守りたい人がいる。

CASE9  互いに誓ったEternal








駅に着いた。

ただのローカル線のワンマン列車の駅に改札なんてものはない。

私は構わずプラットホームに飛び込んだ。

「因幡君!!」

私の声が、夜の空気を震わせて、たった一人、そこに立っていた彼へと届く。

「近江……さん?」

ゆっくりと…彼は振り向いた。

今まで見たことのない、怯えたような表情。

でも、私にはわかった。

これが本当の彼なんだ、と。

「どうして…ここが?」

「わかりますよ。あなたが使ったのは公衆電話です。このあたりの公共交通機関で近くに公衆電話があるのは駅だけですから」

「別に違う場所のものをつかったかもしれませんよ?」

「それはないって、思ってました。最後に好きだって言ってくれるような人が、私と無関係な場所から電話をするわけがないって……私はそう思ってますから」

違う……私はこんなことが言いたいんじゃない。

こんなどうでもいい推論を披露するために来たんじゃない。

私は…

「…あなたと、ゆっくり話がしたいんです。来て、くれますか?」

「それは、僕を引止めに来た、と解釈してもいいんですか?」

「えぇ」

行かないでくれるなら、もう文句なんてない。

「あの人に頼まれたのかどうかまでは知りませんが、僕の邪魔をしないでください。僕はあなたに合わせる顔がないと思ってこうすることを選んだのですから」

「私の意志です。それから、せめて話ぐらいは聞いてください。その上で、行くというなら私は止めはしません」

「……わかりました」

そして、因幡君はベンチに腰掛けた。
























「それで、話というのは?」

因幡君はすぐにでも終わらせてしまいたいみたいです。

でも、私にはそんな気はない。

寧ろ、終電までの時間を稼ぎたいぐらいの気分だ。

「電話で言い損ねたことがあるんです」

「だからそれはなんですか?」

せっかちですね。

「私のことが好きだったと言っていましたが、今でもそうだと言えますか?」

「言えます。小学校の頃からの想いを断ち切れるわけがないです」

「言いましたね?もしそうなら、あなたには私のお願いを拒否する事は出来ませんよ」

私がそう言うと、彼は怒ったような顔をした。

「なら、早く言ってください」

「わかりました」

私は2、3度、深呼吸をしてから、因幡君の顔を真っ直ぐ見つめた。

「あなたのことが好きです。大好きなんです。だから私の前からいなくならないでください。私から離れないでください。私だけを見ていてください。私だけを支えていてください。私だけを…」

ここで一拍置いた。

私自身、最後の一言を発することにまだ抵抗があったから。

でも、覚悟は決まっている。

やるしかない。

「私だけを愛してください」

彼が、本当に私のことが好きならば、この申し出を拒否するなんて事は出来ないと思う。

「本気……ですか?」

私はゆっくりと首肯した。

「私は…あなたに傍にいてほしい」

一切の偽りのない言葉。

彼と同じく、小学校からずっと溜め込んできたこの思い、その全てを込めて。

私は言った。

「僕は……弱いよ。それでも…いいの?」

私はゆっくりと、彼の後ろに回った。

「?」

そして、ベンチに座ったままの彼を後ろから抱きしめた。

ベンチが低くて、私は体重を前に、彼に預けた。

「私だって、弱いです。だから、お互いに守りあっていくんです」

ねぇ…言えたよ、香奈美。

今さら応援なんてしてはくれないだろうけど、やっと言えたよ。

好きだって。

取引とか、駆け引きとかそういうのじゃなくて。

本気で、想いを伝えられたよ。

「もう一度言います」

抱きしめる腕が震え始める。

私はそんな腕に力を込めた。

「私だけを、愛してください」

「はい…」

因幡君が泣き始めた。

私も泣いた。

二人だけしかいない駅で、私たちはずっと泣いていた。

ずっと、ごめんなさいと言い続ける彼を、私は我が子を慈しむかのように抱いていた。

ずっと、ずっと。

日付が変わるまで、私たちはそうしていた。
























「明日……いえ、もう今日でしたね。今日から、一緒に学校に行きましょう」

私の提案。

「あ…じ、実は……」

因幡君少しだけ言いにくそうにしていた。

何か、やましいことを思い出した、そんな顔だった。

「どうかしましたか?何か都合でも悪いんですか?」

「そういうわけじゃないんです…えっと」

因幡君は少し俯いて、

「いつも、後をつけてたんです」

かなりの問題発言をしてくれた。

これじゃ、いつか盗撮写真だって出てくるかもしれない。

……待って。

あの日、何でカメラを持っていたのかが、やっとわかった。

「一つ…訊いてもいいですか?」

「何ですか?」

「望遠レンズっていくらしました?」

「あぁ、あれ、凄い高かったんですよ……あ」

引っかかった。見事に。

「今度、撮った写真とカメラ、レンズを全部持ってきてくださいね」

「うぅ…はい」

「私も、携帯のメモリーから消しておきますから。それに…」

私は因幡君の顔を見て私に出来る最大級の笑顔で笑った。

「写真くらい、きちんと正面から撮らせてあげますから」

因幡君は…多分、他の誰よりも優しい人だと思う。

だから、好きになったのかもしれない。

少なくとも、私はそう思っています。
















to the next case…













「相談して決めたことがあるんだ」

朝、誰もが彼を見て驚いていた。

「え、何?」

そして、彼は友達を作ろうとしている。

「これの処分を香奈美に任せます」

私はそれを手伝う。

ようやく生まれた、彼だけの心だから。



  ――CASE10  あなたのための Rebirth




















セナ「次回最終話」

涼夜「愛の逃避行でもよかったと思いますけど?」

セナ「後書きになってはじめて思いついたからねぇ…」