守りたい人がいる。
CASE8 涙のないPAINFUL
今私は待っている。
「………」
ただひたすらに、この電話が鳴る、その時だけを。
『きちんと報告だってしてやる』
私はその言葉を信じ、待っている。
”pipipipi♪”
鳴った。
名前は…公衆電話。
誰か分からないけど、取り敢えず出る事にした。
「……もしもし?」
「……」
返事がない。
「悪戯なら切りますよ?」
「…待って」
少し、口調が変だけど、間違いなく因幡さんの声だった。
「因幡さんですか?」
「うん」
口調が違ってても、声だけは何があっても聞き違えない。
私にはそう言い切るだけの自信があった。
「それで、どうなったんですか?」
「…終わりました。多分、いい意味で」
それを聞いて、私は安堵の溜息をついた。
安心できたし、香奈美にも安心してもらえる。
「そうですか……まだ、何かありますか?」
「少しだけ……話をしませんか?」
「話?」
私は相手が目の前にいるわけでもないのに首をかしげた。
「まぁ…それくらいなら構いませんよ」
「よかった……それで、一つだけお願いしてもいいですか?」
「お願い?」
「はい。昔みたいに、『さん』じゃなくて『君』で呼んでほしいんです」
いつの話ですか。
そう叫びたくなった。
でも、そう呼んでいた頃はそれが嫌じゃなくて、むしろ好きだった。
「因幡君…でいいですか?」
そして今でもそうだった。
「はい」
「それで、話とは?」
「僕があなたに今まで隠してきた事です」
僕!?
その一人称に私は驚いた。
こんな彼を、私は知らない。
「今さら遅いけど、ごめんなさい。そして、あなたにさよならを言いたいんです」
え……?
驚きが声にならなかった。
さよなら?どうして?
戸惑うばかりで、何も考えられなかった。
「ずっと、好きでした。だから、今回の事に納得できないから、僕は消えます。ありがとうございました」
好きでしたと言われた瞬間、顔が熱くなったのが自覚できた。
でも、「消えます」と言われてその熱も一瞬で冷めた。
止めなきゃ。
でも、どうやって?
どうにかしてでも。
電話が切れる。
言いたい事を、想いを言葉にして伝えないといけないのに。
「待ってください!!私の前から消えないでください!!」
叫んだ瞬間、電話が切れた。
「!!」
もう、私は迷わなかった。
部屋から飛び出し、玄関へ。
「涼夜、ご飯は?」
「いらない!!」
急いで靴をはいて外へ。
何時の間にか雨はやんでいたけど、路面はいたるところに水溜りが出来ていた。
この街を出る事が出来て、すぐ近くに公衆電話がある、そんな場所を思い浮かべる。
さらに、私が追いかけるとした場合、それが困難な状況……
「電車!!」
そう見当をつけて、私は走り出した。
目指すのは駅。
いつも、因幡君を離れてみていた場所。
黙って携帯で写真を撮ったりもした。
そんな、思い出の場所。
言いたい事はたくさんある。
でも、敢えてその中から三つだけを選ぶ。それだけ伝えられたら……いや、もうそれだけでいい。
行かないでほしい。
謝る事なんて何もない。
そして…
「…絶対、言うんだ」
好きだって。
今度はきちんと、あんな形じゃなくて。
今でも好きだからって。
だから、まだ行かないでいて。
to the next case …
「私は…あなたに傍にいてほしい」
やっと言えた。
「僕は……弱いよ。それでも…いいの?」
一番言いたかった事を。
「私だって、弱いです。だからお互い守りあっていくんです」
だから、願いも叶う。
――CASE9 互いに誓ったEternal
セナ「ラスト2話」
涼夜「以外に時間がかかりましたね」
セナ「そうだねぇ」