守りたい人がいる。
CASE7 生まれたてのClaim
この日、僕は全てに決着をつけるため、あの人の元を尋ねた。
「あなたから用があるなんて、明日は雨かしら?」
「今から降ってる」
「そう…」
会津礼。
たしかに、この人は僕からいろいろなものを奪った。
だけど、僕は何かを求めたのだろうか?
「もう、お前のために生きるのはやめる」
「へぇ…やっぱり、あの子が原因?」
「…そうだ」
僕は…この人に負けるわけにはいかない。勝手に巻き込んでしまった近江さんのためにも。
「あの子、やっぱり殺していい?」
心臓が跳ねた。
「白兎でもそんな顔するのね」
彼女は笑っていた。
もう…自分を演じる余裕なんてなくなっていた。
「…………よ」
「何?」
「もう……許してよ」
ぽつぽつと、僕がずっと封じてきた、本当の僕が言葉を紡ぐ。
「好きな人が…僕の意志で守りたいと思える人が、傍にいたいと思える人が出来たんだ」
これだけの言葉を紡ぐのに、僕は一体何年かけたんだろう?
そして、どれだけ近江さんを傷つけたのだろうか。
「いいのよ。だけど、どうなるかを考えてごらんなさい」
瞬間、全てが真っ白になった。
以前の男たちに近江さんが奪われる光景。
そして、その死。
「やめてよ…もう、やめてよ……」
涙が溢れてきた。
止まらない。
「もう、僕から何も奪わないでよ!!返せ!!時間も…何もかも全部僕に返してよ!!」
僕は彼女の首に手をかけた。
「いいわ。殺したいなら殺しなさい。それで、気が済むのならね」
言われて、僕は気付いた。
一体、何人の人に同じことを言わせようとしているのだろう、と。
結局、腕に力を込めることはできなかった。
「白兎…私を殺して、その後どうするつもりだったの?」
「消えるつもりでした」
今にも消え入りそうな声だと自覚できた。
「今でも、そのつもり?」
「…はい」
近江さんに迷惑をかけた、傷つけた。
そう思うだけで死にたくなった。
「好きになさい」
「え…?」
「今までのあなたと今のあなた。こんな違いを見せ付けられたら、今までどおりというわけにも行かないし、あなたは精神面で変な方向にだけ成長してるもの。今なのあなたなら諦められるから」
礼さんは笑った。
それは、初めて見た優しい笑顔だった。
「消えるんでしょう?これだけあれば海外だってどこへだっていけるわよ」
そう言って、彼女は僕に通帳と現金三万円を渡した。
「…これだけで十分です」
でも、通帳は返した。
「そう。それから、携帯電話は置いていきなさい。替わりにこれをあげるから、声を聞いておきたい人の声でも聞いておきなさい」
今度は、テレフォンカード。
この人は…こんなに優しかった?
「あなたをそんなにしたのは私。だから、せめてもの罪滅ぼし。あなたのやりたいことを全力で手伝いたいの」
「ありがとうございます。でも……もう、いいです」
「そう?」
「はい。これ以上…思い出を作ってしまったら辛すぎて……」
僕は目線を床に落とした。
水滴が床に落ちて染み込んでいく。
僕の、涙だった。
「そうね」
「では、さようなら」
僕は礼さんに背を向けた。
「えぇ、さよなら。………白兎」
呼び止められた。
「いつかまた会いましょう」
「僕は、誰にも会わないつもりですよ」
「死ぬ気?」
「一人で、地獄の底に落ちてきます」
そこが、僕には一番ふさわしい。
「そう。でも、また会えるって思っていてもいいかしら?」
「何故ですか?」
「成長したあなたと、会って話がしてみたいからよ」
おかしかった。
手に入らないと思っていたものがこんなにも簡単に手に入るから。
「僕も一つ、いいですか?」
「何を?」
「僕が死ぬつもりだと最初からわかっていても、僕に手を貸しましたか?」
最後にこれだけは知っておきたかった。
「もちろんよ。言ったでしょう?あなたのやりたいことに手を貸すって」
「そう……ですね。そうでしたね。では、いつか、会いましょう」
「えぇ」
今度こそ、僕は礼さんと別れた。
to the next case …
「今さら遅いけど、ごめんなさい。そして、あなたにさよならを言いたいんです」
その言葉は嘘のように唐突だった。
「ずっと、好きでした。だから、今回の事に納得できないから、僕は消えます。ありがとうございました」
言葉が現実味を帯びていなかった。
「待ってください!!私の前から消えないでください!!」
まだ、私は言っていない……「傍にいてほしい」というたった一つの魔法を。
――CASE8 涙のないpainful
セナ「当初のプロットでは、ここで礼が死んで、白兎が自殺する予定でした」
涼夜「挙句、私をエピローグで自殺させる」
セナ「メインキャラで生き残るのは香奈美だけ。……という予定でした」
涼夜「良かったんじゃないですか?」
セナ「うん。彩ちゃんみたいなキャラが報われる話を書きたくて作ったのに、そこから完全に道を踏み外そうとしてたからね」