守りたい人がいる。
CASE4 価値観のConflict
また、数日が過ぎた。
まだ、具体的な動きは見せていない。
でも、そろそろ香奈美が何か感付く頃だ。
そして、その日の放課後…事は起こった。
「まだ…なんですか?」
「そうだ」
会津先輩の傍で恋人として何らかの行為を行うと言われてからもう五日。
限界だった。
会津先輩に逆らうというのは自殺行為で、絶対にやりたくないことだったから。
「もう嫌なんです!もう駄目なんです!どうにか…なってしまいそうで……」
私は泣き出した。泣きたくなかったけど、泣いてしまった。
涙を止める事なんて出来なかった。
「あ…」
そして、それを香奈美に見られた。
「因幡!!」
香奈美が因幡さんに掴みかかった。
「涼夜を泣かせたね…あんた」
怒ってる。
香奈美が…本気で怒ってる。
「それがどうした?」
でも、空っぽの彼が放つ言葉は香奈美の怒りの炎にガソリンを注ぎ込むようなものだった。
直後、乾いた音が響いた。
香奈美が因幡さんの頬を叩いた。
「…痛い」
「当たり前のこと言わないで。痛くなるように叩いたんだから」
それだけ言うと、香奈美は因幡さんを突き飛ばし、私の手を取った。
「もう二度と…涼夜に近寄れないようにしてやるから!!」
そしてそのまま走り出した。
出口のない迷路の中で必死に抜け出そうともがくように。
「涼夜…絶対にあいつの弱みを握って、もう二度と涼夜に近付こうなんて気が起きないようにしてあげるからね」
香奈美は私を励ますように言った。
「香奈美!そんなことしなくていいです!!」
気がつけば叫んでいた。
「どうして!?何でさ!!」
私はそこで、何も言う事が出来なかった。
だって、あのことを話すわけにはいかなくて。
でも、言わなきゃ説明は出来なくて。
だけど…
「全部…話しますから。でも、誰にも言わないでください。お願いします」
「う、うん」
私はまず、一枚の写真を提示した。
「こ、これ…!」
そこに写っているものは、香奈美にも見覚えのあるものだった.
「な、何で…何でこれが写真に!?」
そう、私と香奈美の最大の弱点にして、共通の弱み。
あの日、香奈美の弟が香奈美に預け、香奈美が私に預けた卑猥な本。
「この写真のネガと複製を因幡さんが持っています」
「何で!?」
私は香奈美から目を逸らした。
「検査は…何の例外もなく行われるんです。それでも、交渉して何かあったら提出するかもしれないけど、今は提出しないと言う事で手打ちにしてもらっているんです」
「それで?」
「今は、私は因幡さんに最も近しい者を演じています。理由は…まぁ、色々ありましたけど、その写真の存在と、すでに近付きすぎていて、もう後戻りが出来なかったことです」
「つまり脅された、と。でも、何で?」
香奈美は私に続きを催促した。
「因幡さんは、知っての通り、会津先輩のお気に入りです。ですから、誰かが彼に近付く事を容認しないんです。でも、因幡さん自身はその現実に対し反抗したいんです」
「反抗期…って呼ぶにはていこうがあるね。まぁ、恨んでるって見ていいと思うから、復讐が妥当かな」
「はい。そして、私はそれを実行に移す瞬間を作り出すための舞台装置です」
香奈美が俯く。
「香奈美?」
その肩が震えていた。
泣いているのか。そう思った。
「いい根性してるじゃないの…人を玩具みたいに利用しようだなんて……」
激怒していた。
静かに。そして激しく。
ここまで来たら、もう私にも止められない。
「涼夜。絶対に助けてあげる。だから、もうちょっとだけ耐えて、ね?」
そう言って、香奈美は駆け出していった。
これで、図らずも因幡さんの言ったとおりになってしまった。
「結局、泣きついてしまったんですね」
悔しかった。
何もかも見透かされていた。
「香奈美。言わなかったけど、因幡さんにとってはこれが最後のチャンスなんですよ。友人の好きな人を、絶望の淵に落とせますか?私は、まだ彼の事が好きなんですよ」
聞こえない事はわかってる。
本当は、傍にいられる事だけは嬉しい。
でも、道具として求められている事が悲しい。
こんなに辛い恋だなんて、恋をしたときには思わなかった。
忘れたいけど、絶対に忘れられない。
辛いけど…忘れられない。
to the next case …
「涼夜が…前よりも元気がなくなってる」
思えば、どうして彼女を巻き込んだのか。
「何が言いたい?」
どうして…こんな風に言えるんだろう。
「あんたのせいよね…!?」
そうだ…と言ってしまいたい。
――CASE5 Victim の心
セナ「展開早いなぁ」
涼夜「そうですね」