子さん!」
そう呼ぶ、女の子の声が聞こえた。
前方を見るとおかっぱ頭の少女がこちらに向かって走ってきている。
「娘さん・・・ですか」
「同じくらい可愛いですけど、助手の娘の方です」
嬉しそうに微笑みながらそう答える。
チェックのストールを羽織った少女は息を切らしながら祐一達の前で止まる。
秋子は相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、あらあらと頬に手を当て少女見つめている
この子オレより年下じゃないのか?
祐一は秋子絶賛の優秀な助手を見てそう思った。
「あ、秋子さん。はぁ、いったい、どうした、ですか、こんな、遅くなって」
息も絶え絶えに聞いてくる
それに秋子は少し困ったような笑みを浮かべてたが・・・、
不意に、
祐一に嫌な予感が駆け巡る。
秋子の顔を見て見ると何か笑顔の質が変わったような・・・そう、例えば
「ごめんなさいね、栞ちゃん。昨晩は彼と一夜をともにしてたんです」
フリーズ。
そう、例えばいたずらをを思いついた時の子供のように。
怨・魅偽手には
第一章 第三話 聞き上手?と「優秀」な助手
栞解凍作業、もとい昨晩何があったのかを祐一が説明しやっと再起動し始めた。
その間秋子は楽しそうにその様子を見ていて、結局自己紹介のときしか口を挟んでくれなかった。
しかし、
「もう、秋子さん! だから護衛を雇ってくださいって言ったじゃないですか」
いたくご立腹の様子の栞に困った笑みを浮かべ、
「ごめんなさい、栞ちゃん」
「ごめんなさいじゃ無いです。本当に心配したんです!」
「まぁまぁ、栞ちゃんとやら。そうカッカするなよ」
「えぅー、秋子さん・・・。せめて助手の紹介をするときぐらい『ちゃん』付けは止めてくださいよ」
ちなみに秋子は「助手の栞ちゃんです」と紹介した。
祐一は苗字すらまだ知らない。
「まぁ俺も、あそこで秋子さんに会わなかったら今だ森の中をさまよってたかもしれないし。結果オーライだろ?」
「はぁ・・・、もういいです。祐一さん、でしたよね。秋子さんを助けてもらってありがとうです」
「だからお互い様なんだって」
どこかで聞いたような会話をしてるところに、
「ところで、栞ちゃん。わたしは今すぐ研究室に戻って今回手に入れたデータを比較検証してまとめ無いといけませんから栞ちゃんは・・・」
「秋子さん!」
栞がまた怒り出す
「そんなことは助手の私にまかして秋子さんは家で休んでてください。一晩中森の中を歩きどうしだったんですよね。服も泥だらけですよ」
「栞ちゃん、『そんなこと』の積み重ねが大事なのよ」
「そう言うことをを言ってるんじゃ無いです!」
「たく・・・、秋子さん」
祐一も口を挟む。
「言ったじゃないですか。人は一人じゃ生きていけないって。ここは秋子さん自慢の優秀な助手さんの言うとおり任せて、家で休んでください」
「でも栞ちゃんも寝てないんじゃ・・・」
それには祐一も気づいていた。
そもそもそおじゃ無きゃこんな朝早くに門の前にいるはずが無い。
恐らく徹夜で待っていたのだろう。
「大丈夫です。私、まだまだ若いですから」
そう冗談めかして言う栞。
ふぅー・・・
「分かりました。じゃあしばらく家でゆっくりしてます。けど栞ちゃんも無理はしないでくださいね」
「はい!」
嬉しそうに返事をする栞。
そんな様子を苦笑しながら眺めてた祐一も、
「じゃあ俺ももう行きますね」
「祐一さんはしばらくここに滞在するのですか?」
「ああそのつもりだけど」
「でしたら家に来ませんか?」
『えっ』
いきなりの秋子の申し出に声を重ね驚く二人。
慌てて、
「い、いいですよ。悪いですし」
「あらあら、遠慮しなくてかまわないんですよ」
「いや、ほんとにいいですからそれじゃ秋子さん、栞ちゃん、機会があればまたっ」
そう言って、足早に祐一は去っていった。
「・・・行ってしまいましたね」
「はふぅ・・・秋子さーん。名雪さんもいるんですから、そんなにやすやすと男の人を泊めようとしたらだめですよぅ」
「そうですね・・・何故か祐一さん他人と言う感じがしなくて・・・そういえば名雪にはなんて、」
