守りたい人がいる。

CASE10  あなたのためのRebirth






この日の朝、教室にいた誰もが固まった。

「おはようございます」

そう、爽やかに挨拶して教室に入ったのは因幡君。

その後に続いて、私も笑顔で教室に入った。

どうやら、前者も後者も人から見れば有り得ないことだったらしい。

「ちょっと涼夜!!これ、どうなってんの!?」

香奈美が駆け寄ってきた。

「今日は随分早いんですね」

「そりゃぁ、話とかは聞きたいし…じゃなくって!!これはどういうことかって訊いてるの!!」

これ、と言って因幡君を指差す香奈美。

ちょっと…いや、かなり嫌だ。

「私の好きな人を指差すのはやめてください」

「あんた…まだ好きだったの?」

「いえ…寧ろ相思相愛です」

一瞬、香奈美が硬直した。

「詳しく!教えてくれるよね?」

私の肩をがしっと掴んで香奈美。

ちょっと怖い。

「え、えぇ…最初からそのつもりでしたし……」

「そ。なら、早速…」

「あの…」

因幡君が早口で捲くし立てた香奈美を止めた。

「何よ」

「う…」

まさしく、蛇に睨まれた蛙だった。

「と…取り敢えず……座りませんか?入口を占拠してると邪魔になりますし」

「そうね。じゃ、あんたの席でいいわ」

私たちは、二人揃って香奈美に逆らえなかった。
























椅子に座ったのは因幡君。

机の上に座ったのは香奈美。

そして、私は因幡君の隣に立った。

「二人揃って何年かけてんのよ…」

で、事情を話したら呆れられてしまった。

「でも、私はともかく、因幡君は…」

「まぁ、そればっかりは仕方ないかな、とは思うけどさ」

そう言って、香奈美は少しだけ下を向いた。

「因幡君」

「あ、うん」

私が軽く肘で小突くと、因幡君は紙袋を取り出して、私に渡してくれた。

「相談して決めたことがあるんだ」

「え、何?」

因幡君に背を向ける形で座っていた香奈美は目線だけを因幡君に移した。

でも、次に声を発するのは私。

「これの処分を香奈美に任せます」

紙袋、中身は例の写真を差し出す。

「はぁ!?」

「先日あなたが渡すように言った写真です。これで弟さんをいびるのも構いませんし、捨てたり、燃やして頂いても構いません」

「ほ、本当にいいの?」

それを聞いた因幡君は、きょとんとした表情のあとに、笑顔を作った。

子供みたいな可愛い笑顔。

「いいも何も、僕たちはあなた以上にそれを処分する上で最もふさわしい人を知りませんよ」

「私もです」

私は因幡君に対し、追従を示した。

「ん…わかった。じゃ、周防いびってから燃やすことにする」

「周防?」

「香奈美の弟です」

そっと耳打ちをして教えてあげる。

「香奈美、程ほどにね」

「やだ。泣いてごめんなさいっていうまで絶対許してやんない」

私たちは笑った。

私も因幡君もずっと望んできた光景。

それが、今確かにここにあった。
























「そういえばさ、話の中には出てこなかったけど、この街を出てどこに行くつもりだったの?」

その日の放課後のこと。

香奈美は何気ない一言で、因幡君の心に大岩を投げ込むことになってしまった。

「あ…その……」

「涼夜に隠し事はしないんでしょ?」

「あ…はい」

因幡君は本当に言いにくそうにしている。

「その……地獄に落ちるつもりでした」

「つまり、死ぬ気だった、と。で、そうしてたらどうしてた?」

今度は私。

「多分…いえ、絶対後を追ったと思います」

私は何の迷いもなく言い切った。

「だってさ。やんなくてよかったね」

「まったくです」

かなり申し訳なさそうに因幡君。

「だって、僕と近江さんじゃ、行くところが違いますから」

それは、私は天国に、彼は地獄に、という意味だろう。

けど…

「因幡君と一緒なら、私にはどこだって天国です」

彼がいないと私はもう駄目だから。

それが、今回のことでよくわかった。

「さってと。二人ともついてきてよ」

「どこにですか?」

「周防に、お前は失恋した。と言ってやんなきゃ」

「え…周防君恋をしてたんですか?」

「うん。涼夜に」

色々。

これから、色々あると思う。

それを、因幡君と二人で経験していきたい。

それが、私の望み。

それから……

お母さん、お父さん、香奈美………兎に角、みんな。

私……守りたい人がいます。













to the other case…






















きっと後書き。

セナ「この作品初のほのぼのでした」

涼夜「それが最終話ですか」

セナ「まぁねぇ…時間もかかったけど、愛着もあるキャラだけどねぇ…みんな」

涼夜「なら、続編なり、外伝なり書いてくださいよ」

セナ「いや…まったく無関係の作品にゲストで出してみようかなぁ…って言う程度(嘘)」

涼夜「何ですか、その(嘘)って」

セナ「何だろうねぇ?」