守りたい人がいる。

CASE3   偽りだらけの Be in love



















あの、嵐のような夜が過ぎて朝がやってきた。

全然、眠れなかった。

『俺の恋人になれ』

あの言葉を聞いたとき、私の心臓は止まるかと思った。

「…今は仕事」

私は軽く頬を叩いて、集中力を高めようとした。

でも、無理だった。

今やっているのは、風紀委員の朝の立ち番。

そう、これが風紀委員の仕事である以上……

「そこのお前、制服からタバコの臭いがするぞ。少し息を吐いてみろ」

同じく風紀委員で、嵐の原因の因幡さんと一緒という事。

何をしていても、昨夜の事を思い出してしまう。

「おはよ!涼夜」

そんな私にかけられた声。

「おはよう、香奈美。今日も朝から元気ですね」

私はこれでも低血圧だからあの元気が羨ましい。

「当ったり前よ!そう言う涼夜は元気ないね」

「いつもの事ですよ」

私の大切な友達、長門香奈美。

ちなみに、因幡さんに弱みを握らせるきっかけを作った人の一人でもあります(張本人は香奈美の弟)。

「絶対違う。悪いけど、ちょっと待っててね」

香奈美はそう言って、因幡さんに向かっていきました。

まさか…

「あんた、涼夜に何かした?」

「別に…何もしていない」

やっぱり、そのまさかだった。

ですが、核心を突かれているにもかかわらず、因幡さんは表情を乱さなかった。

私も、ポーカーフェイスは得意なほうですが、ここまで、全く表情を変えず、誰にも何も気付かせない人は初めて見ました。

「本当になにもありませんよ」

香奈美を巻き込みたくはないので、私も嘘をつく。

「本当?」

「はい」

辛い。

大切な友達を騙しているという事実が辛かった。

「何かあったら、何でも相談してね?」

「はい、そうします」

内心で、ごめんなさい、と呟く。

もう既に何かあって、それを相談しないのだから。

「…最低ですね。私も」

まだ一日目。

何も起きていないけど、もう変になってしまいそう…そんな気がした。
































「意外だったな」

HR後、先生に今朝の報告をしに行く途中でこの言葉を聞いた。

「何ガですか…!」

怒気を込めて返す。

「長門に泣きつくかと思った」

「できるわけないでしょう!!」

私はそこが廊下であるということを忘れて叫んだ。

「もう少し、静かにしろ」

…この余裕はどこから出てくるのだろう。

「私が香奈美に泣きついたら、一番気に病むのは香奈美ですよ。できるわけない」

「別に…やってもよかったんだぞ」

「あなたが脅したんでしょうに…!」

私は因幡さんを見上げ、睨みつけた。

そして、因幡さんは私から目だけ逸らした。

「俺は…今までに戻るだけだからな」

「あなたは…」

言いかけて一度止める。

これを言ったら、もう戻れなくなる。

そんな気がした。

なのに…

「あなたは、それが嫌で私を手に入れたんじゃないんですか?それを打ち破るための舞台装置として」

言ってしまった。

「そうだ。本来なら持っていて当たり前なものを、俺は持ってない。全てを奪われた。あいつに」

少し…後悔した。

昨日、事情を説明してもらっただけでもう十分に踏み入ってしまったのに、さらに深みに入ってしまった。

「ないんだったら、奪ってでも手に入れる。欲しいものは奪い取るんだ」

そう…私にとっての当たり前の存在、優しい両親、大切な友だち……そんな当たり前は彼にはなかったのだ。

誰一人としていない。

彼は普通の愛され方をしていない。

私たちの当たり前は、彼の当たり前じゃない。

その価値観の違いが全て。

たとえ、どれほど彼を知っても近付けない。

それほどまでに価値観の壁は高く、厚く、長い。

「麗しきは女の友情、か」

「何が言いたいんですか!?」

この状況では皮肉にしか聞こえない。

「俺も…欲しくなった」

それはまさしく、狂気だった。

”羨ましい”なんて生易しいものじゃなかった。

普通…あくまで、私たちの普通では、友情は欲しいと言うものじゃない。

「友情は手に入れるものではありません。作るものです」

奪われてなるものか、と。

そう自分に言い聞かせ、精一杯の虚勢で返した。

「なら、今度その作り方と材料でも教えてくれ」

背筋が……凍りついた。






     to the next case …






「涼夜を泣かせたね…あんた」

怒りと虚無は何を作り出すのだろう。

「それがどうした?」

怖いくらいに、冷たい。

「香奈美!そんなことはしなくてもいいんです!!」

そして、止められない。


 ――CASE4  価値観のConflict












セナ「一応、メインキャストは全員で揃いました」

涼夜「まぁ、話を盛り上げる要素、程度の存在と言うのが悲しいところですけど」