「大丈夫です。ちょっと今晩は研究室で泊りがけで資料整理ですって連絡を入れときましたから。さずがに夜が明けてもまだ帰って来てなかったら、連絡するつもりでしたけど・・・」
「でしたらギリギリだったんですね・・・。本当にごめんなさいね栞ちゃん。心配かけてしまって」
「いいんですよ。さっ、今日は無駄話せずさっさと家に帰って休んでください」
「・・・分かりました。それじゃあ、後のことよろしくお願いしますね」
そう、栞に言い残し秋子は町の中に去っていった。
それを見えなくなるまで見送った後、
「さてと・・・」
がんばらないと。
心の中で気合を入れる。
これから・・・徹夜明けの今から秋子が持ってきたデータと今までのデータを比較しそれから・・・
もし仮にここで栞が居眠りしてしまっても秋子は決して怒らないだろう。
それどころか一人で任してしまってしまってすいませんとでも謝られるかもしれない。
自分からあれだけ啖呵きったのだそれだけは避けないといけない。
「がんばります」
実際に口に出す。
そして、栞も研究室に向けて歩き出した。
しばらく歩くと、
「・・・・・・・・・」
熱心に何か看板? を見てる祐一を見つけた。
確かあそこにあるのは・・・
「ん?」
近づいて声をかけようとしたらその前に気づかれた。
「えーと、栞ちゃん、だったよな。どうしたんだ?」
「・・・栞」
「えっ」
「栞、でいいです」
苦笑し、
「オーケイ、分かったよ栞」
「はいっ、祐一さん。所でタウンマップとにらめっこしてどうしたんですか?」
「ん、ああ・・・なあ栞、ここら辺に良い宿屋ないか」
「えっと、この街の住人ですから宿屋はあまり利用しませんので」
「そりゃそうか」
答えて、祐一は改めてマップとにらめっこを再会する。
と言っても前髪が邪魔で目元は栞には良く見えない。
「あっ、でも知り合いの実家が経営してる宿屋なら知ってますけど」
「知り合い?」
「同期の友達です」
「・・・うん、分かった栞案内頼めるか?」
「いいですよ。調度方向も同じですから」
「よろしくな」
祐一を連れ立って歩きながら栞が尋ねた、
「所で祐一さん」
「なんだい栞ちゃん?」
「・・・えぅ」
「どうしたんだい栞ちゃん」
「・・・・・・・・・」
「どこか調子でもわるいのかい栞ちゃん?」
「・・・そんなこという人嫌いです」
「じょーだん、じょーだん。ていうか、何か「ちゃん」付けにいやな思い出でもあるのか?」
「だめですよ、祐一さん」
むくれてた顔が、今度は妙に神妙な顔をしながら振り返ってそんなことを言う栞、
「女性とは秘密の一つや二つ持ってるのが普通なんです。それをぽんぽん聞くのは男としての度量を疑われますよ」
「そういうもんか?」
よく分からん、と言った感じで聞き返す祐一に相変わらず神妙な顔をしながら
「そういうもん、です。祐一さん」
そんな栞を苦笑しながら見つめながら祐一は栞の横に並ぶ
「? 祐一さん」
「あんまし後ろ向いて歩くのも危ないしな」
「大丈夫ですよ。まだ人は誰もいないですし」
「・・・朝、早いもんな。で、栞はさっき何を聞こうとしてたんだ」
「そうですよ、祐一さんがからかうから・・・」
「ごめんごめん。で、なんだ」
栞はちょっともじもじして、
「さっき『秋子さん自慢の優秀な助手』って」
「ああ森の中で言ってたぞ、最近持つようになった助手がとっても優秀な子で助かってますってな」
「そうなんですかー」
そう、とてもうれしそうに答える栞。
「秋子さんって、なんでも一人でやっちゃう人だから、正直不安だったんです」
「なぁ、栞っていくつなんだ」
「? どうしたんですか急に」
「いや、栞って俺より年下だろ? あ、ちなみに俺は今17だ」
「えっと、私は15で、今年で16です」
「あっ、それでも見た目からの予想より高い・・・睨むな、睨むな、イヤ〜トシソウオウナミタメダナァ」
「・・・嫌いです」
「むくれるなよ。で、聞きたかったのはそこじゃなくて15、今年で16ってことはまだ『学園』じゃ学生だよな? それが何だって研究室の助手を」
「えっとですね、まずカノンの学園都市の由来でもある『風華学園』通称『学園』がありますよね。これは帝都の『クローバースクール』とは少々違って・・・」
「あっ、スクールの説明はいいよ。学園のことだけ頼む」
「そうですか?えーと、それでですね・・・
学園はまず年代別に初等部、中等部、高等部に分かれている。
それぞれで一般教養を学びながら自分のなりたい職を見つけ最終的にその職に付くための近道を示してくれる。
例えば騎士を目指すなら戦術・戦略論を中心に学ばせ実践レベルも騎士の受験資格レベルまで育てる様なカリキュラムを組む。
そして卒業時に基準値を満たした生徒には騎士受験資格書が渡され、その足で城に受験しに行くことも可能である。
ちなみに基準値を満たさなかった学生はそのまま学園を出てもいいが、3年間までなら残ることも可能である。(これはあくまで騎士コースの場合であり、コースによってこの年数は違う)
だからこそこの『学園』では早くに自分のしたいことを見つけた方が有利とされている。
実際才能が認められ高等部に上がる前に自分の就きたい職に入ってる学生も年間何人かいる。
そして、
・・・そして、研究者の道を目指す人にとっての最終目標は学園、もしくは帝都や魔導国家の研究員になることと言っても過言ではないです。他にもいろいろありますけど。それでですね、私の場合は早くに自分のしたいことを見つけ才能を認めてもらえた・・・と言うことになるのでしょうか」
「へぇー、優秀なんだな栞」
栞は苦笑し小さく、多分聞こえないようにこう呟いた、
ちょっと・・・違うんですけどね。
「ん?」
「いえ、でもやっぱり研究者の最終目標は自分の研究室を持つことですから・・・いえ、自分の研究室を持って、その研究で成果を残すことですね。私は助手ですけどさっき言ってた、同期の子なんて・・・あ、今向かってる宿屋の娘さんなんですけど、もう自分の研究室を持ってるんですよ」
自分のことのように嬉しそうに、そう語る栞。
「じゃあ、栞もいつか自分の研究室を持つことが夢なのか?」
「・・・いえ、私は違います。私は秋子さんの研究のお手伝いをしたいんです。・・・秋子さんに認めてもらいたい。それに・・・」
そこで少しだけ言葉を切る栞だが、すぐに言葉を続け、
「・・・いえ、だから当面の夢は・・・そうですね、助手じゃなくて共同研究員になること、ですね」
「そっか」
ぽんぽんっと栞の頭をたたいた。
栞も首をすくめてえへへと笑う。
「なんだか初対面の人に色々しゃべっちゃいましたね。祐一さんってなんだか・・・」
「・・・なんだか、なんだ?」
「・・・秘密です」
話しやすい雰囲気なんです。
別に言っても良かったのだが、照れくさくなり栞は結局黙ってることにした。
「気になるなあ」
「だめです、黙秘します」
「何だよ一体・・・まぁいいけど。・・・もう二つほど聞きたいことがあるんだけど」
「いいですけどもうすぐそこですよ?」
「そうなのか?」
「はい、もう見えてます。えーと、ほら、あの角の」
そういって指差すところには確かに宿屋らしい店構えのところがあり、
『天野屋』
と言う看板がかかっていた。
「あの天野屋ってとこか?」
「はい」
「あー、じゃあ一つだけ」
そういって栞の方を向き
「まだ俺、栞のフルネーム知らないんだけど・・・」
きょとんとしたかと思うと、笑顔になり
「そうでしたね。秋子さん『栞ちゃん』としか紹介しませんでしたね」
では改めまして、と栞は祐一の方に体を向ける。
祐一もそれに合わせる。
「改めまして、美坂栞です。今後ともよろしくです。祐一さん」
「じゃあ俺も改めまして、相沢祐一です。今後があるかはよく分からないけど・・・よろしくな」
「大丈夫です。仮に今日この宿屋さんに泊まってすぐ出て行ったとしても、また会いたいってお互いが思ったら会えますよ。だって二人とも生きてるんですから」
妙に確信めいてそんなことを言う栞
「そう、だな。・・・今後ともよろしくな栞」
「はい!」
そうして二人で笑いあった。
mayです。・・・秋子さんお茶目すぎたかな・・・ま、いいか。
栞登場の巻。
ちなみに彼女は学生にあらず。社会人です。給料貰ってる身です。
次回は天野屋の娘・・・は登場しません。まだ。
でも学生さんが一人登場するのかな? たぶん。
ではまた。